魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第6話 飲まなきゃやってられない

「ティアナ、レツヤ君、ごめん遅くなった!」

 

 消火が終わってなお、消防や防災隊員たちや記者らで騒然とする中、ギンガさんが駆けつけてきた。

 

「話は聞いたわ。ルネッサが犯人の一味だってことも、マリアージュが人間ではなさそうだってことも」

 

 “ルネッサ”の名前が出てティアナは眉を吊り上げるも、それを抑えるように強く「はい」と頷いた。

 

「私見ですが、《マリアージュ》はおそらく量産型の兵器です。おそらく倒されるか死ぬことを前提に作られた――レツヤも同じ考えでしょ?」

 

「あ、ああ! 俺もティアナと同じ考えです!」

 

 ふいに話を向けられうわずった声を返す。そんな俺を注意することなくティアナはギンガさんに向かって話し続けた。

 

「先ほど確保したベルーカを含め、殺された被害者は皆“トレディア・グラーゼ”という男に依頼されて《イクスヴェリア》というものを探す協力をしていたようです。それを現在はマリアージュと共犯者たちが探している。施設か機材か、それとも人物なのかはまだわかりませんが」

 

 それを聞いてギンガさんは硬い顔を浮かべ、言った。

 

「捜査員を増やすわ。今はまだそれぐらいしかできないけど」

 

「いえ、十分ありがたいです」

 

 ティアナが礼を告げるとギンガさんは表情を緩めながら、

 

「そういえば、スバルが火災の現場に出たって聞いてるけど」

 

 尋ねながらギンガさんはきょろきょろと現場を見渡す。そこへ――

 

「レツヤ!」

「ティアさん!」

 

 ふと後ろから幼さの残る声が聞こえて、俺たちは会話を止める。そしてこちらに駆けてくる“元六課最年少組”に顔を向けた。

 

「エリオ君、キャロ、ルーテシアまでどうしてここに?」

 

 あっ、そういえば俺もこいつらがいる理由を聞いてなかったな。三人とも六課解散後に別の世界に異動になったはずだが。

 その疑問にエリオから答えた。

 

「ティアナさんとレツヤさんが帰ってきたと聞いて休暇をいただいたんです」

 

「それでスバルさんとアルトさんと合流して一緒にお食事してたんですが……」

 

「火事の話を聞いて応援にきた。チンクとスバルはまだ現場」

 

 質問を先読みして答えるルーテシアに、ギンガさんは「そう」と答える。そこへティアナが言った。

 

「三人とも、こっちにいる間はスバルの部屋に泊まりなんでしょう。こっちはもう大丈夫そうだし、先に帰ってて大丈夫よ」

 

「えっ、でも……」

 

 キャロは騒然としたままの現場を見ながら遠慮がちに顔を曇らせる。だが……

 

「そうした方がいい?」

 

 ティアナの様子を見ながら、ルーテシアは()()尋ねてくる。俺は頷き、

 

「ああ、そうしてくれ。十分助けられたし、ルーテシアたちはここまでで結構だ。三人とも今日は帰って休んでてくれ。明日からまた手を借りるかもしれないしな。食事の用意とかは自分たちでできるよな?」

 

 そう訊き返した途端、ルーテシアは頬を膨らせ。

 

「それぐらいできる。ゼストが仕事でいない間は私が家事をしてたし、七課でもチンクと一緒に副隊長の手伝いとかしてたんだから。少なくとも私たちが準備してる間、だらけたり端末いじってたレツヤと隊長よりはマシでしたー!」

 

 その反論を受けて俺の口から乾いた笑いが漏れる。

 確かに、七課の台所は主に副隊長(リインさん)と女子二人の領分だったっけな。俺も隊長も一応簡単なものなら作れるし掃除くらいはしてたが、料理と洗濯だけはさせてくれなかったんだよな。まあ理由は見当つくけど……。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

「私たちは失礼します。行こ、ルーちゃん」

 

 エリオとキャロも空気を察し、頭を下げながら別れを告げる。そんな三人組にギンガさんも礼を言いながら大きく片手を振りながら送り出す。

 それに対し、ティアナはかつてのチームメイトに声もかけず、気もそぞろな様子で手を振るのみだった。

 ……こりゃ結構参ってるな。

 

 

 

 

 

 

 夜十時を回ってようやく現場検証と後始末その他諸々が終わり、警備隊や捜査班の面々と別れて夜の街を歩く。

 食事の誘いもあったが、連れと会う約束をしていると理由を付けて断った。嘘ではないが、向こうが想像してる連れ(ルーテシアたち)じゃない。

 

 端末に浮かんだ地図を見ながら歩くうちに、繁華街の片隅にぽつんと建つ小さな酒場(バー)の前についた。十代後半ともなれば、学生服でも着てない限り見咎められることはない。スーツを着ていればなおさらだ。

 そう分かっていながらも、少し緊張しながらドアを開け、店の中を見る。

 その直後、むわっとしたアルコールの匂いと騒々しい笑い声が入ってくる。

 それに臆しかけたところで――

 

「いらっしゃいませー! おひとり様ですかー?」

 

 近くにいたウェイトレスが営業用のスマイルを浮かべながら尋ねてくる。俺は首を横に振り……

 

「いえ、待ち合わせです。友達が先に来てるはずですけど……」

 

 答えながら店の中を見回し――暗い雰囲気を纏わせながら酒を呑むティアナを見つけた。

 不機嫌そうにビールをちびちび傾け、肩肘をつきながらはぁと盛大なため息をつく。

 そんな残念美人に俺は苦笑し「見つけたので大丈夫です」と言ってウェイトレスと別れ、彼女の元へ向かう。すると、ティアナは頬杖を突いたまま据わった目を向けてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なんでレツヤがここにいるのよ? ここはあんたみたいなお子様が来る店じゃないわよ」

 

「そういうティアナこそまだ未成年だろう。こんなところで堂々と飲んでていいのかよ」

 

 ため息をつきながら忠告すると、ティアナは当てつけのように一口ビールを飲んで言った。

 

「いいでしょ別に。“ノンアルコール”なんだし法的に問題ないはずよ。部隊長(はやてさん)おたく(七課)の隊長だってよく飲んでたじゃないの」

 

「まあな……」

 

 確かにノンアルなら違法じゃないし、はやてさんや御神さんも打ち上げとかでよく飲んでたけど。……っていうかティアナのやつほんとに酔ってないか? 脳の誤認識でノンアルコールでも酔っぱらうことは割とあるらしいが。それとも酔ってると思い込みたい気分だろうか……。

 

「まっ、ちょうどいいわ。この機会にあんたにも大人の付き合いってのを教えてあげる。――すみませーん! この子にもノンアルビール一杯と適当なおつまみお願いしまーす!」

 

 ティアナに呼ばれウェイトレスが「は~い!」と明るい声をあげながらやってくる。って、さっき俺と話した人じゃねえか。

 彼女は注文を聞いてすぐ調理場へ行き、ビールの入ったグラスとピーナッツを載せた皿を俺の前に置き、俺に向かってパチンとウインクしてから「ごゆっくりどうぞ」と定例句を告げて行った。……もしかして勘違いされてないか?

 一方、俺と彼女の無言の応酬など気にも留めずティアナはグラスを掲げて――。

 

「じゃあちょっと遅れたけど、二年ぶりの再会と今朝の事件解決を祝ってー、かんぱ〜い!」

 

「……乾杯」

 

 グラスを突き出すティアナに合わせて俺もグラスを掲げ、茶やコーヒーのように一口飲もうとし――『にがっ!!』と叫びかけた。

 

「あはははっ! なにその顔! レツヤにはまだ早かった?」

 

 顔をしかめる俺を見て、ティアナは甲高い笑いをあげる。それに反論も返さず、俺は傍に置かれた水差しから注いだ水をあおって口元に残った苦味を洗い流した。

 

「ビールってこんなに苦かったのかよ! 親父や御神さんたちはこんなのを美味そうに飲んでたのか?」

 

「慣れれば美味しく感じるわよ――そういうわけで、レツヤ君もう一杯♪」

 

 ティアナは楽しげな笑みを浮かべながら瓶を持ち上げ、ビールを注いでくる。

 俺はさっきより慎重に傾けビールを口に含む。が、やっぱりまだ苦いとしか思えない。反対にティアナはグラスを斜めに傾けて、ごくごくっとビールを喉に流し込んでいく。

 

「普段からこんなに飲んでるのか? ルネッサと食事してた時とかも」

 

 そう尋ねた途端、ティアナは空になったグラスを置いて不機嫌そうな表情を向けてきた。

 

「あの子の話はしないでくれる。せっかく忘れかけてきたっていうのに」

 

「気持ちは分かるが、明日から嫌でもあいつの話をしなきゃならなくなる。それに今のうちに共有したい事もいくつかある。愚痴を言い合うつもりで付き合ってくれないか」

 

 そう言うとティアナは面白くなさそうにフライドピクルスを摘まみながらも、ぼそりと言った。

 

「優秀だしそれ以上に真面目な子だったのよ。だから今回の事件が片付いた後も補佐をしてもらって、そのうち正式な副官になってもらおうって考えてた……それが全部台無しよ。こうなったらもう飲まなきゃやってられないっての」

 

 ティアナはまたぐいっとグラスを傾け、残っていたビールを飲み干す。それに合わせるように俺もまたビールを一口含んでから言った。

 

「第42管理外世界・『オルセア』の出身だったらしいな。それも内戦が激しい南部の」

 

 “内戦”と言っても“国”というものがない管理世界から見た表現で、向こうにとっては国と国とによる“戦争”らしいが。

 

「9歳まで兵士として大人に混ざって戦ってたらしいわ。重傷を負って医療テントに担ぎ込まれたところを、フォルスのNGOに拾われて向こうに移住するまでね」

 

「9歳()()か……御神さんや八神司令たちだって9歳()()戦いを始めたっていうのに。なんでフォルス(管理世界)に助けられた奴が管理世界や管理局に仇なす真似なんかしてるんだろうな?」

 

 俺の問いにティアナは真剣な顔になりながら推測を返す。

 

「故郷の戦争の理由が管理局と管理世界のせいだと思って恨んでるんじゃないかしら。オルセアの国の中には管理局の保護を受け入れるか否かで揉めて戦っているところもあるみたいで、『管理局が戦争を招いた』って非難している団体もいるみたいよ……その一つが《オルセア解放戦線》って組織」

 

「“解放戦線”!? それってまさか……」

 

 ティアナはこくりと頷く。

 

「ルネッサを助けた男が言ってた《次元解放戦線》の正体、もしくは前身かもね。ずいぶん前に現地の戦場で大きな攻撃を喰らって壊滅して以降、現地世界から姿を消したって聞くから。その生き残りがミッドやフォルスみたいな他の世界に渡って、管理局と管理世界に報復を企んでいるのかも……平和な世界に暮らしてる私たちへの妬みもあるのかもね」

 

「それでテロの危険や被害に遭う管理世界の住民からしたらたまったもんじゃない。それにこっち(管理世界)こっち(管理世界)で大変な事が起き続けてるんだぞ。今回の事件といい三年前のJS事件といい」

 

「内戦が起きてる世界に比べれば恵まれてるのも確かよ。それにあっちにも逆恨みだってわかってる子もいるでしょうね。私から見ても優秀で十年近く平和な世界で暮らしてる子がいるくらいなんだから」

 

 そう零しながらまた不機嫌そうにビールを煽り飲むティアナに――

 

「ずいぶん引きずるな。あいつに逃げられたのは結構痛いか?」

 

「ええ、前にも言ったでしょう。最高評議会と一部上層部の汚職が発覚して以来、“海”でも“陸”でも『綱紀粛正』が敷かれたって。それで各種試験の難度も上がっちゃったから執務官や捜査官のなり手が減っちゃって。今も人手が不足しているのによ」

 

 ティアナはグラスをドンッと置きながら吐き捨てる。まあそれぐらい俺も知ってるが。

 

「一応管理局でも対策案は出してるだろう。士官学校や訓練校の座学カリキュラムの強化とか、各世界に中等科や高等科までの義務教育化を要望したりとか、高い学歴を持つ者の待遇を向上させたりとか……まあそれも問題があるみたいだが」

 

「問題? 教育の期間を増やしたり優秀な人を増やすいい案だと思うけど。私も中等科ぐらい行っとけばよかったかなって後悔することあるし」

 

 どちらかと言えば頭脳派のティアナは怪訝そうに返す。彼女の意見を否定せず頷きながらも――

 

「義務教育をただ引き延ばすだけじゃ真面目に勉強しない生徒が増えて教育の質が低下するかもしれないし、高学歴の優遇は過剰な学歴争いと低学歴や現場仕事の軽視や蔑視を生みかねない。しかし、そういう仕事をする人間が減ってしまうと社会が立ちいかなくなってしまう。工場で働く人がいなくなれば家電や車、デバイスなども作れなくなるし、清掃員がいなくなれば誰かが仕事の時間を削って掃除せざるを得なくなる。義務教育の期間を増やしたり高学歴を優遇するだけじゃ別の問題が生まれるだけだと思うぞ。まあ他の世界と比べてミッドの就学期間が短すぎるのも確かだが……」

 

「まあね。あんたのお父さんはどう動いてるのよ、“最高行政官子息”」

 

 その呼び方に内心むっとくるのを覚えつつ首を横に振る。

 

「違う世界に住んでるドラ息子に聞くなよ――って言いたいけど、クラナガンを含む一部地域で中等科や高等科への進学推奨と授業料免除の導入を始めてるってことぐらいは知ってる。けどあの人のことだ。管理局よりも『防衛軍』絡みの政策のための仕込みだろう。さっきテレビの記者会見で、この事件への対処として『MWAT(ミワット)』という部隊の投入も発表したしな。防衛軍に先駆けて作った『最高行政府直轄の魔導師部隊』」

 

「ああ、その会見なら私も見たわ。三年前の汚職に失望して管理局を辞めたり入局を()めた魔導師たちをスカウトして作ったっていう。局の捜査隊と軋轢を起こして現場を混乱させなければいいけど」

 

 不安を零しながらティアナは片手で自身の顔を扇ぐ。酒の飲みすぎで暑くなったのか?

 ジト目を向けている俺の前でさらにティアナは上着に手をかけた。

 

「――!?」

 

 汗で透けたシャツが目に入ってきて慌てて目を逸らす。そんな俺に気づくや、ティアナは獲物を見つけたようにニヤリと口を吊り上げ、上着に手をかけたまま言った。

 

「ねえレツヤ、よかったらこのまま“もう一つの大人の付き合い方”教えてあげましょうか?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「ああ、言っとくけどあくまでストレス発散のためで、あんたに恋愛感情を持ったとかじゃ絶対ないから。同僚にもストレス発散のためにやってる人いるみたいだし、私もそれで発散させてもらおうかなって(同僚は彼氏としてるみたいだけど)」

 

 ティアナは念押しするように付け足す。そんな彼女に対して俺は首を横に振り、

 

「冗談はよしてくれ。ティアナらしくないぞ。それともまさかノンアルで酔っちまったのか?」

 

 そう言うとティアナは上着から手を離し、むすっとした顔で言った。

 

「別に。これ以上お酒飲むと明日の仕事に障るし、かといってまだムカムカして収まりそうにないもの! 人手不足の中ずっと一人でやってきたところで、やっと見つけた副官候補が連続殺人の犯人でテロリストの一味だったなんて冗談じゃないわ! もう真面目ぶってなんかいられるかっての!」

 

 今まで溜めていた本音をぶちまけながら、グラス一杯のビールを一口で飲み干す。

 そしてグラスを置き、赤らめた顔をずいっと近づけて付け足した。

 

「あんただって興味ないわけじゃないでしょ。エッチなことできるし、憧れのティーダさんの妹が相手ならあんたにとっても得でしょう?」

 

「そ、それは…………」

 

「そこで悩むな。キモいし女として傷つくから」

 

 悩んだふりをしていると、ティアナは素に戻ったような口調で突っ込みながら顔を下げた。

 

「冗談よ冗談。三つも年下の坊やなんかとするかっての。暗い話はここまでにしてさっさと食べちゃいましょ。明日はまた忙しくなるわ」

 

 ティアナは取り直すように水を煽って食事に手を伸ばす。俺も「おう」と応えながら食事を再開し、少々気まずい空気の中互いに何も言わず食事を進めていった。

 

 

 

 

 

 

(やっぱり危ないことになってた。二人が別れるまでしっかり監視していないと)

 

 スバルの家で、ルーテシアはマフィンが焼きあがるのを待ちながらサーチャーから届けられた映像を眺める。

 その横から――

 

「ルーちゃーん! マフィンもう焼けたー? あれ、何見てるの?」

 

「……ううん! なんでもない! そっちこそシチュー出来てる?」

 

 キャロに呼ばれた瞬間、ルーテシアは素早くモニターを切りながら聞き返す。

 その後ろで竜騎士ならではの視力で向こうの様子を目にしていたエリオは顔を真っ赤にしながら皿を並べていた。

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