魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
あの後、上長に
「あんた、自分のバイクで行くの? あたしの車に乗ってもいいけど」
二輪に乗りつけてきた俺に、ティアナがそう申し出てくる。だが、俺は首を横に振りながら言った。
「ティアナたちと別れて捜査することもあるかもしれないし、犯人が路地に逃げた時とかはこいつの方が追いかけやすいからな。俺はこれでついていかせてもらうよ」
「……んなこと言ってバイク見せつけたいだけじゃないの? ヴァイスさんが乗ってたのよりいいのに乗ってるじゃない」
ジト目で訊ねるティアナに俺は誤魔化し笑いを返す。七課時代は御神さんの車か六課のヘリに乗せてもらってばかりだったからな。自分の
「まあいいわ。行きましょう。まずは現場になったホテルから」
肩を竦めながら言うティアナに頷き、彼女とルネッサは車に乗り込み、俺はバイクに跨って発進する。
そしてハイウェイに入ったところでティアナから通信が入った。
『向こうについたらすぐに捜査したいし、今のうちにおさらいするわよ。被害者は『グラーブ・イリシト』。表向きは古代文化、特にベルカ史に詳しい研究者として知られていたけど、許可が下りなかった遺跡に無断で立ち入った事もあったとか悪い噂も聞く人物だったみたいね』
『はい。さらに昔、管理局に反感を持つ団体と接触していた疑いもあるみたいです。その団体、もしくは首謀者に危険な発掘品を横流ししていたらしいとの話も挙がっています』
ルネッサの口から改めてイリシトに関する話を聞き、そんな人間を守るために仲間に傷を負わせたのかというやるせなさと、彼を死なせてしまった不手際に対する自責も覚える。彼を助けだせていれば、この事件を解決する糸口を掴むこともできたんじゃないだろうか。
そう思いつつ、俺は目の前の車に乗っている二人に言葉をかけた。
「そのイリシトみたいな研究者や学者が殺害される事件が第5世界『フォルス』でも起きていたってわけか」
『ええ。犯人は《マリアージュ》と名乗る独特の格好をした連中で、遺跡研究家や歴史学者たちを拉致して殺害。彼らが引き連れていた護衛や警備員も殺されているわ。ただ、拉致された研究者や学者本人はマリアージュに殺されたんじゃなくて、ほとんどが自殺してるみたいなのよ。そうよね、ルネ?』
『はい。一部の被害者――マリアージュに狙われた当人は自ら手にした刃や銃で自らの喉を刺し、もしくは撃ち貫いた状態で発見されています。私と他の鑑識、司法解剖を行った医師も皆同様の判定を出しています』
フォルス地上本部の鑑識官だったルネッサが言うなら間違いないだろう……俺なんか実際にそこを見てるしな。
「その事件の捜査でティアナとルネッサが出会い、臨時補佐官という形でお供させてるわけだ。スバルが聞いたらどんな顔するやら」
『ちょ、変な言い方やめてくれる! この子優秀だし事件解決の役に立ちたいって言ってきたから同行させてるのよ!』
『し、執務官、前を見てください!』
ルネッサが声を上げると、ティアナの慌てた声を上げながらハンドルを握り直し『ごめん』とこぼす。そして念話で《このワルガキ》と恨みめいた呪詛を吐き捨てた。
「悪い悪い。じゃ、おさらいはここまでにしとくか。そろそろ現場に着きそうだし」
“ホテル跡”が見えたところでそう言い、二人も了承の返事を返す。三年前と比べて切り替えが早くなったみたいだな。話しやすくなって嬉しいような、弄りがいがなくなって残念なような……。
◆
先日襲われたホテルだった場所に着き、現場に残っている捜査員たちといくらか言葉を交わしつつ中に踏み込む。
そしてティアナはグラーブが襲われていた場所を、俺はマリアージュ事件に詳しいルネッサとともに彼が泊まっていた部屋を調べていた。そして――
「やっぱり、もう何も残っていませんね」
棚や机を探しながらつぶやくルネッサに、俺も頷きながら言葉を返す。
「マリアージュに狙われた本人が泊まっていた部屋だからな。犯人死亡で終わった事件とはいえ、本人の持ち物ぐらいは回収してるさ」
「そうですね」
ルネッサは相槌を打ちつつ調査を続け、棚の中を手早く順々に確認していく。それを一瞥しながら……。
――ティアナが傍に付けるだけあって手際がいいな……いや、少し手際が良すぎるような。まるでそこに何もないと分かってるかのように。見るべきところはしっかり見てるあたり手を抜いているわけじゃなさそうだが……。
「……んっ?」
ゴミ箱の中を見て思わず調子の外れた声を漏らす。一見
「どうしましたか?」
俺の声と様子に気づき、ルネッサも怪訝そうに尋ねながらこちらに来る。俺はゴミ箱に捨てられていた紙きれをひっつかんで、彼女にも見えるように広げた。
「これは……ベルカ語」
ルネッサの呟きに俺も頷き、
「ああ。たぶん昔のベルカの言葉だと思う。わかるか?」
問いかけるもルネッサは「いいえ」と首を横に振る。それを聞いて俺はすぐ彼女から視線を外しながら頭上にモニターを出現させ――
「ティアナ、ちょっといいか?」
『なに? こっちも調査中なんだけど。何か見つけたの?』
真剣な顔で見上げるルネッサを見て、ティアナも真面目な顔になって訊ねる。信用ないなと思いながらも、彼女に紙を向けながら答えた。
「古代のベルカ語らしきものが書かれたメモを見つけた。ティアナ確か昔のベルカ語も勉強してたよな?」
『ええ。末期前後の文字なら読めると思う。あんたは読めないの? 一応ベルカ人でしょ』
「残念ながら俺は読めん。今の時代じゃ役に立たないってその手の勉強はさせてもらえなかったからな。捜査官になってから独学で勉強してるとこだけど、やっと近代語を覚えたところで」
『そう。もうちょっと近づけて』
呆れもせずそれだけ返すティアナ(が映るモニター)に、メモを近づける。ティアナは顎に手を乗せ思案するような間を空けながら口を開いた。
『詩編の五……聖王暦764年、《冥府の王》と
ティアナが漏らしかけた言葉を察し、俺も頷く。
《グランダムの愚王》ケント・
こりゃ“あの人たち”にも聞いてみた方がいいかな。
『ルネ、そのメモ撮影しておいて。万が一ってことがあるかもしれないし、古代ベルカ絡みなら《聖王教会》にも報告しておく必要がありそうだから。レツヤは御神司令と八神司令に連絡する準備をお願い』
「ああ」
「はい」
ティアナの指示通り、ルネッサは端末をかざしてメモを撮り、俺も端末をいじり元上官たちの
――ピリリリリッ!
ティアナの懐から大きめの着信音が響く。それを聞いてティアナは待つように手をかざしながらモニターを浮かべ、向こうと話し始めた。
『はい、ランスターです。どうしましたか……えっ? …………本当ですか!?』
位置と反響のせいで向こうの声は届かない。しかし、ティアナの口調と顔色からただならぬ事が起こったのは容易に分かった。
『わかりました。準備が整い次第すぐ現地に向かいます』
そう言ってティアナはモニターを閉じながら再び俺たちの方を向き……
『二人ともごめん。予定変更。私たちはここの捜査が終わったらすぐ発つわ。ルネ、メモの撮影終わった?』
「は、はい。もう何枚か保存してあります。まさか……」
顔を青ざめさせながら言葉を止める副官に、ティアナは彼女以上に青ざめた顔を縦に揺らし……。
『別の世界でまたベルカ関連の考古学者が殺害される事件が起きた……第1世界“ミッドチルダ”でね』
それを聞いて俺は思わず目を見張る。俺とティアナにとって故郷にあたる世界――ミッドにマリアージュが現れたかもしれないっていうのか?
◇
『“同志E”、私です。…………』
“合言葉”を発してからしばらくして、ようやく向こうから返事が返ってくる。その声は機械を通したように重く無機質なものだった。
『同志……軽率な連絡は控えろと言っているはずだが……』
厳しい口調をかけられ通信越しにもかかわらず頭を下げかけるも、自らを奮い立たせて声を絞り出す。
『申し訳ありません。ですが、至急確認したいことがありましたので。むろん今は局員はもちろん、周囲には誰一人おりません。もちろんできるだけ早く済ませた方がいいのは確かですので、話だけでも聞いていただけないでしょうか』
『……話せ。それ次第で決める』
『ありがとうございます。ミッドで考古学者が襲われたと聞きましたが、あちらはマリアージュたちが勝手に? それとも、あなたたちが……』
それ以上の言葉を飲み込み、“同志”からの返事を待つ。予想に反して間を置かず答えが返ってきた。
『両方だ。彼は“トレディア”の関与と目的を知っていた上で“我々”への協力を拒んだ。ちょうどそこで
『……局員にも犠牲が出たという話ですが』
慎重な響きを帯びた声で訊ねる部下に、同志はため息をついて言った。
『やむをえん。彼があちらに渡れば“計画”に支障をきたす可能性があった。お前とて邪魔者を何人も始末してきただろう』
『はい……』
痛いところを突かれ、か細い返事を返す。その隙を突くように同志が重い声を放ってきた。
『それに“我々”の目的を忘れたわけではあるまい。文明を育て、他の次元に出られるほどの技術を持つ世界は全て自らの管理下に置こうとする“時空管理局”などという組織に重き鉄槌を下し、奴らに
『彼らとの“戦争”とそこから上がる“炎”で、すべての大衆に我らの意思と無知という大罪を知らしめる……一時も忘れたことはありません』
そう返すと同志は『うむ』と安堵の混じった声を返し、
『話はそれだけか?』
その問いに首を横に振りかけながら口を開く。
『いえ、もう一つお知らせしたいことが……ミカミという管理局の幹部をご存じでしょうか』
『……ああ。よく知っている。それがどうした?』
感慨と怪訝さの混じった声で尋ね返す同志に、わずかに迷いながらも返事を返す。
『事件を追っている局員の口からその人物の名前が出てきました。もしかすれば知り合いかもしれません……』
どうしますか? と続ける代わりに沈黙を挟むものの、向こうから首を振るような音が返ってきた。
『……マリアージュが動き出した以上、計画は変更できん。そいつが邪魔しに現れるのならばマリアージュにやらせるか……
熱のこもった声を聞いた瞬間、びくりと肩が震える。それに対し、向こうは落ち着きを取り戻すように冷淡な声で言った。
『話し過ぎたようだ。これ以上はまずい。お互い“務め”に戻るとしよう、“同志R”』
『はい、そっちこそ気を付けて。“兄さん”……いえ、同志E』
わずかに砕けた口調を返しながら“兄”との通信を切る。そして“同志R”こと
アンケート結果により、なのはとユーノ一家の苗字は『高町・スクライア』に決まりました。回答してくださった読者様、ありがとうございます。
今編のヴィヴィオ登場時に明かされる予定です。楽しみにお待ち下さい。