魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第4話 もう一組の再会

 深夜、シャッターが下りた服飾店に()()の男女が向かって歩く。皆青白い肌で、ボディスーツのような格好に身を包んでいる。

 《マリアージュ》と名乗り、彼女らを追う管理局員からもそう呼ばれている集団だった。

 先頭の女は店のすぐ前で止まるや左腕を掲げ、その形を変えていく。だが、彼女の腕が銃のような形を作った途端、数人の人間が近づいてきた。

 皆サングラスと黒いマスクで顔を隠し、迷彩服に近い無骨な服を着ている男女だ。

 

「邪魔をしにきたのですか?」

 

 女は銃に変えた左腕を突きつけながら尋ねる。すると向こうの集団から巨漢の男が赤い髪をたなびかせながら歩いてきて、大きく首を横に振りながら野太い声を発した。

 

「いや、お前たちに渡したいものがあって来た」

 

 そう言うと、男は左手に掴んだ袋を女に向けて放る。それを見たマリアージュの何体かは身を構え片腕を上げるが、ドサッと音を立てながら袋が落ちた瞬間、動きを止めた。

 

「その音は……服ですか?」

 

 その問いに男は頷く。

 

「ああ、明日はそれを着ていけ。わざわざ店を襲って警戒を買う必要はない……おい」

 

 男が顎をしゃくると、後ろの仲間たちも進み出てきて、男が放った袋の隣に同じサイズと色の袋を次々と置いていく。

 そして、マリアージュたちの前に必要としていた分の服が入った袋が積まれていった。

 

「……協力に感謝します。条件は?」

 

 冷たい声でマリアージュは訊ねる。彼女の問いに男はすげなく答えた。

 

「ない。強いて言うなら、そのまま《イクスヴェリア》を探し続けろ。手がかりとなる者たちは生かすも殺すも好きにしていい。ただし、お前たちの動きは常に掴んでいる。それを念頭に入れておいてくれ」

 

「……なるほど。そちらも《イクス》が目的ですか」

 

 察しをつけるマリアージュに、男は首を縦にも横にも振らず返事のみを返す。

 

「利害は一致しているはずだ。お前たちが“進軍”を望んでも、敵と進行先がなくては動きようがあるまい。我々がお前たちとお前たちの“王”にそれを示してやる」

 

「……《イクス》の捜索の邪魔をしなければ構いません。協力に感謝します」

 

 先ほどと一字違わぬ言葉でもう一度礼を言い、マリアージュたちは服が入った袋を手にし、背中を向けて歩き去っていく。数十歩ほど歩き、彼らから離れたところでリーダー格の女がただ一言呟いた。

 

「イクス……じきにマリアージュ(我々)が参ります」

 

 

 

 

 

「いいのか? 奴らを好きにさせておいて。“R”の報告では、管理局はすでにマリアージュの捜査に動いているという話だが……」

 

 マリアージュが見えなくなったところで声をかけてくる仲間に、リーダーは頷き仕方なさそうな声を返す。

 

「どのみちマリアージュは止められん。正体と目的を掴まれるのも時間の問題だろう。ならばせいぜい“隠れ蓑”として利用させてもらうさ。最終的にこちらが《イクスヴェリア》を手に入れられればいい」

 

 言い終えると同時にリーダーは片手を上げ、無言で撤収を告げる。それに従い、手下たちも背中を向けてその場を去っていく。

 そんな中、リーダーは足を止め、自らを納得させるように呟いた。

 

「そうだ。すべての人間に管理局の実態と平和の脆弱さを思い知らせるために、多少の危険(リスク)と犠牲はやむをえん……そうだろう、ルネッサ」

 

 

 

 

 

 

 ――マリアージュ。

 まだ私を探してるの?

 もういい。やめようよ。

 私たちは目覚めちゃいけないの。

 

 ……お願い、“ここ”には来ないで。

 

 

 

 

 

 

『6月25日、午前11時になりました。午後からのお天気情報をお伝えします。クラナガン周辺は雲が多く、朝から引き続き夜にかけて断続的に雨が降るでしょう。北部は一日中快晴となっており……』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 街頭モニターから流れるアナウンス通り、雨が降り注ぐ首都(クラナガン)の通りに、二人の少女と彼女らを雨から守るように傘を持つ少年がいた。

 三人の周りには雨にかかわらずごった返すほどの人波で溢れており、そんな街中で短い桃色髪の少女、キャロが口を開いた。

 

「やっぱりミッドは人が多いね」

 

「そりゃキャロたちがいる辺境世界や私が暮らしてる無人世界と比べたらね。ミッドチルダは全次元の中心なんだから。特にクラナガンは大嵐でもない限り人であふれてるわ」

 

 ルーテシアの言葉にキャロは「あはは」と軽い笑いを返す。

 そんな二人に挟まれながらエリオはきょろきょろとあたりを見回した。

 

「でも、これだけ人がいるとアルトさんもスバルさんも見つけにくいな。迎えに来てくれてるはずだけど……」

 

「エリオー! キャロ、ルーテシアー!!」

「こっちこっちー!」

 

 道路沿いで声を張り上げながら手を振る二人の女性を見つけて、エリオたちは顔をほころばせ――。

 

「スバルさん! アルトさん!」

「お久しぶりです!」

 

「三人ともおひさし……って、ええ、なにー? エリオとルーテシアかなり背伸びてない!? エリオなんかあたしと頭半分しかちがわないし!!」

 

 スバルはエリオに接近し、自分と比べながら叫ぶ。

 一方、キャロは頬を膨らませ……。

 

「むー、私だって伸びたんですからーっ!」

 

「2センチいくかいかないかね。もうこのままロリキャラでいったら。最近はそういうのが好みだって堂々と言う人も増えてるみたいだし」

 

「まぁまぁ、キャロもそのうち急に大きくなるかもしれないし……っていうか、ルーテシアも結構変わったね。見た目だけじゃなく性格とかも」

 

 拗ねるキャロとからかうルーテシアをなだめながら、アルトはしみじみと呟く。

 それを聞き流しながら、ルーテシアはきょろきょろと首を振り。

 

「迎えに来たのは二人だけ?」

 

「うん。あたしとアルトだけ。ティアたちとギン姉はお仕事だって」

 

「いやスバル、そこは()()()()()でしょ。あの子が来てるって聞いた途端、急いで仕事終わらせて休暇取ってきたぐらいだし」

 

 アルトの言葉にルーテシアは顔を赤くし、

 

「そ、そんなのじゃないし――それより、これからどうするの? 捜査の協力って感じじゃないけど」

 

 誤魔化しついでに尋ねるルーテシアに、スバルは灰色に染まった空を見上げながら答えた。

 

「今日はあたしたちも非番だし、最近オープンした『マリンガーデン』ってレジャーランドに連れてってあげたいって思ってたんだけど、今日は天気も悪いしどうせなら他のみんなが休みの時に一緒に連れてってあげたいから――今日は湾岸部食べ歩きツアーとかどう?」

 

「――やった! ご一緒します!!」

 

 スバルの提案に、エリオは喜びの声を上げる。それを見てルーテシアが尋ねた。

 

「まさか割り勘じゃないよね? スバルとエリオが食べる量を考えると私たちは払い損になるんだけど」

 

 その言葉にキャロとアルトはコクコクと同意する。それに対し、スバルはエリオとともにばつが悪そうに苦笑いを浮かべながら言った。

 

「もちろん、今日はあたしの奢りだって! 残業や緊急出動とかが多い分お手当もいっぱい出るんだけど、ジムやトレーニンググッズぐらいにしか使わないからさ。里帰りと再会の記念にご馳走させてよ!」

 

「そういうことなら」

 

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 ルーテシアとキャロは安堵交じりの返事を返す。そこでアルトは後ろに停めてある自動車のバックドアに手をかけながら告げた。

 

「じゃあ、荷物後ろに乗せちゃおうか」

 

「それ、やっぱりアルトの車だったんだ。結構古そうだけど」

 

 ルーテシアにつぶやきに、アルトは「そうなの!」と自慢げに声を弾ませた。

 

「掘り出し物のヴィンテージカー! 探すのも直すのも苦労したんだから~! 今日はこれでみんなを案内してあげるよ。さあ、さっさと荷物乗せて乗せて!!」

 

 バックドアを指しながら急かすアルトに通行人たちの注目が集まり、ルーテシアは「早くしましょう」と連れの二人を促しながら荷物を預ける。

 そうして一行はアルトの車に乗せられて湾岸部の店に向かって行った。

 その車内の中でルーテシアは雨が降りしきる外を見ながら……

 

――レツヤとチンク、今ごろどうしてるかな?

 

 と、胸中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

『詩編の六。かくして“愚かなる王”滅びし後、《冥府の王》はかの地から去り闇の狭間で眠りについた。残された(しもべ)は《王》を探し、幾つもの世を彷徨い歩く……』

 

 昨日、ティアナが捜査した現場に残っていた古代ベルカ語のメッセージらしい。今回は被害者の血で壁一面に描かれていたそうだ。犯人の仕業だとしたら、なんでわざわざこんなものを?

 

『それ以降、昨日までは何も起こってないわ。廃棄都市(スラム)で喧嘩と食糧泥棒が起きたぐらい。不良娘二人と三人組のおかしなチンピラの仕業で、マリアージュは関係なさそうよ。今日はとりあえず襲われそうな人への警告と狙われそうな場所の巡回から始めるところ。レツヤとチンクさん――テンドウ捜査官とナカジマ准尉も手伝ってもらえる?』

 

「はい、任せてください!」

 

 通信越しのティアナの指示に、チンクは階級に(したが)い敬語で応える。

 

「ギンガさんとルネッサはもう?」

 

 訊ねる俺にティアナは『ええ』と頷くような声を返し、

 

『二人で手分けして危険度の高いところをあたってもらってる。あなたたちは近いところからお願い。雨の中バイクで申し訳ないと思うけど』

 

「いいよ。それも慣れてる。――それより、ルネッサが連絡したのは誰かわかるか?」

 

『……? ええ。通信記録を照会すればすぐにでも。でもなんでそんなものを?』

 

 訝しげに訊き返すティアナにこっちの捜査に必要なんだと説明し、ルネッサが連絡した相手を教えてもらう。

 そしてまたの連絡を約束して通信を切る。そこでチンクが声を発した。

 

「レツヤ、まさかお前、彼女のことを……」

 

「……ちょっと気になることがあってな。根拠と言えるほどのものはないし、ただの思い過ごしならいいんだけど。――そういうわけで、巡回のついでに少し寄り道するぞ。ルネッサが最初に連絡を取った相手がいる『ベルウィードホテル』へ!」

 

 そう言うとお互いカッパを着込んだ状態でバイクに乗り込み、目的地に向かって発進させた。

 

 

 

 

 

 

「もぐもぐ、んー、これおいしいねー」

「はい! あっ、すみませーん! これ大盛り、お代わりお願いします!」

「あっ、私も! あと五皿お願いします! もちろん大盛りで!」

 

 二十皿以上積み上げながらなおも追加を頼むスバルとエリオ。それらを見て、連れの三人やまわりの客たちは唖然としていた。

 

「いやー……二人とも相変わらずびっくりするほどよく食べるねー」

 

「たくさん食べるから大きくなるんですかね」

 

「キャロは真似しない方がいい。横にいく可能性の方が大きいから。っていうか、あれスバルのお金だけで足りる?」

 

 ルーテシアの一言にキャロとアルトは冷や汗を浮かべながら苦笑する。割り勘にしなくてよかったと思う反面、スバル一人に払わせていいのだろうかとも思う。

 心配する三人をよそに、当のスバルたちが来たばかりの注文に手を伸ばしかけたところで、店内、いやビル内に非常放送を意味するチャイム音が流れた。

 

『お客様へお知らせいたします。当ビルの近くにある『ベルウィードホテル』の上層階にて大規模な火災が発生しております。本ビルへの延焼の危険はありませんが、近くへ移動される予定のお客様はどうかご注意ください。繰り返します……』

 

 アナウンスが同じ説明を繰り返し始めたところで、四人は呆然と顔を見合わせる。もう食事をとる気もなくなったようだ。

 

「近くのホテルで火災?」

 

「それってあの黒くて大きな……」

 

 ルーテシアとキャロの呟きにアルトは頷き、説明する。

 

「ここらじゃ一番高級なホテルだよ。しかもそこの上層階って会員制って聞いたことある」

 

「うん。だから防災設備は最高の五つ星のはず……まさかそんなところで――マッハキャリバー!」

 

 スバルは疑問を覚えながらも首から下げたネックレス状の相棒に呼び掛ける。その状態のまま彼女の相棒は『All right!』と返した。

 そんな相棒を手に握り込みながらスバルは立ち上がり――

 

「みんな、ごめん! あたしは消火と救助の応援に行ってくる! アルト、ここの支払いお願い! 後で返すから」

 

「うん! 108隊も非番出動かかるかもしれないからいったん戻る。エリオたちはタクシーかバスでスバルんちに行って!」

 

 スバルに続いてアルトも大急ぎで席を立つ。そこでエリオがキャロと頷きをかわし――

 

「スバルさん!」

 

「私たちも手伝います!」

 

 スバルは駆けだしかけた脚を止め、二人――いや三人を見る。

 

「エリオ、キャロ……ルーテシアも」

 

「私の転送魔法なら逃げ遅れた人とかを外まで移動できるから。それにこんな時に何もしなかったら、レツヤたちや今の職場の部下たちにも顔向けできない」

 

 強い口調で言うルーテシアと隣にいるエリオとキャロにスバルは硬く頷き、

 

「三人ともお願い! じゃあ私と一緒に来て!」

 

 三人は「はい!」と返しながらスバルに続く。それに紛れてルーテシアは横目でちらりと、こちらを眺める集団を覗き見た。

 

 

 

 

「なんだあいつら? 火事と聞いてビビったのか?」

 

 火災のアナウンスを聞いても動じず、酒を含みながら呟く男に対面の男が「いや」と返した。

 

「それにしては妙だ。むしろあそこへ向かっているような……“R”だけじゃ万が一のこともあるかもしれん。“E”に報告しておこう」

 

 その言葉に仲間たちは肯定するように頷く。それを確認して男はがたっと席を立ち、タグ型のデバイスを手に店を出て行った。

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