魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第42話 それぞれの『正義』

 かつて、この世界(ミッドチルダ)とそこに暮らす人々の平和を守ろうとした二人の男がいた。

 

 一人はミッドチルダの現状を憂い、中等科を卒業してすぐ管理局の士官学校に入り、非魔導師ながら『地上部隊』の士官として類稀な指揮能力と指導力を発揮していたレジアス・ゲイズ。

 もう一人は“古代ベルカの騎士”としての力を世と人々のために活かすべく、ベルカ自治領と代々仕えた主『セヴィル家』の元を離れて時空管理局に入り、レジアス同様『地上部隊』に配属されたゼスト・グランガイツ。

 

 二人は住民の救助や犯罪者の捕縛などの任務を通して出会い、いまだ犯罪やテロが絶えないミッドチルダや地上部隊の現状に対する憤りをぶつけあううちに意気投合し、十近くの齢の差と階級差がありながら互いに親友と認め合い、ともにミッドの平和を守るために力を合わせていこうと誓い合った。――この二人の他にもう一人、ゼストと同期だった地上士官ダイレル・クライスラーがいたのだが、彼についてはまだ伏せさせてもらおう――

 

 しかし……。

 

 

 

 

 

「地上を守るには……地上部隊にはもっと“力”が必要だった。次元航行部隊に比べ、地上部隊は人員も戦力も予算も何もかもが足りん。そのうえ、ある程度力を身につけた魔導師のほとんどは“海”(次元部隊)に引き抜かれていってしまう……どんな手を使っても、“海”や本局の手のおよばない“力”を手に入れる必要があった。

 そう考えていた矢先に“奴ら”から連絡が届いてきた。地上本部と本局よりも上――管理局のトップに立つ『最高評議会』からな……」

 

 鋭い目つきを向けるゼストに対し、レジアスは話を続ける。

 

「奴らは儂の昇進と地上部隊の地位向上と引き換えに、スカリエッティという違法研究者の橋渡しを指示してきた。本局の設備を通して何度も直接連絡を取れば、評議会とスカリエッティの関係に気付く者も現れるかもしれんからな。それに《生命操作技術》を用いて戦力の増強を目論んでいたという点で、評議会と儂の目的は合致していた。スカリエッティが造っていた『戦闘機人』と『人造魔導師』は、新たな戦力としてうってつけだった……。儂は考え抜いた末に評議会の誘いに乗り、奴らの指示と儂自身の判断でスカリエッティの研究と開発を支援していた。

 そして戦闘機人と人造魔導師の製造ノウハウが出来上がった頃を見計らって奴らを捕らえ、評議会の弱みをも掴み、従えるつもりでいた……」

 

 それによって、地上本部は本局を凌ぐ“力”を手にすることができる……はずだった。

 苦虫を嚙み潰したような表情でそう付け足すレジアスの姿を、オーリスも心苦しそうに胸を押さえながら見つめる。

 

「だから俺たちに戦闘機人事件から手を引けと言ったのか。そしてそれに逆らい、製造場(プラント)に踏み込んだ俺と部下たちを――」

 

「――っ!」

 

 その言葉を聞いてレジアスは目を見開き、彼を見上げる。

 彼、ゼストは静かな怒りのこもった視線をレジアスに向けていた。

 

「俺はいい……お前と誓い合った『正義』のためになら殉じる覚悟があった――だが、俺の部下たちは違う。皆それぞれ未来への夢を持ち、守るべき家族や友人を持つ者もいた。それを無視してあいつらの命や未来を奪わせたというのなら、たとえお前でも、地上(ミッドチルダ)を守るためだったとしても――許すわけにはいかん!」

 

「っ……」

 

 ゼストの糾弾にレジアスは顔をゆがめ、強く唇を噛む。そして――

 

「……あれは予想だにしていなかった。まさか、お前たちがあの時すでにプラントの場所を突き止めていたなどとは――」

 

 ぽつぽつと告げるレジアスを、ゼストは驚きもせず怒りを抑え再び耳をそばだてる。

 だが――

 

「――レジアス、逃げろ!!」

 

 その叫びにレジアスは後ろを見、オーリスも驚愕に目を見張りながら隣を見る。

 彼らの傍についていた桃色髪の局員が、右手から金属状の巨大な“爪”を伸ばしているのが見えたからだ。

 

「ドヴァ准尉、あなた何を――きゃああっ!」

 

 問いかけながらオーリスは素早く懐から魔力銃を抜こうとする。だが、ドヴァと名乗っていた女が残った左手をかざした途端、掌から緑色の衝撃が放たれ、彼女の細い体を吹き飛ばす。

 そして、女がゼストに視線と左手を移すと、彼の体も輪上のバインドで縛り上げられた。

 

「お役目ご苦労様です。ドクターと評議会にとってあなたはもう不要――いえ、お邪魔にしかなりませんので」

 

「ドヴァ、ま、まさか貴様は――」

 

 驚愕の表情を浮かべるレジアスに、局員に化けていた女は嘲笑を向ける。

 そんな中、ゼストは友と彼の娘を助けようと全身に力を込め、バインドを解こうとするが自身を縛るバインドは硬く、亀裂一つ入る様子はなかった。

 

「騎士ゼスト、無駄な抵抗はなさらぬように。あなたに関しては人造魔導師に造り変えるため生かしたまま捕らえるよう命じられていますので。不要となった()()を排除するまでしばしお待ちを――」

 

 評議会に対する陰口(呼称)をそのままレジアスにぶつけながら、女――ドゥーエは金髪緑眼と青色のボディスーツに姿と恰好を変える。

 驚愕と自らに向けられた殺気に、レジアスは動くこともできずその場に立ち尽くす。それを前に彼女は湿り気を帯びた舌で唇をぺろりと舐めあげ、巨大な“爪”を振り上げた。

 その時――

 

 

「“フライングムーヴ”――はああっ!」

 

 突然あらぬ方から声が放たれたと同時に、黒髪オッドアイの青年が現れ、手にしていた剣でドゥーエの爪を弾き上げた。

 

「御神健斗――なぜあなたが?」

 

 ドゥーエはそこで先ほど弾き飛ばしたオーリスの悲鳴が聞こえなかったことに気付き、彼女がいる方を見る。そこには飛ばされたオーリスを抱えている銀髪黒衣の女もいた。

 

――まさか、最初からここに潜んでいた!?

 

 タイミングが良すぎる出現に、ドゥーエは確信を抱きながら健斗を迎え撃とうとする。しかしその横から野太い声が響いた。

 そこにはバインドを砕き身の丈以上の槍を持つゼストの姿が――。

 

 驚愕と一瞬にして三人もの敵に囲まれた狼狽からドゥーエは思わず固まる。その隙を逃さずゼストが雄たけびを上げながら突進してきた。

 ドゥーエはゼストの槍に爪をぶつけ、さらに左手の爪も伸ばし彼を切り裂かんとする。

 だが、そこで健斗が刀を振るってきて、ドゥーエの左爪を弾き上げた。

 そこへ――

 

「あああああっ――!!」

 

 ゼストに応えるように彼の槍が金色の光を纏い、ドゥーエの右爪にひびを入れる。あっというほども間もなく彼女の爪は甲高い音を立てながら砕き割れた。

 ドゥーエははじかれたように後ろに跳び、オーリスを人質にしようと彼女らの方へ駆けようとする。

 だが、その前に剣を持つ健斗の姿が現れ、自身に向けて刃を振り下ろした。

 ドゥーエは左手を持ち上げ、もう片方の爪で刃を受け止める。

 

「健斗君――いいんですか、私をここで捕らえてしまっても。私たちが管理局が潰せば、あなたも地球にいる友人たちも最高評議会から解放されるはずですが……」

 

 刃にくわえドゥーエは言葉をぶつけてくる。そんな彼女に健斗は淡々と……

 

「その声と呼び方……やっぱりあんた、トゥウェーさんだな」

 

 十年前の『J・D事件』でアースラスタッフに紛れ込んでいた女局員の名で呼んでくる健斗に、ドゥーエ(トゥウエー)は刃をぶつけたまま不敵な笑みを向けたまま訊ねてくる。評議会の支配を脱するため、自分たちと手を組まないかと。

 確かに、預言通り時空管理局が崩壊すれば、最高評議会はそのまま命運を絶たれ、ハラオウン親子とテスタロッサ親子が捕まる恐れもなくなるだろう。

 だがしかし――

 

「断る! 今の次元の平和は時空管理局あってのものだ。管理局が崩壊したら多くの世界の治安も崩壊し、戦争だって起こるようになるかもしれない。腐敗した奴らがいるからって組織そのものを潰していいわけじゃない!」

 

 強い声でそう言い捨てながら健斗は剣を振り上げ、多くの人々を殺めてきた鋼色の爪を根元から叩き割る。

 その声と剣圧に弾かれてドゥーエは後ろに弾き飛ばされ、かろうじて着地する。

 そんな彼女の横から大きな影が覆いかぶさった。絶望の色を帯びた眼でドゥーエは後ろを振り返る。そこには身の丈以上の槍を手にした険しい顔つきの元管理局員が――。

 

「ドヴァといったか――少し眠っていろ」

 

 そう言い捨てると、ゼストは槍を振り下ろし彼女の頭部に槍の柄を叩きつけた。

 

――まさか私がこんなところで……でももう遅い。《ゆりかご》が動けば管理局など……あの老人たちの始末はドクターかメガーヌ様に譲りますか…………。

 

 そんな思いを浮かべながら、間諜として数々の人間を欺き弄び、その手で惨殺していった最も残酷な戦闘機人(ナンバーズ)・ドゥーエはここで打た(たお)れた。

 

 

 

 

 

 

「すまんな健斗。おかげで助かった」

 

「いえ、ゼストさんの協力があってのものです。腕も衰えていないようですし、落ち着いたらまた局に復帰してもらえませんか」

 

 俺の復帰要請(スカウト)に、ゼストさんは「まさか」と苦笑もせず首を横に振る。

 そんな俺たちの横から……

 

「ゼスト……御神……まさかお前たち、最初から示し合わせていたのか……」

 

 腰が抜けたように地面に座り込んだままレジアス中将は尋ねてくる。その問いに俺とゼストさんは首を縦に動かして答えた。

 

「ええ。あのようなことが起こった以上、近いうちに評議会かスカリエッティがあなたを始末しようとすると思いましたから。ちょうどそこでゼストさんから連絡がかかってきて――」

 

「最初はルーテシアの近況を聞くだけのつもりだったが、今のうちにお前から8年前の件を聞きたいと零してしまってな。これを機にお前といっしょに奴らのスパイをおびき出そうという話になった……すまんな」

 

 そう詫びながらもゼストさんは頭を下げる真似はしなかった。結果的に中将たちは助かったし、何よりも……。

 

「あなたたちを誘い出した理由はもう一つあります。失礼ながら、先ほどまでの会話はすべて聞かせていただきました。8年前のプラント事件、次元犯罪者スカリエッティと最高評議会との癒着、現行法に反する戦力の導入計画――一字一句(あま)さず。デバイスにも記録してあります」

 

「…………」

 

 装飾物状に戻ったティルフィングを掲げながら断罪した瞬間、彼は険しい目で俺を見上げる。そんな彼に俺は果敢と告げた。

 

「レジアス中将。地上部隊に入れてくださった事や分隊(七課)の立ち上げなど、今まで助力していただいた事は感謝していますし、地上(ミッドチルダ)の平和を守るために手を尽くしてきた事は尊敬も感服もしています――ですが、いやだからこそ、それ(平和)を乱す犯罪者に手を貸してきたあなたの罪を見逃すわけにはいかない」

 

「……恩を盾にするつもりはない。お前の入隊を認めたのも分隊の後見もすべて地上部隊の力を高めるためのものだ――だが儂を捕まえてその後はどうする? お前やそこの人型デバイスなどに地上部隊をまとめられると思っているのか。まさか評議会の力を借りれば、それだけで皆が従うようになるなどと思うておるまいな」

 

 その言葉に俺は首を横に振り――

 

「いいえ、それこそ“まさか”でしょう。評議会とスカリエッティの関係が知れ渡れば、彼らの後ろ盾など何の役にも立たなくなる。事件後に起こる混乱を考えれば正直中将の力もお借りしたいぐらいです。――しかし、平和や管理局を守るためならどんな手を使ってもいいなどと考えたら、あなたや最高評議会と何も変わらなくなる! 

 ミッドチルダに住む人々を守り、それを脅かそうとする犯罪者を捕らえしかるべき罰を受けさせる――それが俺たちの『正義』です。迷いや悩みがないと言えば嘘になりますが」

 

 最後に弱音をこぼす俺にレジアスさんは「そうか」と小さく漏らし、再び押し黙る。

 彼もかつては純粋に、ミッドチルダやその他の世界に住む人々の幸福と犯罪の一掃を願って働いてきたはずだ。おそらく、管理局を立ち上げた頃の初代三提督(最高評議会)も。

 しかし、組織の歪みやひずみに直面していくうちに変質し、その場限りのつもりで強硬な手段をとるうちに徐々に歯止めが利かなくなっていった。

 ここでレジアスさんの助けを借りた方が楽だからといって彼を見逃せば、俺もまた道を見失い、誰かに裁かれる末路を辿ることになるだろう。

 

 

 

「レジアス・ゲイズ。スカリエッティの違法研究への幇助や一部高官との癒着をはじめとした汚職容疑で逮捕します。同行を願えますか」

 

 有無を言わさぬ口調で宣告する俺にレジアスさんは小さくうなずき。

 

「よかろう……ただし、二つだけ条件がある。それを呑まない限り、まだ牢に入れられるわけにはいかん」

 

「聞きましょう。その条件とやらは……」

 

 俺の問いかけにレジアスさんは「うむ」と返しながら愛娘(オーリスさん)の方を見る。それで俺とリインも条件の一つの内容を察した。

 しかし、そこでけたたましいアラート音が響き、俺たちの頭上に三つのモニターが浮かんだ。

 

 そこに映っていたものと届いてきた報告は――。

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