魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第39話 襲撃のあと

『こちらは昨日(さくじつ)、テロ事件の被害を受けた時空管理局・ミッドチルダ地上本部です。施設の被害や負傷者の数、事件の詳細について未だ管理局側からの発表はありません。襲撃直後に犯人らしき人物からの犯行声明があった模様ですが、その内容は慎重な検討ののちに発表するとのことです。

 同じく同組織の襲撃を受けた『機動六課』は隊舎どころか寮まで焼け落とされ、待機所が一棟だけ残っている状態です。これを受けて管理局本局は機動六課を解散させるとの見方が強まっていますが、それについてはまだ何も言える状態ではないと管理局広報部はコメントして――』

 

――まさか管理局の施設が襲撃を受けるとは夢にも思わなかったな。

 

 機動六課の惨状にミカヤは眉を顰めながら腕を組み、弟分や彼の同僚たちの安否を案じるとともにそんな感想をこぼした。

 

 

 昨日、インターミドル・地区予選の決勝戦に出場するため、ミカヤも首都(クラナガン)に行っていた。

 しかし、管理局施設への襲撃事件の報が流れてすぐ試合は中止となり、選手や観客たちは避難してきた住民とともにしばらく会場内に籠もり、テロリストたちの退却の報が流れてから一時間ほどして警邏隊に先導される形で帰路についた。

 その翌日、インターミドルは男子大会女子大会ともに中止となった。それどころか、当面の間学校や一部の会社も閉鎖されて、リモート授業やリモートワークに移行しているぐらいだ。

 

――あれだけの事件が起きれば仕方ないかもしれないけど、初出場で都市本戦進出を決めたエレミアさんは残念だったろうな。私やヴィクターちゃんも不満じゃないと言えば嘘になるし。

 

 5年来の付き合いとなる好敵手や初めて大会に上がってきた新たなライバルへの同情と自らも抱いていた無念を思い出しながら、ミカヤはモニターに目を戻す。

 そこではわずかに撮れた犯人たちの画像が映っていた。どれも本部周囲に設置されたサーチャーが偶然捉えたもので、画質が粗くかなり見ずらい。

 が――。

 

「えっ……」

 

 一瞬映った“それ”を見て、ミカヤは思わず間の抜けた声を漏らす。

 本部から伸びた“黄色い光の道”の上を滑走する、ぴっちりしたボディースーツを纏った短く赤い髪の少女。それはミカヤがよく知る――。

 

「……ノーヴェちゃん?」

 

 二ヶ月前に首都で出会い友人となった少女を見て、大会に出られなくなった悔しさも忘れ、ミカヤはあぜんとその名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 ナンバーズとメガーヌたちの襲撃から翌日。

 ガジェットやナンバーズの攻撃に晒された機動六課の隊舎は見る影もなく焼け落ち、重傷を負った隊員たちは聖王医療院をはじめ首都にあるいくつかの病院で治療を受けており、軽傷だった者や戦闘を免れた者たちは、損壊した六課隊舎の現場検証に出たりナンバーズの逃亡先の洗い出しなどの捜査に出向いている。

 

 そんな中、俺たち七課と一部の六課メンバーは唯一無事なままの七課隊舎に集まっていた。

 今や事実上の“六課本部”となった隊舎で……。

 

 

「……これが、私の机…………」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 新しい部隊長席を見下ろしながら、部隊長(はやて)は呆然とつぶやく。

 それはダンボールにいくつかの備品を置いただけの簡素なもので、椅子なんてものは当然ない。さらに言えばここは隊長室でもなく、隊員たちの机が並ぶオフィスの隅っこだった。

 

「仕方ないでしょう。襲撃された地上本部はもちろん、本局も混乱しきってて新しい机くれなんて言える状況じゃないんですから。隊員用すら全然足りてないんです。しばらくそれで我慢してください」

 

「……そやな。本部を守れず、七課に居候している無能部隊長は机もらえるだけでもありがたいと思わなな……」

 

 そうつぶやくと、はやては新しいデスクの向こうに腰をおろし、はあっと溜息をつく。

 そんな彼女に同情しながらも……。

 

「……で、やっぱ俺もそこに座らなきゃ駄目か?」

 

「……」

 

 その問いかけに、部下や同僚たちはコクリと無情なうなずきを返す。

 はやての隣にはもう一つダンボールが置かれてあり、当分の間そこが俺の席になるらしい。

 いやまあ、地上本部や六課を守るどころか、現場に駆けつけることすらできなかった俺もはやてのことを言える立場じゃないけどさぁ。いざ、そこに座るとなったら言い訳ぐらいしたくなるぞ。

 そんな気持ちを持ちながら、俺も渋々ダンボールデスクの隣に座りこんだ。

 

(健斗君の隣の席なんて何年かぶりやな。これはこれでええかも)

 

 なぜか嬉しそうな笑みを漏らすはやてを見て、リインは面白くなさそうにわざとらしい咳払いをし、口を開いた。

 

「まあ、隊長たちの席はともかく、本部のことは真剣に考えないといけません。今はほとんどの隊員が外に出ていたり病院にいる状態なので何とかなっていますが、お世辞にもここは拠点に適してるとは言えません。指令室を作る余裕すらありませんし」

 

「そうなんだよなあ。他にも隊員たちの作業部屋や待機室とか色々必要だ。ここじゃ寝泊まりする場所すら満足にないしな」

 

 粗末なデスク(ダンボール)の向こうであぐらと腕を組みながら、俺も考え込む。そこではやてが声と手を上げた。

 

「それなら私に考えがある。クロノ君とレティ管理官も協力してくれるみたいやし、期待してええよ」

 

 その言葉に俺とリイン、他のみんなも期待と感心がこもった目を向ける。やはり、この齢で機動六課ほどの部隊を設立した手腕と人脈は伊達(だて)じゃない。ここでぎゅうぎゅう詰めになりながら捜査する羽目にはならずに済みそうだ。

 

「その件でこれから本局に行くつもりやけど、その前にちょっとだけ付き合ってもらえる? 健斗君とリイン、フェイトちゃんも」

 

 その呼称と表情で彼女が話したいことを察し、俺たちはうなずく。そしてはやては他の部下たちに顔を向けた。

 

「他のみんなは表で現場検証の手伝い。それが済んだら病院へ行って、入院してる子たちにさっき話した方針を伝えてきて!」

 

 後者の指示は隊員たちの休息や仲間への見舞いを兼ねてのものだろう。

 それを察しながら、若き部下たちは「はい!」と返事を返して部屋を出て行く。それを見送ってからはやては俺の手を引っ張りながら立ち上がってリインとフェイトの元へ歩き、二人とともに神妙な顔を俺に向けた。

 

「じゃあ聞かせてもらえる。昨日、健斗君がどうして本局に呼ばれたのかと、トーレって子が言った“人質”という言葉の意味について。口止めされて言えんかもしれんけど」

 

「いや、そんな暇なかったからか口止めされてはいない……が、正直聞かない方がいいかもしれんぞ」

 

 特にフェイトは、と胸中で付け足しながら彼女を見るも、当のフェイトははやて以上に険しい顔を向けて言った。

 

「健斗、私からもお願い。母さんと姉さん(アリシア)も関係しているんだよね」

 

 誤魔化しを許さない声色に、俺は半ば観念して首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、陸士108部隊の留置室にて……。

 

「な、なんだあんたら!? あたしを一体どうする気!」

 

 留置室に入ってきた局員たちを見て、セインは脚をばたつかせ檻の隅まで後ずさる。

 そんな彼女に108部隊の部隊長を務める白髪の壮年士官、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐は食事を載せたトレーを持ったまま呆れた顔で言った。

 

「人聞きの悪いことを言うな。朝食を届けに来てやっただけだ。昨日の夜から何も食ってねえだろう。後ろのシスターは付き添いだ」

 

 ゲンヤの紹介にシスター・シャッハはうなずき、看守が扉を開けるとともに、ゲンヤたちと一緒に留置室に足を踏み入れる。

 セインは不信感を露わに後ろに下がるが、硬い壁に遮られ、それ以上動くことはできなかった。手のどちらかでも使えれば《無機物潜行(ディープダイバー)》で抜け出せるのだが、拘束具で両腕をガチガチに固定されていて、それも叶わない。

 

――っていうか、こんな状態でどうやって食事しろっていうんだろう? まさか犬食い? フォークとスプーンはあるけど、こんな状態じゃそんなもの使えないし……。

 

 セインが疑問を覚えたところで、ゲンヤはシャッハと顔を見合わせ、彼女のうなずきを受けて看守にセインの片手を解放するように命じる。看守は戸惑うが、上官とシャッハの視線を受けて渋々セインに利き手を尋ねて、彼女の右腕を解放した。

 唖然とするセインにゲンヤは言った。

 

「食事を摂ってる間だけその腕を使っていい。ただし、変な事は考えるなよ。ここは3階だし、このシスターは……」

 

「私が使える魔法の中には、物質をすり抜ける移動魔法があります。あなたが後ろの壁や床をすり抜けて逃げようとしても、すぐに追いつけるでしょう。当然その後は、二度と自分の手を使って食事をするような真似はできなくなる。それが嫌なら……わかりますね?」

 

 悦を含んだ笑みを浮かべながら訊いてくるシャッハに、セインは顔を青くさせながらコクコク首を縦に振る。聖王教会は古代ベルカから伝わる不可思議な術や技能の使い手が多いと聞いている。はったりやでまかせではないだろう。

 そう思いながらセインはテーブルまで移動し、自由になった右手で少し遅めの朝食を開始した。

 それを見ながら……

 

「じゃあ後は頼みます。俺は執務室にいますので、何かあればいつでも呼んでください」

 

「はい。ナカジマ三佐もご無理はなさらず」

 

 娘がさらわれた事に加え、先の事件の対応に追われている自身を労うシスターに、ゲンヤは片手を上げながら背を向け、山積みの書類がある執務室に向かいながら……。

 今頃、家にいる女房や女房と対面している嬢ちゃんたちはどこまで話をしているんだろうな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ミッドチルダ西部・エルセア地区にある一軒家にて、一人の主婦と三人の士官たちが相対していた。

 

 

「ナカジマさん、スバルさんの事――本当に申し訳ありませんでした!」

 

 対面のソファに座る主婦に、なのはとヴィータ、シグナムは深々と頭を下げる。それに対して主婦は首を横に振り。

 

「いえ、局員になった以上、あの子も私たちも任務中の怪我や危険は覚悟していたつもりです。どうか顔を上げてください」

 

 その声に応じて、なのはとヴィータたちはおずおずと頭を上げる。

 彼女たちの前に座っているのは、腰まで届くほどの青紫色の髪をポニーテール状にまとめた妙齢の女性だった。顔立ちは娘たち、特にギンガによく似ている。

 

 彼女はクイント・ナカジマ。

 ゲンヤの妻にして、スバルとギンガとチンクの養母(・・)でもある女性だ。

 

「お聞きしたいことというのはやっぱり……スバルとギンガ、それとチンクの事でしょうか?」

 

 クイントの問いになのははうなずき、シグナムが口を開いた。

 

「我々も娘さんたちの事はひととおり把握しているつもりです。しかし、ナカジマ二士の救出と事件解決のために、あらためてお話を伺いたいと思って参りました。娘さんたちのことと『戦闘機人事件』、それとメガーヌ・アルピーノ氏についてもできるだけ詳しく」

 

 昔追っていた事件や死んだと思われていた親友の名前を聞いてクイントはふぅっと息をつき、手元にある緑茶を一口飲んでから言った。

 

「わかりました。……とはいえ、『戦闘機人事件』についておおよその事は上に報告しましたし、娘たちについても皆さんが知っている事ばかりだと思いますが……」

 

「構いません。スバルとヴィヴィオを助けるために、もう一度スバルたちについて聞かせていただけないでしょうか!」

 

――聞いた通り、素直ないい子ね。ただの部下や血の繋がりもない子供のために必死になれるなんて……あの子(スバル)が憧れるわけね。

 

 そんなことを思い、クイントは微笑を浮かべてから端正な口を開いた。

 

 

 

「もうご存じだと思いますが、私は8年前まで夫と同様管理局に勤めていて、首都防衛隊の第7小隊……『ゼスト隊』と呼ばれる部隊に所属していました。隊の異名のもとになったゼスト・グランガイツ隊長、学生時代からの友人メガーヌ・アルピーノとともに」

 

 最後に出てきた名を聞いて、なのはたちは眉を寄せる。

 スカリエッティの協力者で、本部の襲撃に乗じてレジアスを拉致しようとした召喚士――そして、ルーテシアの実の母親だ。

 

「当時、私たちは『戦闘機人事件』を追っていて、違法研究施設の制圧や試作機の捕獲にあたっていました。そして11年前のある日、制圧した施設の中から私に似た髪の色と顔立ちをした子たちを発見しました。その子たちが……」

 

「スバルとギンガ……ですね」

 

 重苦しい言葉で確認するなのはに、クイントはうなずく。

 

「はい。あの子たちを見た瞬間、この子たちがどのようにして生まれたのか、おおよそ察しがつきました。そして隊長の反対を押しのけて私の娘として、人間として育てることにしました。夫の同意を得ることと、定期的な検診を受けさせるという条件を付けられましたが。……幸い、夫はすぐに同意してくれて。時に優しく、時に厳しく、あの子たちを実の子のように大切にしてくれました」

 

 微笑みながらそう告げるクイントに、なのはたちも淡い笑みを返した。

 しかし、クイントが笑みを消すとともに話の流れが変わるのを察し、なのはたちも真剣な表情を向ける。

 

「二人を引き取ってから3年くらい経った後、あの子たちに物心がついた頃に、私たちの部隊は大規模な戦闘機人の製造施設(プラント)を発見しました。そこは今までにないぐらい大きな研究施設で、ゼスト隊長は首都防衛隊の代表、レジアス准将に報告し、捜査令状と他の部隊の協力を得て施設に踏み込む準備を整えようとしました。……しかし、それを伝える間もなく、レジアス准将は一方的に戦闘機人事件から手を引くように告げてその場を後にされました。そこで隊長、いえ、私たちはやむなく――」

 

「令状も他の部隊の助けも借りず、プラントに踏みこむことにしたってわけですか」

 

 ヴィータの問いにクイントはうなずく。

 レジアスが戦闘機人事件、もしくはその黒幕に関与している疑いは高くなった。昨日のメガーヌとのやり取りも含めれば、ほぼ確定的だろう。

 だが今はまだ、クイントにそれを話すのはまだ早い。

 

「予想通り、そこは戦闘機人を造るための機材や資材に溢れた違法工場でした。中には戦闘機人を入れるためのものとは別の生体ポットもありました。おそらく……」

 

 《人造魔導師》……なのはたちの脳裏にその単語がよぎる。

 未だに確証がないためかクイントはそれを口にせず、続きを話した。

 

「でも、そこに突然部下から魔法が効かない謎の兵器が現れたという報告が、さらに隊長のもとに10歳くらいの小さな女の子の姿をした敵が現れたという連絡が入ってきました。――そして私とメガーヌのまわりにもいつの間にか、鎌のような手足を持つ機械が――」

 

「――!」

 

 “鎌のような手足のガジェット”――それを聞いて、なのはとヴィータは大きく目を見張る。

 

 

 8年前、偶然かあるいは必然か、ゼスト隊が襲われた事件と同じ年。管理外世界の捜査中、クイントが言ったような機体がなのはとヴィータの前に現れて、彼女たちに向かって襲い掛かってきたのだ。

 『エグザミア事件』で出会ったキリエやイリス同様、魔力攻撃が通じにくい恐ろしい敵で――当時はAMFによるものだと気付かなかった――、少しでも油断していたら、もしくは疲労や負担が溜まっていたら、致命的な傷を負わされていたかもしれない。

 その機体は撃破後にすべて自爆してしまい、ろくに解析もできず“不明機”として処理されたが、ここで出てくるとは――。

 

 

「魔法が通じない機械相手に手も足も出ず、メガーヌは胸を貫かれた上に機械にさらわれてしまい、私も重傷を負って、彼女と同じ末路を辿るのだと覚悟しました。――しかし、そこに銀髪の女性、リインフォースさんが現れ、魔力を纏った腕を振るって機械を破壊していき、私は何とか一命を取り留めることが出来ました。……機械の方は破壊された直後に自爆してしまいましたが」

 

 私たちと戦ったやつと同じだ。そう胸中で呟きながら、なのはは「隊長の方は?」と問うが、クイントが口にした答えはなのはたちが知るとおりだった。

 

「御神君に助けてもらったと聞いています。私はあの後リインフォースさんにお礼も自己紹介もできないまますぐに倒れて……一週間後病院で目を覚まして、面会に来てくれた隊長と御神君たちと会って改めて自己紹介しあってプラントでのいきさつを教えてもらいました。ふふ……その時に御神君ったら……」

 

 クイントはこらえきれなくなったように口元に手を当て、笑い声を漏らす。

 なのはたちは首をかしげるが、シグナムがいち早く気付き、噴き出しながら言った。

 

「聞いた事があります。健斗、10年前に訓練校に留学していた時にスバルと会った事があるみたいですが、あいつ、それからずっとスバルのことを男だと思っていたらしくて、それをスバルに言ってすごく怒らせたって」

 

「ああ、あれか! 六課で再会した時もぎこちなくしていたな。逆にスバルの方はけろりと挨拶してたけど」

 

 思い返すヴィータに、なのはも相槌を打ちながら何度かうなずく。

 それを見てふふと笑みを漏らすクイントに気付き、なのはたちは慌てて居住まいを正す。そんな彼女たちにクイントは手を振りながら軽い口調で言った。

 

「気にしないで。スバルと仲よくしてくれてるのがわかってむしろ安心したわ。――ああごめんなさい。私こそ気安い口の利き方をして」

 

「いえ、私たちにとっては友達のお母さんで局員の先輩にもあたりますし、どうかそのまま話してください」

 

「そう。硬い口調で話すのも疲れてきたし、お言葉に甘えさせてもらうわね」

 

 なのはにそう答えて、クイントは口調とともに姿勢を和らげ、ともにお茶を一口飲みかわした。

 しばらくこの雰囲気を謳歌したいのはやまやまだが、スカリエッティ一味の追跡や次の襲撃への備えもしなければならない。シグナムは茶碗を一気に傾けてから口を開いた。

 

 

 

「それで、その後ですが……」

 

 シグナムの言葉にクイントもなのはたちも気を取り直し、クイントはことんと椀を置きながら答えた。

 

「ええ。プラントのことは上に報告したけれど、私たちが戦っている間に重要なものはあらかた持ち出されたか破壊された後みたいで、あの施設からは(・・・)何も見つからなかったらしいわ。唯一、収穫と言えるのは……」

 

「……“あいつ”ですね」

 

 ヴィータの問いにクイントはこくりと首を縦に振る。

 

「ええ。あのプラントで隊長を襲い、彼と駆けつけてきた御神君に敗れて捕まった女の子……チンク。彼女は地上本部で取り調べを受けた後、稼働して数年しか経ってないこととスカリエッティの洗脳下にあったことから更生の余地があると判断されて、海上にある隔離施設に収容されていた……本当の理由は他にあるかもしれないけどね」

 

「…………」

 

 最後の一言の意味を察して、なのはたちは神妙な面持ちになる。それに対しクイントは表情を変えずに続けた。

 

「私はいろいろ考えた後、その子……チンクもうちで引き取れないかと主人に話した。さすがに主人も難しい顔してたけど、スバルとギンガに姉妹を作ってあげたいってゴリ押しして何とか。――その勢いでチンクも口説き落として、釈放後うちの子になってもらったってわけ。そのあたりは御神君やスバルとかから聞いてるかしら?」

 

「ええ……まあ……」

 

 そこまで強引だと思いませんでしたけど。と内心で付け加えながらなのはたちは頷く。

 

「私が話せるのはここまで。怪我が治ってすぐ、チンクを引き取る前に局を辞めてね。詳しい情報は入ってこなくなった。わかっているのは戦闘機人事件もあのプラントの捜査もほとんど進んでいないってことぐらい。主人もこっそり調べたりはしてたようだけど、本格的な捜査はできなかったししなかったみたいね。たぶん、私と子供たちが巻き込まれないように考えてくれたんだろうけど」

 

 クイントは苦笑を浮かべ、そして再び真剣な顔に戻って言った。

 

「でも、チンクは罪滅ぼしと姉妹たちを助け出すために管理局――そして機動七課に入って、ギンガとスバルもあなたたちのいる機動六課に入り、戦闘機人が関係している事件と関わった」

 

「……すみません……」

 

 思わず謝るなのはにクイントは首を横に振りながら返事を返す。

 

「いえ、正直いつかこうなるんじゃないかと思っていたわ。――でも、そのうえでお願いします。どうかスバルを助けていただけないでしょうか。局員として送り出しておきながら勝手なこととは思いますが――」

 

 再び丁寧な口調になり頭を下げて頼み込むクイントに、なのはも顔を硬くして。

 

「いえ、私にとってもスバルは大事な教え子で友達です。必ずあの子を助け出して、クイントさんとゲンヤさんの元に送り返すと約束します。そのためにも、ギンガとチンクの力をお借りすることになりますが」

 

「――自慢の娘たちです。存分に使ってやってちょうだい! すべてが終わったら他のお友達やヴィヴィオって子といっしょに遊びにいらっしゃい。娘がお世話になってる先生や同僚たちをおもてなししたり色々お話したいと思っていたから」

 

 頼もしい笑みを浮かべながらそう告げてくれるクイントに、なのはとヴィータたちは強い頷きを返した。

 

 

 

 

 

 

「中将……やはり回線が変えられていて連絡が取れません。研究所ももぬけの空で使用された形跡すらなく――ひっ!」

 

 言い終わらないうちにレジアスが机を叩きつけ、初老の側近は短い悲鳴を上げる。

 それに対し、レジアスもまた心の中で叫び声をあげた。

 

――なぜだ! なぜこんな事になった!? これまで十分に重用してやったはずだ! 老人どもとは別に、戦闘機人計画への援助だってしてやった。――なのになぜ!?

 

「それと、先ほど委員会より連絡がありました。近日中に中将への緊急査問が行われるそうです。評議会もまったく動く様子を見せず……」

 

「あの老いぼれども、肝心な時に……」

 

 レジアスは言葉を詰まらせながら頭を抱える。

 

――肝心な時に役に立たない連中だ。まさか、このまま儂を切り捨てるつもりではあるまいな――。

 

「同時にアインヘリアルの運用も中止するようにと――」

馬鹿者!!

 

 再び机を叩く音とそれがかき消えるほどの怒鳴り声を浴びせられ、側近は思わず目と口を閉ざす。そんな彼にレジアスは再び怒声を吐き散らした。

 

「運用の中止などできるものか! AMFを使える機体が今もミッドのどこかにあるのだぞ! むしろ今こそアインヘリアルが必要な時だろうが! 査問など奴らを片付けた後にしろと伝えておけ!!」

 

「はっ! 申し訳ありません!!」

 

 側近は頭頂部が見えるほどまで頭を下げながら返事と謝罪を返す。その横でレジアスは机に立てかけていた硝子ペンを掴み、床に叩きつけた。それでも気が収まらず、レジアスはわめき続ける。

 

「あの男やジジイどもの掌で踊ってたまるか――動かしていたのは儂だ!! 歯向かう者は誰であろうと叩き潰す!」

 

 一通り周囲を荒らした後、レジアスは荒い息をつきながら腰を落とす。しかし、機嫌が直っていないのは明らかで、何かきっかけがあればまた暴れかねない有様だった。

 少しでも早く逃げたい気持ちを抑えながら……

 

「それと、中将に読んでいただきたいとの手紙が――」

 

 懸命に自身を奮い立たせながら、側近はレジアスに一枚の手紙を差し出す。それを見てレジアスは顔をしかめながら手紙を引っ掴んだ。

 

「なんだこれは? こんなものを読んでる暇など――!」

 

 紙を広げた瞬間、レジアスは言葉を引っ込め、目玉が飛び出しかねないほど大きく目を見開く。

 その手紙の文末には彼がよく知る者の名前が記されてあった。

 

 『ゼスト・グランガイツ』と……。




【次回予告】

 六課本部崩壊後、とある高級家具メーカーに『リリカル怪盗団』と名乗る集団から最高級の机と椅子をいただくという予告状が届いた。
 スカリエッティ一味の捜査と本部崩壊の事後処理のため六課は動けず、機動七課が現場に駆け付ける。
 そして予告の時間、突然店の明かりが消え――


【挿絵表示】


「あーはっはっはっ! 予告通り高そうな机と椅子を頂きに来たでー!!」

 リーダー格の怪盗は隠す気のない関西弁と高笑いを響かせる。さらにその横には……。


【挿絵表示】


「ええっと、お金は後で払いますから……それとこの服、おかしくないかな?」


【挿絵表示】


「ううん。そんなことないよ。とにかくそういうわけで、私たちも困ってるところなので余った机と家具を貰いますね!」

「何やってんだあいつら?」
「主……」

 現れた怪盗もどき達を見て、俺とリインは呆れの言葉を漏らし、部下(レツヤ)たちも半目で奇行を犯している上司たちを見上げる。

 こうして失ってしまった机と椅子を巡って、機動七課とリリカル怪盗団の戦いが幕を開けた。

この予告は全て嘘です。
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