魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第45話 出動前

『番組を変更して臨時ニュースをお伝えします。東部山中森林地帯より浮上した巨大船はなおも上昇を続けています。同時に第7廃棄都市区画方面から、四日前に地上本部を襲撃した自動機械と実行犯とみられる集団がクラナガンに向かっています。周辺地域にお住まいの方々は案内放送やアラートメールと管理局員の誘導に従い、落ち着いて避難をしてください。他の地区に住まわれている方々も万が一に備えて不要な外出の自粛と避難の準備を――』

 

 そう告げながらも不安を隠せずにアナウンスを続けるキャスターたちの隣に 多数の機械や妙な出で立ちの女たちが映し出され、さらに――

 

 あの船は――!?

 

 最後に映った“巨大船”を見て、少女は“紫色の右眼と蒼色の左眼”を大きく見開く。

 そしてしばらくの間じっと考え込んでから、少女は立ち上がった。

 

――“あの船”が目覚めたという事は“彼女”、もしくは“彼女”の血を引く者があの中にいるはず。今の私にどうにかできるとは思えないけど――。

 

 決意を固め、長い薄緑色の髪をたなびかせながら少女は部屋から出ようとする。だが、ちょうどそこで足音が近づき自室の扉が開かれた。

 

「アインハルト――いるわよね!?」

 

「お母様……」

 

 扉を開くとともに声をかけてくる母親に、アインハルトと呼ばれた少女は思わず呟きを返す。そんな娘を見て母親はほっと息をついた。

 母親の髪は薄茶(ベージュ)色、瞳は両眼とも赤色で、ぱっと見娘とは似ていない。しかし、彼女のそぶりは実の娘を心配する母親のものに違いなかった。

 

「ニュースはもう見たわよね? お母さんは万が一に備えて避難の準備をしてるから、アインハルトはこのまま家にいなさい――危険だから絶対外に出ちゃ駄目よ!」

 

 必死に告げる母に、アインハルトは出鼻をくじかれたと思いながらもそれを押し殺して首を縦に振る。

 

「お父様は?」

 

 短い問いに母親は首を横に振りながら言った。

 

「さっき連絡があって、まだ職場にいるって。さすがに仕事してる場合じゃないけど外に出ることもできないみたいで。危なくなったらあっちから避難するから、お父さんのことは気にするなって言ってたわ」

 

「わかりました。では私も避難の準備のお手伝いをします。……いいですよね?」

 

 その問いに母親は笑みを浮かべながらうなずく。相変わらず8歳とは思えないほど落ち着きすぎた子供だが、今は聞き分けのよさがありがたい。

 そんな母に見せる顔とは裏腹に、アインハルトは内心忸怩たる思いを抱えながらぎゅっと拳を握り――。

 

――私は……“()”はまたなにもできないのか。あの《ゆりかご》が、また“彼女”の命を消費しながら飛んでいるというのに……。

 

 そんな思いを抱きながらも、()()()()を守るため、“アインハルト・ストラトス”は母親の傍についていることを選んだ

 

 

 

 

 

 

 一方ちょうど同じ頃、ベルカ自治領の片隅にそびえる屋敷でも……。

 

「……ですので、お嬢様、騒ぎが収まるまでの間くれぐれも屋敷からお出にならないようにお願いします。万が一の際は力づくででもお止めいたしますので」

 

 メイドは厳しい表情と声色で眼前に座るお嬢様に忠告をぶつける。

 しかし、肩の少し上で切り揃えた茶色髪のお嬢様は嗜虐的な笑みを浮かべ……

 

「へぇ……アタシを止められる自信があるんだぁ。そう言われたらちょっと試してみたくなるなー。最近ヴィッキーと手合わせする機会もなくて腕がなまりそうだったし」

 

「――っ!」

 

 獲物を見つけたような眼と笑みを向けるお嬢様を前に、メイドはひきつった声を上げそうになる。それを懸命に抑えながら自身を見返すメイドにお嬢様は手を振り。

 

「冗談冗談。そう怖がんないでよ。今出て行ったりしたら父様と母様、じい様にまでどやされるだろうしさ。でもいいの? ミッドの政府や管理局に恩を売る絶好のチャンスだと思うけど。それにこんな時に屋敷に引きこもってたら、『セヴィル』の名とティッタってご先祖様が泣くんじゃない?」

 

 そう告げるお嬢様にメイドは硬い面持ちで首を横に振り。

 

「ベルカ自治領を守る武家として、ここを動くわけにはいかないとのご判断です。ティーニエお嬢様も勝手な真似はお控えください。あまり我儘が過ぎるとインターミドルの参加も認められなくなるかもしれません」

 

「……ふむ、それは困るなぁ。ヴィッキーとは白黒つけたいし、ああいう場じゃないとリンデも戦ってくれそうにないし。わかったわかりました。お嬢様らしくお屋敷で大人しくしてますわ~」

 

 似合わないお嬢様言葉で締めくくり、茶髪のお嬢様は“金色の右眼と緑色の左眼”をモニターに向ける。

 そして、廃棄都市を駆ける襲撃者たちが映るモニターを眺め――

 

「でも残念だなぁ。アタシの技能ならこいつら全員――()()()()()()()()のに」

 

「――っ!」

 

 その呟きが届いた瞬間、メイドはびくりと肩を跳ねさせる。

 そんな彼女の前でセヴィル家の令嬢――“ティーニエ・セヴィル”はわずか8歳とは思えないほど獰猛な笑みを浮かべながら、モニターを眺め下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 クラナガンより少し南を走る車の中。

 その後部座席に座る二人組の男のうち、眼鏡をかけた黒髪の若い男秘書が通信端末を耳に当てながらひとり声を発していた。

 

「わかりました……はい。ではそちらもお気をつけて」

 

 そう告げると秘書は心なしか大きめのため息をつき端末を懐にしまいながら、向かいに座る壮年の男に向き直った。

 

「なんと言っていたかね?」

 

 壮年の男――ダイレル・クライスラー議員の問いに秘書は硬い面持ちで――

 

「アインヘリアルが三基とも破壊されてしまったとの事です。修復も不可能なほどの損傷で。こちらの投資もほぼ水の泡となってしまいました……」

 

 苦汁をにじませながら告げる秘書に反して、ダイレルは笑みを浮かべながら首を横に振り。

 

「その心配はいらんよ。アインヘリアルのデータは私と開発会社が保管してある。それに我々にとってあれは“実験機”。その試験のデータが採れたと思えばむしろ有益だよ。“新型”の開発に役立ててもらおう。報告はそれだけかね?」

 

「いえ、もう一つ。レジアス・ゲイズ中将とオーリス・ゲイズ三佐が逮捕されてしまったようです。こちらにも飛び火が飛んでくるでしょうが、管理局への非難に比べれば微々たるものかと」

 

 その報告にダイレルは笑みを消し、

 

「そうだな……かつての上官にしてミッドの未来を憂う同志の逮捕と不祥事は残念だが、政治家としてこれを活かさない手はない」

 

「はい。管理局の言いなりだった与党(平和党)にも大きなダメージになるかと。このまま選挙戦に持ち込めば――」

 

「ああ、現最高行政官の追い落としと『防衛軍』設立の大きな追い風になるだろう。――だが、その前にまずはあの船を片付けなけねば……」

 

 そう告げるダイレルに対し、秘書は人差し指で眼鏡のブリッジを上げながら答えた。

 

「対応策の準備と“有志”への根回しはすでに済ませてあります。……ただ、《聖王のゆりかご》のスペックが先生のおっしゃった通りのものなら、軌道ポイント到達後のあの船を落とすのは次元航行部隊でも難しいかと。“あの一家”なら何とかできるかもしれませんが、()()()()()()()()()()()()()()である彼女たちに貸しを作りたくはありません。なんとか管理局や教会、もしくは“あの部隊”が解決してくれればいいのですが」

 

 その言葉にダイレルは苦笑を浮かべ……。

 

「愚息とあの子の同僚たちにかけるしかないか。放任主義がここで祟ってくるとはな。あそこには《闇の書の主》だった少女と《愚王》と同じ名の男もいる。彼らのお手並みを拝見しつつ万が一に備えるとしよう。引き続き“彼女ら”との連絡線(ライン)を維持しつつ他の団体や組織との交渉を続けてくれ」

 

「Yes,BOSS! 直ちに行います」

 

 そう言うと、秘書は携帯端末を持ちながら新たにモニターを浮かべ、素早い手つきでそれぞれに文を打ち込んでいく。それを横目にダイレルは息子・レツヤが乗っているアースラが浮かんでいる上空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

『第一グループ、降下ポイントまであと三分です』

 

 ルキノさんのアナウンスが響く中、オレたちフィルダーとフォワードは通路の片隅に整列していた。ギンガさんもスバルの代わりにフォワードに、ミカ姉はフィルダーに加わりつつ独自の判断で動く遊撃隊員という形になっているらしい。

 

 フォワードから少し離れた位置に立つオレたちの前に、御神さんとリインさんが映ったモニターが浮かんだ。

 

『さて……言うまでもないと思うが、今から戦う相手は無数のガジェットに残りの戦闘機人全員、さらに凄腕の召喚士メガーヌと奴らを束ねる黒幕スカリエッティまでも相手にすることになる。今までよりはるかに厳しい戦いになるのは間違いない』

 

『だが、隊長も私もおそらくお前たちを助けに行く余裕はないだろう』

 

 御神さんとリインさんの忠告にオレたちは沈黙を返す。

 そこでリインさんはオレたちを安心させるように笑みを浮かべ……

 

『しかし、お前たちも半年前に比べてかなり強くなった』

 

 その言葉にオレたちは思わず目を見張る。御神さんも顔を緩めながら言った。

 

『まだまだ至らない所は多々あるが、ガジェットやゴーレムに苦戦していた頃に比べれば皆見違えるほど成長した。今のお前たちならナンバーズや召喚虫とも渡り合える。――その気概を持っていってこい!』

 

「――はいっ!」

 

 隊長たちの激励にオレたちは強い返事を返す。隊長はうなずき、ミカ姉に顔を向けた。

 

『ミカヤ、お前は()()を止めに行きたいと言っていたが……』

 

「――はい。指示や命令に背くつもりはありません。ですが、できればあの子は私が止めたいと思っています」

 

 それを聞いて御神さんは少しの間沈黙を挟み、

 

『わかった。元より向こうに比べてこっちは手が足りん。ミカヤには“彼女”の切り離しと説得、もしくは捕獲にあたってもらう。ただし、危なくなったらすぐ他の味方のもとまで下がってくれ――いいな!』

 

 その命令にミカ姉は「はい!」と返事を返す。

 ちょうどそこで頭上からシャーリーさんの声が響いた。

 

『召喚士メガーヌが現れました! 無数の召喚虫やガジェットといっしょに第5廃棄都市に現れて、そこからまっすぐ『行政区』に向かっています!』

 

「行政区……なんでそんなところに?」

 

 ルーテシアは怪訝そうに母親の行き先をつぶやく。

 一方、オレは()()()()を思い出し――

 

「まさか、向こうにある転送ポートを狙ってるのか!?」

 

 父さんから聞いたことがある。行政区には一つだけ、万が一通信が使えなくなった時のために設けた『本局への転送ポート』が存在するって。――あれを使って本局に侵入するつもりか。

 

『行政区の様子は?』

 

『あそこには現在誰もいません。議員も警護隊もその他住民も皆脱出した後です』

 

 シャーリーさんの報告に御神さんもオレたちも安堵と懸念の混じった顔を浮かべる。政治家や住人を巻き込む危険はなくなったが、転送ポートを守る人間もいない状態か……。あの人や秘書さんならメガーヌや戦闘機人とも渡り合えるだろうし。正直、いてくれてた方がよかった。

 

『……わかった。フォワードとともに市街に降下しつつ、フィルダーは彼女たちと別れて行政区に向かってもらう。――機動六課独立遊撃分隊、フィルダー部隊出動!』

 

「――はいっ!!」

 

 御神さんの号令を受け、オレたちはフォワードとともにハッチまで向かう。

 ギンガさんもなのはさんに一言告げた後、彼女と拳をぶつけあってから続いてきた。

 

 

 

 

 

『御神三佐とリインフォース二尉の能力限定(リミッター)、完全解除……頼んだわよ』

 

「はい。ありがとうございます、レティ提督。――じゃあ俺たちも行くぞ。スカリエッティたちを捕まえて、()()()()《ゆりかご》を止める!」

 

「――ええ、行きましょう!」

 

 俺の呼びかけにリインは力強いうなずきと返事を返してくれた。

 

 

 

 

 

 

『まさかバラッツァが二番目(ドゥーエ)の変装だったとはな』

 

『そうとも気付かず我々は彼女に自身の命綱を握らせていたというわけだ……危ういところだった』

 

 肝を冷やした()()()口調で“(書記)”と“(評議員)”がつぶやく。

 そこで彼らの中央に浮かぶ“(評議長)”が言葉を発した。

 

『ジェイル。我々は今まで君の研究に惜しまず援を施してきたし、その功績に免じて多少の勝手も許してきたつもりだ。だがレリックの発見以来、その勝手が過ぎるようになった。たびたび管理局に混乱を招き地上本部を襲撃し、あまつさえ次元平定の切り札たる《聖王のゆりかご》を勝手に動かすなど、我々の目的の真逆をいく行いだ!』

 

『君を生み出し、戦闘機人と人造魔導師を開発させ、そして《聖王の器》を蘇らせたのは、治安が悪化し混迷を極めている次元世界の『再平定』のため。それを阻むというならお前といえども……』

 

『今なら取り返しがきく。すぐに《ゆりかご》を停止させてナンバーズを退却させたまえ! あの船は破壊したと公表しつつ、同志の誰かに頼んで他の世界に移させておこう』

 

 書記は鋭い口調で詰め寄る。しかしスカリエッティは不敵な笑みを浮かべて……

 

「嫌だね」

 

『なん、だと……』

 

その返答に評議員は戸惑いに満ちた声を漏らす。スカリエッティは嘲るかのような笑みを浮かべたまま続けた。

 

「古代ベルカのロストロギアの中でも最強と言われた船をようやく動かせるんだ。あの力があれば次元世界の再平定など簡単にできる。それにあれがあれば私の夢――あなたたちから植え付けられた『生命操作技術の完成』という大望も叶う――それをなぜ止めなければならないんだい?」

 

 心底理解できないと言いたげにスカリエッティは肩を竦める。

 それに対して――

 

『そうか……やむを得んな』

 

 書記は短くそう漏らす。続いて評議長が厳かな声を発した。

 

『ジェイル……我々が偶然見つけた“漂着物”から生み出し育て上げた『アルハザードの遺児』。《アンリミテッド・デザイア(無限の欲望)》と呼んだこともあったな。我々の理想を叶えるため、お前は欠かせない存在()()()……しかし戦闘機人はほぼ完成し、人造魔導師は問題が目立つものの、肝心な《聖王の器》は見事な完成を遂げた……』

 

 評議長たちはそこで言葉を止め、冷たい沈黙を挟む。

 つまるところ、ジェイル・スカリエッティはほぼ用済み。生かしておく意味などないという事だ。

 無論、まだ人造魔導師は完成しきっていないし、戦闘機人やゆりかごの調整、それらとは異なる新技術の開発のためにもスカリエッティを手放したくはない。

 しかしここまで反意をあらわにした以上、手元に置いておくのも限界だった。

 

『誕生時からお前の脳には我々の意思一つで爆発する装置が入っている』

 

「ああ、『ヴァンデイン』が開発した玩具(オモチャ)だったね。よく知っているとも。あれがなければもっと手早いやり方で進めていただろうから」

 

『どんなに離れた次元にいようと起動させられる代物だ。お前が今どこにいようとAMFを張ろうと逃れるすべはない。お前ほど優秀な個体を失うのは本当に残念だが……』

 

『これも次元と世界の平和を維持するためだ。悪く思うな。この数十年、本当にご苦労だった……』

 

 ねぎらうような言葉の後、評議員たちは長い間を挟む。それはほとんどの管理世界で廃止された死刑の前に行う黙祷に似ていた。

 スカリエッティもその後ろにたたずむウーノも黙って彼らと相対する。

 それから二分ほど経った後……。

 

『お前が残した技術は無駄にせん――さらばだ、ジェイル・スカリエッティ!』

 

 冷たく厳かな声で評議長は告げる。

 

 

 

 その五秒後、スカリエッティの口から「ボンッ」という()が漏れた。

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