魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第43話 最悪の敵

「ごめんなさい! ただいま戻りました!」

 

 本局に繋がっている転送ポートがある部屋を出てすぐ、部屋の傍にいたティアナとアルト、チンクとなのはを見つけ、ギンガは声をかけながら彼女らの方へ駆け寄る。

 それを見て、ティアナとチンクが返事を返した。

 

「ギンガさん、お帰りなさい」

 

「体はもう大丈夫か?」

 

「うん。私もブリッツキャリバーもすっかり全快。いつでもいけるわ!」

 

 紫色のクリスタルの形をした相棒(デバイス)を掲げながら、ギンガは頼もしげな笑みを向ける。それにチンクたちが笑みを返した時だった。

 突然けたたましいアラームとともに艦内が赤く点滅し、ギンガたちをはじめ隊員たちが待機している各所にモニターが浮かび上がる。

 それとともにモニターにある光景が映し出される。それを見てギンガたちは思わず目を疑った。

 なぜならそこに映っていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 首都クラナガンと東部を隔てる山岳地帯。

 いくつもの山々を越え、数百機のガジェットの編隊が地上に配置された三つの砲口を備える砲塞に向かって真っすぐ飛んでくる。

 三隊に分かれながら近づいてくる編隊に対して、砲塞は耳障りな轟音を響かせながら、砲口をそれぞれガジェットの群れに向けた。

 

「角度修正、座標固定完了!」

 

「こちらも標準よし――いつでもいけます!」

 

 砲塞内にて、オペレータたちの指示を聞いて、砲長らは前面に映る大型モニターを睨み、ガジェットと標準を示す赤い円を食い入るように見てから――

 

「味方の航空魔導師は飛んでいないな?」

 

「はい。地上の守備隊とともに砲の守りを固めています」

 

 それを聞いて、砲長は顔と眼光を鋭くし――

 

「よし――エネルギー充填!」

 

 砲長が命じた瞬間、オペレーターたちはすさまじい速度でコンソールを連打する。

 それとともに、外では三つの砲口からおびただしい白い光があふれ始めた。

 それから二十数えるほどの間を空けて、砲長は勢いよく右手を突き出し――

 

「《アインヘリアル》――――発射ああああぁぁぁっ!!」

 

 その命令を受けて、三人のオペレーターが一斉に人差し指を振り下ろし、他のキーより一回り大きい発射キーを押し込む。

 

 その瞬間、砲口から途方もなく巨大な真っ白な光線が飛び出し、無数のガジェットを吞み込んだ。

 無論、このガジェットたちも魔力攻撃を防ぐAMFを張っていたが、そんなもの自機の数百倍の質量の光線には何の役にも立たず、ガジェットたちは反撃も逃げる間もなく白い光線に呑み込まれ、消滅していった。

 それを見て――

 

「やった! 魔法が効かない化け物機械を全滅させたぁ!!」

 

「ざまあみろ! これが地上部隊の力だ!」

 

「このまま俺たちの手でスカリエッティを捕まえるぞ。“海”の助けもなんとか六課の出る幕もねえ!」

 

 《アインヘリアル》の威力を目の当たりにして、砲を守る隊員たちは甲高い歓声を上げる。

 さすがに《アルカンシェル》には及ばないものの、次元部隊の艦隊にも劣らない兵器を手に入れた。これなら戦闘機人や人造魔導師も恐るるに足らない。

 スカリエッティの捕縛も時間の問題だ!

 ここにいる誰もがそう思っていたが……。

 

「な、なんだあいつ?」

 

 威勢よく息巻いていたところで滑走音が耳に届き、何人かが水を差されたように不快げな面持ちでそちらを向く。

 そこから青いボディースーツと黒いコートを着た青髪の女が靴底についているローラーを走らせながら、こちらに迫っているのが見えた。

 

「なんだあいつは? 他の部隊からの応援か?」

 

「いや、本部を襲った奴らと同じ格好をしている。まさかあいつも――」

 

「止まれ! 止まらないとこいつを撃つぞ!」

 

 隊員たちは彼女に杖を向けながら警告を飛ばす。しかし、女はにやりと白い歯をむき出し、さらに速度を上げて彼らに迫った。そして――

 

「であああぁぁっ!」

「ぐあぁっ!」

 

 女は高速で回転するスピナーの付いた右腕を振り上げ、そのまま魔導師を殴りつけた。

 

「こいつ――」

「撃て! かまわず撃ち倒すんだ!」

 

 そう叫んだ魔導師や周りの魔導師たちは手にした杖から砲撃や魔力弾を撃ちだす。しかし、女はローラーを加速させたまま身を翻して弾と砲撃をよけ、すれ違いざまに魔導師たちを昏倒させていく。

 そして残りの魔導師たちに目もくれず、そのままアインヘリアルに向かっていった。

 

「くそっ――」

「追え! 急いであの女を――ぐあっ!」

 

 叫ぼうとしたところで後ろから殴りつけられ、その隣の魔導師も後ろから蹴りつけられ地面に倒れる。

 そこには先ほどの女と同じボディースーツを着た赤髪の少女二人――ノーヴェとウェンディが立っていた。

 ふと気がついてみれば、まわりの魔導師も皆叩き伏せられている。

 

「これで地上にいる奴らは全滅か――おい、フォーティーン! こっちに戻れ! あたしらもいっしょにアインへリアルってやつを破壊するからよ」

 

 ノーヴェは耳元に手を当て、先行したフォーティーンに向かって告げる。しかし――

 

 

「はっ――あんな大砲、あたし一人で十分だっての。おめえらはそこでぼうっとしてな!」

 

 自分と瓜二つの“姉”(ノーヴェ)にすげなく言い放ったところで、フォーティーンは砲塞に迫り、円状の模様がいくつも刻まれた《(テンプレート)》を右腕の先に浮かべ――

 

「IS《振動破砕》――はあああああっ!!」

 

 荒々しい掛け声を上げながらフォーティーンが右腕を叩きつけた瞬間、彼女の前にはだかる鋼鉄の壁は粉々に吹き飛び、余波のあまり、その向こうにある壁にも亀裂が走る。

 そこへ破砕音を耳にした内部警備の魔導師数十人が駆けつけてくる。彼らを前にフォーティーンはにんやりという擬音が似合う笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 数回もの轟音を響かせたのち、瞬く間にアインヘリアルは真っ赤な炎と黒い煙を噴き上げながら崩れ落ちる。

 それを眺めて……。

 

「戦闘機人とはいえ、数人がかりならまだしもたった一人で……」

 

 唖然とした声でウェンディが漏らし、ノーヴェも硬い顔でアインヘリアルの残骸を見上げる。そこで二人の眼前にトーレが映ったモニターが現れた。

 

『ノーヴェ、ウェンディ、そちらの様子はどうだ? 二号機は私たちが、一号機はクアットロたちが制圧したところだ』

 

「あー、こりゃお疲れっス」

 

「こっちも見ての通り、三号機ってやつを潰したところだ。大砲(アインヘリアル)の方はほとんどあいつ一人がやったようなもんだけどな――大丈夫か? あたしらの言うこともほとんど聞かねえままだぞ」

 

 ノーヴェの問いにトーレは同情気味な表情をしながらも……

 

『問題ない。いざとなれば《コンシデレーション・コンソール》で制御できるしな。お前たちはこのままオットーたちと合流して首都に向かってくれ』

 

「了解。その後は?」

 

『地上本部に向かいつつ、首都にいる部隊を片付けていけ。先日の混乱とレジアスの失脚で混乱している隙をついて、地上部隊を完全に叩き潰す』

 

 その命令にノーヴェとウェンディは頷きを返す。だがその後ろから――

 

「――それだけじゃねえだろ。今さら地上本部や部隊を落としたところで大して意味なんかねえしな」

 

 その声にノーヴェたちは振り向き、トーレや通信を見ている他の姉妹たちも目を見張る。

 いつの間にか戻ってきていたフォーティーンは得意げな笑みを浮かべながら言った。

 

「先日の襲撃で戦闘機人の力はたっぷり見せてるし、アインヘリアルを潰した今、地上部隊にあたしらやガジェットに太刀打ちできる奴はほとんどいない――おおかた首都で騒ぎを起こして、機動六課をおびき出そうって魂胆だろう?」

 

『ああ、その通りだ……不満か?』

 

 トーレの問いに、フォーティーンは「いいや」と首を横に振り。

 

「上等じゃねえか――ずっとあいつらとやりあいたいと思ってたんだ。すましたファーストやエースオブエースに、生まれ変わったあたしの力を叩き込んでやるぜ!」

 

 愉快そうな笑みを浮かべながらフォーティーンはガツンと両手の拳をぶつける。その眼にはかつての師や姉への劣等感の反動から生じた“闘志”が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「……スバ、ル……?」

 

 ギンガは上ずった声でただそれだけ呟く。その後ろで、なのはやティアナたちも顔を引きつらせながらモニターを凝視していた。

 

 そこに映っていたのは、その手でアインヘリアルを破壊し、他の戦闘機人たちとともに首都に向かっているスバルの姿だった。

 ナンバーズと同じ紺青色のボディスーツに身を包み、瞳は何体かの戦闘機人やあの時のギンガのように金色に染まり、首元には“XIV(14)”と刻まれたプレートが嵌め込まれている。

 

 はやてたちも管制室で、レツヤたちも待機室で今のスバルの姿と彼女が起こした凶行を目の当たりにしていた。

 

 

 

 

 

「アインヘリアルを撃破後、戦闘機人たちはその場から撤収。そのまままっすぐ首都に向かってきています」

 

「――前回より動きが速い」

 

 シャーリーの報告を耳にし、グリフィスはつぶやく。はやてもその呟きにうなずき――

 

「早めに叩かんと取り返しのつかんことになるけど、スカリエッティやメガーヌさんの出現に備えて戦力は温存せなあかんし……隊長たちの投入は難しいな」

 

 はやては難しい顔で零し、腕を組みかけたところでシャーリーの声が響いた。

 

「アコース査察官から直通連絡! そのまま繋ぎますか?」

 

 その問いにはやては即座にうなずきと「お願い」という一言を返す。その直後、はやての頭上にヴェロッサが映る空間モニターが現れた。

 

『はやて、こちらヴェロッサ。セインの記憶から割り出した洞窟からスカリエッティのアジトを発見した』

 

 その報告を聞いた瞬間、はやてたちは驚きとやったという感嘆を浮かべかける。だが、ヴェロッサが浮かべている硬い表情を見てその思いを引っ込め、一同は報告の続きを待った。

 彼の口から出たのは案の定、彼女たちの期待を打ち消すものだった。

 

『だが、アジトの中にはスカリエッティたちの姿はなく、僕とシャッハは今、待ち伏せしていたように現れた大量のガジェットを叩き潰しているところだ。教会騎士団から戦力を呼び寄せてるけど、そっちからも応援を送ってくれないかい?』

 

「うん。できたらそうしたいけど――」

 

 はやては答えながら大型モニターに視線を向ける。そこには先ほど確認した通り、十体近くの戦闘機人が首都に向かっているのが見えた。その中にはスカリエッティに洗脳されたスバルもいる。

 彼女たちを放っておくわけにはいかない。メガーヌもどこから現れてくるやら――。

 

 

 はやては悔しげにぎりっと歯噛みする。

 その時――

 

「――?」

 

 一瞬、画面の向こうが揺れたような気がして、はやてやオペレーターたちは目をしばたかせる。一方、向こうも揺れに気付いたようで足元と周囲を見回していた。

 ちょうどそこで――

 

「――きゃっ!」

「シャッハ――」

 

 地面が大きく揺れ、シャッハは悲鳴を上げヴェロッサは彼女をかばうように抱き留め、揺れとガジェットから逃れるために空に上がる。

 

 そこで彼らは少し離れた森に十体以上の巨大な甲殻虫が現れているのを見つけた。ついさっきまであんなものはいなかったはずだ。

 まさか――。

 

 そうしている間にも揺れは大きくなり、地面は裂け、大きな亀裂が走っていく。

 その中から現れたのは――。

 

 

 

 

 

「……さあ、いよいよ復活の時だ。見ているかい?

 今まで協力してくれたスポンサー諸氏。こんな世界を作り出した管理局の諸君。そして“仮初(いつわり)の信仰”とともに平和を広めているつもりの聖王教会の諸君も」

 

 最高評議会とレジアス、聖王協会と時空管理局の幹部たちも顔をゆがめながらスカリエッティの言葉に耳を傾け、彼が出現させた空間モニター越しに地中から現れた“巨大な船”を目にしていた。

 

()()こそが、君たちが危惧しながらも求めていた“絶対の力”!」

 

 彼らとその他の聴衆たちに対し、スカリエッティは高らかに謳い続ける。

 

『旧暦の時代、にたび世界(ベルカ)を席巻し――そして破壊した、『古代ベルカの悪魔の叡智』!』

 

 

 

 

 

「《聖王のゆりかご》……」

 

 俺は無意識に“それ”の名をつぶやいた。レジアスさんたちもゼストさんも驚愕のあまり、俺のつぶやきなど耳に届いていないようだ。

 それに反して、俺の言葉が届いたかのようにスカリエッティはこちらに目を向けて言った。

 

『見えるかい、《愚王ケント》。300年前、君と闇の書を葬った“聖王”と“翼”の復活が。

 ――待ち望んだ主を得て、古代の技術と叡智の結晶は今再びその力を発揮する!』

 

 

 

 その言葉とともに“玉座”に座らされたヴィヴィオが目を覚まし、つんざくような悲鳴をあげながらママ(なのは)に助けを求める。それを聞いて、俺は思わず拳を固く握った。

 

 こんな惨状を引き起こしたスカリエッティ、オリヴィエの命を奪った《ゆりかご》。

 そして、それらを止められなかった自分を呪いながら。

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