魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
レツヤたちが『マリアージュ事件』の捜査を進めている頃。
荒れ果てた廃屋が並ぶ廃棄都市。その一角に立てられたテントの下に白い湯気の立つ鍋が置かれ、そのまわりには薄汚れた身なりの住民たちと、彼らに野菜スープをよそおうシスターたちの姿があった。
「みなさーん、ちゃんと列に並んでー! スープはちゃんと人数分ありますから!」
「ほい、熱いから気をつけてー」
短い赤紫髪のシスターが声を張り上げて列を誘導し、肩までかかった水色髪のシスターがスープを入れたお椀を配り、別のシスターや修道士がパンや水入りの紙コップなどを渡す。
しばらくそれが続き、午前の分の鍋がほとんど空になったところでシスターたちは息をついた。
「ふー、やっと午前の分が片付いたー。シスターってこんな仕事もやるんだね~」
「困窮している人たちへの施しも、聖王陛下の意思を継ぐ教会の務めですから……できることなら、こんな所に住まなくてもいいようにもう少し踏み込んだ手助けもしたいんですけど……」
赤紫髪のシスター、シャッハは廃棄都市と配給された飲食物を摂る住民たちを見回しながら嘆息する。それに対し、袖の短い修道服を着た見習いシスター、セインも同情的な返事を返した。
「仕事や競争に負けて社会からあぶれた人なんてどこの世界にも町にもいるからね。特にミッドは他の世界から人が集まってるから、住める場所もどんどんなくなってきてるし」
かつてスカリエッティや姉妹たちと共に洞穴に住むことを強いられていた彼女には、
それを思い出しながらあたりを見回していたところで、セインは目を見張り――
「――! シスターシャッハ、ちょっとこれ貰うね!」
そう告げるや、セインはおもむろにパンを持って駆け出しテントから離れる。それを見て――
「シスターセイン、ちょっとどこへ!?」
シャッハは思わず声を荒げるも、遠くからこちらを見る三人組の子供たちのもとに行ったのを見て声を止めた。
「どうしたの? さっきの配給には並んでなかったみたいだけど」
おもむろに近づき尋ねてくるセインに、子供たちは気まずそうな顔を向けたまま黙りこくる。
すると、中心にいた少年の腹からぐ〜と音が鳴った。彼は慌てて腹を押さえ、セインから離れる。それを見てセインはやっぱりと察した。
おそらく配給の噂を聞いて来たものの、いざとなって配給を貰うのが恥ずかしくなって、かと言って諦めて帰ることもできず立ち尽くしていたのだろう。
セインは手にしていたパンを差し出し――
「これ食べない? ちょっと余っちゃったんだ」
「――っ、い、いいよ、腹なんてへってないし――」
気を遣われている事を察し、少年は他の二人を見ながら首を振る。だがそこでまた少年の腹からぐ〜〜っとさっきより大きな音が鳴った。
セインはパンを突き出し――
「いいから食べなって。他の二人の分のあるからさ!」
その言葉に少年たちは顔を見合わせる。しばらくして一人が手を伸ばしてパンを掴み取り、そのまま食べ始める。それを見て他の二人も奪うようにパンを引っつかみ貪るように口に入れる。
そんな三人を見てセインが笑みを浮かべると――
「ごほ、げほげほ――」
慌てて口の中に入れたためか、一人がむけ返すように咳を吐いた。
「あ、やばっ――水、みずっ!」
「はい、お水です。ゆっくり飲んで」
慌てて辺りを探すセインの横から紙コップを持ったシスターの手が伸びてくる。その手はひょっとしなくても彼女の先輩兼同僚のシスター、シャッハのものだった。
シャッハは自身が言った通り少年がゆっくり水を飲んでいくのをじっと見守る。
「ありがと。シスターの姉ちゃん」
「どういたしまして。それだけで足りますか? 少しだけ待ってくれればスープも用意できますが」
「うーん、じゃあたのもうかなー」
一度ご馳走になったことで遠慮がなくなったのか、少年たちは厚かましさが混じった口調で答えてくる。するとシャッハに向かってセインが念話を飛ばしてきた。
《用意するって午前の分はなくなったんじゃ……》
《午後の分を少し貰います。一人でも炊き出しが行き届かなかったら不公平ですし、万が一に備えて人数分より多めに持ってきていますから》
慈愛のこもった笑みを浮かべながらシャッハも念話で答える。そこで少年がまた言った。
「あっ、だったらもうひとり連れてきてもいいかな? ねえちゃんにも食べさせてやりたくて」
「ねえちゃん? 君のお姉さんもここに住んでるの?」
わずかに気の毒そうな響きを帯びた声でセインは尋ねる。その問いに少年は首を横に振った。
「ううん、おれのねえちゃんじゃない。でも年上だし、向こうがそうよべって言ってるからそうよんでる。最近じゃまものが出てきたせいでしゅうかくが減ったってぼやいてるから、いいもの食わせてやりたくてさ」
(邪魔者?)
(収穫?)
少年の口から出てきたいくつかの単語にシャッハたちが不穏なものを覚えたところで、すぐ傍の通りを歩く若い男二人の声が聞こえてきた。
「“シャンテ”と“クイン”がまたやり合ってるってよ! 見に行ってみようぜ」
「いや、やめとけって! あの二人に見つかったら有り金と持ち物全部
男たちの会話とただならぬ雰囲気にシャッハたちは眉を顰める。だが、二人よりさらに大きく反応したのは――
「“シャンテねえちゃん”! もしかしてまた“クイン”ってやつと――」
空腹も忘れ立ち上がりながら少年は叫び、他の二人も不安そうに顔を曇らせる。
それを見てシャッハとセインは顔を見合わせ、こくりと頷きをかわした。
そんな彼女らの遠くで、午前の仕事を終えたシスターや修道士たちが休息をとる中、午後の炊き出しのための食糧が積まれた車の傍に茶色い髪をふたつの三つ編みに分けた小柄な女が近づいてきた。
◇
所変わって、炊き出しが行われていた場所から少し離れた区画で二人の少女が相対していた。どちらも十代前半で、薄汚れた服を纏っている。
「てめえ、最近いつもあたしの邪魔しやがって。ストーカーかおらっ! あたしゃてめえみてえなネクラな
左右に垂らした長いおさげが特徴的なオレンジ髪の少女――シャンテは紫色の両眼を細めて怒鳴りつける。
彼女とは対照的に――
「邪魔してんのはあんたの方。あんたのせいでどれだけ獲物を逃したか。むしろあんたがストーカーじゃないの?」
短く切り揃えた金髪の少女――クインは青い両眼を無感動にぱちくりさせながら言葉を返す。
それを聞いてシャンテは腹ただしそうに両眼をギラつかせ、手にした鉄パイプを構えた。
「ざけろタコ! 今日こそ徹底的に叩きのめして、二度とあたしの前に出られなくしてやるよ!!」
「それはこっちのセリフだ! 減らず口が叩けなくなるよう徹底的にぶちのめしてやる!!」
クインも忌々しげに吐き捨てながら特殊警棒を腰だめに構え、足を広げる。
――その瞬間、対峙する間も置かずシャンテが踏み込み、クインの
「死ねえっ――!!」
シャンテはクインの後頭部に向けて硬いパイプを振り下ろす。
が、クインは瞬時に体を反転させ自らの
だが、シャンテの体は警棒を受け止めた瞬間、ぐにゃりと曲がり
「――バァカ! そっちは幻だ!」
消失する“シャンテの幻”とクインの後ろに
「バカはそっち。毎回毎回幻術ばっか出されたら嫌でも避けられるようになる――はあっ!」
吐き捨てながらクインはシャンテの頭に警棒を叩き込む――が、またもや警棒はシャンテを通り抜けた。
その直後、背中に重い一撃が打ち込まれ、クインは呻きを漏らしながら後ろを見る。
「だからバカはてめえの方だっての。このシャンテ様にかかればいくつも幻を操るなんて赤ん坊の手をひねるより簡単だ――ぐあっ!」
言い終える前にシャンテのどてっ腹に警棒がねじ込まれ、シャンテは後ろに吹き飛び、汚れた地面を滑る。
居合と同様の原理で空気間の合間を滑らせるように警棒を抜き出し、シャンテが視認する前に打ち込んだのだ。
シャンテは形相を歪めながら起き上がり。
「てめえっ! 手加減してればいい気になりやがって――今日こそマジで潰してやんぞ!」
吠えた直後、シャンテの体が四つに分裂する。
「そっちこそ、今日こそなます切りにして野良犬の餌にしてやる!」
臆した様子もなくクインも警棒を構える。
が――。
「そこまでにしときな!」
「「――!?」」
あらぬ方から女の声が届いた直後、そちらから“石粒”が弾丸のような速さで放たれ、シャンテの幻二体を貫き、消失させる。
さらに別の方から撃たれた弾
二人は着地しながら――
「いいところで邪魔しやがって! なんだてめえ
「何の用!?」
シャンテとクインはきっと目を鋭く細め、一般人や並みのチンピラなら逃げ出すだろう罵声と訊いをぶつける。
だが、薄い青髪をサイドポニーに束ねた女は動じた様子もなくクチャクチャとガムを噛みながら緑色の両眼で二人を見下ろし、バンダナを巻いた銀髪の男はふてぶてしいという言葉が合う笑みを浮かべる。
二人ともシャンテたちより二・三は上の青年で、派手な柄のシャツとジャケットといったパンクなファッションに身を包んでいる。
「二人ともなかなかいい腕じゃねえか。顔もいいし。――気に入ったぜ! くだらねえ喧嘩なんかやめて俺の
カート・グレンデルと名乗る銀髪の男がそんな言葉を放った瞬間、シャンテとクインはキョトンと目を見張った。