魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第34話 “鎖”

「……すみませんがもう一度言ってもらえないでしょうか。聞き間違いをしたようなので」

 

 本当に聞き間違えた可能性も考えて、評議長たちに聞き返す。しかし、“Ⅰ”(評議長)が映るモニターから出てくる答えはさっきとほとんど変わらなかった。

 

『レジアスに代わる新たな“同志”として、我々と組まないかといったのだ。さすれば、お前が新たな地上部隊の長になれるよう取り計らってやろう。それも十分に勤め上げれば、退局後に好きな世界を統治させてやってもいい……不満かね、“愚王ケント”』

 

 最後に出てきた呼び名を聞いて、頬に冷たい汗が流れる。それを拭いたい衝動に駆られながら……

 

「どこから訊けばいいのやら迷いますが、俺は御神健斗という名の元管理外世界の人間で、なんたらプリムスや愚王なんて言われてもさっぱりです。何かと間違えてるのでは――」

 

『誤魔化しても無駄だ。君が闇の書が復元した“愚王の複製”である事は調べがついている』

 

『十年前の『J・D事件』の際に少々ひけらかしすぎたようだな。アースラという船の元スタッフをつついたらすぐにその噂が聞けたぞ。聖王教会あたりに知られたらどうなる事やら』

 

 教会の名が出た途端、背筋が寒くなる感覚を覚える。真に受けるわけがないとは思うが、最高評議会が相手となれば教会も無下にはできない。調査ぐらいはするだろう。カリムさんやシャッハさんももう知っているしな。

 どうしようかと考えあぐねている俺を見て、評議長はくぐもった笑いを漏らした。

 

『ふっ……そう怯えるな。別に君を脅迫しようというわけではない。今さらベルカ王の一人や二人復活したところで、我々にとっては取るに足らぬ。『聖王』ならば話は別だがな。――それよりどうだね。我らと手を組み、前世では果たせなかった野望を叶えてみる気はないか? 我々の力を借りれば地上部隊の長はもちろん、一世界の統治者になることすら容易い』

 

「…………」

 

 三度誘いをかけてくる評議長に視線を返し、他の二人にも目を向ける。

 嘘を言っている様子は感じ取れない。時空管理局のトップに立つほどの人間たちなら本当にできるのだろう。

 しかし、地上部隊の長はともかく……。

 

「“世界の統治者”というのは言葉通り、その世界のトップという意味でしょうか? ミッドチルダをはじめ、私が知ってるほとんどの管理世界の政治は、選挙で選ばれた行政官や首相がトップを務める民主制です。あなた方の一存でそのトップを決めてしまうのは問題だと思いますが……」

 

 その指摘をぶつけた瞬間、書記と評議員は不愉快げなうめきを漏らす。

 しかしその反対に、評議長は噴き出すような笑い声をあげた。

 

『これはこれは。“かつて王だった者”に民主制を説かれるとは思わなんだ。だが、豊富な資金や実績を持つ者、あるいはその者たちからの助力(バックアップ)を受けた者が衆人の支持を集め、トップに立つのは民主制でもよくみられる事だ。それに、かつて王として政治を取り仕切った事のある君なら、“民主主義の欠点”も理解しているのではないかね?』

 

「――っ!」

 

 その指摘を聞いて思わず唇を噛んでしまう。

 その隙を突くように評議員が言葉をぶつけてきた。

 

『王や貴族など限られた人間の縁者が社会の中枢につく世襲制とは異なり、民主制のもとでは能力のある者なら誰でも国や世界の中枢・トップに就くことができ、民衆が為政者に対して声を上げることも許される……一見、住民にとって理想的に見える制度だと言われている』

 

『だが、実際はそうではない。どこの国も世界も、耳障りのいい甘言や政策とは無縁なパフォーマンスで票を集めた者が政治家となり、他党への攻撃と己の懐を満たすことに固執し、法律や予算の決定はおろか有事への対処にすら余計な時間と金がかかるようになる“衆愚政治”と化しているところばかりだ。……君も故郷(第97管理外世界)やミッドチルダでそれを見てきただろう』

 

「…………」

 

 書記の言葉に俺はただ沈黙を返す。そこでまた評議長が声を響かせた。

 

『我々からすれば完璧とは程遠い体制だ。……だからこそ、“より進んだ体制”を作る必要があると考えている。我々が選んだ優秀な者をそれぞれの世界のトップに置き、統治させる――永きに渡って世界を見守り考えた末に、それが最も合理的な体制という結論に至った』

 

 その言葉を聞いて、俺は大きく目を見張り――。

 

「まさか――そいつらを傀儡に、あんたたちが次元を乗っ取るつもりか!?」

 

 素の口調でそう問いただす俺に、評議長は沈黙を返す。入れ替わりに彼の隣から評議員が荒げた声を飛ばしてきた。

 

『口の利き方に気をつけたまえ。我々と君の立場の違いを理解していないわけではあるまい! 前世は王だろうが今の君は一左官に過ぎん。レジアスの後任など他にいくらでもいるし、我々がその気になれば君など――』

 

『まあまあ、そういきり立つな。驚きのあまり取り乱してしまったのだろう。この程度水に流してやれ。それにラルゴに比べればまだ可愛いものではないか。儂らに対してもタメ口どころか状況によっては怒鳴り声も飛ばしてきおったからな、あの小僧は……』

 

『そうだったな……今の発言は忘れてやろう。今後は注意したまえ』

 

 ラルゴ……ラルゴ・キール元帥のことか? 確かにあの人も若い頃は上官相手に噛みつくほど血気盛んだったと聞いてるし、評議会とやり合ってるところが想像つくが。

 しかし、もう80以上のあの人を小僧なんて呼ぶという事は……やっぱりこの人たちは……。

 

 そこで評議長はおほんと声を漏らし……。

 

『少々話が逸れたようだ……しかし、“乗っ取る”という言い方は適切ではない。平時の政治は指導者たちに任せつつ、必要に応じて我々が助言を出すだけのこと。今の管理局のようにな。それに、我々は私欲から次元や世界を管理しようとしているわけではない。ただ欲を貪るだけならば、適当な世界を二つか三つ統治下に置けば事足りる』

 

「……」

 

 確かに管理世界と定義してるだけでも70以上もある世界をすべて統治下に置くなんて、利得より面倒の方がはるかに大きい。現に管理局は各世界の治安維持に苦心し続けているし、他世界との渡航能力を持たない管理外世界にはロストロギアが見つかったりしない限り干渉すら禁じている。

 じゃあ、こいつら……最高評議会は何のためにそんなことを……。

 

『すべては次元の平和のためだ。これ以上の世界の腐敗と、管理局発足以前に起きていた“世界同士の戦”のようなことを防ぐために……』

 

『そのために我らの手で指導者となりうる者たちを選び、各々の世界を統治させる――』

 

『それが我らが考えた“新たな世界の形”……世襲制や民主制などと違い、“統治の才に優れた者を選び、その座につける”。さらにそのうえで百年以上も世界や次元を見守り続けてきた我々が指導者たちに知恵を貸せば、腐敗や堕落は一掃され、次元の平和は永久に保たれる……君はそう思わんかね、愚王ケント?』

 

 臆面もなく問いかけてくる老人たちに、もはや名を訂正する気も起こらず、代わりに――。

 

「もう一つ聞かせてもらっていいですか? ……あんたたち、もしかして…………《初代三提督》なのか?」

 

 再度素の口調を放ったにもかかわらず、評議員は責めず、書記と評議長も唖然と沈黙し――しばらくして三つのモニターから不気味な笑いが漏れた。

 

『《初代三提督》か……くくく。まさか、またその名で呼ばれる日がこようとはな』

 

『その名を覚えてる者はもうほとんどおらんと思っておった。レオーネから聞いたのか?』

 

 評議員の問いに俺は「はい」と頷く。俺の知り合いでその名と存在を知っているのは、あの人を含む“現三提督”ぐらいしかいない。

 

 《初代三提督》。

 その名の通り、レオーネさんたちが《三提督》と呼ばれる前にそう呼称されていた三人組で、時空管理局の前身組織を立ち上げた中心人物たちだ。

 《現在の三提督》と違ってメディアや報道にほとんど出なかったから、覚えている者も知る者もほとんどいないが。

 

 

『如何にも。我々はかつて時空管理局の前身となる平和組織を設立し、“最初に《三提督》と呼ばれていた者”である。新暦移行と同時にその名と権限をレオーネたちに譲り、我々は一線を引いたがな』

 

 その返事に『やはり』という言葉が脳裏をよぎる。

 だが、彼らは三提督より一世代か二世代も上。三人ともゆうに百歳は越えているはずで、最長寿を越えている奴もいるはずだ……しかし、三人の声や雰囲気からは寿命が迫っている様子や焦燥感など感じられない。

 まさかと思うが……。

 

『これで満足かね? では、お互い身の上を明かし合ったところでそろそろ返事を聞こう。――管理局の最上位に立つ我々と手を組み、ともに世界を導く気はないか?』

 

『断る理由はなかろう。我らと組めば“地上”のトップにも“海”のトップにも、あるいは前世ではなれなかった世界の統治者にもなれるのだから』

 

『さすがに虐殺などの暴挙まで許すわけにはいかんが、賄賂や税収の一部を懐に入れたり愛人を何人か抱えたりする程度のことは目をつぶってやろう。それぐらいの褒美を与えた方が働きもよくなるだろうしな。……さて、ここまでお膳立てしてやったのだ。返事は一つしかあるまい』

 

 確かに、普通ならこんな話の返事は一つしかないだろうな。

 ここでこいつら(評議会)と組めば、管理局の体制や方針を変えられる椅子につけるかもしれない。こいつらにはもう俺の正体を知られているみたいだし、それを差し引いても評議会と敵対すれば、レジアス中将や他の“同志”とやらも敵に回すことになる。もっと情報を集めるためにも、ここは頷いた方がいいかもしれない。

 だが、しかし――

 

『……念のため言っておくが、引き伸ばそうとしたり、同調したふりをして我々の企みを暴こうなどと考えない方がいい……友人と彼の母親のことを思うのならな』

 

「――? どういう意味です?」

 

 思わぬ名前を聞いて、俺は身を乗り出しながら問い返す。

 そこへ評議員が声を放ってきた。

 

『実は我々が組む“同志”には裏切りや密告を防ぐために、それぞれ“鎖”を用意していてな。君の弱みもすでに握ってある――さっき言った十年前の『J・D事件』の時からな』

 

「――なに!?」

 

 その言葉に俺は荒げた声を漏らす。その一方で懸命に頭を絞り、あの事件の記憶を辿る。

 そして“ある事”に思い至り、あっと声を上げかけたところで評議員が被せるように言った。

 

『当時アースラの艦長だったリンディ・ハラオウンをはじめ、あの艦の一部スタッフが事件の時におかした事を覚えているかね? 闇の書を無害化するためとはいえ、ジュエルシードというロストロギアを使用したことを……』

 

『管理局が発足して以降、ロストロギアの使用は重大な犯罪行為と定められている。それの使用が発覚すれば共犯ともども百年以上の懲役――事実上の終身刑は免れんだろう。闇の書の意図的な取り逃しも局への背信行為ととられてもおかしくない』

 

『ジュエルシードを集めていたプレシア・テスタロッサとフェイトと名付けられた娘も同様だ。実の娘の方は犯罪者ではないが、闇の書の力で蘇ったという背景を考えればこちらで“保護する”必要があるかもしれん』

 

「…………」

 

 耳に入ってくる内容を受け止めきれず、俺はただ口をパクパクさせる。

 そこで評議員と書記のモニターから冷笑のような声が漏れた。

 

『とはいえ、我々もそこまで杓子定規ではない。闇の書を無力化させるためにはロストロギアぐらいは必要だっただろうし、我々や管理局も手を焼かされたあの魔導書を抑え込んだ事はむしろ多大な功績だ。その協力の礼としてテスタロッサ親子にも恩赦ぐらい出してやってもいい……しかし』

 

『もし、何かの間違い(・・・・・・)でそれらの事実が外に漏れたら、ハラオウンとテスタロッサ両親子を司法の場に出さざるを得なくなるかもしれん。そして最悪の場合は……』

 

 評議員と書記はわざとらしく言葉を区切る。

 冷たい汗を流しながらその場で固まる俺に向かって、評議長は声を注いできた。

 

『それを防ぐためにも、あの事件に関わった君の協力が必要なのだ。彼女らを守るためにも我々と協力関係を築いてくれんかね。むろん、昇進の件も退局後に世界を一つ統治させるという件も違えるつもりはない……ここまで言えばどう答えるべきか、わかるだろう?』

 

「てめえら――」

 

 こいつらの言わんとすることが分かり、評議長たちに刺すような目を向ける。しかし三人とも気分を損ねるどころか、愉快そうな視線と嗤いを漏らすのみだった。

 そこへ――

 

『――し、失礼します!』

 

 ふいに俺の背後でモニターがもう一つ開き、俺はそちらを振り返り、評議員も『なんだ?』と不愉快げに聞き返す。

 そこに映った壮年の男局員は俺を見て躊躇うように言葉を止めながらも、再び訊いてくる主に答えを返した。

 

『ミッド地上本部が謎の機体と女たちの襲撃を受けています! 警備にあたっている者たちが鎮圧を試みていますが、魔力攻撃が効かず、救援に駆けつけた航空魔導師も撃墜されてまして――』

 

『なんだと!?』

 

『馬鹿な! なぜガジェットやナンバーズが地上本部を? まさか“奴”が裏切って――』

 

 評議員と書記は戸惑いの声を上げる。それを聞いて俺は眉を吊り上げた。

 

「“奴”? 裏切る? ――どういうことだ!? あんたら、まさかスカリエッティとも――」

 

 そう言うやいなや、評議員たちはしまったというように言葉を止め、評議長は慌ただしく言葉を飛ばした。

 

『まだ君が知る必要はない。我々は対策を講じるから、君は急いでミッドに戻ってガジェットと戦闘機人を鎮圧したまえ。返事はまた改めて聞く……くれぐれもハラオウン親子とテスタロッサ親子の件は忘れるなよ』

 

 勝手な命令と捨て台詞を吐きながら評議員たちは通信を切る。

 俺は顔をしかめながら後ろの局員に顔を向けるが、何も知らされていないらしく、彼は戸惑いの表情を返す。

 そこで「失礼します」という声とともにドアが開き、評議会直属の女秘書、ヴェート・バラッツァ三尉が妖艶な笑みを浮かべて入ってきた。

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