魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
ミッド議事堂の一室に設置されている『本局への転送ポート』。
御神さんがポートと繋がっている端末に50桁以上のパスワードを打ち込んだ途端、ポートを照らす光は明るい緑色から毒々しい紫紺色に変わる。それは次元空間のような、あるいは御神さんの魔力色のようで、複雑な思いを持ちながら彼の方を見る。
一方、御神さんはわずかに眉を顰めながらも淡々とモニターを閉じ、転送ポートに顔を向けた。
「この先は最高評議会が治めていた“暗部”だ。ガジェットやナンバーズの他に、侵入者を始末するための仕掛けもあるかもしれん――油断するなよ!」
その指示にオレたちは「はい!」と応え、御神さんとリインさんに続く形で転送ポートの傍に立つ。そして彼がスイッチを入れた瞬間、視界が紫色に包まれ、紫紺色の次元空間が目に飛び込んできた。
その中に浮かぶ細長い足場にオレたちは立っていた。
――ほんとに管理局の施設なのかここ? スカリエッティの真のアジトって言われた方がまだ納得いくぞ。
「飛行魔法と旋空王で飛んでいく? その方が早いと思うけど」
ルーテシアの問いを聞きながら御神さんとリインさんは次元空間を見下ろし、リインさんが首を横に振って言った。
「いや、この下は人工的に作った《虚数空間》になっている。落ちれば魔力そのものが打ち消されて、飛行魔法や転移魔法を使えず真っ逆さまだ。AMFやガジェットの危険も考えると、この通路を走っていった方がいい」
「――了解!」
応えながらオレたちは周囲を見回し、敵がいないことを確認するや御神さんを先頭に一気に駆けだした。
『Detects the intrusion of an unregistered biological reaction. If no approval is given by the administrator within three minute, the "defense function" and "intruder exclusion unit" will be activated.Visitors must wait until approval from the administrator(未登録の生体反応の侵入を検知。三分以内に管理者からの承諾がない場合、『防衛機能』と『侵入者排除装置』を起動します。来訪者は承諾が取れるまで待機してください)』
あたり一面に警告音と音声が響くが、御神さんもリインさんも構わず駆け続ける。確かに律儀に待機する必要はねえ。むしろ機能とやらが動くまでの三分、少しでも先に進まねえと――。
「――、止まれ!」
突然御神さんが立ち止まりながら右手を張った瞬間、彼の横から黒いビームが飛んでくる。御神さんは防御陣でそれを受け止める。
それとともに、通路の先にミッド式の魔法陣が現れ、白色や銀色の大型機械が浮かび上がってきた。
「新型のガジェット……ですかね?」
「あるいは排除装置ってやつかも」
「どっちにしろ、まだ十秒も経ってねえだろう。なんでこんなに早く攻撃してくるんだ?」
チンクとルーテシアのつぶやきに続いて、オレも突っ込みじみた疑問を漏らす。御神さんは剣を取り出しながらそれに答えた。
「たぶん、向こうが装置を起動したんだろう。スカリエッティか評議会かはわからんが――それより構えろ! もうどこから敵が出てきてもおかしくない!」
御神さんの指示通り、オレたちはすぐに
――が、御神さんはその前に機械の眼前に跳び、袈裟切りに剣を振り下ろした。それに続いてリインさんも右手から撃ちだした砲撃で敵機を破壊し、御神さんとともに新たな獲物に飛び掛かる。
それを見て――
「オレたちもいくぞ! 隊長たちにばかり任せるわけにはいかない!」
「――うんっ!」
「ああっ!」
排除装置やガジェットを破壊し、あらぬ方から飛んでくる光線やバインドが仕掛けられてるらしい色違いの床といったトラップを躱しつつ、オレたちは最深部めがけて進んでいく。
できる限り速く、なおかつ慎重に。だが――。
「――行き止まり!?」
途切れた道とその先にぽっかり空いている紫の空間を見て、思わず驚嘆の声を上げる。さすがに予想外だったのか、御神さんとリインさんも大きく目を見開いて先を凝視した。
ここが最深部……なわけないよな? 評議会って爺さんたちもスカリエッティらしき奴も見当たらないぞ。
「…………あの先に道があります。危険ですが飛行魔法や召喚虫で飛んでいくしかありませんね……」
視力強化魔法をかけた眼を凝らしながらリインさんは呟く。それを聞いて御神さんも視力強化をかけながら先を睨み、オレたちの方を見る。
ここで置いていくべきか、“先”を見据えてこの危険に挑ませるか……。そんな考えを浮かべながら顔を向ける隊長に――。
「行きましょう! こんなところでぐずぐずしてたらまた別の罠が起動するかもしれませんし、早くスカリエッティを捕まえてフォワードと部隊長たちの助太刀に行かないと!」
反射的にそう叫ぶオレに御神さんはこくりと頷き。
「わかった。もう一度言うがこの下は飛行魔法も転移魔法も効かんし、二度と上がってこれるかもわからん。くれぐれも落ちないように気をつけろ!」
その言葉に頷き、御神さんとリインさんと一緒にオレは通路の端に足をかけ、その後ろでルーテシアが旋空王を呼びだし、チンクとともに飛び乗る。
そしてオレたちが宙に飛びあがったその時――
「みんな気をつけろ! 敵だ!!」
リインさんの声とともに、彼方からガジェットⅡ型の群れが現れ青色の光線を撃ち放ってくる。
オレと御神さんたちはすぐに躱すが、チンクも巧みに手綱を捌いて旋空王を浮かせ、回避させる。
だが――
「ギィーーー!!」
あらぬ方から飛んできた“
オレは刀を握りブレードを投げてきた敵、セッテを睨み――
「“ストッ――」
「させるかっ!」
技能をかけようとした瞬間、目の前に現れたトーレに殴りつけられ、オレは近くに浮かぶ円形状の浮島まで吹き飛ばされた。
「レツヤ!」
御神さんは叫び声をあげながら助けに入ろうとする。が――
「――ドクター、今です!!」
空中に向かってトーレが叫んだ瞬間、空間が揺らぎ、御神さんたちも周りの足場も消えていく。これはまさか……。
「もうあの二人は来られない。お前たちもここから脱出することはできんぞ」
そう言いながらトーレはオレの前に降り、セッテもその隣に降り立つ。傷ついた旋空王と乗っていたチンクたちもオレの隣に着地してきた。
オレはもう一度あたりを見渡しながら……。
「……
その問いにトーレは頷き。
「ああ。ドクターが操作するか座標を打ちなおす以外に向こうに戻るすべはない。そしてあちらの座標を知っているのも、打ち込むためのコンソールを出せるのも私とセッテだけだ。――つまり、ドクターと私たちの気分一つでお前たちは永遠にここに閉じ込められることになる」
「それが嫌なら、どうするべきかわかりますね?」
手元に戻ったブーメランを握りながらセッテも迫ってくる。
オレは頷き、
「ああ――お前たちをぶっ倒して、力づくで座標を吐かせてやるよ! ケガしないうちに降参した方が身のためだぜ!!」
獰猛な文句と笑みを向けながらオレは刀を構え、ルーテシアとチンクも態勢を整える。それを見て……
「やはり、ただで降ってはくれませんか」
「ああ。メガーヌ様を破りここまで来るような奴らがこの程度の脅しで投降するわけもなかろう」
残念そうに零しながらセッテはブレードを構え、トーレもぎゅっと拳を握り――次の瞬間、両腕をあげながらオレの眼前へ迫ってきた。
Ⓒ
ナンバーズとともに消えたレツヤたちをしばらく探したのち、空間を隔絶されたことに気付き、やむなく先へ進む。
もしあの二人に勝てなかったとしても、スカリエッティさえ捕まえればここへ呼び戻すことは可能なはずだ。……虚数空間へ落とされでもしなければだが。
「はあっ!」
苛立ちをぶちまけるように砲撃を浴びせ、前を塞ぐ排除装置とガジェットを破壊していく。
リインもそれに加わりながら――
「あそこです! もしかして、あの奥が――」
ただっぴろい空間の中、200mほど上に浮かぶ“白い門”を指しながらリインが叫ぶ。
“正義”を示す『白』と“権力”を表す『門』……評議長たちの性格を考えると、あそこで間違いなさそうだな。
「隊長、
「いや、スカリエッティ以外にナンバーズが何人残ってるかわからん。場合によっては評議会とも戦うことになるかもしれんしな。むやみに手数を減らす真似をするべきじゃない」
そう言うとリインも納得したように頷き、残りのガジェットと装置を破壊しつつ門の前まで飛ぶ。
そして門に手をかけ、『開きますよ』と言わんばかりの顔を向ける。俺は頷き、剣を握りなおしながら門の向こうへ飛び込んだ。
「ほう、早かったね。三人も減ったから手間取ると思ったんだが……いや、足手まといがいなくなった分早く進んでこられたのかな?」
部屋の中央に浮かぶ足場の上に立つ、白衣を着た紫髪の男はそんな言葉と笑みを向けてくる。その隣には男に似た色あいの波打った紫髪を下ろした妙齢の女が立ち、さらに二人の奥には透明な水に浸された脳髄を入れた三本のポッドがそびえ立っていた。
それを見て思わず目を見張ったところで――
『み……御神……』
ポッドから声が響き、俺とリインは声を上げかける。スカリエッティと女も驚いたように目を見張り、後ろを振り返った。
「おや、まだ生きていたのかい? “英雄”と呼ばれるだけあって大した生命力だね」
『御神、助けてくれ……ハラオウン一家にも、テスタロッサたちにも手はださん……だから、私を……』
スカリエッティも無視し、中央に浮かぶ脳――評議長は苦しげな声を絞り出してくる。あの様子じゃ他の二人はもう……。
『そ、そうだ……君を評議会に入れてやろう……それで君もこの次元の支配者だ……寿命が迫ったら我々のように延命措置も受けさせると約束する……だから――ぐぅぅっ』
くぐもったうめき声を漏らしながら、評議長は足掻くように
『まだだ……まだ死ぬわけには…………たとえ愚王に縋ってでも……我々が……私がいなければ……わたしが、まもらなければ……この次元の秩序は再びほう、かい……し…………』
そこまで絞り出したところで評議長は動きを止め、今度こそ何も言わなくなる。それを前にスカリエッティは苦笑するような笑みを漏らしながら言った。
「やれやれ、こんな状態になって、私を生み出し研究させている生命操作技術を使って生き永らえようとしてまで次元の平和とやらを守ろうとするとは……大した、それでいて憐れな英雄殿だ。君たちもそう思わんかね? 元“愚王”、闇の書の管制プログラム」
「……スカリエッティ、そしてウーノだったか。違法研究、ロストロギアの無断収集、その他
チンクから聞いた“No.Ⅰ”の名前を記憶から掘り起こし、剣を向けながら呼びかけるものの、スカリエッティは首を横に振って言った。
「それは断る。地上で開かれている楽しい“祭り”
そう言ってスカリエッティが右手を上げると、空に浮かぶ《聖王のゆりかご》が映るモニターが現れる。
それを見て顔を硬くする俺たちを前にスカリエッティは続けた。
「あの船が軌道上に上がるまであと一時間を切った。そこまでいけば《レーゲンボーゲン》によるミッドへの空爆や次元跳躍攻撃も可能となり、地上部隊も次元艦隊も手が出せなくなる。そして、あの船の中で私は生命操作をはじめとした技術の研究を進め、全次元に真の平和を
「……全次元に」
「真の平和を齎す存在……?」
突拍子のなさのあまり、俺とリインはそのまま言葉を返す。そんな俺たちにスカリエッティは笑みを向けたまま頷いた。