魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
六課隊舎前ではやてとフェイトと落ち合い、彼女らと空々しい雑談をかわしたり、すれ違った六課隊員に挨拶したりしながら隊舎内を進むこと20分。
屋上のヘリポートについた俺たちの視界に、重厚そうな輸送ヘリの姿が飛び込んできた。
そのヘリの隣に黒髪緑眼の青年が立ち、さらにその隣に長い水色髪を垂らした妖精サイズの少女が浮かんでいた。どちらも俺と面識がある。
「あっ、アインス! 健斗さん! お久しぶりですー!!」
俺と
「ヴァイス君、もう準備できた?」
「はい、もういつでも出れます。御神さんもご一緒に行かれるんですか?」
顔の向きをわずかに傾けながら尋ねてくるヴァイスさんに俺はうなずきながら答える。
「ええ。うちの分隊の事も報告しないといけませんから。またお世話になります、ヴァイスさん」
そう挨拶するとヴァイスさんは敬礼を解いて手を横に振り……
「御神さん、俺に敬語は使わなくていいって言ったじゃないっスか。年は俺の方がいくらか上でも、階級は御神さんたちの方がずっと上なんですから。それに御神さんには個人的に大きな恩もありますし、丁寧にされるとかえって落ち着きません」
「そうか。じゃあいつも通り普通にしゃべらせてもらうよ。ところで、あの話考え直してくれたか? うちにも銃使いが入ったし、そいつに時々指導しに来てくれれば助かるんだが……」
俺がそう言った途端ヴァイスの笑みに影が差す。そして彼は申し訳なさそうに返事を返した。
「すみません。御神さんの頼みならって言いたいとこなんですが、俺はもう銃を取る気はありません。その分パイロットとしてしっかり働きますんで、輸送や移動の際はいつでも申し付けてください」
「……そうか、悪かった。だが気が変わったらいつでも言ってくれ」
「御神三佐、そろそろ出発したいんで勧誘の真似は後にしてもらえますか。ヴァイス君、すぐに準備して」
割りこむように指示を飛ばしてくるはやてに、ヴァイスは「はい」と答えながら操縦席に乗り込む。少しばかり重くなった空気の中、俺とはやて、フェイトもヘリに乗り込む。リイン姉妹はその後に続きながら顔を合わせていた。
《はやてちゃんと健斗さん、まだケンカしてるんですか……》
《部隊設立の時に色々あってな。じきに解決する。ツヴァイは気にしなくていい》
Ⓒ
「チンクさん。これはどこに置けば?」
荷物が入った段ボールを持ちあげながら尋ねると、チンクは器具を置きながらこちらを振り向いた。
「それは生活用具だからリビングのテーブルの上に置いておけばいい。ところでレツヤ、無理して私に敬語は使わなくていいぞ。階級はお前の方が上だし、急に口調を変えられるとかえって気分が悪い」
その言葉に気恥ずかしさを感じて、オレは頭を掻きながら答える。
「いや、さっきは何も知らずタメ口使っちまったけど、チンクの方が先輩みたいだし。まあチンクがいいならタメ口で喋らせてもらうよ。今年で6年目って聞いたけど、何歳の頃から管理局に勤めてたんだ?」
そう尋ねるとチンクはジトリとした目をオレに向けた。
「女性に年齢を聞くのは失礼だと教わらなかったのか?」
「あっ、ごめん」
オレは思わず謝る。それに対してチンクはいいというように首を横に振ってから言った。
「10歳だ。しばらくの間、こう――教育を受けてから局に入った」
「ルーテシアとほとんど同じ歳の頃からか。それなら納得できるな――って10歳!?」
オレのおうむ返しにチンクはこともなげに「ああ」と答える。
10歳から約6年勤めたってことは、チンクの今の歳は……。
「今は15。今年の誕生日を過ぎれば16歳になる。お前より3つか4つは年上だ」
オレの考えを読んだように、チンクは自分の年齢を明かしながら得意げに胸を反らす。
局員としてだけじゃなく年齢的にも先輩だったのか。しかし、それならなおさら三等陸士のままでいる理由がわからないな。問題を起こしそうには思えないが。
むしろこの手に関しては……。
「――あっ! こらルーテシア! 静かだと思ったらこんなところで寝て! おい起きろ!!」
隣の部屋を覗いた途端、居眠りしているルーテシアを見つけたらしくチンクの怒鳴り声が届く。ああいうところを見ると年上っぽい気はするな……。
Ⓒ
一方その頃、首都クラナガン。
ミッドチルダ地上本部・中央議事センター。
「捜索指定遺失物《ロストロギア》については、皆さんよくご存じのことと思います。様々な世界で生じたオーバーテクノロジーのうち、消滅した世界や古代文明を歴史に持つ世界において発見される、危険度の高い古代遺産」
フェイトとともにパネルの前に立ちながらはやては弁舌を振るう。彼女らの前には地上本部の幹部陣がテーブルについており、俺たちも彼らとともにはやての説明に耳を傾けていた。
「特に大規模な災害や事件を巻き起こす可能性のあるロストロギアは、『時空管理局』または『聖王教会』のような信頼できる機関によって正しい管理を行わなければならないものですが、盗掘や密輸による流通が絶えないのも確かです」
はやてがそこまで言ったところで幹部陣の中から一人の男が声を上げた。
「そんなこと、ここにいる者なら誰でも知っておる! 今さらそんな講義を聞いていられるほどワシらは暇ではない!! さっさと本題に入ってくれんか!」
そうまくしたててから男は苛立ちを示すようにぞんざいに腕を組む。
彼の名はレジアス・ゲイズ。本部長同様青色の士官服を着た中将で、その本部長を後輩に持っていることと発言力の大きさから、地上本部の実質的なトップと言われている。
彼に対し、はやては首を縦に振り。
「失礼しました。ではそろそろ、我々『機動六課』の設立理由についてお話させていただきます。その理由の一つが第一種捜索指定ロストロギア――通称《レリック》です」
はやてが《レリック》という名称を口にした瞬間、背後のパネルに“台座に載った赤い宝石”が映し出される。それほど危険なものに見えないが……。
そんな感想を抱きながら怪訝そうに眉を顰める幹部らに対し、今度はフェイトが口を開く。
「この《レリック》、外観はただの赤い宝石ですが、古代文明時代に何らかの目的で作成された超高エネルギー結晶体であることが判明しています。レリックは過去に四度発見され、そのうち三度は周辺を巻き込む大規模な災害を起こしています」
フェイトの説明をなぞるように、レリックが引き起こした爆発や火災がパネルに映し出され、幹部たちがどよめく。まさかの光景にレジアスも目を見張った。
「そして、そのうち二件では研究所のような施設が発見されています。極めて高度な“魔力エネルギー研究施設”です。発見されたのはいずれも未開の世界。こういった施設の建造は許可されていない地区で、災害発生直後にまるで
悪意ある、少なくとも法や人々の平穏を守る気のない何者かがレリックを収集し、運用しようとしている――『広域次元犯罪』の可能性が高いのです!」
『次元犯罪』、その言葉を聞いて幹部陣はまたうなる。しかし、ある幹部がはっとしながら声を上げた。
「待ちたまえ。未開の世界――『管理外世界』で起きたロストロギア事件なら、君たち『次元航行部隊』が解決すべき事案じゃないのかね? なぜ我々『地上部隊』が次元部隊や六課とやらに力を貸さねばならんのだ?」
「――そうだ! 管理外世界や次元内で起きた事件は“海”の人間が片づけるべき事のはずだろう! 何ゆえ地上に拠点を置き、地上の部隊から人員を取り上げて新たに部隊なんぞ作る必要がある!? これまで我々から人員を絞り上げておいて、まだ足りんとぬかすつもりか!!」
ここにきて持ち上がった異論に乗じてレジアスも再び声を荒げる。その勢いにびくりと肩を震わせたフェイトをかばうようにはやてが再び口を開いた。
「先ほど申しあげたとおり、レリックが発見されたのはほとんど管理外世界や観測指定世界です。しかし一つだけミッドチルダに持ち込まれたと思われるものがあり、そのレリックが原因と思われる火災で北部の空港が丸々一つ全焼してしまう“事故”が起きてしまいました。その火災の記録は地上本部にも届いているはずです」
「後で確認しよう……ということはつまり、ミッドチルダに眠っているレリックが他にもあるかもしれんと言いたいのか?」
落ち着きを取り戻しながら尋ねるレジアスにはやてはうなずく。
「あるいはこれからミッドチルダに流れ込もうとしているのか……。もしも、レリックによる災害が再びミッドチルダで起きるかもしれないとすれば、地上部隊の皆さんにとっても座視できるものではないと思いますが」
「むっ……」
はやての言葉にレジアスは顔を険しくし、腕を組みながら考え込む。だがふと気付いたように再び顔を上げた。
「いや待て。だったら我々地上部隊がミッドチルダにあるレリックの回収にあたれば済む事ではないのか。貴様ら六課に地上の施設と人員を貸し出す理由にはなっておらんぞ!」
「……っ」
レジアスの問いに、はやては図星を突かれたように顔を歪ませる。レリック事件を解決したいのは本当なんだが、あくまで
……そろそろ“こちら”も動くか。
「中将、そちらについては私から説明させていただきたいのですが、発言の許可をいただけないでしょうか」
「貴様は……」
俺が手を挙げた途端、レジアスの視線がこちらに移る。レジアスは険しい表情を崩さないまま、言葉を投げかけてきた。
「許可する……言ってみたまえ」
「ありがとうございます」
礼を言いながら俺は立ち上がり、リインも腰を上げる。
「八神二佐が先ほど報告した通り、レリックは他の次元世界――次元航行部隊の管轄下で発見されたロストロギアです。本来なら次元部隊が対処にあたるのが筋でしょう。しかし『管理世界』……ミッドチルダでもレリック事件が起きてしまった以上、次元部隊がすべてを取り仕切るわけにはいきません。管理世界の治安維持は地上部隊に一任されているからです。それは長年地上の平和維持に努めてきた中将と本部長殿が一番ご存じかと」
「う、うむ……」
「……」
レジアスは口から肯定の声を漏らし、彼に同調するように本部長もうなずく。それを突くように俺は話を続けた。
「となれば、地上部隊と次元部隊……“陸”と“海”が合同で捜査もしくは対策本部を立ち上げ、レリックの確保と事件の解決にあたるべきなのですが、地上部隊に比べ次元部隊は予算も人員の質も
「むっ……」
次元部隊の潤沢ぶりを揶揄する発言を含んだことで、今度ははやてが非難めいた視線を向けてくる。それをあえて無視しながら説明を続ける。
「それでも結果的にレリック事件の解決とミッドチルダの平和を守る事につながるのなら……と言いたいところですが、地上で活動するにあたって地上部隊と地上の局員たちの意見を軽視するべきではないと考えています。――その“妥協点”として我々が立ち上げたのが『機動六課』です。本局に所属しつつ、陸士部隊として地上本部の管轄下にもある部隊。その立場から事件の解決と合わせて、“陸”と“海”の橋渡しも行っていくのが我々の本当の役目だと考えています」
そこまで説明して、幹部陣は納得したように首肯する。そこで配布された六課の組織図に目を通していた幹部が顔を上げた。
「なるほど……では、六課内に存在する『独立遊撃分隊』とは何だね? 他の分隊と比べても本隊と距離を置きすぎているし、高ランクの魔導師が多すぎると思うのだが」
「はい。『独立遊撃分隊』とは私が指揮を執る、六課の任務を背後から支援する後方部隊です。初期の部隊案ではAAランクの隊長格四人とB・Cランク隊員数人を前線に先行させ、部隊長自ら指揮する『ロングアーチ』が各種支援を務めるという方針でしたが、それだけでは万が一の有事への対応が困難だと考え、高ランク魔導師数名からなる支援部隊を加えることを提案しました。部隊の性質上、本隊員と距離を縮めすぎれば互いの作戦行動に支障が出ると考え、あえて本隊から離れて活動する形をとっています。本隊員と当部隊員の力量に開きがありすぎるため、訓練カリキュラムを分ける必要があるというのも理由の一つですが」
その説明に幹部は「ふむ」と言いながら顎に手をやる。そこで俺は人差し指を宙に向けて……。
「それともう一つ、機動六課が万が一にも誤った行動をとらないよう内部から監視するための組織、という意味合いもあります」
「――なに!?」
「……」
俺が付け足した一言に幹部たちはどよめき、はやてとフェイトも険しい視線を向けてくる。それらを受け止めながら俺は続けた。
「お恥ずかしい話ですが、機動六課は“自浄作用”と呼べるものが働きにくいと言わざるを得ません。六課の幹部でもある隊長陣は部隊長の個人的な友人ばかりで、身内びいきが過ぎる傾向にあります。監査役を務めているクロノ・ハラオウン提督も次元外への航行任務に就いていて、六課を監督できる状況にありません。そこで私は、六課に所属しつつも指揮系統から外れ、本隊とは異なる方針で活動する『分隊』を立ち上げました。それゆえに我々『分隊』は六課から外れた部隊――『機動七課』とも呼ばれています。もしもの時、我々『機動七課』は六課から離れ、六課の暴走を止めるべく動くつもりです」
「し、しかし、それを言うなら君も八神部隊長の友人ではないかね? 同じ世界の出身と聞いたが。それに君一人に部隊長たちを抑えるほどの力があるのか? 分隊だか七課とて、君が指揮権を奪われてしまったら――」
「八神部隊長にその権限はありません。私から指揮権を剝奪するには分隊の後見人となっているティーダ・ランスター上席執務官、レティ・ロウラン人事管理官――そしてレジアス・ゲイズ中将から許可を取る必要があります」
最後にあげた名を聞いた瞬間、本部長を含め幹部陣が驚きの目を彼に向ける。レジアスは居心地悪そうにごほんと咳ばらいをしながらうなずいた。
「以前中将と面会した際、六課本隊の監査と支援を担う組織の必要性を訴えた結果、快く分隊の後見人を引き受けてくださいました。その恩を忘れて癒着に加担するほど愚かなつもりはありません。万が一それを違えた時、私と副隊長のリインフォース二等空尉は退職金を放棄したうえで辞職する腹積もりです」
そこまで言うと幹部陣は一様に押し黙る。若くして退職の覚悟を見せたこともそうだが、実質的なトップであるレジアスが認可したとあっては、彼らも認めざるを得なかった。
「『分隊』については以上です。長々と失礼しました。八神部隊長、続きをどうぞ」
「――あ、はい! では、レリックの収集に“何者か”が使用していると思われる魔導機械《ガジェットドローン》についてですが――」
◆
「いやー、噂には聞いたけど、まさか本当にレジアス中将を後見人にしとったとはなあ。ここにきてから一段と面の皮が厚くなってきたみたいやないか」
会議が終わって一息つくなり、はやてはにやけながら友人としての口調で言葉をかけてくる。俺は紙コップ入りのコーヒーをあおってからそれに答えた。
「会議で言った通り、六課を監督する組織の必要性をあの人に訴えただけだよ。まさか中将自身が後見人になってくれるとは思わなかったけど……“昔の恩”をまだ覚えてくれてるのかな」
「恩って、もしかして8年前の事? 中将の友達を助けたっていう……」
フェイトの問いに俺は「多分な」と言いながらうなずく。
七課の設立はその8年前の件が大きく関わっている。あれがなければチンクやルーテシアが局に入ることはなく、七課自体設立できなかっただろう。
「まあええわ。六課の中に変な部隊作ったうえに中将側についたって聞いて頭にきてたけど、今日のあれ見たらスカッとしたわ。――ねえ、久しぶりにみんなで食事行かへん? 上司としておごってあげるよ!」
鞄を持ち上げながらそう言ってくるはやてだったが……
「すまないが、俺たちはすぐ隊舎に戻らなければならない。あいつらがまじめに荷物整理をしてるか見なきゃならないんでな。それに六課を設立するためにお前たちが使った手段に関してはまだ納得したわけじゃない。“預言”の件があるとはいえ、あまりに強引すぎるからな。これ以上独走しないように俺たちは目を光らせてもらう」
そう言うとはやてはたちまち顔を膨らませ――
「ああそうですか! 御神三佐とリインフォース二尉はこれからも六課の監視と七課の切り盛り頑張ってください! いこツヴァイ、フェイトちゃん!」
ぷんぷん肩を怒らせながらはやては外へ向かう。フェイトは「またね」と片手をあげながら彼女の後を追い、ツヴァイも主の名を呼びながら飛んでいった。
リインは寂しげな顔で彼女たちを見送る。そんな彼女に……
「すまないな、主と敵対させることになっちまって。こっちも仲良くしたいのはやまやまなんだが……」
「いや、これも我が主には必要な事だと思う。――帰りましょう、御神隊長。私たちの新しい家に」
リインの言葉に「ああ」と返しながら、俺たちも地上本部を後にした。……あんな雰囲気ではやてと一緒に帰るわけにはいかないし、タクシーを拾うしかないな。
Ⓒ
「ふぅ……」
一日がかりで隊舎内の整理を終え、それを帰ってきた隊長と副隊長に確認してもらい、さらにその後夕食と風呂を済ませてから、オレは隊舎内の部屋で一息つく。
今日は何回も驚かされる日だったな。
そう思ったところでおもむろに端末から電子音が鳴った。端末に表示されてる名前は……。
「はい」
『レツヤ、新しい部隊での初仕事ご苦労。いきなり異動を命じられて災難だったようだな』
「父さん……」
端末に耳を当てた途端、渋みのある声が鼓膜に届いてくる。約一年ぶりに聞く父の声だ。
「なんでもう異動した事を知ってんだよ? ミカ姉に聞いたわけじゃないんだろう?」
『地上本部に元同僚や後輩がいるんでな、彼らが知らせてくれた。華やかな首都から一転、辺鄙なところに送られてしまったらしいじゃないか』
「大きなお世話だよ。これから寝ようって時に、そんな事を言いにかけてきたのか?」
そう問いただすと、端末の向こうから深そうな溜め息を吐き出す音が漏れてきて……。
『……レツヤ、中等科か高等科に進学すると約束するのならいつでも帰ってきて構わないぞ。家庭教師にみっちり仕込んでもらえば一年程度の遅れで済むだろう。その後は私のように政治家の道を進むなり、どこかの企業に勤めるなり、なんなら『天瞳』を継ぐという道もある。管理局に拘る必要はないはずだが』
「ほっといてくれ! オレは管理局の陸士として、クラナガンの平和を守るって決めたんだ! 少なくとも政治家なんかになるつもりはない!」
声を大にして言い切った途端、端末からふっと笑いが聞こえてきた。
『そうか。私たちはもう貴族でも王族でもない。私や義父さんの後を継がないというならそれもいいだろう。――ただし心しておけ。お前が新しく配属された部隊や『機動六課』はただの新設部隊ではなさそうだ。なんでも、《レリック》というロストロギアがらみの事件に対処するために作られたらしい』
「はっ? ロストロギア? だからなんであんたがそんなことまで知って――」
『忠告は以上だ。もう夜も遅い。寝不足のせいで訓練中に大怪我するような不始末はしでかすなよ』
それだけ言い残すとピッという音ともに通信が切れる。ドラマみたいに『待てよ』と言う暇すらなかった。相変わらず一方的な親父だ。
「おっす。邪魔だったか?」
部屋のドアが開き、端末を持ったままのオレを見て御神隊長はそう尋ねる。オレは端末を机に置きながら――
「いえ、ちょうど今終わったところっすから。でもまさか隊長と同室とは思いませんでした。オレはともかく隊長なら個室を使うもんだとばかり」
「そうしようと思えばできるんだが、女子たちが三人部屋で俺たちだけ個室ってのもな。そんな配慮しなくていいなら、リインと同じ部屋にするとこなんだが」
隊長は残念そうにため息を吐く。そんな彼に内心呆れながら……
「副隊長って隊長の彼女なんですか? やけに親密でしたし、副隊長指輪なんてつけてましたし」
「わかるか。見ての通り相思相愛だから、お前が惚れても無駄だ。アタックするなら別の女にしとけ」
惚れねえよ。年上は対象じゃねえし。
自慢げな笑みを浮かべながらのたまう隊長にジト目を向けながら突っ込みを入れる。そこでまた彼の色違いの瞳が目に映った。こうしてみるとやっぱり似てるよな。
「隊長って歳いくつでしたっけ? 入局して結構長いんでしょ」
「今は18。二ヶ月後の誕生日で19になる。局員歴は嘱託時代も入れれば十年になるな」
隊長も8か9で入局したのかよ。もしかして六課ではこれが普通なのか?
だが、やっぱり『あの人』と隊長は別人だ。6年前は隊長もまだ12か13。『あの人』はどう見ても20かそれ近くだった。なにより髪と右目の色が違うじゃないか。何考えてるんだオレは。
「それはそうと、部屋の中でくらい“隊長”はよせ。仕事してる気分に戻っちまう。車の中のように“御神さん”でいいよ。なんなら呼び捨てやタメ口でも構わないぞ」
「いや、それはさすがに遠慮しときますよ。じゃあお言葉に甘えて“御神さん”って呼ぶことにします」
「おう。部屋の中でくらい上下関係はなしだ。目の前でグラビア見ても全然かまわねえぜ。何なら今度の休み買ってきてやろうか?」
その下世話な申し出に「いいっすよ」と首を横に振る。
それからもしばらく馬鹿話を続けてからオレと御神さんは床につき、転属一日目は終わりを告げた。