魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
「以上で私からの挨拶を終わらせていただきます。みんなと一緒に働けて戦えて、心強く嬉しかったです。次の部隊でもどうか元気に……頑張って」
壇上に立つ機動六課の部隊長、八神はやてさんが挨拶を終えると誰からともなく拍手が沸き起こる。オレたち機動七課もそれに混じって両手を打ち鳴らし、さらに隅から来客たちも拍手を送っていた。
新暦76年4月28日。機動六課の試験運用最終日――機動六課解散の日。
オレたちを含む機動六課の面々はロビーに整列し、
そんな面々が見守る中、オレたちも六課の隊員たちも緊張しながら、あるいはそんな緊張を忘れるほどの寂寥感を覚えながら六課最後の日を迎えていた。
「では最後に、私たち機動六課本隊を助けてくれた独立遊撃分隊――通称『機動七課』の分隊長、御神健斗二等空佐に挨拶していただきたいと思います」
「――っ!」
ふいに指名されて御神さんは目を見張り、『聞いてないぞ』と言いたげな目をはやてさんに向ける。それに対してはやてさんは笑みを崩さず壇上から降り、どうぞと言うように自らが立っていた壇の上に片手を向けた。
その直後、隊員たちは御神さんを促すようにあるいは囃し立てるように、一斉に拍手を鳴らす。オレたちもそれに紛れて拍手を鳴らした。
それを聞いて御神さんはやれやれと溜息をついて壇上に上がり、大きく咳払いをしてから言った。
「機動七課の分隊長をしていた御神です。明日までは
冗談めかした訂正に笑い声が沸き起こり、オレたちもつられて笑いを漏らす。御神さんも口を吊り上げ、笑いが収まる頃合いを見て再び声を放った。
「我々七課の活動にあたり、本隊の皆さんには色々助けていただきました。新人気分の抜けない隊員たちをはじめ迷惑をかけた事もあると思いますが、皆のおかげで彼らも私とリインフォース二尉も成長できたと思います。七課を代表してお礼申し上げます」
そう言って御神さんと後ろにいるリインさんは頭を下げる。そんな二人に隊員たちは再び拍手を送り、とうのオレたちはどうしていいかわからず両手を半端に上げながら固まっていた。
そこへ――
「七課のフィルダー三人、前へ出たまえ!」
「――っ!?」
突然御神さんに指名され、今度はオレたちが仰天する。彼を見上げながら《どういうつもりですか?》と念を飛ばすと、御神さんもこちらを見下ろし
《俺だって予定にないのに晒しものにされてるんだ。お前らも少しは味わえ。この機に七課の総仕上げもするからさっさと上がれ》
そう
「まず、三人とも一年間よく頑張った」
いきなりの賛辞に「えっ?」と聞き返しかける。それを遮るように御神さんは続けた。
「いきなり
そう言って彼はチンクに顔を向け……
「チンク、お前は俺たちとともに明日から地上本部に勤めることになるが、これまで以上の働きで俺たちや本部の人たちを助けてくれ。期待しているぞ」
「――はい!」
今までの、そしてこれからの上官でもある御神さんに対してチンクは威勢のいい返事を返す。次に御神さんはルーテシアに目と顔を向け……
「ルーテシア、正直俺たちにとっても八神たちにとってもお前は手放したくないんだが、世間から見ればお前はまだ子供だ。しばらく
「わかってます」
冗談めかした忠告にルーテシアは不服そうな返事を返しながらも笑みを浮かべる。そして最後に御神さんはこちらを見――
「レツヤ、直接指導した贔屓が入ってるかもしれんが、能力的にも精神的にもこの中で一番成長したのはお前かもしれん。トーレに言った『無限の欲望だろうと愚王だろうと“止めてみせる”』という言葉は俺の胸にも届いた……お前が300年前にいたら“愚王ケント”なんて名が現代まで残ることはなかったかもしれん」
「…………」
《愚王ケント》。その名を言いながら御神さんは複雑そうな笑みを浮かべ、リインさんも神妙な表情になる。
ベルカ史上最悪の王で、聖王の大敵、そして御神さんの前世だった人。オレならその人を止められた、あるいは救えたのだろうか?
「お前たちならこの先も局員として、あるいは局員以外の道を進んだとしてもうまくやっていけると俺は信じている。それぞれが向かう先でもここでの経験や身に着けた力を活かして、一人でも多くの人を犯罪や災害から、それ以外の困難からも救い出してくれることを願っている。俺が言いたいことはそれだけだ。
――以上で機動七課は解散とする! 今日までご苦労だった!!」
「「「――ありがとうございました!!」」」
“隊長”に向かって礼を告げた瞬間、目の前が滲み、思わず目をしばたかせる。隣に立つルーテシアもチンクの目からも涙が溢れ、隊長の後ろに立つリインさんも貰い泣きしていて、御神さんの目もわずかに滲んでるように見えた。
その直後、オレたちの周りからつんざくほどの拍手が響き渡る。オレたちは顔や目元を隠しながら引っ込み、御神さんも壇から降りてリインさんとともにその場を後にする。
そうして機動六課と機動七課は終わりを迎えた。
余談だが、この後、隊長陣とフォワードたちが『最後の模擬戦』をおっぱじめ、オレたち元七課もそれに
なお、その時の隊長たちとの戦い、特にオレと御神さんの決戦はJS事件最後の戦いより激しかったことも追記しておく。
……やっぱり両課の解散だけだと短くなっちまうな。じゃあやっぱり“あの時のこと”も書いておくか。オレは参加しただけであまり詳しい背景は知らないから、御神さんに代わってもらって……。
Ⓒ
六課と七課の解散から二ヶ月。6月も半ば過ぎた頃、懐かしの故郷『海鳴』の教会で一組の
「なのはさーん、おめでと~!!」
「ユーノさんもおめでとうございます!」
「なのはちゃん、おめでとう!」
「ユーノ、なのはを泣かせたら承知しないわよー!」
「スバル、ティアナ、すずかちゃんとアリサちゃんも、みんなもありがとー!」
愛弟子と親友たちを先頭とした参列客の拍手と歓声に迎えられながら、純白のウェディングドレスに身を包んだ栗色髪の花嫁と、純白のタキシードを着た金髪の花婿は顔を赤らめ、しかししっかりと腕を絡めながらこちらに降りてくる。
そんな中、“二人の娘”が向かってきて、はにかんだ笑顔で両親を見上げた。
「なのはママ、ユーノパパ、二人ともおめでとう。わたしもせいいっぱいお手伝いとかがんばるから……これからよろしくお願いします!」
「ありがとう。僕もヴィヴィオとママのために、これから一生懸命頑張るよ」
「二人とも他人行儀だなぁ。もう一か月前から一緒に暮らしてる仲じゃない。これからも家族三人仲良くしようね! ……ひょっとしたらもうすぐ
なのはが付け足した言葉に、ユーノは顔を赤くしながら頬を掻き、ヴィヴィオも満面の笑みを浮かべる。
そんな“一家”の向こうから……。
「いつかこんな日が来るかもしれないと覚悟はしていたが――やはり娘をどこの馬の骨かもわからん男に取られるのは悔しい~! しかも“四人”ってことはあの二人もう――」
「あなたったらもう悪酔いしちゃって。二か月前、ユーノ君たちが挨拶しに来た時に夜中まで話し合って二人の結婚を認めたんでしょう。素直におめでとうの一言でも言いに行きなさい」
悔しげな声を上げる士郎さんを桃子さんは呆れた様子でなだめ……。
「なのはの結婚は嬉しいけど、妹に先を越されて複雑な気分。私もそろそろ婚活とかした方がいいのかな……」
「なんなら私の部下から紹介してやろうか。このままだと弟にまで先を越されるかもしれないぞ。健斗もリインさんと同棲までいってるらしいからな」
「同棲!? そんなイヤらしいことお姉ちゃんは認めませ~ん!!」
母さんの話を聞いて姉さんは顔を真っ赤にして叫び……。
「なのはさん、きれい~。雫もししょうとけっこんするー!」
「あら、それは面白そうね。じゃあ今からししょうにお願いしに行ってみましょうか♪」
「忍、馬鹿を言うな! 雫と健斗が結婚なんてできるわけ……いや、血は繋がってないし健斗もまだ結婚してないから、ありえる……のか?」
雫と忍さんの会話を聞いて恭也さんはひやりとした汗を流し……。
「あう~! まうま~!」
「ディアル君ったら顔がお菓子だらけやで。ちょっとじっとしててな。はやてママが拭いたるさかい」
「――って、人の息子になに吹き込んどるか!! ディアルの母親は我以外におらん!」
「ええやん。私の体コピーした王様と健斗君の体コピーしたアレルの子供なら、私と健斗君の子供も同然なんやし。なんなら収穫が終わるまでうちで面倒見てもええよ~」
「半年も貴様に預けたらうぬに洗脳されてしまうだろうがっ! 貴様なんぞに大事な息子を渡すものか~~!!」
久しぶりに肩書から解放されたためか、はやてはディアルという赤子を挟んでディアーチェとはしゃぎまわる姿を見せる。その横で、彼女の臣下二人も食事を摂りながら主たちを囃し立てていた。
シュテルの傍にいる子供の父親は誰だろうな? ディアル同様、オッドアイな上あいつの面影があるが……。
「――っ」
素知らぬ顔で杯を傾けている俺そっくりの“元犬”に目をやると、奴はさっと視線を逸らす。……あいつめ、真面目ぶってるくせにああいうところはIFの俺に似やがって。
「【UZURIPO CHANNEL】を見てる皆さん、見てますか~? 純白のドレスを着たあのきれいな新婦がミッドチルダで“エースオブエース”と呼ばれている、高町なのはさんです! 何を隠そう、あの人も私が聖祥学校にいた頃の先輩で――」
「リホ~! こんな時まで配信なんかやってないで、早くなのはのとこ行こうよ~!」
「邪魔しないであげなさいアリシア。配信者としては数字を取る絶好のチャンスみたいだから。あちこちの星や世界の登録者も観てるみたいだし、今回の収益でまたお昼でもおごってもらいましょ」
聖祥時代の後輩、
彼女らの他にもハラオウン家にテスタロッサ家とフローリアン姉妹、休暇が取れた元六課や元七課の面々が新郎新婦を囲んで盛り上がり、司祭役として来てくれたカリムさんとシャッハさんも微笑ましげにそれを眺めていた。
リインも仲良くなったオーリスと酒を飲み交わしていて傍におらず、俺は一人皆から離れ、二ヶ月前の解散式以上に賑やかな喧騒と300年ぶりに飲むアルコールの味を楽しむ。
――ああいうのを見てると早くリインとの結婚式も挙げたくなるが。まっ、今回は従妹に譲ってやるか。それにしても、ユーノが俺の
『うちの子孫もいよいよ結婚か。それもまさか“
「――?」
その声と呼び名が聞こえた瞬間、俺は隣に顔を向ける。
そこにいたのは――
『まさか私と陛下が親戚になるとはね。300年前じゃ想像もつかなかったな』
“彼女”を見て、俺は思わずグラスを落としそうになる。
隣にはいつの間にかユーノと瓜二つの片眼鏡をかけた短い金髪の少女が浮かんでいた。少し透けていて、俺の斜め上ぐらいに浮いている。
「サニー……」
もう酔いが回ってしまったかと思いながらも、ほぼ無意識に彼女の名を呟く。
サニー・スクライアという、300年前の仲間の名を。
『まずはお礼を言っておくよ。あの朴念仁、陛下がお膳立てしてくれなかったらもう何年かは独り身のままだっただろうから』
俺が知ってる頃と変わらない斜に構えた物言いに笑みを漏らし。
「陛下はよせよ。グランダムはもうとっくに滅んだし、あの国の民の末裔も“愚王”なんて呼ばれてる王なんて汚点としか思ってないだろう。それにあの二人のことだって俺がやりたいからやっただけだ。ベルカにいた頃、クラウスが結婚するチャンスを壊しちまった事があるからな。その罪滅ぼしの真似がしたかっただけかもしれない」
『“そっち”は気にしなくていいと思うけど……まあいいや。それじゃケント、まずはおめでとう。守護騎士たちもリヒトさんも――今はリインさんだっけか、5人とも元気でやってるみたいじゃない。しかもリインさんと同棲までしてるんだって』
冷やかしとも祝いともとれぬ口調に俺はワインを口に含みながら少し間を空け、ぶっきらぼうな返事を返した。
「今のご主人様の許可を取るまで苦労したけどな。そのうち結婚までこぎつけてみせるさ。……
その問いにサニーは笑みを浮かべたままふるふると首を横に振る。
『それだけだったら気楽だったんだけどね……。ケントももう気づいてるんでしょ。カリムって騎士が言ってた『預言』は
「……ああ」
酒の火照りが冷えたように冷たい声が出てくる。幸せそうな子孫と嫁子を眺めながらサニーも笑みを薄めた。
Ⓒ
「なのはさん、ユーノさん、お久しぶりです。それと結婚おめでとうございます」
食事中偶然こっちに近づいてきたなのはさんたちに挨拶すると、二人もこちらに気づき笑みを返してくれた。
「レツヤ君、ありがとう。新しい仕事先はもう慣れた?」
「ええ、七課時代の経験のおかげでよくしてもらっていますから。期待されてる分仕事もハードですけど」
愚痴っぽく付け足すとなのはさんはふふと笑い。
「じゃあ今日はレツヤ君も楽しんでいってね。もう一回結婚式が開けるくらいご祝儀をもらっちゃったから余裕があるんだ。その件でお父さんにもお礼を言っておいてくれないかな……別の世界で暮らしてるから難しいかもしれないけど」
「連絡できないわけじゃないので今度言っておきます。あっちも忙しいみたいだからもうしばらく後になると思いますけど」
苦笑しながら答えると、なのはさんも気遣うような声で「お願いね」と返してきた。
◇
「いい光景ね。でも私なんかが司祭役でよかったのかしら? この世界の司祭も呼ぶことができたでしょうに。そもそも聖王教会の騎士やシスターが
教会の傍で新郎新婦や客たちを見下ろしながらカリムは苦笑とぼやきを漏らす。隣に立つシャッハが笑みを漏らしながら答えた。
「聖王陛下は管理外世界を含む全ての世界の神々の騎士と呼ばれてますから、教義上は問題ありません。この国もいろいろな神様を受け入れているところみたいですし。それに何より、どうしてもカリムか私にお願いしたいって言われちゃいましたから」
カリムは「そうね」と返し、懐に手を当てる。
……“あれ”がなければ、自分たちも心の底から喜ぶことができたのだが。
その思いが伝わったのか、シャッハも笑みを消したところでカリムの懐から場にそぐわぬ電子音が響いた。
カリムは通信用の端末を取り出し、そこに表示されている名前を見て目を見開き、「失礼」と言いながらシャッハから離れる。シャッハもそれを察して彼女を追うような真似はせず、眼下の宴に目を戻した。
『お忙しいところお邪魔して申し訳ない、騎士殿。そちらは今大丈夫ですかな?』
デバイスの向こうから渋い男の声がかかってくる。念のため空間モニターは開かず、カリムは端末を耳に当てたまま答えた。
「ええ、式も一区切りついて人心地ついていたところですから。それに最大の祝儀主を袖にすれば新婦様たちから怒られてしまいます。ご祝儀の件、新郎様と新婦様たちに代わってお礼を申し上げます……ダイレル・クライスラー最高行政官閣下」
彼の名を呼んだ直後、電話口から「はははっ」と軽やかな笑い声が漏れた。
『去年までの息子の授業料とミッドチルダを救ってくれた褒賞と思えば安いものでしょう。妻の同郷のよしみもありますしね。気にしないようお伝えください。……それより、“預言”の方はもう確認しましたか?』
「……はい」
カリムは頷き、懐から一枚の紙片を取り出し、ダイレルに促されるでもなく自ずからその“内容”をそらんじた。
「『平安の数年と殺戮の病が拡がる年が過ぎし
震える声で読み上げるカリムとは裏腹に、ダイレルは落ち着いた口調のまま返した。
『そう、あなたの技能によって顕れた“預言”は
「…………」
カリムは言葉が出せず沈黙を続ける。それに構わずダイレルは続けた。
「こちらもそれを防ぐべく“準備”を進めているところです。それまでの間管理局と教会には不便をおかけすると思いますが、どうかご了承を……まあ難しいでしょうがね」
ダイレルは苦笑とも冷笑ともとれぬ笑いを漏らしながら付け足す。その直後、カリムはたまりかねたように鋭い声を放った。
「最高行政官、いえ“マセラティ様”、あなたはなぜこの預言のことを――」
「おっと、そろそろ会議の時間のようだ。では先の件、管理局と教会のお偉方によろしくお伝えください。それと愚息が迷惑をかけることもあると思いますが、行き過ぎた時は遠慮なく叱っていただいて結構です――それでは」
カリムが言い切る前にダイレルは通信を切ってしまう。あまりの不可解さと理不尽さに彼女はぎゅっと唇を噛んだ後、もう一度右手を持ち上げ、紙片に刻まれた“預言”を見下ろした。
“この事件”はまだ本当の意味で解決していない!