魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

66 / 84
後日談1 新たな副官

 スカリエッティ一味による襲撃と《聖王のゆりかご》の暴走――通称『JS事件』と呼ばれる騒動から一ヶ月後。

 短く切り揃えた茶髪に眼鏡をかけ、()()()()()()を着た生真面目そうな女性士官が地上本部に足を踏み入れた。

 

 通りすがった局員たちが向けてくる侮蔑、あるいは憐憫のこもった視線を受け流しながら彼女はきびきびと足を運び、30階の半ばにある部屋に辿り着く。そして背筋を伸ばしたままコンコンと扉をノックし、自らの名と()()()()()を告げた。

 その直後、扉が真横に開き、中から「お入りください」と若い女の声が届く。女性士官は「失礼します」と告げて部屋に足を踏み入れた。

 彼女を出迎えるように銀髪の女士官が敬礼を向け、デスクの向こうに腰掛けていたオッドアイの青年士官が立ち上がり、口を開いた。

 

「お久しぶりです、オーリス・ゲイズ()()。思ったより早く釈放(かいほう)されたようで何より」

 

 憎たらしい笑みを浮かべながら言葉をかけてくる士官に腹ただしさを覚えながらも、オーリスは懸命にそれを飲み込み敬礼と返事を返した。

 

「そちらこそ事件解決と昇進の確約おめでとうございます。御神三佐……でいいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ。正式な昇進は七課解散後の予定ですから」

 

 そう言って健斗は再び腰を下ろし、深々と椅子に体を沈める。言葉とは裏腹にすでにこの執務室の主気取りでいるような姿に、再び引きつりそうになる額を抑えながらオーリスは尋ねた。

 

「その七課を空けていていいんですか? あなたたちは未だ機動六課分隊所属のはずですが……」

 

 問いをぶつけた瞬間、銀髪の女士官――リインフォースはばつが悪そうに視線を逸らす。それに反して健斗は首を軽く縦に振って、あっさり答えを返した。

 

本隊(六課)分隊(七課)もまだ隊舎の修繕が済んでおらず、隊員たちもほとんど休養中ですから。六課が実質休止している今のうちに異動後の準備をしているところです。レジアス“元”中将が残した仕事の引継ぎもありますから、向こうの業務再開後も六課と本部を往復する日が続きそうですが」

 

「――っ」

 

 最後に付け足された一言を聞き、オーリスはとうとう顔をしかめる。

 彼女の父、レジアス・ゲイズはJS事件中に逮捕され、現在も拘置所で裁判を待つ身となっている。地上を守るためとはいえ、汚職行為に手を染めた上に違法研究の支援をしたのは事実であり本人もすべての罪を認めているため、数十年の懲役は免れないだろう。その一方で、それらは全て地上部隊の戦力拡充ひいては地上の治安回復のためであり、彼にスカリエッティとの橋渡しを命じたのが管理局の首脳『最高評議会』だったこともあり、減刑を求める声も上がっているらしい。

 ――だがいずれにしろ、父が局員として復帰することはもうないだろう。そしてその仕事のほとんどを引き継ぐのが、さんざん父の世話になっておきながら失脚に追いやった小僧だと聞き、(はらわた)が煮えくり返る思いだった。

 

 “用”を済ませたら恨み言の一つでもぶつけてここから立ち去ってやろう。そう心に決めているほど。

 

 

 

「……そろそろ普通の口調で喋ってもいいか? 以前までと違って今は俺が上官だし、この状況で敬語を使うとどうしても嫌味がかった言い方になってしまう」

 

「ええ。私としてもその方が助かります」

 

 そこだけは強く同意する。三尉にまで落とされたにもかかわらず、以前と同じ態度を取られると当てつけられているようでひどく不愉快だった。

 

「オーリス・ゲイズ“元三等陸佐”。公文書偽造・会計偽装等の容疑で逮捕されたものの、それらは父・レジアス氏に強要されたもので、あくまでも地上を守るためだと信じたうえでの行動だったため、情状酌量の余地ありと判断されて釈放。そして半年間の謹慎および3階級降格を課せられたうえで復職を認められた……間違いないな?」

 

「はい。間違いありません」

 

 重い口調で訊ねる健斗に、オーリスは淡々と答えを返す。おそらくそれが父が罪を認める条件の一つだったのだろう。

 謹慎中は給料など出ないが、半年程度なら生活に困るほどではない。佐官まで昇れば基本給だけでも高くなるし、中将補佐およびアインヘリヤル建造指揮にはかなりの手当てが付いた。そしてオーリスには高額な報酬を使う暇も金のかかる趣味もなかったため、首都暮らしでも五年は働かずに過ごせる蓄えがある。

 それまで待たず再び管理局で働ける事になっているが……。

 

「謹慎が解けた後の予定は? 希望している部署や勧誘されているところはあるのか?」

 

「いえ、残念ながら希望する部署はありませんし、異動の話も来てはいますが左遷の域を出ない所ばかりです。三佐ならご存じだと思いますが“陸”は前科者に厳しいので」

 

 左遷されるだけならまだいい。父の違法行為を手伝う時点で逮捕すら覚悟していた。

 しかし、『前科者』や『罪人の子』というレッテルは想像以上に重く、周囲の視線も痛い。また、今まで必死に身に着けた能力がまともに活かせなくなるというストレスもかなり大きかった。それなら一思いに解雇された方がずっといい。

 自分の分まで罪を被り、管理局に残れるよう図ってくれた父には申し訳ないが、いっそこちらから――。

 

 

「オーリス――“俺たちと組む”気はないか?」

 

「……えっ?」

 

 思わぬ一言を聞き、オーリスは調子が外れた声を漏らした。

 

「私に七課に来いと……?」

 

 たまらず訊ねる彼女に、健斗は「いいや」と首を横に振る。

 

「さっき言った通り、七課は来年の4月に解散だ。ちょうど()()()()()()()()()()()()()()。その後、地上本部に移る俺とリインフォースの手助けを頼みたい。俺たちよりずっと前から本部(ここ)に勤めていて、レジアス中将の片腕を務めた経験と能力を見込んでの頼みだ」

 

「…………」

 

 オーリスは沈黙したまま健斗とリインフォースを見返す。すでに承知していたらしく、リインフォースも真剣な表情を返すのみだった。

 だが……。

 

「父を裏切ったあなたの(もと)に降る真似ができるとでも……」

 

 オーリスはついに頬を引きつらせ、憎悪のこもった眼で健斗を睨みつける。

 それに対し、この展開を予想していたように健斗は笑みを消し、首を縦に振った。

 

「確かに。今のお前なら管理局よりどこかの企業に移った方が能力を活かせるかもしれん――それを承知で言わせてもらおう。俺たちの元に来てくれ! 中将と地上市民からの信用を失い、前以上に苦境に立たされている地上本部を立て直すために。レジアスさんが果たせなかった責務を成し遂げるためにも――」

――その薄汚い口で父さんの名と夢を口にしないでください!!

 

 オーリスはついに怒声を上げ、迫るように距離を詰めてくる。それを見てリインフォースがオーリスを引きはがそうとするが、健斗は彼女たちを片手で制した。

 

「(こう見えて入局前はレジアスさんと何度も大喧嘩してたんだったな)……悪かった。確かに俺が言うべき台詞じゃなかったかもしれん。だが、落ち着いて考えてくれ。これはオーリスにとってまたとないチャンスになるかもしれない」

 

「チャンス……?」

 

 オーリスは怪訝な声を返す。それに健斗は頷きを返しながら言った。

 

「俺たちが就くポストは本部の中でもかなりいい位置にある。手柄を立てる機会も多いだろうし、新しい本部長にも目をかけられている。そのうえ本局との繋がりも作るつもりだ。そこで功績をあげれば、また出世コースに乗れるかもしれないんじゃないか」

 

「……それは、そうかもしれませんが……」

 

 確かに一理ある。JS事件解決の功績で七課と健斗たちも高く評価されており、七課の拡大や本局に戻す話も出ているぐらいだ。地上本部でも最も活躍が見込まれている人間と言っていい。そんな人間につけば再起の機会も見つけられるかもしれない。

 そう理解しながらも、父の(かたき)に降るなど許せずオーリスは口をつぐむ。それを見透かしたように健斗は“第二の利点”を挙げた。

 

「もう一つ。父親を追い落とした俺に復讐するチャンスもできるかもしれん」

 

「――っ!?」

 

「健斗――?」

 

 オーリスは目を見張り、リインまでもが戸惑いの声を上げる。健斗は構わずに続けた。

 

「組織そのものを変えたり世界を守るためにきれいな手段ばかり使っていられん。こっちがその気じゃなくても美味い話を持ちかける奴も腐る程出てくるし、法に外れた手段を取らざるを得ない事も出てくる。そのうち俺を失脚させられるほどの弱みを掴むこともできるかもしれんぞ」

 

「…………」

 

 相手の方から復讐法を提示されオーリスはあんぐり口を開ける。リインも同様だった。もちろん自分からそんなことを言ってくる以上、安易に違法行為に手を染めたり尻尾を掴ませる真似などしないだろうが。

 

「そうでなくてもお前さんから見れば、俺もリインも本部に出入りしたばかりのヒヨッ子だ。俺たちをうまく操ってその座を乗っ取ったり、再び地上本部の実権を握ることもできるかもしれない。……ここまで言っても管理局、いや俺たちから逃げるつもりか?」

 

 挑発するように訊き直す健斗に対し、オーリスはしばらく沈黙を挟んで訊ねた。

 

「なぜそこまでして私なんかを勧誘するのか、理由をお聞きしてもいいでしょうか? 私は父を利用するだけ利用して裏切ったあなたたちを憎んでいます。不正の証拠をでっちあげてでも、あなたとリインフォース二尉を地上本部から追い出そうとするかもしれませんよ」

 

「だろうな。そのぶんだと六課と七課の査察の際に掴んだ“弱み”も一つか二つ温存してあるんだろう?」

 

 健斗の問いにオーリスは無言の肯定を返す。大したダメージになるものではなく、なったとしても父の命令どおり六課と七課を解体に追い込むことに迷いがあった。そのため今日まで明かさず手元に残しているのだが。

 

「そんな君だからこそ仲間に加えたい。俺たちが必死に隠そうとした弱みを見つけ、使うべきか判断する能力を持ち、俺たちに敵愾心を持ってるお前をな」

 

「敵愾心を持ってるから……ですか?」

 

 後半の意味が分からずオーリスは怪訝な顔と声を返す。それに対し、健斗はうなずきを返した。

 

「機動六課、そして管理局全体が身内贔屓や馴れ合いが過ぎる弱点を抱えていたのはオーリスも知ってるだろう。レジアス中将とて例外ではない」

 

「…………」

 

 ぐうの音も出ず、オーリスは押し黙る。確かに、父も娘である自身を側近とし、後輩を本部長に立ててワンマン体制を作り上げていた。

 だが、それなら御神とて同じではないか。彼の副官は……。

 

 オーリスが目線を向けると、リインはばつが悪そうに視線を下げる。一方、健斗は開き直ったように首を縦に振った。

 

「確かに俺もリインフォース……婚約者を副官につけている。情けないとは思うが、彼女なしで組織を動かせる自信はない。リインは絶対手放せん」

 

 惚気(のろけ)か? オーリスの口からそんな文句がでかかる。リインも顔を赤くしていた。

 だが、オーリスはそこで自身が勧誘されている事を思い出し、まさかと思い直した。それを肯定するように健斗は首を縦に振って答える。

 

「その点、オーリスは俺たちを父親の仇として憎んでいる。俺が間違いを犯しでもすればすぐさま責め立てるだろうし、最悪引きずり降ろしにかかるかもしれん。だが、俺たちにはそれぐらいの“ストッパー”が必要かもしれない。

 俺を引きずり落とすチャンスを窺うつもりで構わん。もう一度ここでやり直す気はないか?」

 

「――、わ、私は……」

 

 オーリスは言葉を詰まらせる。そんな彼女を見かねてリインが口を挟んできた。

 

「隊長、答えを急ぎすぎです。少し考える時間が必要ではないでしょうか」

 

 そう指摘されるや、健斗はふむと言いそうな仕草で顎に手を乗せ、三秒ほど間を開けて言った。

 

「そうだな。あと五ヶ月半はある。謹慎にかこつけて休みを満喫しながら考えておいてくれ。できれば三月いっぱいまでに」

 

「は、はい……」

 

 オーリスは戸惑いを残したまま返事を返す。健斗はそんな彼女を横切りながらドアまで歩を進め、オーリスの胸元を差しながら付け足した。

 

「ああそれと、懐にしまってる“それ”。まだ本部勤務じゃない俺じゃ受理も処分もできない。シュレッダーにかけるなり人事部に持っていくなり自分でなんとかしておいてくれ」

 

 指摘された瞬間、オーリスは胸元に忍ばせていた“辞表”を隠すように手で庇う。それをよそに健斗は片手を上げながら部屋から出ていった。

 そんな中、リインはオーリスに体を向け……。

 

「すみません。うちの隊長、たまに強引になる時がありまして」

 

「いえ、こちらこそ助け舟を出していただいてありがとうございます」

 

 柔らかな笑みと言葉につられ、オーリスも恐縮したように頭を下げ返す。

 生真面目で、破天荒な上官に振り回される副官同士、実は性格と立場が似ている二人が仲を深めるのはそう遠い話ではない。

 

 

 

 

 

 

「どうだい彼女は? なんとか君の副官として引き込めそう?」

 

「さあ、どうでしょうかね? なにぶんプライドの高い人ですから。正義感と責任感も強い人ですから最終的には来てくれそうな気はしますけど」

 

 気持ちの入れ替えと小休止のため、二人を残したまま執務室を出たところでティーダさんと出くわし、そんな会話を交わす。

 オーリスの釈放に関しては、ティーダさんに色々手を回してもらったのだ。

 そのまま自販機でコーヒーを買いつつ彼とロビーに向かうと、そこで休憩している二十人ほどの局員たちと彼らの向こうに浮かぶ大型モニターが目に飛び込んできた。

 

『ミッドチルダ最高行政官選挙・中央区予備選は躍進党所属のダイレル・クライスラー候補が圧倒的な大差を付けて勝利しました。先月の大規模テロ事件と地上部隊の幹部を務めていたレジアス・ゲイズ元中将の汚職の発覚以来、時空管理局への非難の高まりとともに管理局から独立した『防衛軍』の設立を掲げるクライスラー候補の支持率が急激に高まっており、同候補の当選も十分あり得るとの見方が――』

 

 整えられた茶色の髪と口髭が印象的な、いかにもナイスミドルという言葉が似合う最高行政官候補をバックに単調なアナウンスが流れる。

 

「あの人は……」

 

 俺の呟きにティーダさんは頷き。

 

「ああ、ダイレル・クライスラー議員。レジアスさんの元部下でアインヘリヤル開発の支援者……そしてレツヤ君の実の父親だよ」

 

 ティーダさんが言い終えたところでアナウンスも途切れ、“レツヤそっくりな”候補者の熱弁が耳に届いてきた。

 

『今こそミッドチルダ固有の治安組織を――腐敗した管理局に頼らない『力』を得て、ミッドチルダに平和を! 全次元の中心たる『第1世界』に相応しい栄華を取り戻しましょう!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。