魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第31話 それぞれの思惑

「ああ、事件中に保護した子だったのね。あの二人を“ママ”なんて呼ぶから驚いたわ」

 

 食事を載せたトレーを持ちながらティミルさんは納得の声を漏らす。シャーリーさんは頷き。

 

「なのはさんが保護責任者。後見人がフェイトさんです。それをヴィヴィオに伝えたら、二人とも“ママ”なんて呼ばれることになっちゃって」

 

「本局に預けられていた頃の僕と同じような感じです」

 

 巨大なサラダボウルを手に彼女らの前を歩きながらエリオがそう付け足すと、その時の事を知ってるマリエルさんが「そうか」と答えた。

 

 そんな会話を挟みながらオレたちは席につき、遅めの朝食を摂る。

 さっき転んで泣きそうになってたのが嘘のように、ご機嫌そうにオムレツを頬張るヴィヴィオを見て、ティアナがつぶやいた。

 

「しっかしまあ、子供って泣いたり笑ったりの切り替えが早いわよね」

 

「スバルのちっちゃい頃もあんなだったわよね」

 

「えっ! そ、そうかな~」

 

「ああ。私が来た時もそんなだったな」

 

 ギンガさんの暴露に、スバルは顔を赤くしながらとぼける。それにチンクが笑みを浮かべながら追い打ちをかけた。

 その横のテーブルでシャマルさんも隣を見下ろして――

 

「ツヴァイちゃんもそうだったわよね」

 

「えぇ~、ツヴァイは最初からわりと大人でしたー」

 

「嘘をつけ」

 

「体はともかく、中身は赤ん坊だったじゃねえか」

 

 シグナムさんとヴィータさんにツッコまれ、ツヴァイさんははやてさんとアインスさんに「違いますよねー?」と訊ねるも、はやてさんは「どうやったかなー」ととぼけ、アインスさんは「私は覚えているが、ツヴァイのために黙っておくとしよう」と言って意味深な笑みを浮かべる。

 そんな二人にツヴァイさんはぷくーと頬を膨らませた。

 

 子供の頃か……ここにミカ姉がいたらオレもいじられてただろうな。

 ルーテシアは……。

 

「…………?」

 

 無表情のまま淡々と食事を口に運ぶルーテシアを見ると、彼女は気が付き『どうしたの?』と言いたげに首をかしげる。それにオレはなんでもないと首を横に振りながら食事を再開した。

 ルーテシアは昔からこういう感じな気がする。結構厳しそうなお父さんに育てられたみたいだし。

 

「うぅ〜」

 

 ふいにヴィヴィオの唸り声が聞こえ、どうしたと皆がそちらに顔を向ける。

 見るとヴィヴィオが皿に残っていたピーマンを前に動きを止めていた。

 

「ヴィヴィオ、駄目だよ。ピーマン残しちゃ」

 

「にがいのきらい~」

 

 母親らしく注意するなのはさんに対して、ヴィヴィオはそう訴える。フェイトさんは「おいしいよ」と促し、はやてさんは「好き嫌い多いとママたちみたいな美人になれへんよ」と忠告するが、ヴィヴィオは手を付けられずにいた。

 そこで御神さんが席を立ち、彼女たちの元へやって来た。

 

「――あっ、えっと……」

 

 彼が苦手なせいか、単純に怒られると思ったのか、ヴィヴィオはびくびく肩を震わせる。

 御神さんはそんな彼女に――

 

「いらないなら俺が食っていいか? ピーマンは好物なんだ」

 

「えっ……」

 

 突然そう言われてヴィヴィオは思わず聞き返し、なのはさんたちも戸惑いの声を漏らす。

 それに構わず、御神さんは皿の上にあるピーマンを一つ摘まみ上げ、自らの口に放り込んでしまった。

 薄いピーマンをわざとらしい咀嚼音をたてながら噛み砕いて、ごっくんと飲み込み……

 

「うん、細かく切ってるおかげで、ほどよく苦みが薄れててとてもうまい。こんなうまいものをもらって申し訳ないくらいだ――もう一ついいか?」

 

 そう言って御神さんは二つ目のピーマンも取り上げ、ヴィヴィオの目の前でまた見せつけるように時間をかけて平らげる。

 そして三つ目に手を伸ばそうとしたところで、ヴィヴィオは皿をかばうように自分のもとへ近づけなから言った。

 

「たべる……だから、これいじょう取らないで」

 

「そうか、なら食ってみろ。本当にうまいぞ」

 

 そう言って御神さんはあっさり手を引っ込め、元の席に戻っていく。

 そこへ――

 

「あ、あの……」

 

「……?」

 

 ヴィヴィオに呼び止められ、御神さんは振り向く。

 ヴィヴィオは振り絞るような声で、

 

「あ、ありがとう…………おじさん」

 

「どういたしまして。今度からは別の料理と一緒に食べてみろ。その方がもっとうまい」

 

 そう助言しながら御神さんは席に戻る。他のみんなから微笑ましげな笑みを受けて恥ずかしそうに御神さんはこっちに戻ってくるが、ふとこちらに目を向けて……。

 

「ルーテシア、お前もグリーンピースを残しているようだが……」

 

「……後で食べようと思ってました」

 

 山盛りのグリーンピースを前に、ルーテシアはばつが悪そうに言い訳を漏らした。

 ……訂正、結構甘やかされていたらしい。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、夕方までスバルとギンガ、チンクもお借りしていくけど、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「よろしくお願いします」

 

 食事が終わってすぐ、マリエルさんはそう告げて、御神さんとなのはさんは首を縦に振る。

 それを聞いて……

 

「チンク、今日も検診? この前から半月も経ってないけど」

 

 ルーテシアの問いにチンクは頷き。

 

「ああ、ちょうどスバルとギンガも揃ったから三人まとめてという事になってな。すまないが午後の作業は二人で頼む。その代わり、首都のお菓子でも買って帰るから」

 

「いいよ、仕事もそんなに溜まってないし。気にせずしっかり診てもらってこい」

 

 そう言うオレやうなずくルーテシアにチンクは片手を伸ばしながらまた「すまない」と言って、スバルたちとともにマリエルさんについていく。オレたちは手を振って彼女たちを見送り、チンクたちとマリエルさんも手を振り返しながら隊舎を後にした。

 しかし今日はスバルとギンガさんも一緒なのか。チンクの検診は戦闘機人としての検査だと睨んでるんだけど、ギンガさんの“あの技”といい、もしかしてあの二人も……。

 

「私みたいな隠居と違って正規の局員は忙しそうね。じゃあ、私もこの辺で……」

 

 マリエルさんたちを見送ってから、ティミルさんはコーヒーを一飲みして立ち上がろうとする。そんな彼女の肩に御神さんが手を乗せてきた。

 

「まあまあティミル博士、もう少しゆっくりしていったらいかがです。もう会社(カレドヴルフ)勤めでもないんだし。――さっき仰ってたキャシーって人の研究についても、ぜひ聞かせてほしいですね」

 

 にこやかな笑みに反して、ぎゅっと肩を捕まえながら御神さんは迫る。そしてリインさんやはやてさんにまで囲まれ、ティミルさんはなすすべなく別室へと連行されていった。

 キャシーさんの末路(その後)については、前回の最後で話した通りなので割愛させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 13時過ぎ。

 陸士隊幹部との打ち合わせを終えたレジアスの一団が地上本部へと戻ってくる。

 彼らと通りすがった局員たちがその場に停まって敬礼などをしながらレジアスたちを迎えるが、レジアスは「そんなところに突っ立ってないで仕事に戻れ!」と彼らを追い払い、側近であるオーリスを連れて執務室へと戻る。

 そして執務机の傍に立てかけている椅子に腰を下ろすなり、傍に立たせているオーリスに尋ねた。

 その問いにオーリスは首を横に振り。

 

「機動六課からは本局や教会を叩けそうな材料は出てきませんでした。分隊――七課からもです。レリックとは無関係の管理外世界への出張はかなりの失点になると思ったのですが、七課や一部の幹部を残してある程度の警戒態勢を取っていた事と、結果的に何も起こらなかった事でそれほどの痛手にはならないと思います」

 

「そうか……」

 

 娘から告げられる報告にレジアスは不満げな返事を返す。その不満は六課と七課と後ろ盾どもを叩けるだけの材料が見つからなかった事と、いつミッドチルダで事件が起きるかわからない中管理外世界などに赴く六課首脳の体たらくに対する不満だった。

 どちらかと言えば後者の方が大きい。やはり奴らは手柄を上げたいだけで、地上を守る気などないのでは。

 

「その代わりと言っては何ですが、チンク・ナカジマ三士の異動は了承させました。今月半ばにはこちらに来る予定です」

 

 オーリスの報告にレジアスはうなずきを返す。

 

「よくやった。だが、交渉材料が足りていないのは変わらん。公開陳述会までにはより有利な材料を揃えておきたいところだ」

 

「引き続き、こちらの査察部を動かします。――ただ、本局の査察部や一部の部隊もこちらを調べて回っているようです。特に――」

 

 そこまで言ってオーリスは、レジアスの前に複数のモニターを表示させる。一番大きなモニターに映る白スーツを着た長い緑髪の青年を指しながら……

 

「本局査察官に一人、やっかいな希少技能保有者がいます。相手の意識や記憶を読み取る技能や探索用の使い魔を放つ技能を持っているとか。その技能を使われたら、こちらの深いところまで探られる可能性がありますが」

 

 それを聞いてレジアスは舌打ちと「忌々しい」という言葉を漏らす。

 そんな技能をなぜ身内の粗探しなどに使うのか。局を脅かす敵組織の捜査やどこかに潜んでいる犯罪者の捜索などに使うべきではないのか。こちらの妨害どころか、管理局の存在意義にも反する行いだ。

 

「すべては必要あっての事だ。連中に理解させるにはまだ時間と実績が()る」

 

「存じています。ただ、『最高評議会』からのご支援はいただけないのでしょうか? あの方達の支援があれば本局の査察官を追い払う事はもちろん、地上部隊の拡充もアインヘリアルの導入もより早く進められると思いますが……」

 

 オーリスの言うとおりだ。“あの連中”が表立って支援してくれれば、六課をつつくような真似などせずとも直接本局と教会を抑え、地上部隊の戦力と権限を強化させることができるはず。

 にもかかわらず、連中はスカリエッティとの仲介だけ命じて、それに見合う支援をしてくれない。表立って指示を出すわけにいかないとはいえ、鈍重に過ぎるのではないか。

 六課や査察官に対するものとは別の忌々しさを覚えながら……

 

「儂が問い合わせる。アインヘリアルの方はどうだ?」

 

 その問いにオーリスはわずかに言葉を選ぶ様子を見せながらも述べた。

 

「順調です……三号機の最終確認がわずかに遅れていますが――」

「遅らせるな! 陳述会までに終わらせておけ」

 

 間断なく発せられた命令にオーリスは詫びるように頭を下げ……

 

「これから視察に行く予定です。現地のスタッフに急ぐよう指示を出しておきますので」

 

 その言葉に「頼むぞ」と告げてから、レジアスはオーリスにすぐ視察に向かうよう命じる。

 そして彼女が出て行ったのを見計らってふうと息をつき、三分ほど“彼ら”に告げる言葉を練りながら休息を取り『評議会』に繋がる回線を開いた。

 

 

 

 

 

 

 時空管理局本局・中央会議室。

 その部屋――否、空間の上部には三つのモニターが浮かび、その下の投影機からレジアスのホログラムが映し出されていた。

 

『報告は以上ですが、教会のみならず本局とご老人方も何事か動かれているようですが……』

 

 その報告に“Ⅲ”の文字が浮かぶモニターから『評議員』がくぐもった声を発した。

 

『《三提督》か。気にせずともよかろう』

 

 続けて“Ⅱ”のモニターごしに『書記』も、

 

『その通り』

 

 と声を発した。

 彼らの言葉をまとめるように、“Ⅰ”のモニターから『評議長』が言った。

 

『彼らは今や管理局の威容を喧伝するための『看板』。看板に“人”も“世界”も動かせはせんよ』

 

 その言葉にレジアスは嫌な予感を覚え、たまらず言葉をかける。

 

『お、お待ちください! では本局と教会、三提督に対しては――』

 

 狼狽するレジアスを見下ろしながら書記はにべもなく――

 

『お前に任せる。心配せずとも、地上においては(・・・・・・・)三提督といえどもお前に意見する事などできん』

 

『……っ』

 

 レジアスは彼らに見えないように顔を俯かせ、唇を噛む。結局何もしてくれないという事ではないか。

 確かに、名高い三提督も現在は名誉職に置かれ、実質的な権限は弱い。地上本部の頂点に立ち、最高評議会からの協力も得ている自身の方が実質的な力は上だろう。

 だが、彼らは形の上では今でも自分の上官であり、局員や住民たちからの信望も強く、その動きを抑えるのはかなり難しい。実際、六課に手が出せないのは彼らの意向によるものが大きい。

 それにむしろ――

 

――むしろ、表舞台から退場しておきながら、儂のような人間を通して管理局や世界を動かし続けているお前たちの方がおかしいのではないか!

 

 と問いただすわけにも、泣きつくわけにもいかない。今、評議会と敵対したり見限られたら、これまでの努力も犠牲もすべて台無しになってしまう……。せめて……。

 

『陳述会もお前に任せる。これまで通りでよい』

 

『そう、これまで通りでよい』

 

『なにも、問題はない』

 

 “これまで通りでよい”。そう繰り返す老害どもに、レジアスはもう怒りを覚えるのも煩わしくなり……。

 

『……はっ』

 

 不承不承ながらに右手を額に当てて、ホログラムを切る。

 せめて、アインヘリアルと戦闘機人を手に入れるまでは老人どもに付き合うしかない。

 

 

 

 

 

『……ふむ。レジアスめ、いよいよ反感を隠さないようになってきおったな』

 

 評議長が漏らした一言に、他の二人は同意するように相槌を返す。

 時空管理局の前身を立ち上げてから次元平定に至るまで、当時のミッド政府や聖王教会と敵勢力を相手に数えきれないほどの交渉と駆け引きの経験を積んだ彼らは、レジアスが無意識に漏らした反意に気付いていた。しかし、まだ切り捨てるには惜しいので素知らぬ振りをしてやっていたのだ。

 だが……。

 

『あやつもそろそろ見切り時か。ミッド本部の実質の長に仕立ててやったのに、恩を忘れおって』

 

『あのベルカ人の議員にでも感化されおったかな。“管理局から独立した防衛軍”など、荒唐無稽な夢想に過ぎんと思うが。まして野党の政治屋ごときに叶えられるとは思えん』

 

 評議員、書記も憤りとも呆れともつかぬ声を漏らす。

 そこへ評議長が再び声を発した。

 

『だが、奴にこれ以上の力を与えるのはまずくなった。もしレジアスがアインヘリアルと戦闘機人を手土産にクライスラーのもとにでも下ったら……そうなる前にいつでも切り捨てられるようにしておくべきかもしれん』

 

『それは同感だ。だが、後釜はどうする? 奴ほど上手く地上を束ねられて、なおかつ我らの命令通り動いてくれる人間など今はおらんぞ』

 

 書記に問われて評議員は唸り声を漏らす。そこへ評議長が口を挟んだ。

 

『いや、ちょうどよいのが一人いる。レジアスが支援していて、クライスラーの(せがれ)や戦闘機人に人造魔導師の素体候補、そのうえさらに《闇の書》の管制機まで従えている男だ』

 

『なんだと? まさかそいつは……』

 

 書記が問い返そうとしたところで、目の前に閲覧用のモニターが映り、黒髪にオッドアイの青年士官の姿と彼に関するデータが表示された。その青年士官は……。

 

『御神健斗三等空佐。機動六課という部隊内に設けられている独立部隊の分隊長を務めている男だ。しかも噂では、闇の書が造った《グランダムの愚王の複製》という話もあるらしい』

 

『あの“愚王”の……しかしそれが本当だとしても、今は一小隊の長に過ぎん。そんな者にレジアスの後が務まるか? まだ《闇の書の主》の方が……』

 

『……いや、むしろそのような片隅に追いやられている男ほど簡単に飛びつくかもしれん。もしも本当に愚王の複製なら、低俗な餌をいくつかぶら下げれば嬉々として我らに降ってくるだろう……そうでなくとも、あやつを縛る“鎖”はすでに用意しておる』

 

 そこで三人はそれぞれ伺うような沈黙を挟む。そして異論が出ないとわかるや、評議長は通信用の回線を開いた。

 

『どうされましたか? メンテナンスは先ほど終えたばかりのはずですが』

 

 モニターに浮かぶ青髪の秘書の問いに評議長が『いや』と言い、そのまま続けた。

 

『忙しいところすまんが、至急手配してほしいことがある。ミッドチルダの片隅に配置している、機動六課という部署に関することなのだが……』

 

 

 

 

 

 

「祭りの日は近い……」

 

 ただ一言、そう告げてドクターことスカリエッティは“我が子ら”のもとに歩み寄る。通路の淵には稼働前の無数のガジェットが鎮座し、その中心に赤毛の少女が二人立っていた。いずれもスカリエッティが自らの手で造りあげた“子供(作品)”たちだ。

 

 “娘”たちに向かって「君たちも楽しみだろう?」とスカリエッティは尋ねる。

 その問いに“Ⅺ”のプレートを首に付けた少女――ウェンディが軽い口調を返した。

 

「うん。武装も完成したし、ドカンと一発暴れてみたいっすね~」

 

 その言葉にスカリエッティは楽しげな笑みを返しながら言った。

 

「君たちに付けたのは最前衛用の能力だ。存分に暴れられるとも」

 

「やり~♪ 楽しみだねー、ノーヴェ」

 

 ウェンディは後ろにいる自身と同じ赤毛の姉に顔と声を向ける。しかし、ノーヴェは「別に」と言い捨て、不機嫌そうな顔をスカリエッティに向けた。

 

「ドクター。もう一度聞くけど、この前の攻撃は《聖王の器》って奴を捕まえるためのもので、そいつを殺す気はなかったんだよな?」

 

 その問いにスカリエッティは動じた様子も見せず、うなずきを返す。

 

「ああ、あの子には“オリジナル”と同じ《聖王の鎧》という固有技能がある。ディエチの砲撃を受けてもかすり傷ひとつ負わないさ」

 

 その言葉にノーヴェはまだ納得のいかない顔を見せながらも……

 

「そう……じゃあもう一つ。あたしたちが相手をするのは管理局の連中で、街の住民とか局以外の人間を巻き込むつもりはないんだよな?」

 

 その問いにスカリエッティは内心でふむと零しながらも、それをおくびに出さず答えを返した。

 

「ああ、公開陳述会では(・・・・・・・)局以外を標的にするつもりはないし、局員の中からも無駄な犠牲は出さないようにするつもりだ。彼らの中にも研究や実験の材料になりうる者がいるかもしれないからね……くくっ」

 

「そう……ならあたしから言うことはない。メガーヌとアギトも連れてくの?」

 

 スカリエッティはうなずき。

 

「メガーヌの目的はレジアスを捕らえる事だし、アギトも彼女の護衛と力の底上げに必要だ。君たちとは別行動になると思うが構わないね?」

 

「ああ、別に構わねえよ。ドクターが思ってるほどベタベタしてるわけでもねえし」

 

 そう言って不機嫌そうな顔のままそっぽを向くノーヴェに、スカリエッティはふっと冷たい笑みを浮かべる。

 その後ろから、“新たな体を得たウーノ”を先頭に、他の姉妹たち(ナンバーズ)がやってきた。別地で任務にあたっている“No-Ⅱ”ドゥーエと、調整ポッドに入っているナンバー以外は全員揃った形だ。

 スカリエッティはそちらを振り向き――

 

「やあウーノ。直に会うのは久しぶりだね。“新しいボディ”の調子はどうだい?」

 

「好調です。妹たちの動作データを参考に造りなおしましたから……あちらにいるチンクのデータも含めて」

 

「ふふふ。チンクちゃんをさらって八年くらい経つのに、いまだに『データ共有』に気付いていないようですね~。あっちがチンクちゃんを鍛えれば鍛えるほど、そのデータが私たちに流れてくるってわけです~。フフ、お馬鹿な愚王様♪」

 

 前回の意趣返しも込めて嘲笑うクアットロに、スカリエッティも笑みを重ねる。

 本当に気付いていないのか、あるいは気付いていてチンクに頼らざるを得ないのか。いずれにしろ、想定とは違う形で自身の作品たちが競い合い、己が性能を高め合う形になった。『機械生命』としては理想的な成長と言える。

 

――ケント・α・F・プリムス、あるいは御神健斗。どちらにせよ面白い結果をもたらす男だ。一度直に語り合ってみたいものだが、その前にまず……。

 

 スカリエッティは愉しげな素振りでノーヴェたちの傍にある長方形のボックスの前に立ち、右手をかざす。

 するとボックスはひとりでに開き、赤い輝きを放つ中身を晒した。その中には毒々しい輝きを放つ数十個ものレリックが――。

 

「ジュエルシードは使い切ってしまったが、代わりの……いや、本来の動力源はここにある。これを使って管理局やミッド市民に飛び切りの花火を見せてあげよう――彼らにとっても私たちにとっても、間違いなく素晴らしく楽しいひと時になる――あはっ、あはは、アッハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

「いいところね。機動六課……機動七課も」

 

 日が落ち始めて、真っ赤に染まった首都の菓子店の前でふいにギンガはつぶやく。それを聞いてチンクは彼女の方に顔を向けた。

 

「スバルもティアナも生き生きしてるし、チンクもいい仲間と上司に恵まれてるじゃない」

 

「――ああ。隊長たちも私たち(・・・)の事情を知りながらよくしてくれるし、レツヤとルーテシアも私の正体と素性を知ってなお仲間として接してくれる。半人前だった後輩たちに振り回されたり手を焼かされたりもしたが、七課にいた事は私の誇りになると思う」

 

「そっか……」

 

 ギンガはふと声と視線を落とす。そんな姉でチンクは真剣な顔で言った。

 

「おそらく私が地上本部に行く代わりに、姉上が七課に呼ばれると思う。108隊や六課に比べると小さな部隊で、まだまだ幼さの抜けない子供がいるようなところだが……あいつらの事を任せていいか?」

 

 そこまで言ってチンクは頭を下げる。ギンガは彼女の肩に手を置いて顔を上げさせ……

 

「わかってる。これでもお姉ちゃん歴11年(・・・)なのよ。後輩の面倒くらい見られます。あの子たちも思ったよりしっかりしてるし。チンクは心配しないで、向こうでのお仕事頑張って!」

 

 そう激励する姉にチンクは「ああ」とうなずきを返す。

 そこで「お待たせ―」と後ろからスバルの声がかかった。

 スバルが右手から提げている袋を見て、ギンガは思わず零す。

 

「今日はまたずいぶんたくさん買ったわねー」

 

「えへへ。みんなの分。あっ、七課の分もちゃんと買ってるよー」

 

「ああすまない。私も持とうか」

 

 手を差し出すチンクにスバルは首を横に振り。

 

「いいよ、これぐらい何ともないし――それよりチンク姉、あーん」

 

 言いながらスバルは紙袋から首都名物のチョコポットを手に取り、チンクの口元に持ってくる。チンクは素直に口を開きそれを口に含んだ。一齧りした瞬間、甘いチョコの味が口内に広がってくる。

 

「うん、うまい!」

 

「でしょう! ギン姉もあーん♪」

 

 スバルはギンガの口元にもチョコポットを持っていき、同じ感想を貰う。ちょうどそこでマリエルが運転する車がやって来た。

 

 

 

 

 

 その頃、六課の部隊長室で……。

 

 

「つい先ほど、カリムさんと合同で預言の分析を行った」

 

 いくつもの解読表をテーブルに並べながら俺は報告する。

 それにはやてとなのは、フェイトも目を落とした。だが、古代ベルカ中期時代の言語となると、なのはやフェイトはもちろん、ベルカ式の《魔導騎士》であるはやてでさえさっぱりのようだ。

 

「やはり、公開意見陳述会が狙われる可能性が高い……というのが俺とカリムさんの出した結論だ」

 

 予想通りの内容ながらも、なのはたちは顔を硬くする。

 

「この間中将に掛け合ったおかげで、警備はいつもより厳重になるそうや。機動六課も各員でそれぞれ警備にあたってもらう。……ほんまは前線丸ごとで警備させてもらえたらええんやけど、建物の中に入れるんは私たち四人だけになりそうや」

 

 重い口ぶりで告げるはやてにフェイトはやや硬い笑みを浮かべながら言った。

 

「まぁ、この四人が揃ってれば大抵のことは何とかなるよ」

 

「前線メンバーも大丈夫。しっかり鍛えてきてる。副隊長たちも今までにないくらい万全だし、みんなのデバイスリミッターも明日からはサードまで上げていくしね」

 

 頼もしい口調と笑みで告げるなのはに、はやては笑みを浮かべかける。だが、彼女はすぐに表情を引き締めて言った。

 

「ここを押さえれば、この事件は一気に好転していくと思う。だから、三人とも力を貸してくれる?」

 

 その問いに俺となのはたちはうなずき、肯定の返事を返す。

 

 新人たちが外を守り、俺たちが本部の中を守る。他の局員やレジアス中将たちも協力こそすれ妨害などはしないだろう。

 ならガジェットやメガーヌにナンバーズが来ても負けるはずがない。そのはずだった。

 

 

 

 当日、俺だけが本局に呼び出されるなんてことにならなければ……。

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