魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
新暦75年5月13日。『機動七課』が発足してから約一ヶ月後。
祝日にもかかわらず訓練漬けだった『新暦記念日』同様、今日もオレたちは空間シミュレーター上の都市で実戦訓練をしていた。
「はああっ!」
オレは
「――はっ!」
彼女の指から放たれた魔力弾はそのまま巨人の胸に向かうものの、奴の前に
そこへ今度はチンクが飛び出し、「はあっ」と声を上げながら数本のナイフを投擲する。巨人は左手を伸ばして体をかばうが――
「IS――ランブルデトネイター!」
巨人の腕にナイフが当たった瞬間、チンクは左手に陣を浮かべる。
それに反応して、巨人の腕に刺さったままナイフは爆発し、あたりに黒煙を撒き散らかす。
だが、煙の向こうで巨人は悠然と両腕を掲げ、オレたちの方に体を向け直した。
「やっぱり硬い。AMFを張ってる上に素の耐久力も高いみたいだな」
「ああ。さすがティミル博士お手製の《
オレのぼやきに同意しながら、チンクは得物を構え直し巨人を睨む。
そんなオレたちを見下ろしながら、傀儡は両腕を大きく広げ胸を反らす姿勢を取る。思わぬ動きに首をかしげていると、巨人の胸がパカッと開いた。
まさか――
「チンク、ルーテシア、ここから離れろ!!」
オレが叫ぶとともに、傀儡の胸の奥が青く光る。それを見てチンクとルーテシアもオレが叫んだ意味を察し、すぐにその場から離れる。その直後、傀儡の胸から青い光線が放たれオレたちがいたところを撃ちぬいた。
あんな技ありかよと思いながら立ち上がると、傀儡は胸を閉じながらチンクの方にまっすぐ向かっているところだった。
チンクは真横に跳んで腕をかわす。それを見てオレはすぐに銃を取り出し――
「はああっ!」
魔力を込めながら引き金を引く――しかし、弾は出てこず銃の中からガギッと不快な音が響いた。
――
「世話の焼ける――はっ!」
作動不良を起こしたデバイスに苦闘しているオレに一言こぼしながら、ルーテシアはまわりに出現させたナイフを傀儡に撃ち込む。ルーテシアが撃ったナイフも傀儡にあたった瞬間爆発し、傀儡は体から破片を零しながらルーテシアの方に顔を向ける。それを前にしてオレは使い物にならなくなった銃をしまいながら、傀儡に向かって突貫した。
傀儡が振り下ろしてくる腕を避けながら奴に肉薄する。そこでまた奴の胸が開き、青い魔力光が灯り始めた。それを見て――
「いかん! レツヤ、そこから離れろ!!」
さっきとは逆に今度はチンクが叫んでくる。だが、オレはそれを無視して傀儡に迫りながら――
「ストップ・ザ・ファイブ!」
そう叫んだ瞬間、傀儡はぴたりと動きを止め、胸の魔力光も収束を止める。オレの技能が効いた証拠だ。
「落葉!」
『応!』
愛刀の返事を耳にしながら、鞘から滑らせるように刃を引き抜き――
「――天月・霞!」
傀儡の胸の奥にある砲口とコアを真っ二つに切り裂く。すると傀儡から気配が消え、五秒過ぎても動かなくなった。
すると頭上から「そこまで」という声が響き、建物の屋上からリインさんが降りてきた。
「途中危なかったが、なんとか大型
「いえ、まだまだです」
リインさんのねぎらいにチンクは照れながらも首を大きく横に振る。そこでリインさんはオレの胸あたりに顔を向けた。
「ところでレツヤ、お前の銃、弾詰まりを起こしていたようだが……」
その言葉を受けて、オレは懐から銃を取り出しながら言った。
「そうみたいです。訓練校時代から使っていたから、もう寿命かもしれません」
「そうか……本局から新デバイスも届いたし、そろそろ変え時かもしれんな」
リインさんは隊舎の方に目をやりながらそうつぶやき、オレたちの方に顔を戻しながら一旦隊舎に戻ろうと告げた。
◆
「こちらがバリアジャケットのデータが入った端末です。お気に入るかはわかりませんが」
「いえ、ベルリネッタさんのデザインなら、うちの隊員たちも喜ぶと思います。いきなりの注文を聞いていただいてありがとうございます」
「こちらこそ管理局からご注文がいただけて嬉しい限りです。“例の衣装”もあと少しで完成しますので、もう少々お待ちください」
「ええ、楽しみにしています」
訓練が終わって隊舎に戻ると、ロビーの方から話し声が聞こえてくる。一人は
御神さんは背中越しながらすぐオレたちに気付き、老人と付き人もこちらに気付いて頭を下げてくる。彼らに対してリインさんとチンクが頭を下げ、オレもすぐに頭を下げた。
「すみません、ご歓談中のところを。それにお客様がいらしたのにお構いできなくて申し訳ありません」
リインさんが謝ると、老人は片手を振りながら返事を返した。
「いえいえ、十分よくしていただいてます。お忙しい中、隊長さん自ら応対してくださって感謝しています」
「ちょうど仕事が一区切りついて暇してただけですよ。――紹介しよう、こちらは『ベルリネッタ・ブランド』の前の社長さんだ。バリアジャケットを届けにわざわざ来てくださった」
御神さんの紹介に合わせて、老人はソファから立ち上がりながら口を開いた。
「ロイ・ベルリネッタです。ご注文のバリアジャケットを届けにこちらまでお伺いしました」
そう言ってロイさんはまたオレたちに頭を下げる。「いえ」と言いながらオレたちが頭を下げ返す中、ルーテシアは小首をかしげて……
「元社長がバリアジャケットを届けに?」
あけすけすぎる言葉に、リインさんを含めオレたちは真っ青になる。せめて“元社長さん”と呼べ。しかし、ロイさんは穏やかな笑みを浮かべたままルーテシアに答えた。
「ええ。御神さんたちとは個人的な縁もありますから、久しぶりに挨拶がしたいと思って来ました。もう会社と関わりのない隠居に押しかけられても迷惑なだけかもしれませんが」
「いえいえ! とてもありがたいと思ってます!」
苦笑しながら頭をかくロイさんにチンクは両手をぶんぶん振りながらそう返す。そんな彼女にもロイさんは温和な笑みを返した。
そんな中、御神さんはリインさんに向かって三枚のカードを差し出した。
「バリアジャケットはその中に入ってる。俺はもう少しロイさんと話してるから、お前たちは技術室に行ってそいつを新デバイスにインストールしてくれ。そろそろデバイスの替え時なんだろう」
見透かしたように言う御神さんに、リインさんは「ええ」と苦笑しながらカードを受け取る。そして彼女についていく形でオレたちも技術室に向かった。
Ⓒ
「すみませんロイさん。あの子、礼儀や敬語が苦手なものでつい失礼なことを」
「気にしなくていい。こちらにとって君たちはお客様だからね。言いたい事や聞きたいことはどんどんぶつけてきてくれた方がいい」
リインたちを見送った後、俺とロイさんはソファに座り直しながら言葉を交わす。生真面目な付き人は立ったままだった。
「それに孫と話していたみたいで嬉しい気分だった。娘夫婦に子供ができていたら、あの子たちぐらいの年だったかもしれんな……」
そう言って名残惜しそうに彼女らが去った方を見るロイさんを見て、俺と付き人は顔を曇らせる。俺は重い沈黙に耐え切れず、彼に尋ねた。
「お孫さんはもう望めそうにありませんか?」
「ああ。娘も義息子も忙しいしもう若くないからな。あの子たちに無理を言うわけにもいかん」
そうこぼして、ロイさんは寂しそうにコーヒーを口に含む。そんな彼に――
「だったら、養子なんてどうでしょう? 血の繋がってなくてもいいのなら、どこかの施設から子供や孫になってくれそうな子を探してみるのもありだと思いますが」
「養子か……実は考えたことがある。だが、私のわがままで娘夫婦に血のつながらない子供を押し付けたくはない。私の養子にする手もあるが、こんな老いぼれが父親ではその子がかわいそうだ。それに私自身いつまでもつかわからんし、結局娘夫婦に押し付けることになるだろう……」
言いながらロイさんは大きく首を横に振ってみせる。彼に向かって俺は再び尋ねた。
「娘さん夫婦にそれを話したことはありますか? もしかしたら娘さんたちも養子を取ろうと思っているけど、ロイさんに遠慮してできずにいるのかも」
「ふむ……それは、あるかもしれん」
思い当たる事があるらしく、ロイさんは初めて考えるように腕を組む。そんな彼を後押しするように俺は続けた。
「実は俺もある歳まで養護施設で育って、今の母親に養子として引き取られて育てられました。迷惑をかけた事もありますが、そんな俺を母は実の子のように大切にしてくれました。もちろん俺も母に感謝していますし、あの人に育てられたことを誇りに思っています」
「…………」
ロイさんは黙ったまま、じっと俺の身の上話に耳を傾ける。そんな彼に俺は“あの話”を打ち明けた。
「それと実は、俺も将来養子を取るかもしれません。いろいろ事情があるんですが、俺自身養子として育った影響も大きいと思います」
「そうか……君とリインフォースさんなら立派な両親になるだろうな」
ロイさんの言葉に「ありがとうございます」と答え、さらに続ける。
「俺も、ロイさんやあなたの娘さんたちなら“その子”にとって、いい親や祖父になれると思います。こんな話を真剣に聞いてくれたロイさんやロイさんが育てた娘さんたちなら……もちろんうまくいく保証はできませんし、血も縁もない子を育てる事に抵抗もあるかもしれませんが」
そこまで聞いてロイさんは息を漏らしながら考え込む。やがて彼は……。
「……いちど娘夫婦と話しあいたい。あの子たちが望むのなら、どこかから“孫”を迎えるのもいいかもしれんな」
そう言ってロイさんは笑みを向ける。つられて俺も笑いかけた時だった――。
俺たちの頭上に大きく【ALERT】と表示された画面が現れ、それに併せて物々しい警報音が響く。
――一級警戒態勢! その言葉が頭をよぎるとともに、はやてが映ったモニターが現れる。
ロイさんたちを見てはやては一瞬目をすがめるも、すぐ俺の方に視線を戻しながら言った。
『こちら八神。御神隊長、今大丈夫?』
「こちら御神。八神部隊長、何かありましたか?」
俺の問いを聞きながらはやてはちらりとロイさんたちを見るも、彼らなら大丈夫だと判断し、そのまま本題を切り出した。
『私たちが追ってる“例のロストロギア”らしきものが見つかった。場所はエーリム山岳丘陵地区。対象は山岳リニアレールで移動中!』
「移動中……ただの輸送にしては尋常じゃありませんね。まさか……」
最後のつぶやきにはやてはこくりとうなずく。
『車両の中に侵入したガジェットが制御を奪ってる。そこには最低でも30体。他にもあと一編成コントロールが利かなくなってる車両があるみたいなんや。健斗君たちにはそれを止めに行ってほしい――いける?』
「わかりました――お前たちも聞いたな?」
はやての隣に表示されているモニターに呼びかけると、そこからチンクとレツヤが「はい」と返事をし、ルーテシアも小さくうなずく。それを確認して……
「よし。では――『機動六課・独立遊撃分隊』出動!」
俺が発した号令に応じて、三人は新たなデバイスを持って技術室から出て行く。それを一瞥しながらロイさんたちに顔を向けた。
「すみませんが、俺たちは任務に出なければならなくなりました。お見送りできなくて申し訳ありませんが」
「わかっている。君たちも気をつけてな」
彼の言葉にうなずきと笑みを返してから、俺もロビーを出て部下たちとともに任務先に向かうことにした。