魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第5話 真犯人()()

「これは……」

 

 煙と火が上がるホテルを見て、チンクは愕然と言葉を漏らす。その前で俺は舌を鳴らした。

 

「――遅かったか!」

 

 毒づきながら忙しなく駆け回っている救助隊のうち、やきもきしている様子でホテルを見上げている黒髪の男を見つける。俺はその場にバイクを置いて彼の元へ走った。

 

「スターン司令、来ていたんですか!」

 

「おお、テンドウ捜査官とナカジマ小姉じゃねえか。まさか、お前ら()ここへ捜査に来たのか?」

 

 俺たちを見つけてスターン司令は目を丸くしながら聞き返してくる。それに俺に続いてきたチンクが答えた。

 

「はい。テンドウ捜査官が調べたいことがあるとかで……それと司令、いいかげん“小姉”と呼ぶのはやめてください!」

 

 チンクの非難に司令は「悪い悪い、癖でな」と笑いながらもすぐに顔を引き締め、告げる。

 

「見ての通りホテルは大火事だ。まるで2()0()()()()()()()()()()()火の手が上がってやがる。幸い客や従業員の避難はほとんど済んでいるが、まだ数人取り残されてる奴がいるみたいでよ。偶然近くの店にいたナカジマ妹と連れの連中が助けに向かったんだが……」

 

「スバルが!?」

 

 訊き返すチンクに司令は真剣な顔で頷く。それを見てチンクは彼以上に硬い顔を俺に向けてきた。

 俺は頷き、司令に顔を戻しながら言った。

 

「俺たちも行きます! 状況から見て俺たちが追ってる事件の犯人の仕業かもしれませんし、先の事件の例からして犯人が中に残っているかもしれません。おそらく火があがってる20階より上に」

 

「おいおい大丈夫か――って、ミッドを救った“伝説の部隊”にいた奴に言う台詞じゃねえか。ナカジマの連れも行かせてるしよ」

 

 司令は苦笑しながら訂正する。“フォーティーン”として犯したことを知りながらスバルを引き抜いた彼なら六課のことも知ってるだろうし、俺たち七課のこともスバルから聞いているのかもしれない。

 俺は首を縦に振りながら返事を返した。

 

「はい。向こうでもこれぐらいの現場に飛び込んだことはありますから――ところで、ルネッサ執務官補はいませんか?」

 

「あの嬢ちゃんは魔導師じゃねえし荒事にも慣れてないから、ランスターの命令で事が収まるまで待機してるはずだがな……どこへ行ったんだ?」

 

 司令はひととおりあたりを見回してから首をかしげる。それを見て、俺の中でどんどん疑惑が形を成していくような感覚を覚えた。

 

「まあとにかく、出入り口の周りは俺たちがしっかり見とく。中の方は頼んだぞ。……本当なら俺が真っ先に行きたいところなんだがよ」

 

 司令は肩をさすりながら悔し気に付け足す。

 スターンさんは7年前まで救助隊員として現場で活躍していたけど、北部の空港火災で怪我を負って現場を離れて指揮に移ったらしい。

 未練を押し隠しながら俺たちを見送る司令に頷きを送り、俺とチンクも赤黒い火の手があがるホテルへ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 ベルウィードホテル・上層階。

 

「じっとしてて。転送魔法で外まで送りますから!」

 

「ああ、ありがとうねぇ」

 

 いたる所が火に包まれ(かまど)のように真っ赤に染まったホテル内で、ルーテシアは逃げ遅れた老人客を外へ転送してふぅと息をつき、手袋型のデバイス《アスクレピオス》を嵌めた両手のうち右手を持ち上げ、口を開いた。

 

「こちらルーテシア。スバル、28階東側、逃げ遅れてた人の転送を済ませたところ。このまま上に行っていい?」

 

『うん。でも、燃料や電子機器、粉塵に引火して突然爆発することがあるから十分注意して!』

 

 救助隊員(プロ)らしい説明に内心感心しながら、ルーテシアと同時に聞いていたエリオとキャロは「了解」と返す。

 そして、ルーテシアは右手を下ろし、近くの階段から上に向かおうとする。

 エレベーターで行く選択肢は最初からない。火事や災害が起きればエレベーターは自動的に1階まで降ろされ、その後使えないようになるからだ。そちらももう客や従業員が乗っていないか確認している。

 

 だが、階段を上がろうとした瞬間、異臭と黒い液体が流れているのに気づき、ルーテシアはすぐに後退してバリアを張る。

 その直後、階段が破裂したように炎と爆風が噴きあがり、ルーテシアに襲いかかる。

 バリアから伝わってくる衝撃と少しでも遅れたらと想像し、ルーテシアの額からひやりとした汗が流れる。

 

――さっきの黒い液体は、昔火力を上げるために使われてたっていう『燃焼液』……やっぱりこの火事、ただの事故じゃない。でも階段を爆破したら犯人も逃げられなくなるはず。飛行魔法を使って逃げても航空隊に落とされるだろうし。一体犯人はどうするつもり――。

 

 

『こちらテンドウ。誰か応答してくれ!』

 

「――!?」

 

 脳裏に青年の声が響いた瞬間、ルーテシアは耳を疑う。その声と名乗った名はこの3年通信越しでしか聞かなかった想い人のものだったからだ。

 それを確信した瞬間、スバルに告げた時同様ルーテシアは右手を持ち上げながら叫んだ。

 

「こちらルーテシア、レツヤここにいるの?」

 

『ああ。確かめたいことがあってチンクと一緒にな。――それよりこの火事、俺とティアナが追ってる事件の犯人の仕業かもしれない!』

 

 レツヤの返事にルーテシアは思わず「やっぱり」と呟く。

 

『ヴァイゼンの時と同じパターンなら、たぶん犯人と目的の相手もまだ中にいる』

 

 その言葉にルーテシアとさっき同様通信を聞いているエリオ、キャロは体を硬くする。

 そんな中、マッハキャリバーの声で『Alert. Vital response!』と響き、続けて彼の相棒(スバル)の声が響いた。

 

『生体反応ひとつ発見、犯人か被害者か――とにかく助けに行く!』

 

「じゃあ私も。階段の一つが塞がれちゃったけど、転送魔法を使えばすぐ上の階に行くことぐらいできるから」

 

 そう言って、ルーテシアはすぐ上の階に転移する準備をする。だが――

 

『いや、ルーテシアには一つ頼みたい事がある』

 

 それを聞いてルーテシアは怪訝そうに眉を持ち上げるが、続けて放たれた指示を指示を聞いてこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 35階のホール。

 

 階下同様燃えさかる炎の中、30代半ばの男は壁際に背中を付け、ひぃと情けない声を漏らす。それに対し、潜入用のサマーコートを着て脚にヒールを履いていた女は、目元にバイザーを付けた青白い肌の異形な姿に変わり、剣に変えた右腕を掲げながら男に迫った。

 

「な、なんだあんたは!? 俺なんかに何の用だ?」

 

 訊ねる男に女――マリアージュは冷たい声を返す。

 

「古代遺跡専門の盗掘屋、ベルーカ・ディラン……あなたは《イクスヴェリア》の居場所を知っていると聞きました」

 

「な、なんのことだ? 盗掘やってたのは確かだが、イクスなんとかなんてブツは知らねえ!!」

 

 ベルーカは唾を飛ばす勢いで言い返す。しかし、マリアージュは首を振る代わりに冷ややかな声を返した。

 

「知らないはずがありません。《イクスヴェリア》は我らの王。近年、“トレディア・グラーゼ”が探し当てた。あなたもそれに関与していたはずです」

 

「トレディア!? くそっ、やっぱりあいつか!」

 

 “トレディア”と聞いてベルーカは忌々しげに罵声を飛ばす。が、マリアージュから『やはり知っているんですね?』という言葉が聞こえた気がして、慌てて付け足した。

 

「イクスなんとかは知らねえが、トレディアのことなら知ってる。今の居場所もだ!」

 

「教えてください」

 

 迫るような声に、ベルーカはかくかく二度首を縦に振りながら答えた。

 

「あのジジイ、五年ぐらい姿を消してたんだが、先月急に連絡してきたんだ。『前に失敗した“戦争”をやり直したい。そのために《解放戦線》の“同志”に協力してやってくれ』ってよ。相変わらずイカれたジジイだぜ」

 

「“戦争”……」

 

 マリアージュの呟きにかまわず、ベルーカは続ける。

 

「詳しいことは知らねえよ。元々おかしなことを言うジジイだったんだ。でも仕事で世話になったし、金払いもよかったからよ」

 

「今の居場所や連絡先は?」

 

 言い訳も聞かず問いかけるマリアージュに、ベルーカは「ああ」と懐に手を入れる。銃があれば逆転できるかもしれないが、今はナイフしか持ってない。下手なことは考えない方がよさそうだ。

 

「先週まではK267の地下街にいたようだ。詳しい場所は俺の端末に載ってある――ほらっ」

 

 言いながら男は記録用端末を取り出し、床の上に置いて遠ざかる。

 マリアージュは武器化していない左手で端末を拾い上げ、いくつか操作した後……

 

「確認しました……情報提供に感謝します。それでは」

 

 そう言って、マリアージュは背中を向けてすたすたと歩き去っていく。

 そしてマリアージュの姿が完全に見えなくなって……

 

「助かった、のか?」

 

 呟きながら男は盛大な息をついた。

 

「なんなんだよあいつは? やっぱり俺も狙われてたんじゃねえか。トレディアのジジイ、いったい何に手を出しやがったんだ…………いや待てよ。“我らの王”………まさか、《イクスヴェリア》ってのは“()()”のことか。まずい、こうなったら捕まっちまうのを覚悟で管理局に――――っ!?」

 

 呟いたところで右手が()()()()()大きく震えだす。そこでけたたましい滑車音が響き、短い白コートを着た青髪の少女が飛び込んできた。

 

「要救助者発見! 男性一名!」

 

「たすけ――助けてくれ! 俺の腕が――」

 

「落ち着いてください! 救助隊です。もう大丈夫です。今、バリア張りますから!」

 

 腕を抑え込むベルーカにスバルは安心させるように声をかけながら近づく。そこで彼女が履いているブーツから声が発せられた。

 

『Fire Protection!』

 

 マッハキャリバーが言った途端、ベルーカの周りに球状の水色のバリアが張られる。だが、ベルーカは腕を抑えたまま、

 

「うぐっ、腕が、助けて、たすけてくれ!! 俺はまだ死にたくねえぇぇ!!」

 

 自らの腕を傷つけながらベルーカは懐からナイフを取り出し、助けを求める言葉とは裏腹に、自らの喉に鋭利な刃を向ける。それを見てスバルは青ざめながら男に近付いた。

 それも間に合わず、ベルーカの意思とは裏腹にナイフを握った腕が動き始めた直後――

 

――ストップ!!

 

 

 

 俺が叫んだ瞬間、男はぴたりと動きを止め、ぎょろりとした目だけをこちらに向ける。

 それに構う余裕もなく、俺は(ライチェアス)を取り出し、壁に向けて撃ち放った。

 『何を』と言いたげに目を見張るスバルと男をよそに、弾はそのまま跳弾し、仕切りの向こうに跳んでいった。

 すると――

 

「うっ――」

 

 仕切りの向こうから女の(うめ)きが上がる。同時にベルーカの手からナイフが落ちて、彼は悲鳴を漏らしながら後ずさる。

 俺は仕切りの向こうに銃を向けて――

 

「出てこい! そこにいるのはわかってるんだ!」

 

 声を張り上げて叫んだ瞬間、向こうから右手を抑えながら短く整えた茶髪の女がゆっくり出てくる。

 彼女を見てスバルは目を見張り――

 

「あなたは――昨日ティアと一緒にいた」

 

 驚きも露わに呟くスバルの横で俺は銃を構えたまま、彼女の名を口にした。

 

「フォルスの鑑識官にして臨時執務官補、ルネッサ・マグナス……あんたが被害者たちを殺した犯人だったんだな。たぶんマリアージュが去った後で被害者たちに操作魔法をかけて」

 

「……いつから気づいていたんです?」

 

 言い逃れようとしたり誤魔化す真似もせず、ルネッサは淡々とした口調で尋ね返してくる。それを聞いてベルーカが、

 

「その声……まさかお前、さっき俺に連絡してきた局員?」

 

 と呟く。そんな彼を背中で庇いながらルネッサの問いに答えた。

 

「二日前、あんたと一緒に捜査した時にベルカ語のメモを見つけた時からだ。あんた、ベルカ語が読めないって言ってたのに、あのメモを見てすぐあれに書かれてるのが昔のベルカ語だってわかったよな」

 

「――っ!」

 

 指摘された瞬間、迂闊だったと悔やむようにルネッサは唇を噛む。爪を隠すつもりでボロを出してしまった形だ。

 

「しかもギンガさんの話じゃ、ミッドの捜査本部についてからすぐ機動六課と七課のことを調べていたそうじゃないか。協力者を集めるためと言ってたみたいだが、ミッドの事件や詩編のことを後回しにしてまでやる事じゃない。あんたならそれぐらいの優先順位は分かるだろう」

 

「…………」

 

「明らかにおかしいと思ったのは今日の捜査開始時、ルネッサの通信記録を見た時だ。あんたはマリアージュに狙われそうな人間への注意喚起として真っ先にそこにいるベルーカ・ディランに連絡をとり、数件別の所に連絡した後は何分間もどこにも連絡をとらずにいた。たぶん、別の端末で声を変えてまたベルーカに連絡を入れたんだろう。『マリアージュに殺されたくなければ私たちに協力しろ』とか言って脅すためにな。違うかいベルーカさん?」

 

 訊ねるとベルーカは「あ、ああ」と(うなず)いた。

 

「脅されたわけじゃねえが協力を頼まれたのは確かだよ。“トレディア”って名乗ってたからてっきりあのジジイだと思ってたが――」

 

「その直後、ちょうど俺たちがついた頃にこのホテルでマリアージュによる火事が起きた。そこでルネッサが犯人だとほぼ確信した……外れだったらよかったんだけどな」

 

 彼女を助手(補佐)に選んだティアナが知ったらどうなるやら。

 そう思いながら付け足す俺に、ルネッサは顔を硬くして懐に手を入れる。そんな彼女に俺は銃を構え、

 

「無駄だ! お前が持ってる銃ひとつじゃ俺とスバルにはかなわない。大人しく武器を捨てて投降しろ!」

 

 強い口調で言い放つと、ルネッサは銃を取り出しながらも悔しげに動きを止める。

 だが――

 

「レツヤ、危ない!!」

 

 スバルが叫んだ直後、横から爆炎が走ってきて、とっさに後ろに逃れる。

 そして次の瞬間、ルネッサの前に、炎と見間違うくらい真っ赤な髪と赤眼の巨漢が立ちはだかっていた。彼の後ろでルネッサも大きく目を見張る。

 

「にいさ……いえ、同志……」

「黙ってろ。こいつらには通称(コードネーム)とて知られるわけにはいかん」

 

 兄さん、ルネッサの兄か?

 ルネッサがヴァイゼンにいる間にミッドチルダで事件が起きていたから、仲間がいるかもしれないと思ってはいたが……。

 

「お前がマリアージュ事件の黒幕か? ルネッサとはどういう関係だ?」

 

「こいつの兄のようなものだ。それ以上答える義理はない」

 

 俺の問いに対し、男はぞんざいな返事を返す。だが……。

 

「しかし、どうせそこの盗掘屋がべらべら喋るだろうから、一つだけ答えておこう」

 

 “盗掘屋”と言った瞬間、ベルーカが「ひっ」と声を上げる。そんな彼に構わず男は発し続ける。

 

「我々《次元解放戦線》は《イクスヴェリア》と《マリアージュ》を目覚めさせるために行動している。お前たち管理世界の人間に『平和の価値』と『管理局の過ち』を知らしめるために!

 ――はああああっ!!」

 

 男は左腕を振りかぶり、握り込んだ炎を俺とベルーカに向かって撃ち放つ。スバルはベルーカを抱えながらローラーを走らせ、俺はその場に立ったまま右腕を上げバリアを張った。

 

「……ぐっ」

 

 バリアを張った瞬間、炎が直撃し視界が真っ赤に染まる。

 

 なんて威力だ。バリア越しでもここまで衝撃を感じるなんて。

 胸中で愚痴をこぼしながら目を開く。

 バリアによって炎は霧散していき、視界が開けるが、二人の姿はなく割られた窓がぽっかり空いているのみだった。

 

 ……逃げられた。クソ!

 

 思わず唇を噛んだところで通知音が響き、モニターが開いた。

 

『こちらルーテシア。レツヤごめん! マリアージュは捕まえられなかった。バインドで拘束したんだけど、レツヤの言った通り自爆して……でも、すんでで転移したからティアナも私も無事。怪我一つしてない』

 

「そうか。ところで、窓から飛び降りた二人組を見てないか? たった今の事なんだが」

 

 かすかな期待を込めて問いかけるも、ルーテシアは首を横に振る。

 

『……ううん。私たちも今さっきマリアージュがいた屋上に戻ってきたばかりだから。それ以外の人なんてどこにも』

 

「そうか」

 

 落胆のこもった返事に、ルーテシアはもしやと思いながらスバルに顔を向ける

 ちょうどそこでチンクとエリオたちが部屋に飛び込んできて、彼女らも部屋の惨状と意気消沈している俺たちを見て不安そうに眉を顰めた。

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