魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第53話 ベルカ戦争の裏

「全次元の真の平和……“平和”を壊すような真似をしておいて、そんなものが実現できるとでも思っているのか?」

 

 戸惑いに沈みかける自身を叱咤しながら問いかける俺に、スカリエッティは眉一つ動かさず逆に問い返してきた。

 

「今のミッドが平和とでも? ある日突然数十人が死亡するようなテロが起きたり、他愛のない用事で出かけた子供が人質にされたり、肉親を失って天涯孤独になったり、自宅に押し掛けてきた研究者に連れ去らわれそうになったり、ロストロギアによる災害に巻きこまれかけたり――そんな事が何度も起きる世界が“平和”だと言えるのかい?」

 

「っ……」

 

 それらを聞いて思わず呻きを漏らしかける。そのほとんどが六課の隊員に起こった、あるいは起こるかもしれなかった事ばかりだからだ。

 

「それともう一つ、昨年、第3管理世界『ヴァイゼン』で起きた『鉱山崩壊事故』を知っているかね?」

 

「――!?」

 

 聞いたことがある。ある鉱山街で深夜発生した局地地震とそれによる有毒ガスの流出で、ほぼ全ての住民が死亡した自然災害。だが、一部の建築物や遺体の損壊状況の不自然さから、“事件”の可能性も上がっているという話も出ている。

 

「まさか、あの事件もお前たちが――」

 

 思わず声を荒げる俺に、スカリエッティは肩をすくめながら苦笑を漏らした。

 

「おいおい、話を出しただけで濡れ衣を被せないでくれたまえ。――だが君や一部の捜査官が考えている通り、あれは“事故”などではない。魔導師にとっては()()()()()()()()()()()厄介な連中が起こした“事件”だ。放っておけば“()()()()()()”になりえる者たちによる――」

 

「――“世界を殺す毒”!?」

 

 その言葉を聞いて俺はおろかリインまで目を見張る。なぜなら――。

 

「お前、“あいつら”のことを知ってるのか? それとも、やはりお前もヴァイゼンの事件や“あいつら”と関わりが――」

 

 激しい口調で問いを浴びせるが、スカリエッティは肩をすくめ……

 

「悪いが私もあちらについては危険性以上の事は知らないし、関わりなどまったくない。むしろ彼らと接触できないか手を尽くしたものさ。私としても彼らの力と源には興味があるからね――おっと、話が逸れてしまった」

 

 そこでスカリエッティは咳ばらいを挟み、取り直すように両手を広げながら続けた。

 

「つまり、違法魔導士による犯罪やロストロギア災害、そして“彼ら”のような不穏分子が潜んでいる状況ではじきに治安は崩壊し、各世界の住民は枕を高くして眠ることすらできなくなるだろう……そこで」

 

「まさか……評議会とお前が生命操作技術を完成させようとした目的は――」

 

 慄きながら問いを絞り出す俺に、スカリエッティは首を横に振り。

 

「いや、評議会はあくまで自身らの延命のために生命操作技術を利用しようとしていたにすぎない。ゆりかごがあれば治安も回復できると思っていたようだ。だが、私にとってはあれすら時間稼ぎの手段に過ぎない。生命操作技術が完成し“()()()()”が蘇れば、管理世界管理外世界問わず、全ての世界の人々が安寧に過ごす事もかなうだろう……それでようやく“実験台”となったベルカの人々や王族たちも報われるというものだ」

 

「なに――!?」

 

 故郷の名前が出て、俺はたまらず声を上げる。リインも目を見張りながら一歩足を踏み出した。そんな俺たちにスカリエッティは憐憫のこもった目を向けながら口を開いた。

 

「君も疑問に思っていたのではないかね? “()()()()”からほぼ無条件で与えられた高度な文明、それによって急激に発達した武器製造技術――そして“遺伝子改造によって生み出された王”と“コアを身体に入れた王しか動かせない船”のような兵器が開発されていった、ベルカの歴史の経緯を……」

 

「…………」

 

 ベルカの文明の発達とそれが元となって起きた戦争……それらはすべてベルカに文明と技術をもたらした《アルハザード》による陰謀、いや、何らかの目的を果たすための“実験”。ベルカの歴史やサニーが見つけた資料を読んだ時からもしやとは思っていたが……。

 

「やはり察しがついていたようだね。……さらにもう一つ付け加えるが、《王家》の中には他の王家と異なる役割を持つ家がいくつかあった。“ある存在”の血を濃く受け継ぎ、ベルカで行われていた(実験)を監理する血族たちがね。その一つが(愚王)の生家である『プリムス』、そしてもう一つは……『マセラティ』」

 

 その名を聞き、俺とリインは大きく目を見張る――いや、俺たちだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

『聞こえてるかい? レツヤ・クライスラー君、いや、“プリンス・マセラティ”。本名は知らないからそう呼ばせてもらうよ』

 

「――!」

 

 トーレの打撃を受け止めたところで、スカリエッティがオレの名を告げてくる。

 

『君の祖先は『セブリング王国』を治めつつ、聖王の腹心あるいは盟友として仕えていた。自身を傀儡に立てつつ実権を振るっていた『中枢王家』などより信頼されていたようだ。……だが、その裏でマセラティ家も聖王が戦船の起動者としてどのくらい機能しているか、アルハザード復活後の尖兵として力を振るえるか、緻密に監視していたのさ。『多世界大戦』の時代でも『諸王戦争』の時代でもね』

 

 今まで知らなかった我が家と先祖の正体につられ、どうしてもスカリエッティに意識を向いてしまう。それを狙ったように後ろからブーメラン状の(ブレード)が飛んでくる音が届いた。が――

 

「はあっ!」

 

 チンクは(プレート)を纏ったスティンガーを投げてブレードを撃ち落とし、続けてセッテに残りのスティンガーを撃ち込む。

 だがセッテは円状のバリアを張ってチンクの攻撃を凌ぎながら――

 

「IS――《スローターアームズ》!」

 

 IS名を口にした瞬間、落ちる寸前だったブレードは再び浮かび、回転しながらチンクに迫る。だがそこでルーテシアが飛び込み、チンクとともに姿を掻き消した。

 ブレードはそのまま空を切って持ち主(セッテ)の手に戻り、それとともに元居た場所の近くに二人が現れた。あの一瞬で転移魔法を使うとは、さすが召喚士(ルーテシア)。だが――。

 

「隙あり――はあああっ!」

 

 棒立ちしている二人の後ろにトーレが現れ、エネルギー翼の付いた腕を振りかぶってくる。それを見てオレは――

 

「“ストップ”!」

「しまっ――!」

 

 技能を使った瞬間トーレの動きが止まり、オレは刀を振り上げながら奴に迫る。が、セッテが投げてきたブレードが飛んできて、それを叩き落としている間にトーレは体の自由を取り戻し、オレから距離を取り口を開いた。

 

「ドクターがお話になった通りだ。お前も愚王も我々も、結局生み出された時からの定めを変えることなどできん。大人しくドクターのもとに下り、『王家の役割』とやらを果たせ。聖王の監視と“あの存在”の復活を見届けるという役割をな」

 

 言い返せずオレは唇を噛む。だが、

 

「違う!」

 

 その言葉とともに放たれた紫色の光弾を、トーレは腕を振るって弾き飛ばす。その向こうでルーテシアが声を張り上げた。

 

「レツヤも隊長も、自分の意思で管理局に入ってスカリエッティやゆりかごからミッドチルダと他の世界を守ろうとしてる。いつまでも自分から変わろうとしないあなたたちと一緒にしないで!」

 

「――貴様!」

 

 それを聞いてトーレは顔を歪め、ルーテシアに飛び掛かる。だが――

 

「はああっ!」

 

 オレは彼女たちの間に割り込み、刀でトーレの攻撃を受け止めた。

 

 そうだ。先祖が聖王を監視していた王家だろうと、親父が何を考えていようと、“今のオレ”には関係ない。管理局の一員として、クラナガンやミッドチルダの平和を脅かす犯罪者を捕まえないと!

 

 

 

 

 

 

 ルーテシアの一喝とそれによって戦意を取り戻したレツヤを見やってから、俺たちも気を改めてスカリエッティたちに目と得物を向けた。

 

「続きは本部か拘置所で存分に喋らせてやる。両手をあげてそのままそこを動くな!」

 

 荒くした声をぶつけるも、スカリエッティもウーノも手を上げるどころか動じた様子も見せず、スカリエッティに至ってはあからさまに肩をすくめて……

 

「やれやれ。いつの世も革新的な人間は虐げられるものだ。全次元の平和の訪れと君たちベルカ王族の犠牲が報われる日が近づいているというのに――ウーノ、手を貸してくれ」

「――はい」

 

 スカリエッティに命じられ、ウーノは一歩踏み出す。同時に彼女の足元から紫色の光が湧き上がり、紫色のバトルスーツに装いを変えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「はああっ――!」

 

 ウーノは前触れもなくリインの眼前に現れ、指から伸ばした刃を振り下ろす。この武器はドゥーエの――。

 

「っ――やああっ」

 

 一方、リインは防御陣で斬撃を受け止めつつ、ウーノのどてっ腹に拳を振るう。が、ウーノは瞬時にリインの真横に移動し、蹴りを打ち込んだ。

 

「やろう――」

 

 助太刀に入ろうとしたところで足場から赤い糸が伸び、足と剣に絡みつく。その真上からスカリエッティが声を飛ばしてきた。

 

「二人がかりで女性を虐めようとするのは感心しないな。元王とはいえ、私の(作品)に手を出そうとした以上相応の仕置きは覚悟してもらうよ」

 

 スカリエッティが爪付きグローブを嵌めた右手を握った瞬間、足に絡みついた糸が締まり、激痛が走る。

 

「ちっ――はあああっ!」

 

 魔力を込めた刃を振るって糸を断ち切り、そのまま元凶(スカリエッティ)の下へ飛び、剣を振り下ろす。

 だが、スカリエッティはグローブを持ち上げ難なく刃を掴んだ。

 

「それに、()()()を捕まえても徒労に終わる可能性が高い。もはや《ゆりかご》は止められんし、各地に散った作品(ナンバーズ)の体内には私のコピーを仕込んである」

 

「なに――?」

 

 思わず唸った瞬間、スカリエッティの左手から赤色の光弾が放たれる。魔法陣で光弾を弾き、刃を掴んでいるスカリエッティを強引に振り下とす。が、奴はなんなく真下の足場に着地し再び口を開いた。

 

「《プロジェクトF》を完成させてくれたプレシア・テスタロッサのおかげだ。作品のどれかが逃げ延びて一月(ひとつき)もすれば、私と同じ記憶を持ったコピーを復活させてくれるだろう。“この私”が捕まったとしても、“新しい私”が研究を再開してくれるというわけさ」

 

「馬鹿げた真似を……」

 

「旧暦の時代に君臨した、アルハザードの統治者たちにとっては常識の技術さ。それに君やエルトリアの科学者も似た技術で復活してるじゃないか」

 

 それを聞いて、怒りのあまり目が吊り上がる。同時に――

 

「――やはり、マクスウェルと通じてやがったな」

 

「今さら聞くまでもないだろう。彼からあのプラントの場所を聞き出して襲撃し、作品を一つ奪っていったんだから」

 

 その指摘に思わず舌打ちをしかける。

 八年前に捕まえた、『エグザミア事件』の主犯フィル・マクスウェル。奴の取引相手候補の中にスカリエッティの名前があり、あのプラントの場所も聞き出したのだ。それがなければ先に突入していたゼストさんたちの救助も遅れて違った結末を迎え、機動七課を結成することもできなかったかもしれない。

 

 

 

「スカリエッティ。貴様は絶対逃がすわけにはいかない。ここで捕まえてやる!」

 

「やってみたまえ。私を倒せたとしても、クアットロとゆりかごが軌道上まで逃げれば、あるいはトーレたちがレツヤ君たちを倒してしまえばすべて水の泡になるがね」

 

 

 《聖王のゆりかご》と《秘匿エリア》、機動六課と機動七課にとって最後となる戦いはそれぞれ佳境を迎えようとしていた。

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