魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
『JS事件』解決後、事件の首謀者ジェイル・スカリエッティとウーノ、ドゥーエ、クアットロは無人世界の軌道上に浮かぶ衛星の中に造られた拘置所に送られ、今もなお捜査に非協力的な姿勢を貫き続けている。彼らがあそこから出られる日は
その一方で罪を認め、更生の意思を見せている他の戦闘機人とメガーヌ、アギトはミッドチルダの海上に建てられた隔離施設に移されていた。
「まっ、メガーヌさんとアギトさんはすぐに出られると思うっスけどね。クア姉に操られてるところもばっちり目撃されてますし」
「なによ、誰も聞いてないのにわかりきったこと言っちゃって」
地の文に合わせたようにメタっぽい説明を始めるウェンディに、メガーヌは芝生に寝そべったまま突っ込みを入れる。その隣からセインがメガーヌの隣に浮かんでいるアギトに声をかけた。
「アギトさんなんかは来なくてもよかったんじゃないですか。メガーヌさんのデバイスってことになってましたし」
「そうよ。今からでも私に命令されて無理やりやらされたって言っちゃえば、すぐシャバに出られるんじゃない」
「姐さんに罪を被せて、あたし一人自由になるわけにはいかねぇだろう! ……新しいロードと保護者たちの所に行く前にキレイな体にしておきてぇしな」
一足早い出所を勧めるセインとメガーヌに対し、アギトは気恥ずかしそうにぷいと顔と体を背ける。それを見てセインとウェンディ、メガーヌまで笑いを漏らす。そこでセインは笑いを漏らしたまま反対側にいる二人に目を向けながら言った。
「まっ、あたしとしてはトーレ姉とセッテまでここに来たのが意外だけどね。捜査協力も減刑も突っぱねて、ドクターたちと一緒に拘置所送りになると思ってたのに」
それを聞いて、腕を組みながら壁に背をつけて立っているトーレと隣に座っているセッテが彼女たちの方を向いた。
「私は局の連中に協力する気はなかったし拘置所でも結構だったんだがな。チンクがしつこく捜査協力するように言ってきて、その上あのガキが『オレたちに負けたけじめも取らず、今からずっとムショに引きこもる気か。ぐうたらな奴らだなぁ』――なんてほざいてな。奴と色々言い合っているうちにこうなったんだ……」
トーレはそう言ってばつが悪そうに視線を逸らす。そんな彼女を見て『それだけじゃないでしょうね』とメガーヌやセインたちは思った。
『戦闘機人は兵器としてしか生きられない』、トーレが口癖のように言っていた言葉を否定するように、チンクとファーストたちは人間としての生活を送ってきて、他の妹たちもそれを掴もうとしている。
はたして戦闘機人が、自分も人間として外の世界で生きられるか、直に確かめてみたくなったのだろう。直弟子でもあるセッテが自由になれるかだけでも見届けたいという思いもあるのかもしれない。
「メガーヌ・アルピーノさん、面会を希望している方たちが来られてます!」
自分を呼ぶ看守の声に反応し、メガーヌはむくりと体を起こす。ウェンディとセインもきょとんと目をぱちくりさせながら訊いてきた。
「ありゃ、また娘さんたちっスかね?」
「3日前に来たばかりなのに? 七課ももう休暇終わりって言ってなかったっけ?」
二人の言葉にメガーヌも頷きながら内心首をひねり。
(次は来週に来る予定のはずだけど。まさかマザーシックをこじらせて無理やり休みを取ってきたんじゃ……“たち”ってことは、まさか同僚の子まで巻き込んで……)
愛想を尽かされてないことを嬉しく思う反面、そんな心配をしながらメガーヌは看守の元に向かう。しかし、面会室に来たのは愛娘と娘の同僚ではなく――。
「メガーヌ、お久し♪」
「元気そうだな……」
ガラス板の向こうで青紫色の髪をポニーテールにまとめた、メガーヌと同い年の女が片手をあげながら笑みと挨拶を飛ばしてくる。さらにその横から、一回り年上の無愛想な焦茶色の髪の男が労うように軽く頭を下げた。
「クイント……ゼスト隊長……」
メガーヌは唖然と8年ぶりに再会した親友と上官の名を呟く。そんな彼女にクイント・ナカジマとゼスト・グランガイツは、一方は満面の、一方は薄い笑みを浮かべた。
「あなたのことだからただで死んではいないだろうとは思ったけど、本当に生きてたとはね。しかもスカリエッティたちと一緒になってとんでもないことしてくれちゃったそうじゃない。昔からはっちゃけるところはあったけど、今回はやり過ぎよ」
「私だってあそこまでやる気はなかったわよ。きっとスカリエッティに仕込まれた洗脳プログラムのせいだわ……ちょっと空回りしちゃったのは否定できないけど」
あきれたように苦言をこぼすクイントに対し、メガーヌは気まずそうに言い訳を返す。
一方、二人をやりとりを聞いてもゼストは苦笑もせず硬い面持ちのままメガーヌに顔を向け、静かに首を横に振った。
「いや、元はといえば俺がお前たちを守れなかったのが原因だ。もっと慎重に動くべきだった。その判断ミスのせいでお前たちや家族には大きな迷惑と苦労をかけてしまった――すまない!」
二人の元部下に対してゼストは大きく頭を下げる。それを見てクイントもメガーヌも神妙な顔を作って言った。
「いえ、捜査中止の命令に焦って一刻も早く踏み込むように言ったのは私たちですし」
「責任があるのは私たちもです。それに隊長……いえ、ゼストさんにはルーテシアがお世話になりましたから。今まであの子の面倒を見ていただいて、本当にありがとうございます」
メガーヌに頭を下げ返され、ゼストは気恥ずかしそうに顔を逸らし、
「せめてもの務めを果たしただけだ。それにあの子が望んだとはいえ、ルーテシアを局員にして
「ふふ。じゃあ“お互い様”ということにしておきます」
ゼストの性分をよく知るメガーヌはその一言で貸し借りを打ち消す。自身らの上官は昔から貸しや借りを作るのをよしとしない人間だった。
「で、これからどうすんの? そろそろ処分も決まってここを出るんでしょ?」
クイントの問いにメガーヌは頷き。
「ある程度の魔力封印と4年間首都への立入制限。少々重い執行猶予みたいなもんね。スカリエッティやクアットロに操られたことになってるとはいえ、首都と一部の施設に被害を出した以上お咎めなしってわけにはいかないみたい」
愚痴とともにため息をついたところで、今度はゼストが尋ねた。
「身元引受人は? その処分だと身元引受人が必要なはずだが」
「本局のハラオウンさんって人と六課の執務官が引受人をやってくれることになってます……でも、ルーテシアに交代させる話が出ていて……」
ばつが悪そうに話すメガーヌに、クイントとゼストは憐みの目を向け。
「実の娘が身元引受人か……そりゃ恥ずかしいわよねぇ」
「ええ。でも収入や社会的信用みたいな条件は満たしてるし同居する可能性も高いから、あの子の方が適任だって話になってるのよ。ルーテシアも乗り気みたいだし、このままだと若くして10歳の子供に養われることになるかも……」
それだけは避けたい。そう思いながらため息を漏らすメガーヌにゼストは仕方なさそうに助け舟を出した。
「まあ、どうしてもという時は俺が身元引受人になってやる。さっき言った通り俺のせいでもあるし、まだルーテシアの保護者ということになってるしな。まとめて面倒見た方が手間がかからんかもしれん」
「隊長、ありがとうございます♪」
メガーヌは久しぶりにゼストに抱き着く勢いで――ガラスに遮られてできなかったが――礼を告げる。そこで――。
「すみません! 次の面会の予定がきてますので、そろそろ終了させていただきたいんですが」
メガーヌの後ろで三人のやり取りを
「ではそろそろ失礼する。ちょうど話したいことも終わったしな。また今度休みが取れたら邪魔させてもらう」
「ええ。久しぶりに話せて楽しかったです。場所柄お構いもできませんがまた来てください」
礼と定例句を返しながらメガーヌも立ち上がる……が、クイントは座ったまま二人を見上げるのみだった。
「クイント?」
尋ねるメガーヌにクイントは別れの挨拶をするような、あるいは誤魔化すように片手を振り、
「私は別の子と面会する予定があるから、二人は先に戻ってて」
「面会? まさか次の面会って――」
「……また
「ナンバーズの中にスバルそっくりな子がいるみたいだから、これも縁かなって思って。ちゃんと主人や子供たちと相談して決めていますから安心してください!」
得意げな返事と笑みを返すクイントに、メガーヌとゼストは呆れた表情を浮かべる。そこでクイントはまた付け足した。
「まあ、他にもオットー君とか狙ってるんだけどね。女の子ばかりだからそろそろ“息子”も欲しくなっちゃって」
「勘違いするのも無理ないけど、あの子
メガーヌの指摘にクイントは思わず「うそ!?」と声を上げる。そして腕を組みながら呟いた。
「うーん、しょうがない。“義息子”に関してはまたの機会を待つか、チンクに頑張ってもらいましょうか。ライバルもちんちくりんだから望みはあるはず」
「チンクって――まさか」
はっとするメガーヌにクイントはにやりと口を吊り上げる。
「あの子たちと同じ職場にいるレツヤ君、なかなかいい物件じゃない。最高行政官最有力候補の息子で、彼自身も管理局で最も注目されてる新星だし。チンクには頑張ってもらわなきゃ。年上が好みならスバルかギンガを
「そんな邪な企みに娘たちを利用するんじゃないわよ! そもそも、うちの娘とあの子が付き合う可能性もないわけじゃないし」
「って、あんたもレツヤ君狙ってるんじゃない! あの子は絶対うちが貰うんだから!!」
そんな言い合いを続ける二人を前に……。
「面会って雰囲気じゃなさそうだし、あたしもう戻っていい?」
「もうちょっとだけ待ってもらえないかしら。この後は面会の予定もないから」
クイントとの面会相手として連れてこられたノーヴェと看守は呆れた様子で言葉を交わす。その隣でゼストも呆れと懐かしさを混じった顔で元部下たちを眺めていた。
(まったく、十年近く経っても変わらんな。レツヤとやらも苦労しそうだ……しかし、今後次第ではそのレツヤとルーテシアが交際する可能性もあるわけか。どんな男なのか俺の方からも確かめておく必要がありそうだな――)
◇
「――っ!?」
事務仕事中、突然悪寒が走りびくりと肩を震わせる。
そんなオレを見て、隣から声がかかってきた。
「どうしたのレツヤ?」
「具合でも悪くしたのか?」
「ところで二人とも、ちょっと近すぎないか。そもそもオレが中心で二人が隣っていうのもおかしい気が……」
「そう? 別におかしくないと思うけど」
「あ、ああ。これぐらい普通だろう」
そう言って二人は頬を赤らめながら仕事に戻る。
――絶対、何かが変わってる気がするんだけどなぁ。