魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
新暦76年4月27日。
試験運用期間の終了に伴い、機動六課と機動七課の解散を明日に控えた日の晩。
「えーと……まずこれはどんな状況なんだ?」
「見ての通り、お風呂に入ってるんだけど」
「あ、ああ。タオルで体も隠してるし、レツヤなら変な事はしないだろうし……も、問題ないだろう?」
オレの問いにルーテシアは平然と、チンクは視線を逸らしながらどもった声を返す。
オレは今、ルーテシアとチンクと一緒に湯に浸かっている……しかも男湯に。
今日の仕事が終わり、例によって
――万が一、隊長たちに知られたら大目玉もいいところだな。
「で、なんでまた
「三人でゆっくりできるのも今日で最後だから。ここならゆっくり話せると思って」
「あ、ああ。明日は二次会や引っ越しやらで忙しくなると思うからな……嫌か?」
不安そうに尋ねるチンクに「いいや」と首を横に振る。
それを見て、チンクばかりかルーテシアも安心したように笑みを作った。
ルーテシアも最近はよく笑顔を浮かべるようになった。チンクも最初は肩肘張ってたけど今は自然体でいてくれるようになったし。確かに最後くらいこの二人と過ごすのも悪くないか。
「ところでレツヤ、別の世界に異動するって本当?」
真顔に戻って尋ねるルーテシアに、オレは頷き……。
「ああ。向こうもミッド並みに発展してる分犯罪も多く、それに反して人手が足りないらしくてさ。できるだけすぐに来てほしいって」
「そう。……もしかしてお父さんの事と関係ある?」
その問いにオレは「かもな」と曖昧な返事を返す。
今年の二月初頭、最高行政官選挙の決着がつき、オレの父ダイレル・クライスラーが圧倒的な得票差で現職を破って当選し、ミッドチルダ第24代最高行政官に就任した。
親父は新行政官に就任してすぐ、議会にて『ミッドチルダ防衛軍』の設立とそれを妨げる『管理局軍備委託条約』の改正を訴え、過半数以上の賛成をもって可決された。
時空管理局の存在意義の“半分”を揺るがす決定に対し、管理局は『次元世界の平和維持・世界間戦争の防止』を理由に断固反対の姿勢を続けているものの、《聖王のゆりかご》を隠し持ち、次元犯罪者との癒着などの汚職が発覚した『時空管理局』に対してはミッド住民のみならず他の世界からも強い非難が上がっており、局の内部からもミッド政府の“要望”を容認する声が上がっている。
対して“陸”側の局員は自分たちの働きを否定される反感から、“海”側の局員はミッドの人材を防衛軍に持っていかれる懸念から、新行政官に対して強い反感を抱いており、行政官の息子であるオレに敵意を向けている者もいるらしい(入局当時から素性を隠してきたのと父の行政官就任に伴う『保護プログラム』が適用されたのが幸いして、オレが行政官の息子だと知る者はまだ少ないが)。
そのため地上本部と本局はオレを一時的あるいは長期的に他の世界へ異動させ、『反クライスラー派』の目から遠ざけようと考えているようだ。オレの上官になる予定だった御神さんも、当の親父本人も賛成しているらしい。
あっちの犯罪率の増加と人手が不足しているのも本当ではあるが。
「ルーテシアはどうすんだ? フェイトさんからもう一度学校に通わないか勧められてたんだろう? たしかヴィヴィオが通う予定の
オレの問いに、ルーテシアは「うん」と首を軽く縦に振る。
中等科まで学生生活を送ったあの人としては、キャロたちやルーテシアのような子には子供らしく学校生活を送ってもらいたいのと、“元”もう一人のママとしてヴィヴィオを見守ってくれる先輩がいてほしいのだろう。
「でも、今さら学校に行っても退屈そうだし、無職のお母さんを養うために働かなきゃいけないから」
「……その言い方はやめてやれ。あの人なりにこれからの事を考えているんだし、一応ゼストさんがメガーヌさんの保護者になったんだから」
チンクの指摘にルーテシアは「うん」と首を振る。どうやら冗談のつもりだったようだ。
メガーヌさんとアギトはナンバーズより先に隔離施設を出て、アギトはシグナムさんのパートナーとして『八神家』の一員となり、メガーヌさんはある無人世界の空き家を買い取ってホテルに改築する準備をしているらしい。
「そんなわけでフェイト隊長には悪いけど、学校に行かず向こうの世界の支局に配属させてもらう予定*1。チンクは予定通り地上本部でしょ?」
ルーテシアの短い問いにチンクは頷き。
「ああ。元々あちらに異動する予定だったからな。御神隊長とリインフォース副隊長が行かれるならなおさら行かない理由はない」
「階級も一等陸士に格上げ、どころか陸曹まで確定してるんだっけ?」
オレの問いにチンクはくすぐったそうな笑みを浮かべる。
「スカリエッティを追うために無理言って三士のままにしてもらっていたからな。半年ほど一士としての経験を積んでから上げてもらうことになってる」
事件解決後、チンクは二等陸士に昇格してオレと同格になっている。俺とルーテシアも異動後は一階級昇進することになってるし、ルーテシアもすぐ一士に昇格するだろうからほとんど横並び状態になるわけか。
「じゃあ一年後、この中で誰が一番偉くなってるか勝負してみないか?」
「ほう、面白いな。昇進を拒む理由がなくなった以上お前たちに遅れはとらん」
オレの挑発にチンクも不敵な笑みで応じる。だがルーテシアは呆れの息をつき……。
「下手に出世すると仕事も増えそうだし正直私はほどほどでいいんだけど、レツヤたちに大きな顔されるのも癪だから一年ぐらいは付き合ってもいいかな。……ところで勝負と言えば、私のお母さんとチンクのお母さんが“ある勝負”をしてるの知ってる?」
「あ、ああ……“あれ”のことか」
ルーテシアの問いにチンクは心当たりがありそうな顔で返事を返す。なぜか恥ずかしそうに顔を赤くして。
オレ一人何も知らず首をかしげかけたところで……
「……先に『義息子』ができるのはどっちか…………つまり、私とチンクのどちらが先に結婚相手ができるかって勝負……」
そこまで言うとルーテシアも頬を染めながらこちらを見てくる。
……えっ、それってまさか…………。
「は、母上が言ってるだけで私はそういうのに興味はないんだが……レツヤにその気があるなら、付き合ってみてもいい……と思っている」
「……私もレツヤなら、っていうかレツヤ以外と結婚する気なんてない……でなかったら、いっしょにお風呂に入ろうとなんてしないよ…………」
二人――チンクとルーテシアは真っ赤に染まった顔、熱のこもった目と声で訴えてくる。
「レツヤ、背中洗ってあげよっか……」
「……どっちに洗ってほしい?」
その
(これは……注意しに行くべきだろうか……で、でも背中を洗うぐらいなら…………)
風呂場にいる三人と同じぐらい真っ赤な顔でリインフォース・アインスは耳をそばだてる。
“ある事情”で健斗と別れ隊舎に戻ってきたものの、かわいい部下たちの姿はどこにもなく、かすかな物音と声を辿ってみれば三人とも男湯におり、一緒に入浴しているではないか。
上官として三人を止めるべきか、母親代わり兼友人として恋路の応援をしてやるべきか。それを抜きにしても、フィルダーとして行動を共にしていた三人が過ごせるのは今夜で最後。余計かもしれない邪推で邪魔したくはない。
結局、リインに三人の邪魔をすることなどできず、せめて万が一の事が起こらぬよう男湯の扉に耳を貼りつけ続けていた。……傍から見たらかなり危ない姿である。
Ⓒ
一方その頃。六課本部の屋上で。
「よぉヴィヴィオ。なにやってんだこんなとこで」
ひとり屋上の縁にもたれかかっているヴィヴィオに声をかけると、彼女もこちらに気が付き
「あっ――おじ、じゃなくて……けんとさん」
「いいよ、おじさんで。ヴィヴィオからしたら俺は“伯父”にあたるしな」
怯える“
「で、こんなとこで何やってる? ガキのくせに夜更かしなんかしてると生活バランス崩れちまうぞ。もうすぐ学校に行くんだし、そろそろなのはママの部屋に戻ってろ」
そう忠告するも、ヴィヴィオは暗い面持ちのまま眼下に顔を戻した。
「うん……でも、わたしこのままママの所にいてもいいのかなって思って……」
それを聞いて、ヴィヴィオが悩んでいたわけを察する。そんな俺の前でヴィヴィオはさらに続けた。
「ゆりかごの中に捕まってた時、悪い人の言いなりになっていっぱいママを傷つけちゃった。そんなわたしが傍にいると、またママやまわりの人たちを傷つけちゃうんじゃないかと思って……」
半年前。JS事件の末期、ヴィヴィオはクアットロの精神操作とレリックの力によって『聖王』と化し、なのはと戦ったらしい。幸い、なのはが深手を負う前にクアットロを倒し、ヴィヴィオの体内に埋め込まれたレリックを破壊することでヴィヴィオを救出することができたが、それまでの無理も重なって事件後なのはは半ば強引に一週間の休養を命じられた。
それをずっと気に病んでいたらしい。
「それにシスターさんやカリムさんって人から教会ってところに来ないか誘われてるの。わたしが聖王さまのクローンだから、教会には保護する義務があるって。ママにもいつか本当の子供ができるかもしれないし、他人のわたしは教会の方に行った方がいいんじゃないかなって……」
涙ぐんでいるのか、わずかに嗚咽が混じる。それを聞いて……
「だったら、俺たちの所に来るか?」
「えっ……?」
ヴィヴィオは振り向き、涙で濡れた顔を向けてくる。それに反して俺は笑みを作りながら言った。
「なのはの所から離れる気なら俺とリイン……アインスの所に来るかと聞いたんだ。ちょっと事情があってな、俺もリインも養子、血の繋がらない子供を引き取るつもりでいる。もしお前がまた悪い奴に操られても“聖王”ってのになっても、俺たちがあっさり食い止めてやる。俺もリインもお前みたいなチビッ子に負けるほどやわじゃない」
「で、でも……」
その話を受けるのもありかもしれないと思ったのか涙を引っ込めつつも、ヴィヴィオはためらうように視線を泳がせる。が――
「だが、うちの教育方針は厳しいぞ」
「えっ……」
ヴィヴィオは顔を硬くする。それを前に俺はにやりと口を吊り上げ……
「まず好き嫌いなど認めん。出されたものは全部食ってもらう。それまで遊ぶ時間はなしだ。勉強もしっかりやってもらう。目標は全科目90点以上。1つでも80点以下を出したら強制的に塾に行かせるか家庭教師をつけさせてもらう。俺に引き取られたせいで堕落したなんてことになったら、なのはにも教会にもどやされるからな」
「80って、きびしすぎるよ~!」
「そうか? 俺はずっとそう言い聞かされて育ってきたが」
その時の母親の顔を思い返すが、あれは完全に
「それが嫌なら教会に行くか、フェイトの子供になるか八神家に入れてもらうか……けっこう選択肢多いな。どれか好きな方を選べ。――もちろん、今まで通りなのはの子供として過ごすのもありだ」
「でも、わたしはなのはママともフェイトママとも、はやてさんやけんとさんとも血がつながってないし!」
自身に言い聞かせるようにヴィヴィオは再び目元に涙をにじませながらそれを口にする。だが――
「……言っておくが、血の繋がりなんてなのはや俺たちにとって大したことじゃない」
「えっ……」
「お前、この間なのはと一緒に地球に行っただろう。その時にあいつの家族とも会ったよな?」
「う……うん。他にもフェイトママの家族やリンディさんたち、アリサさんとすずかさんとも……」
ヴィヴィオは趣旨がつかめないまま付け足す。が、俺がしたい話にそいつらは関係ない。
「なのはの母親、桃子さんとなのはの兄さんと姉さんとは血が繋がってない。兄さんは士郎さんの前の奥さんの子供、姉さんは士郎さんの妹の子供――桃子さんからみて実の子供はなのは一人だ」
「はっ……? えっ?」
言葉の意味が読み切れず、ヴィヴィオは頭の上にいくつも疑問符を浮かべる。まぁ正直大抵の奴は同じリアクションを返すだろう。
さらに俺は自分を指差しながら付け足した。
「ついでに俺も母親、美沙斗さんに引き取られた養子だ。――だが、俺もなのはの兄さん姉さんも甘やかされもしたし、厳しくされたりもした……実の子供のようにな」
「…………」
言い返せずヴィヴィオは沈黙を返す。俺は畳み掛けるように、
「あとな、なのはも“あいつ”も仕事で忙しくて、家にいてくれる奴がいた方が助かるんだとよ。しっかり者のお前なら弟か妹の面倒も任せられるしな……。後は何も言わん。これまで通りなのはの子供でいるなり、教会か俺やフェイトたちのところに行くなり、お前自身で決めろ」
そう言って、俺は踵を返す。すると――
「まって! まだけんとさんに言わなきゃいけないことがあるの! むかしのことだけど……あの時は本当にごめ――」
「それは“聖王さま”本人とで解決してる。お前が謝る必要はない。」
片手を上げてヴィヴィオの謝罪を遮り、ばっさりと言い捨てる。あれは俺とオリヴィエで片をつけた話だ。ヴィヴィオにも譲る気はない。
ヴィヴィオもそれを察したのか、単に気を使われたと思ったのか……
「ありがとう、“けんとおじさん”」
ヴィヴィオは笑みを浮かべ弾むような声で礼を返してくれる。それを聞きつつ。
――やっぱり“おじさん”はグサッとくるな。けんとさんに戻してもらうか。
そう思いながら出入り口の方に顔を向けると、こっそりと覗き見ていたなのはたちの姿が見え、苦笑と呆れの息をこぼした。
その後、七課の隊舎に戻ると男湯の扉に耳をくっつけているリインを見つけた。しかもその中ではレツヤが女の子二人と入浴しているというではないか……。
「やっぱりレツヤはさっさとヴァイゼンに行け。明日の解散式とか出なくていいから、今夜すぐにでも」
「ご、誤解ですって! 入ってきたのはあの二人ですし、ちょっと話をしただけで――」