魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
地上本部および機動六課襲撃から四日後、9月16日。
この日、クラナガンの上空には、ところどころ古びた箇所が窺える旧式の次元船が浮かんでいた。
その次元船に『機動六課』と独立分隊こと『七課』の面々が集まっている。
この船――『アースラ』が“六課と七課の新本部”になるらしい。
「あっ、みんなお揃いやな」
療養中のヴァイスさんに代わってヘリパイロットになったアルトさんと、モニター越しに操縦室にいるルキノさんと話していたところで、ブリーフィングルームにはやてさんの声が響き、オレたちは姿勢を正す。
そんなオレたちを「楽にしてええよ」と制しながら歩を進めるはやてさんの後ろには、副官のグリフィスさんと七課代表の御神さんとリインさんが続く。
そしてさらに後ろを歩く私服姿の人物を見て、オレたちフィルダーはあっと驚きの声を上げた。
「紹介するな。わけあって嘱託魔導師として協力してくれることになった――」
手を向けて紹介するはやてさんの言葉を継ぐように“彼女”は高い声を響かせた。
「ミカヤ・シェベルです! 八神部隊長と御神隊長にお願いして、今日から皆さんのお手伝いをさせていただくことになりました!」
唖然とするオレたちを前に、ミカ姉は笑みを浮かべながら敬礼のポーズをする。そんな彼女の隣で御神さんはごほんと咳払いをして言った。
「フィルダーは知ってると思うが、シェベルはインターミドルなどの大会で好成績を収めているほど優秀な魔導師で、一度我々と共闘したこともあり戦力として申し分ない。それを踏まえて嘱託魔導師として協力してもらうことになった。どうかよろしくしてやってくれ」
その言葉に、
グリフィスさんはその後ろに立ち、オレたちを見渡してから告げた。
「先日の襲撃事件と実質的な総指揮官だったゲイズ中将の指揮権剥奪を受けて、地上本部をはじめ首都の部隊は混乱の渦中にあります。もちろん、事件の捜査も対策もまったく行えていません――にもかかわらず、地上本部はいまだ地上部隊だけでの事件調査の継続を強硬に主張し、本局の介入を硬く拒んでいます」
その報告を耳にして、何人かがげんなりした顔を浮かべた。この状況でまだ縄張り争いなんかしてる場合かよ。それとも、まだ本局に隠したいことがあるのか。
オレたち同様、グリフィスさんも疑念と憤りが入り混じった顔を浮かべながらも、一度咳払いをして続ける。
「よって、本局からの戦力投入はまだ行われません。同様に本局所属である機動六課にも捜査情報はいまだ公開されていません……ですが」
そこでグリフィスさんは一番手前の席に座る御神さんに目を向ける。御神さんはうなずき口を開いた。
「地上部隊の士官で、まだ
吐き捨てるように言いながら御神さんは虚空に指を置く。すると机の上に巨大な魔導砲が映ったモニターが浮かび上がった。
「
そう言って、御神さんは腕を組むそぶりを見せる。
あの
首をひねりかけたところで、八神さんが「そやけどな」と言った。
「私たちが追うのは、テロ事件でもその主犯格としてのジェイル・スカリエッティでもない。――ミッド各地に運び込まれ今もどこかで眠っている《ロストロギア・レリック》。その捜査線上にスカリエッティとその一味がおるだけ……そういう方向で行くつもりや」
その説明に隊長陣、特に御神さんの顔が渋くなる。事件に踏み込む理屈としてはかなり厳しいのだろう。それを理解した上ではやてさんは続ける。
「で、その過程において誘拐されたスバル・ナカジマ二士と、なのは隊長とフェイト隊長の保護児童ヴィヴィオを捜索・救出するという線で動いていく……なにか意見や質問は?」
はやてさんが尋ねた瞬間、ルーテシアが右手を上げた。はやてさんはどうぞと頷き、彼女の発言を促した。
「この前、本部を襲撃してきたセインって戦闘機人を捕まえたけど、ヴィヴィオをさらった理由やスカリエッティの居場所とか聞き出せていないんですか? それにあの人は今どこに……」
その問いにはやてさんはちらりと御神さんと視線をかわし、小さくため息をついて答えた。
「セインはまだ何もしゃべってくれん。本当はもう少し厳しく取り調べるべきなんやろうけど、あの子の預かり先にそれを求めるんは難しい」
「預かり先? どこですそこは?」
疑念のこもった声で聞き返すチンクを見て、はやてさんは頬を引きつらせるもそれを抑えながら告げた。
「聖王教会や。ちょっと“事情”があって、今の地上本部に引き渡すわけにも108隊に預けたままにしておくわけにもいかなくてな。事件が一区切りつくまでの間、教会に預かってもらうことにした。不満か?」
「いえ、ただ気になったもので」
はやてさんに訊き返され、チンクは首を振りながら返事を返す。そこへなのはさんが言葉を挟んできた。
「教会に預けるのは私も賛成だけど……はやてちゃんまた無茶してない?」
「ええ。地上本部にバレたら今度こそ査問は免れません。今の六課は査問どころか査察一つ受けただけでまったく身動きが取れなくなる状態です。その間をスカリエッティたちに突かれたら――」
厳しい口調で問いかける御神さんに、はやてさんは眉根を寄せながらも笑みを浮かべ……
「後見人の皆さんの了承と協力はちゃんと固めてあるよ。大丈夫。――なにより、こんな時のための機動六課と機動七課や。ここで動けな、本局や地上本部を離れた意味も部隊を起こした意味もない――違いますか、御神隊長?」
「いえ、その通りです……こちらも異存ありません。お前たちもそれでいいな?」
顔を向ける御神さんに、オレたちは頷きを返す。それを確かめながらはやてさんは席から立ち上がった。
「ほんなら、捜査出動は本日午後の予定や。訓練するなとは言わんけど体をほぐす程度にすませて、万全な体制で出動命令を待っててな」
「――はいっ!」
オレたちの返事に頷いてから、はやてさんは席を離れグリフィスさんとともに会議室を後にする。
そこで御神さんはオレたちの方に近づいて言った。
「俺とリインはこれから野暮用で外に出てくる。できれば空戦訓練の仕上げをさせてやりたいところだが……」
「大丈夫です! 落葉が作ってくれた
待機型の落葉を握りながら言うと、御神さんは拍子抜けたように「そうか」と返しオレの隣に顔を向けた。
「チンク、ギンガはまだ“あっち”か?」
その問いにチンクははいと頷きながら答えた。
「本局でマリエルさんたちの検診を受けています。シャマルさんはヴィータさんの治療にかかりきりですし、あの人でも戦闘機人を診ることはできませんから。――でも、午後にはこちらに戻れそうだと言ってました!」
その言葉に御神さんは「そうか」とうなずき、リインさんに「行くぞ」と声をかけながら会議室を出て行く。
オレたちも各々、最後の戦いに向けての調整を始めた。
◇
首都郊外にある共同墓地。
その近くに一台の車が止まり、その中から一組の親子と局員が下りてきた。
青い局員服を着た地上部隊の要人
レジアスは白い花束を手にしながら……
「オーリス、お前はそいつとともに向こうに戻っておれ。儂は奴と話をしてくる」
「いえ、私も同行させていただきます。中将の補佐役はまだ解かれていませんから」
言いながらオーリスは顔を硬くし、上官の口から飛んでくるだろう叱責に備える。しかし……。
「相変わらず
昔を懐かしむようにレジアスは苦笑し、それ以上は言わず墓地に向けて足を進める。オーリスは“父”に続いて墓地に向かい、桃色髪の局員もおそるおそるといった足取りで二人についていった。
百以上も並ぶ墓石の一番奥に鎮座している墓の前に短い茶髪の男が膝を落とし、祈るように目を閉じていた。
レジアスたちが近づいた途端、男は目を開き、すくっと立ち上がる。
そして、幾分か険のこもった眼を二人にぶつけた。
それを前にオーリスはびくりと肩をすくめる。片や、レジアスは刺すような眼光を平然と受け流し、彼の目前まで足を進めた。ここで本当に体を刺し貫かれても文句はないと言わんばかりに。
そして……
「儂もよいか?」
短い問いとともに花束を持ち上げるレジアスに男はこくりと首を振り、墓の前を空ける。
入れ替わりにレジアスは墓の前に膝をつきながら花束を置き、静かに目を閉じる。その後ろでオーリスも直立したまま目を閉じて、両手を組んだ。
そうして二分ほど過ぎた頃、レジアスも立ち上がり男の方に体を向けた。その後ろでオーリスと女局員も彼と対峙する。
「……久しぶりだな、ゼスト」
「ああ、あれからもう8年になる」
レジアスの言葉に茶髪の男――ゼストは短く言葉を返す。
ゼスト・グランガイツ。
8年前まで首都防衛隊に所属していた士官で、レジアスの部下であり、それ以上に親友と呼べる関係だった男だ。
レジアスは三数えるほどの間を空けてから、再び口を開いた。
「あれからどうしている? アルピーノの娘を引き取り、警備会社に勤めていると聞いたが……」
自らの
「お前が今言ったとおりだ。北部の『イーグレット・セキュリティサービス』という会社で警備員の真似事をしながら、アルピーノの娘ルーテシアと暮らしている……もっとも、あの子が入局して以来また独り身に戻ったがな」
そう呟いてゼストはオーリスに目を向ける。彼女もルーテシア同様、父の反対を押し切って管理局に入った口だ。
それを思い出してばつが悪そうに目をそらしかける彼女を前に……
「オーリスを副官にしたようだな。入局させるかどうかでさんざん揉めておいて」
「儂の意見など突っぱねて勝手に士官学校に入りおってな。入学試験をほぼ満点で合格し、そのまま首席で卒業したとなれば“陸”も“海”も放っておかん。あるいは儂への人質として評議会が……。それなら儂が直接手綱を握っておいた方がいいと思ったまでだ。部下の中にオーリスほど優秀な奴がおらんというのも理由の一つではあるがな」
そう言ってレジアスはため息をつく。娘に危険な立場に就いてほしくなかったのは確かだ。だがその一方で、オーリスはこの上なく優秀かつ、最も信頼できる片腕にもなってくれた。
「……なぜ、今まで連絡を寄こさなかった?」
「…………」
神妙な顔で問うレジアスに、ゼストは重い沈黙を返す。そんな“親友”にレジアスは言葉を重ねた。
「あの時から儂は、お前に話す時を待っておった。あの
そこまで言ってレジアスは唇を嚙む。
ゼストの怒りもわかる。しかし、まさか詫びる機会さえもらえず、自身の前から消えるとまでは思っていなかった。
無論、会おうと思えば自分から会いに行くことなど容易にできる。しかし、その先のことを想像した途端、恐ろしくなってダイヤルを押すことすらできなくなってしまった。
痛恨の表情で積年の思いを吐き出す年長の親友に対し、ゼストは先ほどまでと変わらない不愛想な顔で――
「すまんな……あの件以来、俺やナカジマ、他に生き残った部下たちのそばに怪しい奴らが張り付いていたことに気付いてな。下手に接触すれば俺や部下たち、そしてお前やオーリスにも危険が及ぶと思った。――だが今、最高評議会はお前を見放し、本性を現し始めたスカリエッティや“新たな手駒になるかもしれん彼”にしか関心を向けていないようだ」
「…………」
その言葉を受け、レジアスは悔しげに顔を伏せる。
そんな彼を見てゼストはわずかほどの憐憫を覚えるが、それを押し込めて懐に手を入れた。
それを見てオーリスは目を見張り、父をかばおうとする。だが、レジアスは腕を伸ばして娘を制した。
そんな二人にゼストが投げつけてきたのは二枚の写真だった。
一枚は自らが率いていた『ゼスト隊』の面々が写る写真。その中には陸士服を着たメガーヌとクイントもいる。
そしてもう一枚はレジアスとゼストが隣り合って写っている写真だった。どちらとも、ある任務を解決した記念としてレジアスとゼスト隊が居合わせた時に撮ったものだ。
「――だから今、この場で聞きたい。8年前、あのプラントに踏み込んだ俺と俺の部下たちが襲われたのは――お前がスカリエッティに指示したからか?」
「…………」
レジアスは答えられず、視線を落とす。ゼストは“友”に訴えかけるように――
「今の地上は、地上部隊の姿は、お前が『理想』としていた姿なのか? ――あの頃、俺とお前が語り合った『正義』は、今はどうなっている?」
彼の
その際に唇が切れ、そこから漏れた鉄の味が口の中に広がった。