魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
翌日。昨日隊長に命じられたとおり、オレは荷物を手に、元いた部隊の寮を後にした。
見送りに来てくれたのは、仲良くしてくれた先輩女性一人だけだった。けど彼女も仕事があると言って、すぐに隊舎の方へ行ってしまった。
(夕べ、ミカ姉に愚痴ったら道場に帰ってくるように言われたし、次の部隊次第じゃ局員を辞めることも考えた方がいいのかな……)
不安と空しさのあまり、そう思った時だった。
突然目の前に赤色の車が止まって、中からサングラスをかけた黒髪の男の人が出てきた。
陸士服を着てるからには局員だと思うけど、こんな人ここにいたっけ?
そう首をかしげているところで――
「レツヤ・テンドウ君、かな?」
「は、はい! レツヤ・テンドウ二等陸士です! オレ――いや、自分に何か?」
突然名前を呼ばれ、オレは慌てて背筋を伸ばす。そんなオレに男は笑いながら口を開いた。
「硬くならなくていい。出勤ついでに君を新しい職場まで案内しに来たんだ。この車に乗ってけ」
「えっ? でも……」
戸惑いの声を上げると、男はさらに言った。
「バスだと遅くなるし、料金ももったいないだろう。遠慮するな。別に取って食ったりしない」
「は、はぁ……じゃあ、念のため身分証を見せてもらってもいいですか?」
オレがそう言うと男はああとつぶやきながら懐に手を入れ、取り出した黒いカードケースを向けてくる。そこには局員用のIDカードがはめ込まれてあった。
「
「は、はい!」
御神って人の言葉に従い、オレは急いで車に乗る。
IDカードには偽造防止用のロゴが載ってあったし、
しかし、“みかみけんと”か。名字も名前もミッドチルダではほとんど聞かない言葉だ。母方の先祖と同郷の人かもしれない……。
御神さんが運転する車は首都から出て、少し南の『湾岸地区』に入って海沿いに進んでいく。やがて倉庫街を抜けたところで大きな建物が見えてきた。昨日までオレがいた部隊の隊舎より大きくて綺麗な建物だ。
「御神さん、もしかしてあれが六課の隊舎ですか?」
「ああ……」
その返事を聞いて思わず頬が緩んだ。
なんだ、前の部隊よりいいところじゃないか。いきなり部隊を追い出されたことと隊長にけなされたせいで落ち込んじまったけど、実はこれって栄転だったりする? 昨日のあれも隊長なりの激励だったのかな?
そう思うと今まで沈み込んでいたのが嘘のように、気持ちが軽くなる。早く新しい仕事場に着きたいものだ。
だが、そこで御神さんはハンドルを右に切り、当然車も右に曲がり隊舎から離れていく。オレはたまらず……
「あの、御神さん、隊舎に行くんじゃないんですか? 違う方に向かってるみたいなんですけど……」
「ああ、
……御神さんの言葉と小さくなっていく隊舎に、まさかという言葉が脳裏をよぎる。
ほどなく、敷地の隅にぽつんと立つ小さな建物が見えた。あっちの隊舎どころか056隊の隊舎よりずっと小さい。もしかしてあれが……。
「あれが俺たち『独立遊撃分隊』の
愕然とするオレをよそに、御神さんは車を停めながらそう言い放つ。オレは言われるがまま車から降りて、新しい仕事場とやらを見た。
……やっぱり、ただの厄介払いだったんだな。
◆
分隊の隊舎は新築らしくそれなりに綺麗だったが、中はあちこち段ボールが置かれてあって、正直狭苦しい。
入り口から少し進んでロビーらしき部屋に入った途端、ソファに座っていた10歳くらいの女の子がオレたちに気付いて顔を上げてきた。長い紫髪と人形のように整った顔が特徴的な、かわいい女の子だ。陸士服を着ているところから、彼女も隊員のようだが。
女の子は感慨もなさそうな表情でオレたちを見て……
「その人は?」
彼女の問いに御神さんはオレの肩に手を置いて言った。
「昨日話した新人だ。古巣の寮の前で突っ立ってたところを拾ってきた。ちょうどいい、始業までしばらくあるから彼の相手をしてやってくれ。俺は部屋で色々準備しなきゃいけないから」
「うん……ところでそのサングラス、いつまでつけてるの? 全然似合ってない」
彼女の忠告に「ほっといてくれ」と返しながら、御神さんは奥へ引っ込んでいく。
そして御神さんの姿が見えなくなると、女の子はソファに座ったまま押し黙る。……オレの相手を頼まれたんじゃなかったのか?
「えっと……オレはレツヤ・テンドウ。二等陸士で、今日からここで働くことになったんだ。君は?」
隣に座りながら自己紹介すると、女の子はちらっとオレに視線を向けて……
「ルーテシア・アルピーノ。三等陸士。私も今日からここで働く、って聞いてる」
「そ、そうか。まだ小さいけど、学校はいいのか?」
聞いてから失礼かと思ったが、ルーテシアは気にした様子もなく淡々と答える。
「もう卒業した。初等科を出たら管理局に入っていいってゼストが言ったから、テストに合格して卒業させてもらった」
「そ、そうか、頭いいんだな……」
オレの相槌にルーテシアはこくりとうなずいて、そのまま視線を外す。それ以上はお互い何もしゃべらず、ロビーに冷たい沈黙が流れる。
……居心地が悪い。仕事や訓練でもしていた方がずっとましだ。
落ち着かなさを誤魔化すように足の上に置いた両腕を組んだりしていると、廊下からまた10歳くらいの長い白髪の女の子がやってきた。彼女も陸士服を着ており、さらにその上に灰色のコートを羽織っている。
「――あっ、もう来ていたのか」
白髪の女の子はオレを見てそうつぶやく。オレは立ち上がりながら彼女に声をかけた。
「レツヤ・テンドウ二等陸士だ。君もここに勤めているのか?」
その問いに白髪の女の子は首を縦に振り――
「ああ。私はチンク・ナカジマ三等陸士。一月前から部隊の立ち上げを手伝って、今日から正式にこの部隊の隊員になる。至らない点もあるかもしれないがよろしく」
そう言ってチンクは頭を下げ、オレもそれに倣う。ルーテシアに比べると彼女の方はちゃんとしているようだな。
……しかし、一体ここはどんな部隊なんだ? 初等科ぐらいの女の子が二人もいるなんて。少なくともルーテシアの方は正当な手順で学校を卒業してきたようだが。
そう思っていたところでチンクの前にモニターが表示され、そこに長い銀髪の女の人の姿が浮かび上がった。チンクやルーテシアと違って二十くらいで、落ち着きと貫禄がありそうな女性だ。
『チンク、私だ。全員そろっているか?』
「はい、リインフォース副隊長。三人とももうロビーに集合しています。あとは隊長と副隊長だけですが……」
『ああ、わかっている。私も隊長とともにすぐそちらに向かう。すまないがもう少しだけそこで待っていてくれ』
「はい……ルーテシア、そろそろ隊長たちが来る。ソファから立て」
銀髪の女性が映るモニターが消えるとともに、チンクはルーテシアをソファから立たせる。それを横目にオレも隊長たちが来るのを待っていた。
――って待てよ。さっきの人が副隊長ってことは、この部隊の隊長ってもしかしなくても――。
ちょうどそこで奥の廊下からコツコツと硬い足音が響き、それを聞いてオレとチンクは背筋を伸ばし、ルーテシアも姿勢を正す。それとほぼ同時に、御神さんとリインフォース副隊長がロビーに入ってきた。
御神さんも今はサングラスを外しており、黒い右目と緑色の左目を露わにしている。オッドアイだったのかと思うと同時に妙な既視感も覚える。『あの人』に似ているような……。
「待たせてすまない。知人から送られてきたメールの確認に時間を取られた」
「いえ! 大丈夫です、御神隊長」
真剣な表情で詫びる御神隊長にチンクがそう答える。その後ろで副隊長はなぜか隊長にジトリとした目つきを向けるものの、気を取り直すようにコホンと咳払いをして言った。
「隊長、そろそろ挨拶をお願いします」
その言葉に隊長はうなずきを返し、オレたちをまっすぐ見ながら口を開いた。
「三人とも、改めてこんにちは。この部隊の分隊長、御神健斗三等空佐だ。
形式ばった事を長々話しても時間の無駄だしほとんど記憶に残らないだろうから、部隊の説明と必要事項をなぞるだけで済ませようと思う。
ここは『時空管理局本局・古代遺物管理部機動六課直下・独立遊撃分隊』。隣のバカでかい隊舎を拠点にしている『機動六課』という部隊の補助部隊だ。活動内容は本隊と同じ、《ロストロギア》と呼ばれる遺失物の捜索と確保。ただ、指揮系統や運営方針が色々違ってるせいでほとんど別組織扱いでな、この部隊のことを『機動七課』と呼ぶ奴もいるくらいだ。俺も最近はそう呼ぶようになっちまったが」
『機動七課』。
おもわずその言葉をつぶやきかけるとともに、隊長の口調や態度に疑問も覚える。六課について語る隊長からは、対抗意識を通り越した“敵愾心”のようなものが伝わってくるからだ。まさかこの部隊って……。
「この分隊の役目は本隊のバックアップや補助、もしくは本隊の手が回らない任務の請負だ。――これで一通り説明したつもりだが、質問はあるか?」
そう尋ねてくる隊長に、オレは右手を上げながら訊いた。
「隊員はこの五人だけなんですか? 他に人員がいたりとかは」
「あと一人だけいるが、今は任務に出ていてここにも六課にもいない。後は外部から協力員が何人かくるくらいだな。あの人たちも今日は顔を出せないが」
そこまで言って隊長は『もういいか?』と目線で問いかける。オレは「ありがとうございます」と言いながら姿勢を戻した。そこでルーテシアが――
「つまり、ここは六課に入れられなかった余りもので構成した“雑用班”ってこと?」
身も蓋もない言い方に、副隊長とチンクが頭を抱えそうな顔になる。実はオレも内心ではそう結論づけているが。
そんな中、隊長はただ一人笑みを浮かべて。
「一言で言えばそうなる……不満か?」
「まあ。私も目的があって管理局に入ったから」
ルーテシアの返事に隊長は怒るどころか納得したようにうなずく。
「確かに雑用扱いの班じゃそれを叶えるのは難しいだろうな。チンクとレツヤも本当は不満に思ってるクチだろう? 正直に言ってみろ」
不意に話を向けられてオレはうめきそうになる。片やチンクはぶんぶん首を横に振った。
「い、いえ! 私は局に置いていただけるだけでありがたいと思っています。ここでなら六課にいる妹の手助けも出来るかもしれませんし」
「ああ、そういう考え方もあるか」
――妹!? 彼女よりもっと小さい子が六課にいるのか?
内心さらに驚いてるオレの前で、隊長は姿勢を正しながら続けた。
「とはいえ、チンクも行けるなら妹さんがいる六課に行きたいんだろう?」
「まあ……正直に言えば」
チンクはおずおずと肯定する。そんな彼女を含め、オレたちに向かって隊長は言った。
「そこで一ついい話がある。六課はもうすでにこことは比べものにならないくらいのスタッフと魔導師を抱えていて、『保有制限』もギリギリなんだが……向こうの部隊の保有ランクを計算した結果、AかAA魔導師くらいなら
「えっ――?」
最後の一言を耳にしてオレたちは顔を上げる。それに対して隊長はニヤリと笑いかけて――
「ここで頑張って向こうに認められるほどの成果を挙げられた奴は、六課に転属させてやれるってことだよ。一人だけだがな」
「――!!」
隊長の言葉を聞いてオレは目を見張った。
この機会を利用しない手はない。ここで働きを認めてもらえば、六課、もしくはどこか別の部隊に入れてもらえるかもしれないからだ
ルーテシアとチンクも『本当か?』と言わんばかりの視線を隊長に向けている。それに隊長はうなずいた。
「ああ、二言はない。あっちもできるだけ人手を増やしたいみたいだし、ちゃんと成果を見せたらこの中から一人行かせてやる。ただし、間違っても相手を潰そうとか考えるなよ。協調性ってやつも見るつもりだからな。特にルーテシアは気を付けておけ、上官への口の利き方とかな」
「むっ……」
ルーテシアは不愉快そうに頬を膨らませる。だが確かに、隊長にタメ口使うような奴は推薦できないだろうな。
「まあ、結成前の説明はこんなところだ。わからないことがあったらチンクに聞いてくれ。こう見えて今年で入局6年目のベテランだ。多分なんでも答えられるだろう」
「――えっ!? でもチンクはさっき三等陸士と言って――」
まさかの事実にオレは思わず声を上げる。士兵は研修生の延長みたいなもので、何らかの実績を立てれば、それがなくても何年か勤めれば一士までは自動的に上がっていくはずだ。考えられるとしたらよっぽどの問題を起こしたり、昇進を辞退し続けた場合だが。
そもそも今年で入局6年目って、チンクは一体何歳なんだ? 次からは敬語使った方がいいのか?
「それもチンクに聞いてくれ。俺とリイン――副隊長は、六課の部隊長殿と一緒にこれから地上本部に行かなきゃならん。それまでの間、お前たちは積まれたままの荷物を整理しながら部屋の配置とかを覚えてくれ。チンク、二人への指示を頼む」
「はい! 隊長と副隊長もお気をつけて!」
応えながら二人に敬礼するチンクに続いて、オレとルーテシアも敬礼をする。これで『七課』の設立式は終わりのようだ。
しかし、またおかしな部署に配属されてしまったものだ。何とか手柄を立てて、六課や他の大きな部署に移れるといいけど……。
Ⓒ
チンクと新人二人と別れた後、俺はリインとともに七課の隊舎を出て、六課の隊舎を目指す。その途中でリインが口を開いてきた。
「いいのか、あんな約束をしてしまって」
「六課への転属の事か?」
その返しにリインはこくりとうなずく。
「あの三人を分隊に入れたのは『保有制限』の問題もあるが、六課の新人たちに比べて、
「わかっている。だが、飴やニンジンでもぶら下げんとあいつらもやる気を出さんだろう。それに俺たちの指導方法が正しい保証もない。なのはたちの方がうまく指導できる可能性だって考えられる。まあ手柄を上げて六課に送り出す頃には、あいつらも自分の力の使い方を掴んでいるさ。何よりまずは、あいつらのやる気を引き出すことが最優先だ」
「…………」
リインは反論できず押し黙る。どんな力も、強くなるための“動機”を持たせてやらねば開花などしないのだ。せっかく育てた戦力を“彼女たち”に譲り渡す羽目になったとしても。
そんな事を考えてるうちに、うちよりもはるかに巨大な“六課の隊舎”が見えてきた。
そこで――
「『独立遊撃分隊』の設立、おめでとうございます。御神三等空佐、リインフォース二等空尉」
隊舎の前で黒い制服を着た長い金髪の女と、陸士服を着た短い茶髪の女の姿が見えた。二人は敬礼をしながら俺たちを迎えてくれる。
俺とリインも彼女らに敬礼を返しながら――
「こちらこそ『機動六課』の設立、心からお祝い申し上げます。八神二等陸佐、テスタロッサ執務官。厚かましいと思いますが、私たちも本部までお供してもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。分隊――いえ『七課』の事も本部の人たちに説明せないけませんし、こちらからお願いしたいくらいです」
気心の知れた幼なじみに関わらず、俺とはやては互いに堅苦しい挨拶と貼り付けたような笑みを交わす。その後ろでリインとフェイトは冷や汗を浮かべながら視線を合わせていた。