魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第47話 決意

 首都近郊・聖王医療院。

 

「――こっちです! 病院を出てそのまま外にある車両に――」

「落ち着いてください! まだ機械は来てませんから!」

 

 病院の内外では看護師や救急隊員、それに医師らも加わり、ほぼ総出で患者たちを移送させる準備をしていた。

 そんな中、外の騒ぎを耳にしながらヴァイスがむくりと体を起こした。

 すると――

 

「目覚めたか」

 

 隣のベッドから野太い声がかかり、ヴァイスは痛みが残る頭を抱えながらそちらを見る。

 そこには体中に包帯を巻いた筋肉質の大男、ザフィーラが横たわっていた。

 それを見た途端、ヴァイスの脳裏に先日までの記憶がよみがえった。

 

「たった今っスよ――今日は何日の何時っすか? 俺は何日寝てた――」

 

「本部と六課の襲撃の日から四日だ。新たな事件が起こっているそうだ。動けるメンバーは全員出動している」

 

「ヘリなしでですか!? ――くそっ、俺はこんな大事な時に!」

 

 ヴァイスは思わず体を起こし、鋭い痛みにうめきを漏らす。そこに――

 

「ヘリはアルトさんが操縦するって」

 

 ふいに幼さの残る少女の声が響き、ヴァイスとザフィーラは出入口の方に顔を向ける。

 そこには赤茶色の髪を短く切り揃えた少女が立っていた。隊舎で見た幻と違って身長はぐんと伸びており、紺青色の左目も()()()()()()()()()()()()無事なままだ。

 唖然と「ラグナ」とつぶやく(ヴァイス)を前に、ラグナは続けた。

 

「シグナムさんとアルトさんが教えてくれたの。それから怪我して大変だからお見舞いしてあげてって……お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 心配そうに尋ねる妹に、ラグナは「ああ」と返す。

 

「怪我はそんなに心配ないそうだよ。静かに入院してればすぐ治るってお医者さんが言ってた」

 

 「そうかい……」と言ってヴァイスは視線を下げる。彼女の目を見てると“あの事件”の事が頭に蘇ってきて、いまだに視線をそらしてしまう。

 

 

 6年前、ラグナは逃走中の犯人に人質に取られ、その時、たまたま空いていて人質(ラグナ)の肉親でもあるヴァイスが犯人の狙撃と彼女の救出を担当することになった。

 しかし運悪く犯人が動いたせいか、妹を人質に取られた動揺のせいか、弾は外れ、ラグナの左目に命中してしまった。

 銃と弾は非殺傷モードだったのだが、柔らかい子供の眼球への衝撃はすさまじく、ラグナの左目は損傷し摘出もやむなしとされていた。

 もし“ある管理外世界”で治療しなければ、左目の視力が戻ることはなかっただろう。

 その世界とそこに住んでる科学者一家を紹介してくれたシグナムや健斗に恩を感じているのもそのためだった。

 

 

 

「あのね、こんな時だけど……ううん、こんな時だからお兄ちゃんに話したいことがあるの。……私、今年で初等科を卒業するんだ。『エルトリア』で目を治してる間学校を休んでたから……」

 

「……すまねえ」

 

 顔を歪めながら謝る兄に対して、ラグナは笑みを作りながら首を振った。

 

「ううん。1年くらいの年の違いなんてみんな気にしないし、ハリーちゃんとか仲良くしてくれる友達もいるから」

 

 ラグナは今年で12歳。ミッドチルダではほとんどの子が中等科に通っている歳だが、ラグナはあの事件の直後、左目の治療のため『エルトリア』という世界で療養しており、その間一年間休学していた。

 そのため彼女はまだ初等科5年で、来年から中等科に進学するか、あるいは何かの仕事に就く予定になっている。両親の方針やラグナ自身の性格からして、おそらく中等科の方に進むだろう。

 

 とヴァイスは思っていたのだが……。

 

「お兄ちゃん……私ね、今の学校を卒業したら管理局に入ろうと思ってるんだ」

 

「――っ、なんだって……」

 

 その一言を聞き、ヴァイスは思わず顔を上げてラグナを見る。ザフィーラも驚いたように目を見張っていた。

 そんな中、ラグナは強い光がこもった両眼でヴァイスを見上げながら続けた。

 

「お父さんとお母さんからは中等科を出てからにしないかって言われてるんだけど……どっちにしても学校を卒業したら管理局の訓練校に行くつもり。お母さんたちも納得してくれた」

 

 ヴァイスは唖然としながらラグナを見ると同時に、両親に向かって恨み言を飛ばす。事件に巻き込まれて左目を失いかけた娘を局員にするなど正気なのかと。

 そして……

 

「……なんでだ? 仕事なんていくらでもあるだろう。学校だって居心地が悪いなら別のとこに行けばいい。なんでよりによって管理局に……。管理局の局員は犯罪者と戦ったり捕まえたりする仕事だ。あの時の犯人みたいな奴を捕まえる仕事が来るかもしれねえ――またあんな目に遭うかもしれねえんだぞ!!」

 

 体の痛みも感じていないかのように、ヴァイスは前のめりになりながら叫ぶ。しかしラグナは「わかってる」と頷き――

 

「でも、昔からお兄ちゃんみたいな局員さんにあこがれていたし、あの時の私のような子を出したくないから――だから私も管理局に入るって決めたの!」

 

「……でもよぅ……」

 

 ヴァイスは辛そうに顔を歪めながら説得しようとする。そこでラグナは頬を膨らませ――

 

「もう、いつまでもウジウジして! そんなんだからアミタお姉ちゃんにフラれるんだよ!」

「――ば、馬鹿! あの人は関係ねーだろう!!」

 

 思わぬ名前を出され、ヴァイスは思わず声を荒げる。

 

 

 アミタとは先述した科学者一家の娘、アミティエ・フローリアンのことで、彼女とヴァイスはラグナの介護や治療費代わりにフローリアン家の手伝いをしているうちに仲良くなり、彼女の両親と妹、はやてたちそっくりな隣人たちからは半ば許嫁のような扱いを受け、ヴァイス自身ラグナを故郷に送り返した後はアミタらとともにエルトリアで残り一生を過ごすのもいいかもしれないと思っていた。

 しかしラグナの目が完治すると同時に、他ならぬアミタからミッドチルダへの帰郷を勧められ、その恋路はあっさり終わりを迎えてしまった。

 アミタなりにヴァイスの未来を考えたうえでの決断だったのか、ラグナの言う通り愛想をつかされただけなのか、今のヴァイスはまだ知る由もない。

 

 

 

「エルトリアで治療したおかげでこのとおり目だって治ったし、私はもう大丈夫だからお兄ちゃんは自分のことを考えて! ここで休むなりアルトさんたちのところへ行くなり、お兄ちゃんの好きにしていいよ!」

 

 そう言ってラグナは強い笑みを浮かべる。そこで横からふふっと笑声が漏れてきた。

 

「シグナムらの話から想像していたよりずっと(したた)かな妹御だな。……シグナムから頼まれた、お前が目覚めるまで見守る役目は済んだ。私は一足先に行かせてもらう……」

 

 そう零すと、ザフィーラは痛みに耐えながらベッドから降り、出入り口に足を進める。それを見てヴァイスとアルトは目を見張った。

 

「――旦那! あんた、そんな体で――」

 

 たまらず声をかけるヴァイスを振り向きもせず、ザフィーラは厳かな声で続けた。

 

「機動七課の一員として、主はやての騎士として、やらねばならぬことがある。どう生きるかどう戦うか、ここから先はお前が決めろ。……ラグナ殿、兄の事を頼めるか?」

 

「は、はい――」

 

 すれ違いざまに声をかけるザフィーラに、ラグナは上ずった声を返す。

 その後ろで「旦那!」と声をあげながらヴァイスもベッドから降りる。だが、床に足をつけた瞬間、そこから伝わってくる激痛にうめき、動きを止めてしまう。

 それを見て駆け寄ってくるラグナを制したところで――

 

『Don't forget me!』

 

やや下の方から無機質な声が響き、兄妹はそちらを見る。二人の視線の先にある床頭台の上には、碧い宝石が嵌めこまれたカード状のデバイスが光を放っていた。

 

「ストームレイダー……」

 

 その名をつぶやきながらをヴァイスはしばらく相棒を見、そして強い頷きを返しながら言った。

 

「……ラグナ、医者とか看護師に聞かれたら俺たちはいなくなってたと言っておいてくれ。旦那も俺も、やらなきゃいけねえことがあるからよ!」

 

「うん! お兄ちゃんもがんばってね!」

 

 妹からの激励にヴァイスは笑みを浮かべながら頷き、おぼつかないながら迷いのない足取りで部屋を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 しばらく飛んだところで年代物のビルや建物が並ぶ地区が見えてきた。

 議会をはじめとする政治施設や議員の宿舎が並ぶ『クラナガン中央1区』――通称『行政区』だ。

 

 目的地を眼下に収めてすぐ転送ポートがある議会に向かおうとするが――

 

「――待てレツヤ! 下を見ろ!」

 

 チンクの一声につられて下を見ると、行政区の周囲で陸戦魔導師とガジェットが戦っているのが見えた。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

「これ以上通すなっ! こいつらを通したらクラナガンはおしまいだぞ!」

 

 攻撃を受けて倒れる隊員の横で、別の隊員は光弾と怒声を放つ。しかし、彼らの攻撃のほとんどはAMFに弾かれてむなしく霧散していった。

 それを見て――

 

「はあああっ!」

 

 オレは下に降りながらガジェットたちを斬り裂き、チンクとルーテシアも旋空王の上から短剣や衝撃波を飛ばしてガジェットを破壊していく。

 

「航空隊……?」

「いや、見覚えのない奴ばかりだ……まさかあいつらが――」

 

 魔導師たちは攻撃の手を止め、こちらを見ながらつぶやきを漏らす。

 その横で三型ガジェットが標準を向けるのを見つけて――

 

「危ない――伏せろっ!!」

 

 怒鳴りつつガジェットに向かって飛び込む。

 しかし、ガジェットは高密度のAMFとベルト状のアームでオレの斬撃を受け止める。さらにその後ろから五体ものⅠ型ガジェットも現れてきた。

 くそ、(メガーヌ)が召喚しただけあって手ごわいな。こんなのに手こずってる場合じゃないのに。

 ここはオレの技能で――

 

「――テンドウ、下がれ!」

 

 突然あらぬ方から名前を呼ばれ、後ろへ跳び下がりながらそちらを眺め見る。それと同時に薬莢がバラバラッと落ちる音が聞こえてきた。

 

「カートリッジロード――全員撃てえええっ!!」

 

 新たに声が上がった瞬間、数十発もの光弾が横なぎに降り注ぎ、AMFを貫きガジェットたちを撃ち抜いていった。

 

 声の主は杖砲を構えながら油断なくガジェットを睨む。後ろと左右で杖を構えている隊員たちもだ。その横で女隊員はすばやく周囲に目をやり、腕輪型の探査用デバイスを見ながら声を上げた。

 

「ガジェット群完全停止――敵の出現に備えつつ布陣を立て直してください!」

 

 彼女の指示に隊員たちは「おう」と返事を返しながら防衛線の前に陣取る。

 オレはもちろん他の魔導師やルーテシア、チンクも唖然とした顔で彼らを見る。

 なぜなら――

 

「アレン隊長……セオドア先輩にみんなも……」

 

 つい五日前はガジェットに手も足も出せなかった『056隊』が、オレを嘲りチンクに言い負かされて退散していった隊長と彼に従うしかできなかった先輩が、大型ガジェットを破り一糸乱れぬ統率で次の戦いに備えていたからだ。カートリッジも一部の隊員のデバイスにしか備わっていなかったはずだ。

 まさか、この短期間の間にデバイスを改造したうえに、カートリッジの使い方も覚えて――。

 

 厳しい面持ちで部下たちを眺めつつ、隊長はオレの隣まで来て言った。

 

「テンドウ、いや『機動七課』、ここは俺たちが引き受ける。お前たちはこのまま先へ向かえ!」

 

「えっ、でも隊長――」

 

 思わず反論の声を上げかけるオレに彼は首を横に振り、

 

「さっき、妙な女があの機械を呼び出して行政区へ飛んでいった。お前たちの役目はそいつを捕まえることだろう。あんな機械にいつまでも手こずってるほど俺たちも無能じゃねえ。いらん心配してないでさっさと奴を捕まえに行ってこい……俺たちじゃあいつを捕まえられそうにねえ。お前たちだけが頼りだからな」

 

 最後の一言にオレは自分の耳を疑う。“お前たちだけが頼り”……さんざんオレを馬鹿にしていた隊長の口からこんな言葉が出るなんて……。

 

「私たちも数日間、他の部隊からガジェットの事を聞いたりカートリッジつけたり、できるだけの対策はしてるから。もうあんなロボットなんかに負けない! レツヤ君たちは犯人を捕まえに行って! あなたたちもお願いします!」

 

「――ああっ」

 

「……うん」

 

 二人を見上げて言う先輩に、チンクは返事をルーテシアは頷きを返す。

 だったら――

 

「わかりました。ここはお願いします! アレン隊長もセオドア先輩も他のみんなも気を付けて!」

 

 頷きながら声をかけるオレに、隊長と先輩は頷き返し、他の隊員も手をあげたり「お前も気をつけろよ」と声を返してくる。

 そんな同僚たちに背中を向けて、オレたちは先へと向かった。

 

 

 

――まさか、あいつがミッドの命運を背負う日が来るとはな……なんだかんだ言って“ダイレル・クライスラー三佐”の息子ってわけか……。

 

 複雑な思いを抱きながらアレンは“憧れの英雄”の息子を見送る。

 

 レツヤの父、ダイレル・クライスラーはアレンの父の上官で命の恩人だった。

 どれだけの敵に囲まれようと、彼らが動く隙も与えず一瞬で薙ぎ倒し、一人も逃がさず捕まえる。ダイレルはそんな奇跡を何度も何十回も成し遂げた男だった。

 アレンの父がピンチに陥った時も、ダイレルは後方からあっという間もなく駆けつけ、父を救ってみせた。それを聞いてアレンはこの手で彼に恩を返したいと思うと同時に、彼のように部下を救える人間になりたいと心の底から思った。

 

 しかし、ダイレルは十年ほど前、ある事件を解決して二佐に昇進すると同時にレジアスとゼストの引き留めにも応じず管理局を辞して『躍進党』の政治家に転身し、管理局の縮小と局から独立した『防衛軍』の設立を提唱するようになった。

 それを“裏切り”ととらえたアレンはダイレルを憎悪――父はそれほどでもなかったが――。彼への憧れを捨て、ダイレルの名声と防衛軍などという妄言を掻き消すほどの手柄を立てると誓った。

 そして数年後、何の因果か、苦心の思いで昇進し初めて隊長を務める部隊に“ダイレルの息子”がいた。

 

 おそらくこいつも適当な手柄を立てて退局し政治家になるつもりだろう。希少技能(レアスキル)持ちとしてランクもいきなりA。しかも実戦ではほとんど役に立たないだろうスキル。

 だから()()()()()評価を与え、散々こき下ろしたのちにどこかの小部隊に追いたててやった。……それでダイレルにせめてもの復讐を果たした気になった。

 

 今思えば馬鹿らしいとしか言いようがねえ。それがダイレルへのダメージになるか? 現に奴はこっちには苦情ひとつ言ってこず、涼しい顔で政治家を続けていたんだぞ。

 それに対し、レツヤは向こうで力をつけ、俺たちの危機まで救ってくれやがった。

 成長した奴に対して、自分の矮小さに惨めささえ感じる。

 

 

「このままじゃ終われねえ……せめて、ここを守るぐらいの事はして見せねえとな。ガジェットだろうが戦闘機人だろうが、いつでも来やがれ。奴のもとへは絶対に通さねえからよ!」

 

 そうひとりごちて、アレンはガツンと拳をぶつける。それにセオドアと何人かの部下が決意に満ちた頷きと笑みを返した。

 

 

 

 

 

 

 隊長たちと別れ、オレたちは無人の行政区に足を踏み入れる。

 議事堂の隣にある『別館』と呼ばれる建物の屋上。

 そこに“彼女たち”は立っていた。

 

「来たわね……」

 

 笑みも浮かべず、彼女は冷たい声を放ってくる。

 その隣には妖精のように小さな少女の姿をした融合騎が浮かんでおり、さらにその隣に首元に赤いマフラーを巻き全身を黒い殻で覆った獣が立っていた。

 彼女らのまわりにはさらに無数のインゼクトが飛び回っている。

 それを見上げてルーテシアは口を開きかける。

 しかし、それより先にオレが彼女たちに向かって言った。

 

「もう名乗るまでもないと思うが、オレは時空管理局・機動六課の独立遊撃部隊、レツヤ・テンドウ。

 メガーヌ・アルピーノ、アギト――レリック強奪未遂、公務執行妨害、騒乱罪の現行犯でお前たちを逮捕する!」

 

 剣の柄に手をかけながら宣言する。それに対し、メガーヌも白色の宝石付きの籠手を嵌めた両腕を構えた。




『EXCEEDS』発表きましたー!
もちろん当作でも『愚王の魂』と『剣銃士』の間の話として『愚王版EXCEEDS』を連載します!
早期のネタバレはしたくないのと矛盾を出したくないので、テレビ版を追いながら書きためつつ、テレビ版が終わった頃から投稿していきたいと思います。

現在のシリーズもちゃんと続けます。『戦力限定』という設定上、EXCEEDSで新キャラが出ても六課や七課に入れるのは難しいので、リメイク等の予定もありません。

リアルが忙しいのと戦闘シーンの連続でペースが遅くなっていますが、完結目指して頑張ります!
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