魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第7話 無限書庫

 首都北部にある管理局の施設。

 そこに二人の少女が入ってきた。二人とも十歳手前で薄黄色のセーターと黄土色の短いスカートからなる制服を着ている。

 この一帯に住む者なら、一目でSt(ザンクト).ヒルデ魔法学院・初等科の生徒だとわかるだろう。

 

 

 二人は慣れた様子で中を通り鋼鉄の扉の前に着くと、長い金髪のオッドアイの少女が先に、続いて二つに分けた薄茶(ベージュ)色の髪の少女が扉のセンサー部分にそれぞれのカードをスライドしていく。

 すると扉の隅にあるランプが赤く光り、中から無機質な音声が響いた。

 

『IDカード、確認しました。続いて音声確認をお願いします』

 

 その言葉(音声)に金髪の少女が一歩進み出て、扉に向かって快活そうな声を響かせる。

 

「高町・スクライア・ヴィヴィオです! 無限書庫に調べ物で来ました。この通り司書資格も持ってます!」

 

 カードを掲げながら名前と用件を告げると、わずかほどの間も空けず扉から音声が返ってきた。

 

『音声、確認しました。防犯のため、お連れの方の音声確認もお願いします』

 

 その言葉と同時にヴィヴィオの隣に立つ連れの少女も一歩踏み出し、青い目を瞬かせながら少し大人しめな声を出した。

 

「コロナ・ティミルです。私もヴィヴィオの手伝いとして無限書庫に行くつもりです。司書の資格は持ってませんが立ち入りパスは持ってます」

 

 コロナと名乗る少女が告げた瞬間、扉のランプが緑色に変わり――。

 

『確認しました。ようこそ、高町・スクライア・ヴィヴィオ司書、コロナ・ティミル様。どうぞお通りください』

 

 歓迎の言葉とともに扉が左右にスライドし、十人ほどが入れる広さのエレベーターのような部屋が現れる。

 少女二人――ヴィヴィオとコロナは礼を言いながら部屋の中央まで進み、ヴィヴィオが手元に浮かべたパネルを押した瞬間、二人の視界が真っ白に染まる。

 視界が開けた瞬間、二人は広大な書棚の中心に“浮かんでいた”。まわりは無数の本が積めこまれた巨大な本棚がそびえ立っており、果てが見えない。それに加え、無限書庫は地面や床というものがなく、施設全体にかけられた浮遊魔法で宙を泳ぐか飛ぶ形になる。

 その中を忙しなく飛ぶ司書たちの一部が二人に気づいて笑顔を浮かべ、朗らかに声をかけてきた。

 

「やあヴィヴィオ、おはよう!」

「おはようヴィヴィオ。あら、そっちの子は……」

「コロナちゃんだよ。ヴィヴィオの友達で、手伝いのために立ち入りパスを取った子……ほら、噂になってたティミル博士のお孫さん」

 

 隣を飛ぶ同僚に耳打ちされ、女司書は「ああ」と頷く。コロナは気を悪くした様子も見せず頭を下げ、「お世話になってます」と挨拶する。

 

「パパに用事かい? 司書長は今、ハラオウン提督に頼まれた資料の捜索で忙しいみたいだけど」

 

 なじみの司書の問いにヴィヴィオは片手を振りながら言った。

 

「いえ、調べ物を頼まれてまた書庫に来ちゃいました。オットーっていう執事さんと待ち合わせてるんですけど」

 

「そうか。お休みなのにえらいねー。彼ならあそこで一足先に資料を探しているよ」

 

 言いながら司書は上を指さす。そこには頁をパラパラめくりながら目当ての情報を探す、執事服を着た茶髪の()()がいた。その姿と性別を間違われてることに内心苦笑しながら……

 

「ありがとうございます! コロナ、いこっ」

 

「う、うん。ありがとうございました!」

 

 手を振りながら見送る司書たちに頭を下げてから二人は書庫を泳ぎ、オットーの元へ向かう。そしてヴィヴィオが「オットー、来たよー!!」と声をかけた瞬間、彼女も2人に気づき本を閉じながら胸に手を当てて一礼した。

 

「陛下、コロナお嬢様まで、ご足労いただきまして恐縮です」

 

 謝るオットーにヴィヴィオは「もうっ」と頬を膨らせる。ここまで来させられた事に腹を立てた――わけではなく、

 

「何度も言ってるけど、陛下って呼ぶのやめてってば! ヴィヴィオはどこにでもいるごくごく普通の初等科3年生です! 聖王とか陛下とかじゃないから~」

 

 その言葉にオットーは呆れたようにため息をつき。

 

「無限書庫司書の肩書きを持ってる3年生なんてどこにでもいません」

 

「少なくともうちの学年で司書資格を持ってるのはヴィヴィオだけだよね」

 

 ヴィヴィオの隣に浮かぶコロナもこくこく首を縦に振る。それを見てヴィヴィオはさらにむくれた。

 

「もう、コロナまで~! ヴィヴィオはちょっと読書が好きな普通の9歳の女の子! 特別扱い禁止~!!」

 

「了解です、陛下」

 

「ごめんね、陛下」

 

 頭を下げながらも“陛下”呼びを続ける男装少女と悪乗りする親友に、ヴィヴィオは「二人ともいじわる」とぼやきながらも怒りを収めた。

 

「まあいいや。調べ物はどう?」

 

 そう尋ねられた瞬間、オットーは笑みを消し、ふるふると首を横に振る。

 

「これがまた、どうにもはかどりません。僕なりに全力で調べて、手が空いてる司書さんたちにも手伝ってもらってはいたんですが……」

 

「あー、無限書庫は広いからねぇ……」

 

 ヴィヴィオは同情的な声を漏らしながらコロナとともに『無限書庫』を見渡す。

 

 この書庫は新暦よりはるか以前からあった謎の施設で、次元中からあらゆる書物や写しが流入してきており、『世界の記憶を収めた場所』との異名を持つ。

 無限書庫を内包している本局自体が、書庫の独占を目論んだ最高評議会の命令で建造されたという逸話もあるほどだ。

 しかしその広大さ故に、ヴィヴィオの父にして現司書長ユーノ・スクライアが赴任する前はほとんどが未整理のまま放置されており、いくつものチームが年単位の時間を費やして目当ての情報が手に入るかどうかという、問題の多い場所でもあった。しかも未だに未整理エリアがあるらしい……。

 それを解決したユーノの手が借りられればオットーたちが探している情報も見つかっていたのだろうが、今は手が離せないらしい。なんでも“今の管理局が最も警戒しているもの”に関する情報を探しているのだとか。

 

 

「“マリアージュ”と“イクスヴェリア”、それらの単語をロストロギアや兵器関連優先で探してほしいと」

 

「また物騒だねー。コロナが聞いてもいいの?」

 

 ヴィヴィオの問いにオットーは素面のまま頷く。

 

「はい。もしかしたら彼女のお婆様(ティミル博士)にも協力をお願いするかもしれませんから。そうでなくとも陛下の素性を知る方なら問題ないでしょう。ランスター執務官から急いでほしいと言われてますから人手も多い方が助かります」

 

「えっ、ティアナさんから!?」

 

「はい。言っていませんでしたか?」

 

「聞いてないよー!! 昨日聞いてたら、“ゆずは”を寝かせてからここに来て、泊まりこみで調べたのにー!!」

 

 とぼけた様子もなく素で聞き返す執事少女にヴィヴィオは可愛らしい抗議を上げる。が、オットーはすげなく首を横に振った。

 

「それはそれで困ります。勉学にトレーニングに妹様のお世話に加えて、睡眠時間を削って仕事の手伝いまでさせては陛下のお身体が保ちません」

 

「それでも! ティアナさんはママの教え子さんだし命の恩人でもある人なんだから、私も力になりたいよ」

 

「それはまあ、お気持ちはわかります……」

 

 3年前、ヴィヴィオと彼女の母親を危険に晒す片棒を担いだオットーは気まずそうに同意する。

 そんな彼女を責めるどころか罪悪感にも気づかず、ヴィヴィオは元気に片手を上げる。

 

「オッケー! 今日はゆずはもアイナさんが見てくれてるし。高町・スクライア・ヴィヴィオ、全力全開で調べちゃいます! ――検索魔法陣7式展開!!」

 

 ヴィヴィオが唱えた瞬間、彼女の周囲に7つの魔法陣が浮かびあがり、周囲の本棚を()色の魔力光で照らす。その中心でヴィヴィオはさらに口を開いた。

 

「指定エリア……『BCベルカ』から現在の『ベルカ自治区』まで、本文含み全文検索!」

 

「かなり重いですよ」

 

「ヴィヴィオ、大丈夫?」

 

 心配そうに尋ねるオットーとコロナにヴィヴィオは平気そうに笑みを浮かべる。

 

「朝ごはんしっかり食べてきたし大丈夫! コロナは近くの棚の検索、オットーは出てきた本の確認をお願い」

 

「(すごい検索魔法。血は繋がってなくても“スクライア”のお父さんを持つだけはあるなぁ)うん、ここは任せて」

 

「(やっぱりただの子供とは思えませんね。“現代の聖王陛下”と呼ばれるほどはある)御意に」

 

 思い思いの感想を抱きながらコロナとオットーは頷き、ヴィヴィオの指示通りに動く。

 一方、彼女らよりも純粋な目でヴィヴィオを見る者もいた。

 

 

 

「わー、キレイな色! 虹色の魔力光の子なんているんだー!」

 

 ヴィヴィオの魔法と魔力光を見て、短く切り揃えた黒髪の少女は緑色の瞳をパチクリさせながら感嘆の声を漏らす。

 ヴィヴィオとコロナ同様、St.ヒルデ学院の初等科制服を着た女の子で、周囲にはミッドチルダの風習が記された本が何冊も浮かんでいる。

 

 彼女の名はリオ・ウェズリー。第23管理世界『ルーフェン』からの留学生で、そう遠くない……というより、かなり近いうちにヴィヴィオたちの親友になる子である。

 

 

 

 

 

 

『……というわけで、検索魔法とオットーたちに手伝ってもらいながら無限書庫を探してみたところ、いくつか本命っぽい本が見つかりました。……ただ、私には読めない部分が多くて』

 

 “聖王の末裔”といえど、古代ベルカ語がすらすら読めるわけではないらしい。モニター越しに困った顔を見せるヴィヴィオにティアナが言った。

 

「原文の画像、こっちに送ってくれる」

 

『はい。オットーお願い!』

 

 ヴィヴィオの横からオットーが頷く声とキーボードを打ち込む音が届く。その直後、もう一つモニターが浮かび、ベルカ語の文書が映し出された。

 ティアナは顎に手を乗せながら注視し、文を読み解く。

 

「えーと……死者たちによって構成される多数の軍列。死した敵兵を喰らいその数を増やし、戦場を焼け野に変える……それが《マリアージュ》。《冥府の王・イクスヴェリア》によって構成された軍列は無限に増殖し続け、その進軍を止めることは不可能……と言われていた」

 

 ティアナは愕然としながらも納得する。やはり《マリアージュ》は人造の兵器。そして《イクスヴェリア》はマリアージュたちの親玉のようなものらしい。そんな奴がミッドのどこかに眠っている……。

 戦慄するティアナの後ろからルーテシアの声が響いた。

 

「イクスヴェリア……そういえば、キャロに貰った掘り出し物の本の中にそんな単語があったような……」

 

「えっ――それ本当?」

 

 思わぬ事実にティアナとヴィヴィオ、本を贈ったキャロまでもが驚きに目を見張る。ルーテシアは頷きながら続けた。

 

「家に置いてあるから母さんに取ってきてもらう……もう起きてるといいんだけど」

 

 ルーテシアは不安げに付け足しながらパネルを操作し、向こう(マウクラン)の自宅に繋げる。すると赤い髪を四本にまとめた八重歯の少女が映し出された。

 

『おう、ルールーじゃねえか。久しぶりだな』

 

 思わぬ人物にルーテシアはわずかに驚きながらも返事を返す。

 

「アギト、久しぶり。もしかして遊びに来てたの?」

 

『おう! シグナムが別世界の任務に行ってて、あたしは空いてさ。せっかくだからって休みとるように言われて、久しぶりに姐さんの顔見に昨日からこっちに泊まってる』

 

「そう。ちょうど入れ違いだったんだ。母さんは?」

 

『姐さんなら朝起きてすぐ改名運動の方に行ってる。『マウクラン』って名前じゃ硬すぎて、客や移住する人が来ねえからってさ』

 

「ああ、そういえばそんなこともしてたっけ。じゃあアギトに頼もうかな。ちょっと取ってきてほしい本があるんだけど」

 

 ルーテシアの頼みにアギトは「あいよ!」と胸を叩き、書庫の方まで飛んでいく。そしてすぐに身の丈の数十倍以上の本を持って戻ってきた。

 

「ありがとう。じゃあ“イクスヴェリア”って言葉が載ってあるページを探してみて」

 

『ああ、その名前なら目次に載ってるからすぐわかる。ええと……』

 

 アギトは自身より大きなページを軽々と持ち上げ、問題のページを見つけた。

 

『《冥府の炎王・イクスヴェリア》。古代ベルカに存在した『ガレア王国』の君主。戦乱と残虐を好んだ邪知暴虐の王。

 人の屍を利用して生み出した兵器を駆使し、近隣諸国を侵略したとされる。

 古代ベルカ語で『人形』を意味する《マリアージュ》と呼ばれた死体兵器とその製法は、各王家の戦船や《聖王のゆりかご》と同等のオーバーテクノロジーによるものと言われている』

 

「《聖王のゆりかご》と同等のテクノロジー……そんなものをトレディア・グラーゼとルネッサたちは」

 

 三年前、ミッドチルダと管理局を脅かした“禁断のロストロギア”を思い出し、ティアナは思わずつぶやく。

 だが、それを聞いてアギトが眉を持ち上げた。

 

『あっ? トレディア? ティアナたち、トレディアって奴と揉めてんのか?』

 

「え、ええ。今回の事件に関係してる人物で、もしかしたら主犯か黒幕かも。アギト、知ってるの?」

 

 まさかと訊ねるティアナにアギトは大きく頷く。

 

『ああっ! あの“変態博士”――スカリエッティの所にいた時にそいつの名前を聞いたことある。姐さんも知ってるはずだ』

 

「――うそっ!」

 

『ドクターのアジトにいた時にですか?』

 

 母親(メガーヌ)も知ってると聞いてルーテシアは目を見張り、もう一つのモニターからオットーが聞き返す。スカリエッティの手下だったにもかかわらず、彼女は知らないらしい。

 

『お前とディードが目覚める前だよ。そいつとなんか変な相談をしてた。たしかウーノも一緒にいた』

 

 まさかの繋がりに一同は絶句する。トレディアと“あの男”が通じていたなんて。まさか今回の事件もスカリエッティが黒幕? ――いや、そう決めつけるのは早い。

 ティアナは一瞬の間に考えをまとめ、一同に向かって言った。

 

「ギンガさん、今から本局に連絡して軌道拘置所にいるスカリエッティの聴取手続きを」

『ええ。すぐにかかるわ』

「オットーは他の姉妹に連絡をとってトレディアのことを聞き出して。セインとか上のナンバーズなら知ってるかもしれないわ」

『すでにディードが当たっています。僕も残りの姉に聞いてみるつもりです』

「ヴィヴィオは無限書庫でもう少し、マリアージュとイクスヴェリア、トレディアについても調べてちょうだい。お休みの所悪いけど、お友達もできれば」

『いえ、今日は元々夜まで付き合うつもりでしたから。何なりと言ってください!』

『はい。私もおばあちゃんからしっかりお手伝いするように言われてますから』

『あたしも姐さんに連絡を取ってさっきの話を伝えてくる』

「お願い!」

 

 快い返事を返す面々にティアナは満足げに頷く。

 そんな中……。

 

「……あの、ティア、ギン姉。よければなんだけど……スカリエッティの事情聴取、あたしも参加していいかな? 軌道拘置所とのやり取りはモニターでやるって聞くし、話をするぐらいならミッドからでもできると思う。もちろん、何かあったらそっちを優先するからさ!」

 

『スバル……』

 

 スバルの申し出にギンガは顔を曇らせる。“あの時のこと”を考えると正直賛成できない。なにしろスバルはあの男に……。

 しかし……

 

「わかったわ。ギンガさん、スバルも聴取に参加できるよう手配してください。万が一の時は私が責任を取りますから」

 

『えっ……』

 

「ティア!」

 

 ギンガは目を見張り、スバルは顔をほころばせる。ティアナはそんな姉妹に頷き、相棒に向かって言った。

 

「やり方は任せる。トレディアやイクスについてあの男から聞ける限りのことを聞き出して――そして、あの“変態博士”に3年前の借りを返してやりなさい。いいわね!」

 

「うん! 任せてよ!!」

 

 スバルは笑みを浮かべながら相棒に向かって親指を立てる。それを前にティアナも決意を固めた。

 

――ルネ、あんたが管理局や管理世界を恨みたくなるのも仕方ないのかもしれない……でも、だからといって平和に暮らしている人々を巻き込もうなんて間違ってる。

 あんたたちの好きになんか絶対にさせないんだから!!

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