魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
「――フェイトさん!」
「高町一尉!」
トーレたちとの戦いが終わってから再び階段を登り、ひたすら上を目指すこと数十分。
これで百以上は登ったんじゃないかと思ったところでギンガさんはフェイトさんを見つけ、チンクは一緒にいるなのはさんの名前を呼ぶ。さらにその少し奥には、赤紫色の髪を短く切りそろえたシスターらしき女性が立っていた。
そしてオレたちとは反対側からも、ティアナたちフォワードが駆け上ってきた。
「なのはさん、フェイト隊長、お待たせしました! お預かりしていたものです」
なのはさんたちのもとに駆け寄るなり、ティアナは赤い球状のデバイスをなのはさんに、エリオは三角形の金色のデバイスをフェイトさんに渡す。なのはさんたちは礼を言いながらそれを受け取った。
チンクも銀色のデバイスを取り出しながらあたりを見回し――
「リインフォース副隊長と八神部隊長はどちらに?」
その問いになのはさんは難しそうな顔で上を見て……。
「二人ともさっきまで会議室にいたんだけど、今は……。ところでギンガ、その子は?」
「その服装、まさかと思うけど……」
彼女が肩に担いでいる敵を見ながら尋ねるなのはさんとフェイトさんに、ギンガさんは頷きながら報告した。
「さっき下の階でナンバーズと交戦しまして、その際に一名捕獲しました。ティアナたちは? スバルがいないみたいだけど……」
その問いにティアナは眉根を寄せながら……
「私たちも下で戦闘機人と戦っていたんです。なんとか隙をついて幻術で撒いてきたんですが、気付いたらスバルだけいなくなってて……」
「――!」
ギンガさんはすぐに片耳に手を当てて何度も「スバル!」と叫ぶ。フェイトさんもギンガさんと同じ仕草で耳に手を当てて――
「ロングアーチ、こちらライトニング01……」
スバルの捕捉を頼もうとフェイトさんは六課のオペレーターたちに呼びかける。だが……
『……ニング01……こちら……ロン…アーチ……』
「グリフィス! どうしたの? 通信が――」
ジジッやガーといった
『こちらは今、ガジェットとアンノウンの襲撃を受けて…………まだ持ちこたえていますが、もう――』
そこで通信が途切れ、オレたちは顔を見合わせる。なのはさんとフェイトさんも頷きをかわしてからオレたちに向き直った。
「分散しよう……私とティアナはスバルの安否確認と襲撃戦力の排除に行く。フィルダーも……ギンガとチンク、手伝ってくれる?」
なのはさんの指示にティアナは硬い声で「了解!」と応え、ギンガさんとチンクもそれに続く。続けて――
「ライトニングは私と一緒に六課に戻る。ルーテシアとレツヤも一緒に来て!」
フェイトさんからの頼みにエリオたちに混じってオレも「了解」と返し、ルーテシアは無言でうなずく。
「シスターシャッハはこの子と上の方々をお願いします」
そう言ってなのはさんが目線を送ると、ギンガさんは頷きセインを床に降ろす。シスターは彼女を一瞥し、神妙な表情で首を縦に振った。
「この身にかけてでも。騎士はやてと騎士リインフォースのデバイスも私から渡しておきます」
「はい、よろしくお願いします」
言われるがまま、チンクはリインさんのデバイスを渡し、ティアナもはやてさんが持っていた剣十字型のデバイスを渡そうとする。
だがちょうどそこで、はやてさんのデバイスはまばゆい光に包まれ、あっという間さえなくティアナの手から消失した。
ティアナは「えっ」と声を漏らしながら手元や周りを見回す。それを見てなのはさんとフェイトさんは顔を見合わせながら言った。
「夜天の書の『転移機能』……という事はまさか――」
「うん。あっちにも現れたみたいだね」
会話の意味が分からずオレとティアナは首をひねるが、尋ねる間もなくなのはさんから「行くよ!」と告げられ、オレたちはそのまま三方に分かれて駆け出した。
◇
一方レツヤたちが解散する少し前、レジアスはオーリスやはやての勧める通り会議室を出て、自らと同じ意見を持つ地上部隊代表とその護衛たちとともに自身の執務室に戻っていた。本局や競合世界の代表といった敵対派閥の面々は、本部長の執務室に移ってもらっている。
窓の前にも隔壁が降りているため、会議室同様暗いままの部屋でレジアスは落ち着きなく机の奥をうろうろする。せめて非常灯でも点けたいところだが、万が一長期化したりここを出なければならなくなった時を考えれば不必要な消費は避けるべきだった。
暗い部屋の中で代表たちはおずおずとソファに腰かけ、オーリスは父と代表の間に直立していた。
その時、近くでけたたましい轟音が響き、一同は何事かとそちらに顔を向ける。
オーリスもそれに紛れながら懐に入れてある非魔導師用の魔力銃に手をかけ、本棚の隙間に隠された非常用出入り口に目を向け、もういちど音が響いたらここを捨てようと口にしかける。
だがその時、出入り口の奥から爆発音のようなものが響き、オーリスのみならず代表たちや護衛、レジアスもそちらに目を向けた。
留め具を失った扉はそのまま垂直に倒れ、奥から長い紫色の髪を垂らした妙齢の女が出てくる。その後ろには小人のような小ささの、四つに束ねた赤髪の少女が飛んでいた。
それを見て――
「――う、動くな!」
「局員か? ならば早くIDカードを出せ!」
護衛たちは上官をかばうように前に出て、攻撃用の杖を向ける。それに対して、女はつまらなそうな表情で片手をあげた。
護衛たちは訝しげな目を向けながら杖を突きつけていたが――
「――ふっ」
「ぐあっ!」
「こいつ――」
腹に拳を入れられてその場に倒れ伏す仲間を見て、隣の護衛は杖を撃とうとする。だが、その前に女は彼の寸前まで迫って首筋に手刀を入れて気絶させた。
女はさらに三人目四人目を倒し、たまらず逃げ出そうとした五人目の後頭部を殴りつけて護衛全員を打ち倒した。それを見て代表たちはひぃっと情けない声を上げながらソファから立ち、部屋の奥まで逃げだす。中には恐怖のあまり転倒し、這うように進んでいる者もいた。
そんな中、レジアスは目の前の光景が信じられないかのように唖然とした目を向けて……。
「メガーヌ……アルピーノ…………まさか、本当に君なのか……」
そう訊ねられた途端、メガーヌはにやりと口を吊り上げ、あざ笑うかのような笑みを向けながら口を開いた。
「お久しぶりです、レジアス准将……いえ、今は中将でしたっけ」
白々しく言葉をかけてくる彼女の姿をオーリスも愕然としながら見つめ……
「メガーヌさん……本当に生きてたの…………」
驚きと戸惑いを隠せず呟く彼女に、メガーヌは親しさと残念さの混じった笑みを向けた。
「オーリスちゃんも久しぶり。まさか本当に局員になってたなんて。局員になるかどうかでお父さんと喧嘩する度によくうちに逃げてきた頃が懐かしいわ」
過去の出来事を掘り返され、オーリスは顔を赤くするもすぐに状況を思い出し、きっと表情を引き締める。
それを受けてメガーヌも肩をすくめながら笑みを消した。
「ま、お互いそんな昔話をする暇はないか……。中将、あなたが最高評議会やスカリエッティと繋がってることはもう知っている。ただ、一つだけあなたの口から聞かせてほしいことがあります。……八年前、私がいた首都防衛第7小隊、通称『ゼスト隊』が追っていた『戦闘機人事件』、そして部隊が壊滅した原因となった『戦闘機人プラント』……あなたはそれらにどれくらいまで関わっていたんですか?」
「っ……あ、あれは…………」
“あの事件”の記憶が蘇り、レジアスは激しく顔を歪めながら口を震わせる。
それを冷ややかに眺めるメガーヌの後ろから、アギトが飛び出してきて声を放った。
「おい姐さん、うだうだ言ってないでさっさとそのおっさんふん捕まえた方がいいんじゃねえか! ぐずぐずしてると他の局員たちが来ちまうし、ナンバーズより先に《聖王の器》ってヤツを手に入れねえと!」
相棒の忠告にメガーヌはふむと漏らし、そして右手を上げた。
「――っ」
それを見て、オーリスは素早く懐に手を入れ魔力銃を向ける。だがそれより一瞬早くメガーヌはオーリスに右手を向け、衝撃波で彼女を吹き飛ばす。
その衝撃でオーリスは本棚に叩きつけられ、そのまま床に倒れ込んだ。
「オーリス! ――ぐうっ!」
レジアスは思わず娘の名を叫びながら駆け寄ろうとする。そこで彼のまわりに白色のバインドが現れ、逃げる間も与えず彼の体を強く締め上げた。
「確かに尋問ならここじゃなくてもできるわね……じゃあ中将には私たちについてきてもらうわ。副官を務めてる以上、この人の後ろ暗い仕事についてもある程度知ってるでしょうし、オーリスちゃんにも来てもらおうかしら」
そう吐き捨てて、メガーヌは倒れているオーリスににじり寄る。それを見て――
「――ま、待て! オーリスはあの事件やスカリエッティの事は何も知らん! 儂のことは好きにしていい! その代わり娘にだけは手を出さんでくれ!!」
「父さん……」
体を縛られた状態で必死に這いつくばって頼み込んでくるレジアスや弱々しい声で呟くオーリスを見比べて、メガーヌは迷うように眉を寄せ、『さて、どうしようか』と思案した。
だが――
「そこまでです! メガーヌさん!」
「――っ!?」
「お前はっ!」
何の前触れもなく出入口を塞いでいた隔壁が上がり、次いでドアが荒々しくこじ開けられるとともに“短い白髪の女士官”が飛び込んでくる。
その少女と彼女の手にある《夜天の魔導書》を見て、メガーヌとアギトは驚愕に目を見開いた。
◇
地上本部から離れた機動六課の隊舎。
そこは今、突如襲来したナンバーズ、オットーとディード、ディエチ、彼女らが従える無数のガジェットの攻撃を受けて崩れ落ち、紅蓮の炎に包まれていた。
その中を何機かのガジェットが飛び、目標物に向かって進んでいく。
ヴァイスは瓦礫に隠れながら、今しがた拾った魔導杖を手に狙いを定め、はるか遠くのガジェットに向けて緑色の弾丸を放つ。
多重弾核に包まれていた魔力弾はAMFを容易く貫き、ガジェットを爆砕させていく。
それを見てヴァイスは自信の笑みを浮かべた。
――オーケー……撃てる。腕はまだ鈍っちゃいねえ。
彼ははやてたちの輸送を済ませた後、つい先ほどまで地上本部の敷地内で会議の終わりと部隊長たちの帰りを待っていたのだが、本部が襲撃され、さらにその後六課襲撃の知らせを聞き、ヘリとともに言葉通り飛んできたのだ。
その思いから彼は六年ぶりにとった得物を手に、仲間たちのもとへ駆け付けた。
一機も漏らさず
それを聞いてヴァイスはすぐに気をあらため、砲口を向けながら敵が現れるのを待つ。
だが……。
「――っ!」
曲がり角から現れた短い赤茶色の髪の少女を見た瞬間、ヴァイスは目を見開き、『嘘だろう』とつぶやきかける。
彼女は“あの時”と同じ背丈、同じ格好をしており、左眼は真っ白な眼帯で覆われている。
その姿を見た瞬間、ヴァイスの脳裏に“妹の目を奪った時の記憶”がくっきりと蘇った。
撃とうとしても手が震え、杖を持ち続ける事すら困難になる。
そこで“少女”は右の掌を向け……
「失礼。
そうつぶやくとともに、彼女の手から緑色の光が放たれ、固まっているヴァイスをはるか後ろまで吹き飛ばす。
それと同時に赤茶色の髪の少女は、ボーイッシュな髪形と格好のナンバーズに姿を
その後ろから――
「どうしました、オットー?」
「いえ、狙撃魔導師を一人片づけただけです。僕を見た途端震えだしたので遠慮なく撃破してしまいましたが。ガジェットを撃破していたところを見るに、部外者や新人には見えませんでしたが……」
後ろに立っていた長い茶髪を下ろした女、ディードに答えながらオットーは首を傾ける。そんな彼女らの耳元に甘ったるい声が響いた。
『妹かなにかと見間違えたんじゃな~い? ボーイッシュなのがウリのオットー君をあんなチビッ子と見間違えるなんて失礼な人。――まっ、あんなのは放っておいて、あなたたちは早く“陛下”を見つけ出してきて。六課と七課の隊員が何人か戻ってきているみたいだし、メガーヌ様に横取りされたくもないから』
「了解」
「すぐに向かいます」
オットーとディードはおおよその事情を察しながらそう答える。クアットロが技能を使って、彼に幻覚を見せたのだろうと。
あっさりしすぎていささか物足りないが、時間が迫っているのも事実だ。クアットロの言う通り、今は一刻も早く“聖王陛下”を手に入れないと。
そう思ったところで、二人とは別に施設に踏み込んでいたディエチから『聖王を捕まえた』との報告が入った。
◇
地上本部から脱出して、エリオとキャロは
だが、ふいに頭上がギラっと光り――
『Sonic move!』
バルディッシュが声を放った直後、フェイトさんはオレたちの頭上まで飛んでシールドを張り、セッテが放った桃色の砲撃を受け止める。
さらにその直後――
「はああああっ!」
フェイトさんに向かって威勢のいい掛け声を放ちながらトーレが飛んでくる。それを見たオレは――
「――ルーテシア、旋空王の操縦を頼む!」
そう叫びながらオレは旋空王から飛び降り、トーレと刃をぶつける。それを見て他の味方とともにフェイトさんは驚きに目を見張りながらも、眼下のエリオたちに向かって言った。
「エリオ、キャロ、先に行って! 私たちもすぐに追いかける」
「で、でも、フェイトさん!」
言いかけるキャロにフェイトさんは口調を強くして「行って!」と繰り返す。
それを見てエリオが「フリード」と呼びかけた。フリードリヒは躊躇う主とエリオを乗せて六課の方へ飛んでいく。ルーテシアも責めるような目をオレに向けてから旋空王とともに二人に続いた。
トーレとセッテは空戦型で、しかもセッテはアウトレンジから撃てる。自力で飛べない三人がいたらオレたちも思うように戦えない。
それにこんなところで飛び往生している暇はない。せめて、あいつらだけでも六課に向かってもらわないと。
「レツヤ、飛べたの? 陸戦魔導師って聞いてたけど」
「ええ……空戦の経験はありませんが飛ぶだけなら。お役に立てるかわかりませんがオレもここで戦います!」
フェイトさんに言い訳しながらオレは刀の柄に手をかける。それに対して向こうも……。
「三人逃がしてしまいましたか。私があの子たちを落としてきましょうか?」
「いや、あの子たち程度ならオットーたちでも十分対処できる。私たちはここでお嬢様とマセラティを足止めするぞ」
そう告げるトーレにセッテは頷きを返し、二本のブレードを構えた。
◇
同時刻、地上本部内部。
曲がり角に迫るや、ギンガはその場で跳び上がって壁を蹴って反動で前へ跳び、ブーツ底のローラーをさらに加速させて長い通路を駆け抜ける。
どんどん遠ざかっていく姉に向けてチンクが声を上げた。
「ギンガ! 先行しすぎだ。少し緩めろ!」
「ごめん! でも私なら大丈夫!」
名前呼びで注意するものの聞く耳持たず速度を上げるギンガに、チンクは唇を噛む。
そんな彼女を抱えながら飛んだ状態でなのはは零した。
「仕方ないね。こういう場所だとギンガが一番早い。――大丈夫、こっちも急ぐから!」
「はい!」
チンクはスティンガーを握りながら強くうなずく。
その後ろを走りながらティアナは『三人とも似た者姉妹ね』と胸中でつぶやく。もし危険に陥っているのがギンガでもあるいはチンクでも、他の二人は今のギンガたちと同じ行動を取るだろう。
そう思ったところで、ギンガは開けた場所に出て、そこで動きを止める。スバルを見つけたのか?
そう思った三人の前では……。
「っ――!」
それを見つけて、ギンガは大きく眼を見開く。
彼女の先に