魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
第1話 再会
新暦78年6月23日。
第3管理世界・『ヴァイゼン』。
首都中心街の少し外れに築かれた全長500メートル、150階もの階層を誇る『時空管理局・ヴァイゼン地上本部』。
その本部ビルの前に黒い乗用車が滑り込み、左側の運転席から橙色の髪をまっすぐ下ろした女性が降り、反対側の助手席からくすんだ金髪を短く切り揃えた女性が降りてくる。
きりっとした雰囲気を纏う整った容姿の二人に、守衛たちは思わず目を見張る。しかし彼女たちが着込んでいる黒いスーツを見た瞬間、あわただしく敬礼を取り二人を迎えた。
◇
『魔法』、『腕を武器に変える』……小説系のサイトしか出てこねえ。じゃあ『自爆魔法』…………こっちはテロリスト系の違法魔導師が使った例があるな。しかし、ほとんど炎魔法と火薬を組み合わせたものばかりか……“この前の奴”が使ったのとは違う気がするんだよなあ。
様々な単語を打ち込み、目ぼしいサイトに目を滑らせていく。しかし、“この前の事件”には繋がりそうにない。
形の上じゃ『被疑者死亡』で終わってるから、早く手がかりを見つけないと“海”に任せる形で捜査終了を命じられてしまう。
じゃあ『相手をじさ――
「捜査主任、本局からお越しの執務官が主任との面会を求めてきていますが……」
「本局の執務官?」
次の単語を打ち込もうとしたところで部下に声をかけられ、思わずおうむ返しをする。部下は首を縦に振りながら訊き返してきた。
「はい。お会いになりますか?」
「断るわけにはいかないだろう。“この前の事件”絡みの可能性もあるし。そのまま通してくれ」
そう言うと部下は再び頷き、通信用のモニターを開きながらここに通すよう告げた。
それから十分くらい経った後、入室許可を求めるやり取りを経て、黒スーツを纏った二人の女性がオフィスに入ってきた。
彼女たちの片方を見て、俺は思わず目を見張る。一方、“
「本局執務官、ティアナ・ランスターです。こちらは臨時補佐官のルネッサ・マグナス。五日前に起きた『ホテル襲撃事件』についてお話を伺いに来ました。少しばかりお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
長い橙髪の執務官と短い金髪の補佐官は敬礼を向けながら自己紹介と用件を告げてくる。俺も敬礼を返し、愛想笑いを作りながら口を開いた。
「捜査主任兼突入隊小隊長のレツヤ・テンドウです。階級は三等陸尉相当。ですが、直接の上下関係にありませんから記憶の片隅に留めていただくぐらいで結構です」
役職と名前、階級を告げると補佐官が驚いたように目を見張る。年齢的にヒラか見習いかと思われたんだろう。
その一方で、執務官は動じた様子もなく頷きを返した。
「ありがとうございます。では襲撃事件について伺いたいので、どこかお部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞこちらへ」
暗に人払いがしたいと告げる執務官に、俺は体と片手を応接室に向けながら案内する。
二人は礼を返しながら後についてきた。
「捜査主任で三等陸尉ね。偉くなったもんじゃない。スバルやチンクさんはともかく、あんたが私と同じ階級にいるなんて」
ソファに腰を下ろすなり、ティアナは憮然とした口調で言い放つ。それを聞いて、隣に立ったままのマグナス補佐官がぎょっと顔をこわばらせた。
対して俺は三人分のコーヒー入りのカップを机に置きながら、同じくタメ口で返事を返した。
「手柄を立てる機会が多いぶん事件も多いけどな。
「まあね。ただでさえ人手が足りなかったのに三年前の“綱紀粛正”以来、執務官や捜査官の成り手が減っちゃって。ルネッサ、あんたも座っていいわよ。こいつ相手に硬くなる必要なんてないから」
「は、はあ……お知り合いですか?」
ティアナの隣に腰掛けながらマグナス補佐官が尋ねる。その問いに俺とティアナは揃って頷きを返した。
「昔、同じ部隊にいた事があってね」
「昔って、たった3年前だろう。割り切りがよすぎるんじゃないか。――ああすみません、マグナス補佐官。俺たちだけで話し込んじゃって」
謝る俺に補佐官はふるふると首を横に振った。
「い、いえ。同じ部隊の同僚ともなれば積もる話もあるでしょうから。それと敬語はやめてもらえないでしょうか。ランスター執務官とは普通に話されていて部下の私に敬語を使われると落ち着きません」
「そうか。じゃあそうさせてもらうよ、ルネッサさん」
そこでティアナがぱんぱんと手を叩きながら言った。
「はいはい、二人とも会って早々打ち解けてよかったわね。――けどルネッサ、間違ってもこいつと付き合おうとか思わない方がいいわ。こう見えて恋人候補が二人もいるジゴロ野郎だから」
それを聞いた瞬間ルネッサさんは眉を顰め、わずかに体を動かして俺から距離を取ろうとする。俺はごほんと咳払いをして話を戻すことにした。
「それはともかく、事件の話を聞きに来たんだろう。こっちも行き詰りかけてたんだ。話を聞いてティアナなりの見解を聞かせてほしい。ルネッサさんも気づいたことがあれば何でも言ってくれ」
そう言った瞬間ティアナとルネッサさんはすぐに真剣な表情に戻り、こくりと頷きを返す。
俺はコーヒーを一口で飲み干し、五日前に起きた“事件”のことを話し始めた。
◆
五日前、ヴァイゼン西部に建立しているホテル群の一角。
緊張に包まれたホテルの周りを消防隊といくつもの部隊が覆っている。一部の隊による避難誘導と不穏な空気に通行人は逃げ去り、野次馬さえ数えるほどしかいない。
そんな現場にいくつかの突入部隊が応援として合流する。俺が指揮する隊もその一つだった。
「チームC、到着しました。状況はどうなっていますか?」
そう尋ねると、総指揮官として後方に立つ中年の士官は硬い表情のまま口を開いた。
「犯人たちは警備用の《ラプター》*1をすべて破壊して押し入った
言いながら指揮官はホテルを睨み、俺も自然とそれに倣う。
その時、ホテルの一角から光が差し、ほぼ同時に真っ赤な爆炎が上がりつんざくような破砕音が響いた。
それを見てどよめきが上がり、少ない通行人や野次馬は一目散に逃げ去っていく。
逆に指揮官は決意を固め、スピーカーを通しホテルを囲む部隊員たちに向けて声を張り上げた。
「A隊からD隊はこれより現場へ突入! E隊とF隊はそのまま周囲を固めろ! 犯人や人質が出てきたら一人も残らず確保するんだ!」
その命令に隊員たちは張った声で「了解」と返しながら、E隊とF隊を残して突入していく。そんな中、俺も銃と刀を取り出しながら「行くぞ!」と叫び、部下たちとともに
「ひっ――た、助けてくれ!」
口髭を生やし、高そうな服を纏っている身なりのいい男が尻もちをつきながら相手に向かって片手を突き出し、震えた声で命乞いをする。
その前にはボディスーツを着た数体の男女が立っていた。皆、血が通ってないかのように真っ青な肌をしていて、目元は無機質なバイザーで覆っている。
先頭に立つ女が一歩踏み出す。それを見て男は「ひぃっ」と悲鳴を上げながら後ろに下がった。対して女はギギギと音が鳴りそうな機械的な動作で首を下ろし、短く無機質な声を発した。
「答えてください」
「な、なにを答えろというんだ? 答えたら助けてくれるのか?」
男の問いに女は頷きもせず再び声を発する。
「《イクスヴェリア》は
「い、イクスヴェ……? なんだそれは? そんなもの私が知るわけ――」
「答えてください! 私たちの望みはそれだけです」
言い終えるのを待たず女は強く言い放つ。しかし――
「し、知らん! 本当に知らない! この状況で誤魔化すと思うか!?」
「…………」
激しく首を横に振りながら知らないと連呼する男に、女は考えるような沈黙を挟んだ後……。
「ではイクスヴェリアの居場所を知っている者は? もしくは――」
「――動くな!」
◇
這いつくばっている男と彼を囲んでいる犯人たちを見つけ、武器を構える部下たちの前で俺は張り上げた声をぶつける。
異様な姿の犯人たちを目にして内心驚愕する俺たちに対し、男と犯人たちは一斉にこちらを振り向き――
「きょ、局員! いいところに――頼む、助けてくれっ!!」
俺たちに気付くや男は唾とともに引きつった声を飛ばしてくる。一方、犯人たちの先頭に立つ女は顔色一つ変えず呟きを漏らした。
「現代の兵士ですか……時を経て兵も随分様変わりを遂げたようです」
「ヴァイゼン地上本部の突入部隊だ! ここはすでに包囲している。彼を離して大人しく投降しろ!!」
意味不明な呟きにかまわず、俺は銃と剣を向けたまま鋭く言い放つ。それに対し、女は緩慢な仕草で腕を持ち上げる。投降……じゃない。
「右腕武装化――形態『
無機質な声で呟いた瞬間、女の右腕が
それを見て何人かの部下が身を震わせる。そんな中、俺は素早く銃を撃ち放ち、犯人の一人の肩を撃ち抜いた。
「制圧開始! 犯人を全員無力化する! 俺に続け!!」
「りょ――了解!」
号令をかけた瞬間、部下たちも逃げだしそうになる自身に鞭を打ち犯人たちを狙撃する。しかし、犯人たちは武器と化した腕を持ち上げ、部下たちが撃った弾を弾き返した。
「貴方がたを《イクスヴェリア》の墓標の元へ――」
「ひっ――」
犯人の一人が呟きながら部下に斬りかかる。部下は死を覚悟し、思わず目を瞑った。だが――
「――はあっ!」
俺は剣を振り上げながら間に割り込み、犯人の腕を半ばから斬り落とす。その直後、別の部下が犯人の体にバインドをかけた。
それを聴覚で確認しつつ、俺は愛銃《ライチェアス》を
「――はっ!」
「ぐっ――」
「――う」
銃口から放たれた弾はそのまま跳ね、犯人たちの肩や腹部に命中し、部下がバインドをかけていく。
それを横目に収めながら俺は主犯らしき女の眼前まで迫り、彼女に向かって愛刀《落葉》を振りかぶった。
「はあっ――」
「――っ!」
女も戦刀を振り下ろし、刃をぶつけてくる。俺は切っ先を捻り、下から剣を突き上げて相手の刀を弾き上げる。
そして彼女の喉元に剣を突きつけようとした瞬間――
「左腕追加武装――形態『戦銃』」
女は銃の形に変えた左腕を突き出し、硝煙を纏った弾丸を撃ち放つ。
とっさに避けようとするが、その後ろに部下がいる事に気づき――
「――ストップ・ザ・アレス!」
技能を使った瞬間、目の前の主犯を含めた犯人たちと弾丸はぴたりと止まる。その機に部下たちは一気に犯人たちを取り押さえバインドで拘束していく。
俺も刀を振りかぶり――
「はあああっ!」
「ぐっ――」
動けなくなった主犯の女の首筋に刀を打ち込むと、女は床に倒れ伏す。その上からバインドを唱え、彼女の体を縛り上げた。
「“強制停止の固有技能”……《マセラティ》の一族でしたか」
無感情な声で“本当の姓”を呟きながら、女は俺を見上げる。まさかと思いながらも……
「そのまま大人しくしていろ。取り調べの時にたっぷり喋らせてやるからよ」
しかし女は感情の窺えぬ声で、
「いいえ。我々《マリアージュ》が虜囚の辱めを受けることはありません」
そう言った途端、彼女の傷口から
血? いや、この色とこの匂いは――
「《マリアージュ》は壁の兵……死したその身は敵地を焦がす炎となる」
「――全員、そいつらから離れろ! あんたもだ!!」
部下たちに叫びながら俺は未だ尻もちをついたままの男の傍まで駆け、半球状のシールドを張る。
その直後、縛られていた犯人たちは真っ赤な爆炎を上げて
不可解な出来事を前に、俺も部下たちも唖然とばらばらに砕けた犯人だったものを見る。誰一人生きていないだろう。
しかも――
「――あぐっ」
真後ろから上がったくぐもった声に俺はそちらを振り向く。
見ると、奴らに襲われていた男が逆手に握ったナイフを首筋に近付けている所だった。
「あんた、一体何を!? 今すぐそれを置け!!」
「ち、違う! 手が、手が勝手に、頼む! 助けてく――ぐぎゃあああああっ!!」
口調とは裏腹に男の腕はナイフを持ったまま躊躇なく首を刺し貫く。
部下たちが回復魔法や蘇生魔法をかけるも、その甲斐なく男は死亡した。
◆
「この通り、『犯人、被害者ともに死亡』で事件は終わり。それ以降何も手がかりは掴めていない……だがこの事件、このまま終わりとは思えない。“マセラティ”なんて名前まで出てきたぐらいだからな。
そう訊ねるとティアナはこくりと頷き、ルネッサさんも真剣な顔で俺を見返す。
それが二年ぶりに会う元同僚と彼女の部下