魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第30話 ゴーレムマイスター

 訓練が開始されてから、オレたちは百体以上の傀儡兵(ゴーレム)を倒しながら屋敷の中を突き進んだ。

 開始から三十分くらい経った頃だろうか。オレとエリオはフェイトさんとともに最上階まで進み――大型傀儡(ゴーレム)・《ヘクトール》とそれを操るティミル博士との戦いを繰り広げていた。

 

 

「――いきなさい、ヘクトル!」

 

 主に命じられ、ヘクトルことヘクトールは両手を真横に伸ばしながら回転しフェイトさんに迫る。

 フェイトさんは素早く空中を飛んでそれを躱し、ヘクトールに向けて得物(バルディッシュ)を向ける。

 だが、ヘクトールが動きを止めながら彼女に向かって腕を向けた途端、フェイトさんも得物を向けたまま身構える。そこへティミルさんが彼女に短剣状のデバイスを向けながら叫んだ。

 

ファイエル(撃て)――!」

 

 その瞬間、ヘクトールの右腕が唸りを上げながら回転し、勢いよく飛んでいく。フェイトさんは避けようとしたのか一瞬体をピクリと動かすがそれを抑え、まっすぐバルディッシュを構える。その時バルディッシュから二発のカートリッジが吐き出された。

 フェイトさんはそのままヘクトールとティミルさんを睨み……。

 

「トライデント――スマッシャーー!!」

 

 フェイトさんが放った金色の砲撃は、高速で迫りくる腕を飲み込み、そのままヘクトールを撃ち抜く。

 しかし、ヘクトールは自身の前に張ったシールドで砲撃を凌ぎ、残る左手を彼女に向ける。

 だが――

 

「はあああっ!」

「――エリオ!」

 

 一瞬の隙を突いて突貫したエリオを見て、フェイトさんが叫ぶ。

 エリオは炎を噴出させながら飛ぶストラーダを手にヘクトールの胸元まで飛んでシールドを破壊し、そのままヘクトールの胸に一撃入れようとする。

 だが――。

 

「甘いわ――メテオブラスト!」

 

 数十発の魔力弾が撃ち放たれ、エリオはヘクトールから飛び降りてそれをかわす。その間にヘクトールは体勢を立て直し、周囲の残骸を吸い上げて新たな腕を作った。

 今までのゴーレム戦と違って、操り主まで攻撃とバックアップに加わってくる。これが『ゴーレムマイスター(使い)』との戦い。

 ――だが、戦ってるのはあいつらだけじゃない。

 

「はあああっ!」

 

 オレはティミルさんに迫り、刀を振りかぶる。しかし、ティミルさんはそれに気付くや――

 

「『マイスト・アーム』!」

 

 彼女は自身の腕を覆うように“ゴーレムの手”を創成し、オレの斬撃を受け止めた。

 

「ゴーレム使いがゴーレムより弱いと思ってるなら、とんだ大間違い……ゴーレムを操るにも結構な力と技量が要るし、応用次第でこんな戦い方もできる。これでも嘱託魔導師をしていた頃は総合AAのランクを持っていたのよ」

 

――総合とはいえチンクとほぼ同等かよ。見た目と齢にあわず、はっちゃけた婆さんだ――

 

「――うおっ!」

 

 突然巨腕が飛んできてオレは体を反らし、すれすれでかわす。その向こうからティミルさんは歪な笑みを浮かべながら……。

 

「今、失礼な事を思われてた気がしたんだけど……気のせいかしら?」

 

「……気のせいじゃないでしょうか……」

 

 ティミルさんは納得していないかのような顔をしながらもゴーレムの腕を戻す。

 ほんとに恐ろしい人だな……だがひとまず、向こうの注意を引きつける事には成功(?)した。

 

《フェイトさん、エリオ、ティミルさんはオレが何とかするから、二人は今のうちにヘクトールとかいうゴーレムを破壊してくれ。二人でなら奴を倒せるはずだ》

 

《うん、そっちはお願い――エリオ、いける?》

 

 フェイトさんの問いにエリオは《はい》と返しながらうなずく。

 それを聞きながらオレはティミルさんと対峙する。ティミルさんは気付いていないかのように(・・・・)二人に目もくれず、巨岩に覆われた両腕を掲げ――

 

「はあああっ!」

「――くっ!」

 

 さっきとは逆に、ティミルさんが振り下ろしてきた巨腕をオレが刀で受け止める。しかし、そこでティミルさんはもう片方の巨腕を向けて……。

 

「パージブラスト――ドリルロケットパンチ!」

 

 その瞬間、彼女の巨腕は目まぐるしく回転しながら彼女の手を離れ、そのままオレに向かって飛んでくる。オレは受け止めている片腕を弾きあげ、真横に動いて飛んでくる腕をかわす。

 真横から襲って来る突風を浴びながらも、上手くかわしたと息をついた――その時、足元と腕に冷たい何かが絡みついてくる感触を覚えた。

 まさかと思って手足を見ると、床の一部が形を変えて両足に巻き付き、さらに両腕にはチェーンが巻き付いていた。これは――。

 

「『ロックバインド』……引っかかってくれたわね」

 

 ティミルさんは嗜虐的な笑みを浮かべながら、オレの頭上まで巨腕を持ってくる。その下で、オレはかつて婆さんから教わったことを思い出しながら――。

 

――(バインド)抜け!

 

 両手足から伝わる感触からバインドの特性を掴みとり(解析し)、ぎりぎりまで強度を弱める。そして四肢に力を込め、力ずくでバインドを引き千切った。

 それを見てティミルさんは驚きに目を見張るが――それとほぼ同時に、巨腕の形をした岩が上から降ってきた。

 

「……間に合った」

 

 ティミルさんは思わずそう漏らす――が。

 

「いいや、ちょっと遅かった」

 

 そう声をかけた途端、ティミルさんははっとしながらこっちに体を向け、岩石でできた手のひらで身を守る。

 だがオレは鞘に納めていた刀の柄に手をかけ――

 

「天瞳流――天月・霞!」

 

 刀を振り下ろした瞬間、ゴーレムの手が縦に切り分けられる。その直後、オレは懐からライチェアス()を抜き、ティミルさんに向けた。

 

オレたち(・・・・)の勝ちです。デバイスを捨てるか、両手を上げてください」

 

 しかし彼女はまだ諦めず。

 

「どうかしら。まだこっちにはヘクトールが――」

 

 言いかけた瞬間、隣からズズンとけたたましい音と地響きが響き、ティミルさんはたまらずデバイスを取り落としそうになる。そちらに目をやると、胴体の中心に大穴を空けながら倒れている傀儡(ゴーレム)・ヘクトールと、緊張した顔つきのまま得物を構えているフェイトさんとエリオが見えた。

 それを見て、ついにティミルさんはため息をつきながら両手を上げた。

 そこで――。

 

 

『訓練終了! 『時の庭園モード』を解除します!』

 

 シャーリーさんの声が響いた途端、物々しい屋敷が消えていき、青々とした空と森が戻ってくる。

 今まで最上階で戦っていたオレたちは浮遊魔法でゆっくり地面に下り、今まで別室や広間でゴーレムと戦っていた皆もともに地上に足をつけた。

 なのはさんとヴィータさんは空中に浮いたまま……

 

「はい、じゃあ今日はここまで!」

 

「全員、防護服解除!」

 

 その指示にオレたちは疲れのにじんだ声ではいと返しながら、訓練後のクールダウンを始める。

 

 

 

 

 

 

「残念、この機会にゴーレムの力とゴーレムマイスターの怖さを教えてあげようと思ったのに」

 

「十分教えられたと思います。クレッサさんが敵でなくてよかったとつくづく思います」

 

「気休めありがとう。まあいいわ。コロナに渡す予定の“新型機”の参考にはなったし」

 

 負け惜しみ混じりにそんな言葉を残すクレッサに、マリエルとシャーリーも苦笑を浮かべる。そこへ――

 

「おはようございます!」

 

 後ろからかけられた舌足らずな声に三人は振り返る。

 彼女たちの足元には、長い金髪をツーサイドに括ったオッドアイの少女が立っていた。その後ろには狼形態のザフィーラが護衛としてついてきている。

 マリエルは戸惑いながら子供相手に「おはようございます」と敬語で挨拶し、クレッサも驚きを隠せない表情で「おはよう……」と返す。

 一方、シャーリーは慣れた様子で笑みを向けながら少女に尋ねた。

 

「おはようヴィヴィオ。ママに会いに来たの?」

 

 ヴィヴィオは「うん」とうなずき、あたりを見回す。そして訓練後の屈伸をしているレツヤたちと、なのはを見つけた。

 

「あっ――ママー!」

 

 “ママ”を見つけた途端、ヴィヴィオはまっすぐ駆け出す。それを眺めながらマリエルとクレッサは尋ねた。

 

「あの子は?」

 

「ママと言ってたけど……もしかして高町さんの」

 

「ああ、あの子はですね――」

 

 シャーリーが言いかけたところで、ヴィヴィオは健斗に気が付き思わず足をすくめる。その衝撃でバランスを崩し、ヴィヴィオは地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「――たいへん!」

 

 ヴィヴィオが転んだのを見て、フェイトさんは慌てて駆け寄ろうとする。しかし、なのはさんは腕を真横に伸ばして彼女を制した。

 

「大丈夫! 地面柔らかいしきれいに転んだ。怪我はしてないはずだよ」

 

 そう言いながらなのはさんは、涙目を向けるヴィヴィオにおいでと呼びかける。フェイトさんはハラハラしながら二人に視線を行き来させていた。

 

 子供に対してもスパルタな人だな。あのくらいの子ならもう少し優しくしてやってもいいと思うけど。

 

「隊長と副隊長の未来を見てるみたい。二人も子供に対してはあんな感じになりそうだし」

 

 ルーテシアの呟きにオレを含め、周りから笑いが吹き出る。それはオレも思っていた。御神さんが厳しくする方で、リインさんが甘くなりそうだ。

 それを聞いて御神さんとリインさんはおいおいと言いながらも、まんざらでもなさそうな笑みを浮かべる。

 

 そんな事を言い合っている間に、ついにフェイトさんがヴィヴィオのもとへ駆け出し、彼女を抱き上げる。なのはさんは苦笑しながら、

 

「もう。フェイトママ、ちょっと甘いよー」

 

「なのはママは厳しすぎです」

 

 そんな事を言い合いながらフェイトさんはヴィヴィオを地面に下ろし、なのはさんと三人で手を繋ぎながら隊舎へ向かう。

 そんな中、マリエルさんは眼鏡を押し上げながら……

 

「なのはママとフェイトママ……ってことは、まさか二人の子供、いやでも二人とも女の子同士……」

 

 ティミルさんも顎に手を乗せながら……

 

「まさか、キャシーが研究していたmPS細胞による生殖技術……あれは凍結させておいたままのはず……でも、考えてみればあの子が念願こめて完成させた技術を封印したままにしておくと思えないし……ということはもしかして本当に二人の子供――」

 

 そんな呟きを漏らす二人に呆れを覚えながら、オレたちとフォワードも六課の隊舎に向かう。

 その横で……

 

《リイン、後でキャシーって人の事を聞き出すからティミルさんを逃さないようにしてくれ。違うとは思うが、一応確かめておく必要があるかもしれん》

 

《はい、主にも伝えておきます》

 

 御神さんから指示を受けたらしく、リインさんはこくりと頷く。

 

 数時間後、キャスリンというカレドヴルフ社の研究者の手から『mPS細胞』とレポートが没収され、『同性両親から生まれた“新たな子供”を繁栄させる』という微妙に危険な研究は破棄される事になるのだが、オレたちとは関係のない話だ。つーか、関わる事にならなくてよかった。

 なお、御神さんの予想通り、その細胞とキャスリンさんはヴィヴィオとはなんの関係もなかったらしい。

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