魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第36話 本部防衛戦(2)

 フォワードとフィルダーが戦闘機人(ナンバーズ)と遭遇した時と同じ頃。

 

 敵の操作(クラッキング)によって出入り口をふさいだ隔壁と暗闇の中に閉じ込められた会議室では、多くの将校たちが顔を突き合わせて対策を講じ、護衛として配置されていた局員たちが隔壁をこじ開けようと試みたりしていた。皮肉にも、中の人間を守るための隔壁(装置)が彼らを閉じ込める檻と化している状態だった。

 

 そんな中、はやてやカリムたちは本局や地上の代表にガジェットやナンバーズ、それらを操っている容疑者スカリエッティについて説明していた。

 一方、当初は襲撃の報を受けてなお賊の鎮圧はすぐに終わると高を括っていたレジアスも、この状況にいたってようやく陳述会など続けられる状態にないと悟り、オーリスを含む副官たちを怒鳴りつけて事態の解決を急がせていた。

 しかし、会議室からの脱出はおろか外との連絡一つ満足に取れない状態では彼らにも手の打ちようがなく、それを察したレジアスも今は不機嫌そうに口を閉ざし、事態の好転を待つのみだった。

 

 そこで、ふいに隅の方でガタンと音が響き――。

 

「空いた――出口が空いたぞーー!!」

 

 そこから一人の士官が誇るように大声を上げ、皆はそこに顔を向ける。

 彼らの先では固く閉ざされていた隔壁が上がり、暗い通路に続く出口がぽっかり口を開けていた。それを見て、多くの将校が期待のはらんだ声を上げる。レジアスも椅子から立ち上がり、出入り口に向かって足を踏み出す。

 しかし、そこで一人の女が「待ってください」と声を上げた。

 彼女――カリム・グラシアは怪訝と疑念を含んだ視線を浴びながら告げた。

 

「まだ本部の中には、ガジェットという兵器と敵の魔導師たちが潜んでいる可能性があります。この状況で下手に外に出るのはかえって危険です。外部との通信や施設の機能が回復するまではここに留まるべきではないかと」

 

「馬鹿な! せっかく出口を開けたというのに。部下たちが戦っている中、儂らだけここに閉じこもっていろというのか!!」

 

 憤りを示すように、レジアスは大きく腕を振りながらカリムに怒鳴り声を浴びせる。その横で彼の側近も非難めいた視線を彼女に向けた。

 レジアスの怒声と側近たちの視線を受けてカリムは思わず一歩下がる。だが、後ろからはやてとリインに背中を支えられなんとか態勢を整え、彼女は深く吸って自身を奮い立たせながら口を開いた。

 

「今すぐ加勢に行きたいお気持ちはわかります。ですが、私を含めここにいる方々の中には攻撃魔法が不得手な方や、魔法そのものが使えない非魔導師も大勢いらっしゃいます。そんな私たちが徒に出て行っても、今戦っている局員たちの邪魔になるだけだと思います!」

 

「ぐっ……」

 

 カリムの指摘にレジアスは(うめ)きを漏らす。

 彼女はあえて名前を出さなかったが、レジアスもまた魔法が使えない“非魔導師”の一人だったからだ。また実力がある魔導師も、今本部内にいる者はデバイスを手放していて、十分に力を発揮することができない。

 それらを思い出し、レジアスは舌打ちしながらカリムから視線を逸らす。そこへある人物が声を上げた。

 

「中将、グラシア少将のおっしゃる通りです。指揮官たる中将や他の代表たちがむやみに動いては、(かえ)って現場を混乱させかねません。安全な場所で推移を見守り、いざという時采配を振るえるように備えるのが今の我々の務めではないかと」

 

「むっ……」

 

 娘にして最側近たるオーリスの諫言を受け、レジアスはカリムに向けたものとは異なる呻きを返す。

 そこでオーリスは人差し指で眼鏡を押し上げてから、再び口を開いた。

 

「ただ、隔壁が上がって出入り口ができた以上、この部屋に籠るのも危険です。中将と数人の代表だけでも安全な場所に避難するべきでしょう。この部屋の近くにある、本部長と中将の執務室には会議室同様の防御システムが備わっており、非常用の出入り口もあります。ひとまずそちらに避難を――」

 

「ここにいる皆を置いて逃げろと言う気か?」

 

 厳つい視線と声を向ける父に、オーリスは肩をびくりとさせかけながらも懸命に抑えながら返事を返す。

 

「万が一の事態を避けるためです。ここで地上部隊と本局の要人を失うことになれば指揮系統は乱れ、管理局は機能不全に陥ってしまいます。そうなってしまったら犯人の思惑通りどころか、各世界の治安崩壊にもつながりかねません。非魔導師を優先的に代表たちと護衛には執務室に移っていただき、他の方は別室にいる士官とともに立て籠もっていただきます。ここは冷静な判断を」

 

「……しかしだな……」

 

 レジアスは代表たちや他の局員に視線を巡らせながら渋るような反応を見せる。

 そこで思わぬ人物が声を上げた。

 

「いえ、ゲイズ三佐の言う通りかもしれません。ここもいつ襲われるかわかりませんし、私たちや護衛だけじゃ守り切れないかもしれません」

 

「八神……」

 

 自身の半分ほども生きていない娘――はやてにレジアスは唖然とした目を向ける。目の敵にしている部隊の長とはいえ、この状況と言葉の正しさにレジアスはなにも言い返せず口をつぐむ。

 そんな彼にはやては続けて言った。

 

「ただ、それにあたって一つお願いしたいことがあるんですが……」

 

 その言葉にレジアスとオーリスは眉を吊り上げながら耳をそばだてる。そんな彼らをクラッキングしたサーチャーから眺めてる女がいた。

 

「ふふふ、予想通りの動きね。その部屋の隔壁だけ開けやすくしたことさえ気づかず。――メガーヌさま~、中将閣下はお嬢様や何人かのお友達と一緒に執務室に移動されるみたいです~。捕まえるのなら今のうちですよ~♪」

 

 

 

 

 

 特徴的な間延びした口調で報告してくるクアットロに対し、メガーヌは無言で通信を閉じる。そこへ、ガリューを横切ってきたヴィータが槌を振るってくるが、メガーヌは防御陣を張ってそれを受け止めた

 

「メガーヌ、なんの目的でスカリエッティなんかに従ってやがる? たった一人の娘を放っておいてまで――」

 

「管理局を在るべき姿に戻すために動いているだけよ」

 

「在るべき姿、だと……?」

 

 ヴィータの問いにメガーヌは硬い表情で頷く。

 

「ええ、今の管理局を牛耳っている腐敗した連中……奴らのせいで上官と親友は大きな怪我を負い、大勢の仲間や部下も犠牲になった。彼らのためにも、ここで止まるわけにはいかないの。スカリエッティたちはそのために利用してるだけ。用済みになったら捕まえて局に引き渡してあげるわ。わかったらそこをどいてくれないかしら」

 

「――っ、どくわけねえだろうがっ!」

 

 ヴィータは重い一撃を叩き込んで防御陣を破壊する。その衝撃でメガーヌは吹き飛び、空中に投げ出された。

 それを見てヴィータはしまったと思い、メガーヌを助けるべく彼女のもとまで飛ぼうとする。

 だが――

 

「――アギト!」

 

 空中に投げ出されたままメガーヌは相棒に向かって叫び、アギトはきっとした表情で彼女の元へ飛ぶ。

 彼女よりはるかに小さいアギトでは、メガーヌを受け止める事などできない。

 だが――

 

「「エンゲージ!」」

 

 そう叫ぶや、メガーヌは空中でピタリと止まり、アギトは赤い球体に包まれながら彼女の胸の中に飛びこんでいく。それはリインフォース姉妹がロードと融合する時とまったく同じだった。彼女らが口にした呪文以外は……。

 

 唖然とするヴィータの前で、“髪と両眼を橙色に、バリアジャケットの一部を赤く染めたメガーヌ”が姿を現した。

 

《やっぱり、融合型……》

 

《ああ、お前や姉貴(アインス)と同じみてえだな》

 

 自身の中にいるツヴァイに答える。

 そんな彼女らを前に、メガーヌは硬く握った両手を掲げる。その指の間からは真っ赤な炎が漏れ出ていた。

 それを見てヴィータは防御陣を張りながら構えるが、メガーヌは構わず両手を振るいながらアギトともに叫んだ。

 

「「“ギルティフレイム”!!」」

 

 彼女の両手から打ち出された拳大の炎を見て、ヴィータは「ツヴァイ!」と叫ぶ。

 その直後、ヴィータの前に白いバリアが展開する。

 だが、メガーヌ()()が放った炎の勢いは見た目以上に凄まじく、バリアは容易く砕ける。

 さらにそこへメガーヌは右手を向け――

 

「はああっ!」

「ぐああっ――」

 

 メガーヌが放った衝撃波をまともに受け、ヴィータは真っ逆さまに堕ち、ビルの上に激突する。

 それを見てメガーヌはやり過ぎたかと思いながら眉を寄せるも、呻きながら起き上がる彼女を見ながら安堵の息をつき、そのまま召喚虫やガジェットを従えて地上本部へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

「はあああっ!」

 

 戦いが始まるやいなや、セッテは二本のブーメランブレードを投げつけてくる。オレとチンクは身をひるがえして躱し、ブレードは(くう)を切って飛んでいくが――

 

「IS――《スローターアームス》」

 

 セッテが一言唱えた瞬間、ブレードはおもむろに軌道を変えてルーテシアとギンガさんに向かって行く。

 ギンガさんはルーテシアを抱えながらブレードをかわすが、それを狙ったかのようにトーレが脚を踏み出した。

 それを見てオレは――

 

「スト――」

「――させん!」

 

 技能を使おうと口を開いたところで、トーレは即座に体の向きを変えてオレに迫り、エネルギー翼のついた右腕を振り下ろしてくる。オレは垂直に立てた刀でそれを受け止めた。

 そこでセッテは手元に戻ってきたブレードを掴み――

 

「はあっ――!」

 

 セッテがブレードを投げた直後、トーレはすぐさまオレから離れ、ブレードはまっすぐオレに向かって来る。

 間に合わない。ここは技能で――

 そう思ったところでチンクが数本のスティンガー(短剣)を放ち、自身の技能《ランブルデトネイター》で爆発させて撃ち落とした。

 

「トーレ、セイン、それにセッテ! 落ち着いて聞いてくれ! これはお前たちが望んだ事か? このままずっとドクターに言われるがまま動き、罪も恨みもない人たちと戦ったり傷つけることが――」

 

「――むろん、私たちの望みだ!」

 

 戦いが始まってすぐ地面に潜ったまま姿を見せないセインにも向けて懸命に説得するチンクに、トーレは右腕を振り上げながら迫る。

 チンクは『シェルコート』から張られたシールドで攻撃を受け止めるが、そのシールドを強く殴りつけながらトーレは叫んだ。

 

「ミッドチルダにも他の世界にも戦闘機人の居場所などない! だが、ドクターの夢が叶った時、あの方は“自由”を手に入れ、私たちもあんな穴倉から出られるようになる! ――それを引いても、『生みの親』の命令に従うなど当たり前のことだろう!!」

 

 叫びながら四激目を撃ち込んだ瞬間、チンクのシールドは硝子のように砕け散る。がら空きになったチンクに一撃を叩き入れようとトーレは腕を振り上げるが、そこへ紫色のダガーが飛んできて、当たった瞬間トーレのまわりを白い爆風が舞った。

 そんな中、ダガーを飛ばしてきた少女――ルーテシアは叫んだ。

 

「違う! 親でも子供でも間違った事をしたりしそうになったら、止めるのが『家族』の役目! 私もお母さんを止めるためにここ(管理局)にいるから!」

 

「お前のような子供に何が――っ!」

 

 爆風の中からトーレはルーテシアを睨み右腕を掲げるものの、チンクがスティンガーを放ってきて彼女はシールドで防ぐ。それを見てセッテはギンガさんとルーテシアめがけてブレードを掲げるが――。

 

「“ストップ”」

「しまっ――」

 

 オレが声を発した瞬間、セッテは発しかけた言葉とともに動きを止める。それを見て、ギンガさんが彼女を見据えながら右腕を腰だめに引いた。同時に――

 

「ハアアアアアッ……」

 

 この前の訓練のように、ギンガさんは右腕に力を込めながら、口から妖しい響きの声を放つ。

 そして――

 

「アアアアアアアア――ッ!!」

 

 彼女はさらにけたたましい声を上げながら右腕を一気に突き出し、衝撃波に変換した声(・・・・・・・・・)をセッテに向かって撃ち放った。

 

『声を含めた空気の振動』を自身の前に凝縮して、砲弾のように撃ち出す固有技能《振動放出》。

 それを喰らった相手は体を吹き飛ばされるほどのダメージと、体に直接打ち込まれた振動と音波によって三半規管をはじめとした内部の器官を狂わされ、立ち上がることすら困難になるという。

 まともに喰らえばただじゃ済まないはずだ。

 

「っ――」

 

 セッテは目をつぶることすらできず、自身に迫る衝撃波を眺める。

 だが、そこへ――

 

「セッテ、危ない――ぐあああっ!」

「セイン――!?」

 

 衝撃波が迫る直前、セッテの足元からセインが飛び出してきて彼女を突き飛ばし、衝撃波をもろに受けて地面に転がる。

 それを見て、オレはセインの体にバインドをかけ、その前に立つ。

 これで一人捕まえた!

 

 

「貴様っ――私の妹に何を!」

 

 (セイン)を取り返そうとトーレは怒りの形相で手を伸ばす。

 だが――

 

 

《トーレお姉さま~、セッテちゃんも。そのおチビちゃんたちと“ファースト”はもう結構です。ここはいったん退いてくださ~い》

 

《クアットロ!? しかし、セインがこいつらに――》

 

 声に出さん勢いで反論するトーレに、クアットロは間延びした猫撫で声を返した。

 

《仕方ありません。元々お姉様とセッテちゃんは室内戦に不向きですし、ファーストと“王子様”の能力も思った以上に厄介です。ここでお姉様たちまで捕まっちゃったらセインちゃんを助ける事もできなくなっちゃいますし、あの子はしばらくあちらに預けておきましょう。その代わり、お姉様はノーヴェちゃんたちのところに行って、あの子たちと一緒に《ゼロセカンド》を捕まえてください。あの子は私たちにとって一番厄介で、一番味方につけたい(・・・・・・・)子ですから~♪》

 

《……了解。セッテ、ここは退くぞ》

 

《わかりました……》

 

 

 突然押し黙ったかと思うと、トーレたちは身を構えたままその場に立ち尽くす。オレたちは慎重にじりじりにじり寄る。

 が――。

 

「――!?」

 

 突然、オレたちとトーレたちの間に彼女らと同じスーツを着た女たちが現れ、オレたちはその場で動きを止める。

 だが――

 

「待て! そいつらはクアットロの――」

 

 チンクが何やら言いかけたところでセッテが光弾を打ち込んできて、それをかわしている間にトーレはオレたちから背を向けて駆け出し、セッテも吹き抜けの上へ飛びあがった。

 それとともに、新たに現れた女たちは陽炎のようにぼやけながらかき消える。

 

「幻術!? しまった!」

 

 幻だと気付いてすぐオレはすぐに追いかけようとするが、後ろから「待って!」と声がかかった。

 不満を露わにしながら振り向くオレに、ギンガさんは険しい顔で言った。

 

「まだ他に敵がいるかも知れない。やみくもに追いかけるのは危険よ。幸い一人捕まえる事ができたし、今は上にいるフェイトさんやアインスさんたちと合流しましょう。今はあの人たちの無事を確かめるのが最優先よ!」

 

「……わかりました。今は先を急ぎましょう」

 

 嫌な予感がしつつもオレはうなずき、チンクとルーテシアとともに再び階段を上がる。

 ギンガさんもバインドに縛られたセインを肩に抱えながら、オレたちの後に続いてきた。

 

 

 

 

 

 

《ところでクアットロ、チンクの《コンシデレーション・コンソール》はどうだった? 私たちが戦ってる間、試していたんだろう?》

 

 セッテと別れ、一人走りながらトーレは尋ねる。それに対し、クアットロはすぐに悩ましげな返事を返してきた。

 

《それがまったく反応なしでした~。誰かさんがとっくに無効化しちゃってるみたいですね~。ドクター以外であれを無効化できる人となると……》

 

《おそらく、プレシア氏の仕業だろうな。チンクがさらわれた頃はまだ未完成だったとはいえ、ドクターの作ったシステムを解除できるのはあの方ぐらいしかいまい》

 

 そう言ってトーレは重い溜息をつく。

 するとそこでノーヴェとウェンディと、彼女らに囲まれている《タイプゼロ・セカンド》――スバル・ナカジマの姿が見えた。

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