魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第44話 司祭の『罪』

 かつて十年前まで、信仰に篤い一人の聖職者(しさい)がいた。

 

 

 信心深い両親のもとに生まれた彼は、物心ついてすぐ“神”と聖王に祈りを捧げるようになった。

 彼は初等科を卒業してすぐに聖学校の門を叩き、予科二年、本科三年をかけて『聖王教』を教えを習得し、助祭として一年の修行を積んだのちに『司祭』の位階を授かった。

 

 彼は実直的かつ献身的に司祭としての職務に励んだ。

 毎日欠かさず“神”と聖王への礼拝を行い続け、教会に訪れた者たちは分け隔てなく接し、過ちを悔い懺悔する者を何日もかけて導き、修道士やシスターたちの指導にも精力的に取り組んだ。

 

 そんな職務を務めている間に二十、三十、そして四十の齢にまでさしかかったが、妻を迎える事はせず独身を通し続けた。それが信者と聖王に尽くす者としての定めだった。もっとも、希少技能を持つ一部の聖職者は逆に家庭を持ち、後継ぎを設けることが推奨されているが。

 そんな不公平に対する批判やミッドチルダの法の影響を受けて、現代ではすべての聖職者に婚姻の自由が認められているが、旧くから伝わる『戒律』を重んじる教会上層では今もなお、肉欲を含めた欲の一切を断ち信徒として尽くす事が奨励されており、彼もそれに従った。

 

 それもあってか彼は上層からも評価され、三十後半になった頃にある“聖遺物”の管理を任されるようになった。

 それでもなお彼は堕落することなく、ただ信徒と聖王、そして“神”のために尽くし続けた。

 

 ある一人のシスターに恋い焦がれるようになるまでは。

 

 

 

 “彼女”は十代後半ほどの少女だった。

 自分に劣らぬほど信心に篤く、そして齢に合わぬほど純粋無垢だった。まるで天上から降りてきた天使のように。

 ……()()()()()()()()()()()()()

 

 彼は司祭として、同じ信徒として、彼女にも熱心な指導を施した。下心はあったのかもしれないが、彼自身は自覚していないほど小さなもので、あくまで司祭としての職務を越える関係を持つつもりはなかった。

 だが、彼女からとある懺悔――いや、“告白”を受けてからすべてが変わ(くる)った。

 

 なんと彼女は二十以上も離れた男――自分などに恋心を抱いてしまったというのだ。

 彼は懸命に彼女を諭し、また自身の中から沸き上がってくる想いを必死に抑え込もうとした。この時になって初めて、彼は自分が彼女に抱いている恋心を自覚したのである。

 

 しかし、涙を浮かべ、「諦められない」と(すが)ってきた彼女を抱きとめた時、彼も彼女への想いを抑えられなくなった。そして初めて戒律に疑念を抱いたのである。

 

 

 恋など誰しもが抱くものだ。そして愛する者と添い遂げるなど人として当たり前でささやかな行いだ。現に自分も何十もの夫婦の門出(婚姻)に立ち会ってきた。

 なぜ、聖職者であるというだけで自分と彼女にそれが認められないのか。技能を持つ一部の者たちには教会から縁談を薦める事すらあるというのに。

 

 いや、認められてはいる。上述の批判と法律の影響で聖職者の婚姻も認められ、技能を持つ持たざるに関わらずに所帯を持っている司祭も少なくない。せいぜい上の者たちがよく思わないだけだ。

 しかし、なんの技能も能力も持たない自分が“聖遺物”の管理を任せられたのは、戒律を守り続け、上や他の司祭からの信用を得たからだろう。それを失えば“聖遺物”の管理などの重職から外され、他の信徒たちからの信用も失ってしまうに違いない。

 それに彼女と私は二十以上も離れている。戒律を抜きにしても、この想いは正しいものではないに違いない。

 やはりここは自分にも彼女にも心を鬼にして――。

 

 

 苦渋の思いと未練を抱えたまま司祭は口を開きかける。

 そこで彼女は呟くように言った。

 

「――聖王様のお(ゆる)しがいただければ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、司祭は再び口を閉じ、唖然と彼女を見る。そんな彼に対し、彼女は涙ながらに再び“それ”を口にした。

 

「聖王様が赦していただければ、司祭様への想いが叶うかもしれないのに……」

 

 と。

 

 

 

 その後、彼は自分が守る“聖遺物”――『聖王オリヴィエの聖骸布』のもとを何度も訪れる日を送った。

 

――あの『聖骸布』は聖王オリヴィエ様の遺体をくるんだもの。あれさえあればもしかすれば……。

 

 そんな事を考えながら何十分、時には一時間以上もそれを眺め続ける日を過ごした。他の司祭が気付いてきたこともあったが、言い訳する間もなく礼拝の一種だと察し見過ごされた。

 

 

 そしてついに彼は決意した。『聖王様を復活させよう』と。

 聖王様に再び現世まで降りていただいて、自分と彼女の婚姻を認めていただこう。聖王様のお赦しさえあれば、教王とて私たちの婚姻を認めないわけにはいかないはずだ。

 ただそれだけのために、彼は『聖骸布』を盗み出すという『罪』を犯す道を選んだ。

 

 『聖骸布』を彼女に渡しどこかに送り込んでもらえば、聖王様は必ず蘇る。

 絡繰こそわからなかったが、この時の彼はそう()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 

 

 その後、『聖骸布』を渡した途端彼女は歪な笑みを浮かべ……。

 

「お役目ご苦労様でした……司祭様」

 

 そう告げながら彼女は金髪緑目の姿と扇情的な装束に装いを変えた。

 驚き、夢だと思いながら何度も彼は首を振り、彼女に問いただす。

 そこで彼女は右手から伸びた巨大な銀色の爪のようなものを振り上げた。

 

 それが『罪』を犯した末に司祭が見た“最期”の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 メガーヌの召喚虫『地雷王』が起こした地響きによって割れた地面から出てきたもの――それは金と紫の塗装が塗られた、数千メートルもの全長を誇る巨大な鋼の船だった。

 300年前、俺とリヒト(リイン)を葬り、その後もベルカの戦乱を終わらせるために多くの国や軍を焼き払い、最後は主であるオリヴィエ(聖王)自身の命を奪って姿を消した――『究極の質量兵器』にして、闇の書に並ぶ『最強最悪のロストロギア』。

 まさか、またあれを目にする日が来るとは……。

 

 

「…………」

 

 同じことを思っていたのか、リインもきっと鋭くさせた目でモニターの向こうの《ゆりかご》を見上げる。

 彼女とは反対に俺は唖然とモニターを見たままのレジアスさんたちの方を向いて、訊ねた。

 

「レジアスさん、あの船のことは? スカリエッティか最高評議会から聞かされたりは――」

 

「し、知らん知らん!! あんなもの、儂は一切知らん!! まさかあれも評議会の仕組んだことなのか?」

 

 レジアスさんは何度も首を横に振り、逆に問いを放ってくる。

 この件に関してはシロだろう。知っていたらアインヘリアルを造るついでにあの船も手に入れようとするはずだしな。

 

『健斗君、こちらはやて』

 

 頭上にモニターが浮かび、その奥からはやてが呼びかけてくる。

 はやてはレジアスさんとゼストさん、そしてバインドで縛られたまま気絶しているドゥーエを見て眉をひそめながらも、すぐに状況を察して話を続けた。

 

『さっきの映像と船、健斗君も見てたやろう。カリムによるとあれが《聖王のゆりかご》らしいけど――間違いないん?』

 

 その問いに俺とリインは黙ってうなずきを返す。300年前ベルカに現れ、俺たちを殺した船だ。見間違えるはずがない。そしてあの船を動かしているのがヴィヴィオの魔力だとすると、あの子はやっぱり……。

 

『クロノ君から今、連絡が入った。本局はあれを次元レベルの災害を引き起こしかねないロストロギアと判断して、次元航行部隊の艦隊を出動させたそうや。アインヘリアルをなくしたせいか、地上本部もあっさり了承した』

 

「だろうな……」

 

 地上本部の本部長はその能力がないにもかかわらず、理事官を務めている実親の推薦でその座に就いたお飾りだ。彼の代わりに指揮を執っていたレジアスさんがおらず、最高評議会からの指示もない今、本局の要請を拒む力などないのだろう。あるいは評議会が艦隊の出動を認めたからかもしれない。

 

『私たち機動六課はもう出動準備に入ってる。レツヤたちとミカヤもや。健斗君とリインも準備してもらえる。地上で戦うことになると思うから、アースラに戻らずこのままそこで待機してて』

 

「了解。では墓地の近くに待機させている陸士隊にレジアス中将とオーリス三佐を引き渡してから――」

「待て!」

 

 そこでレジアスさんが声を放って、俺たちは彼の方に目を向ける。まさか、この事態の解決を理由に復権を図るつもりか?

 

「錠をかけられていない以上、儂はまだ地上部隊の中将――お前たち《機動七課》の後見人の一人だ。その権限があるうちにやらねばならんことがある」

 

「父さん、まだそんなことを――」

「――待て、オーリス!」

 

 ゼストさんは言葉を荒げかけるオーリスさんの肩を掴み、彼女を抑える。長年の友だけあって、レジアスさんの表情から彼の真意を察したらしい。

 

 娘と親友の横でレジアスさんは俺たちに向き直りながらモニターを開き、画面を何度かタップし……。

 

「レジアス・ゲイズ、地上部隊中将の権限で御神健斗三等空佐とリインフォース・アインス二等空尉の“能力限定の1ランク解除”を承認する。リリースタイムは180分。今の儂の権限ではそこまでが限界だ……いけるか?」

 

 問いかけるレジアスさんに俺とリインは硬くうなずく。もう1ランクはレティさんの承認で解除できることになってるし、彼女でもそれ以上の解放時間を設けるのは難しいだろう。むしろ3時間もあるのはありがたい。

 レジアスさんは俺たちを見、頷き返すように首を下げながらモニター上のスイッチに人差し指を向け――

 

「リミット――リリース!」

 

 彼がスイッチに指を押し付けた瞬間、体の中から魔力が湧き上がってくる。リインも同じようで自分の体を見下ろしていた。

 そんな俺たちにレジアスさんは硬い声で告げた。

 

「儂にできるのはここまでだ。地上を……ミッドチルダを頼んだぞ」

 

「――はい!」

「後は俺たちに任せてください! “レジアス中将”」

 

 俺とリインは揃って“中将”に敬礼と返事を返す。

 彼は浅い頷きを返すと、自らゼストさんとオーリスさんとともに陸士隊が待つ墓地の外へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「聖王の器とゆりかごは安定状態に入りました。現在は私と交代してクアットロとディエチが器とゆりかごを守っています。トーレとセッテはこちらに戻ってドクターの警護につき、残りの姉妹とフォーティーンが地上を攪乱し機動六課をおびき寄せる予定です」

 

「ああ、そんなところでいいだろう」

 

 報告するウーノにスカリエッティは頷きを返す。そこでウーノはまた口を開き、主に向かって問いを発した。

 

「他の協力者たちの手を借りなくてもよろしいのでしょうか? オルセア……いえ、《次元解放戦線》と彼らが持つ“マリアージュ”なら地上の攪乱と囮ぐらいはできると思いますが――」

 

「彼らの標的はあくまで時空管理局だ。特に今のリーダー殿――“同志エリック”はミッドの住人など、無関係の人間を巻き込むことに乗り気ではないらしい。未だ《イクスヴェリア》は見つかっていない上にマリアージュの数も少ないし、あてにできるほどでもないだろう。本局への攻撃には参加させてほしいと言っていたがね」

 

「そうですか……」

 

 《次元解放戦線》を称する者たちと“マリアージュ”の状況を聞き、ウーノは淡々とした返事を返す。

 念のために挙げてみたものの、彼らに関しては最初からほとんどあてにしていない。

 スカリエッティの言う通り、戦力としては心もとないし、マリアージュも恐るべき能力を持つがその性質を知っていれば対処できる。運の悪いことに、六課の中にはマリアージュを破ったことのある愚王ケントとヴォルケンリッターもいる。

 《コア内蔵型ベルカ王・イクスヴェリア》に関しても、スカリエッティたちにとってはマリアージュの母胎としてより、“聖王の器の予備”としての期待の方が大きかった。“本物の器”が完成し手元にきた以上、もはや探す意味などない。

 

 ただ唯一、戦線のリーダー、“エリック・グラーゼ”がいないのは惜しいと思った。彼は一般の魔導師とは一線を画すほど優秀な力を持つ。彼なら機動六課のエースとも十分に渡り合えるだろう。

 ――が、そこまできてエリックが御神健斗の元同級生だったことに思い至り、『やはり使えそうにない』と彼をぶつける案を放棄した。エリックほどの魔導師に裏切られでもしたら、かえってこちらが不利になってしまう。

 

 やはり戦闘機人とガジェットを使うのが確実だろう。三時間も凌げば《聖王のゆりかご》は二つの月の魔力を供給できる“軌道ポイント”に到達し、今より遥かに高い防御性能が得られ、さらにかの《愚王ケント》とベルカの国々を滅ぼした魔力砲『レーゲンボーゲン』も使用可能になる。

 そこまでいけばミッドチルダそのものが人質に取られているも同然となり、管理局といえど自分たちに手出しできなくなる。

 むろん彼らとていざとなればミッドチルダの切り捨ても決断しかねないが、()()()()()()()()()を与えてやれば、その動きも大きく鈍るだろう。

 

 

 

『ジェイル、急で悪いが時間をもらえるかね?』

 

 ふとそこで無機質な声が響き、スカリエッティとウーノはそちらを見上げる。

 そこからまた別の無機質な音声が響いた。

 

『ウーノも一緒か。ちょうどいい。お前たちに今の状況についての質問と“これからの事”に関して伝えておきたいことがある』

 

 彼らの頭上には時空管理局のシンボルとその上に“Ⅰ”・“Ⅱ”・“Ⅲ”の古代数字が浮かんだ――『最高評議会』を示すモニターが浮かんでいた。

 それを見上げながら――

 

「そうか。こちらとしてもちょうどよかった。私からもあなたたちにお伝えしたいことがあるんだよ」

 

 

 そう告げながらスカリエッティは彼らに向かって歪な笑みを浮かべた。

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