魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
「はああああっ!」
遺跡に進入してきた赤毛の男は巨体に見合わぬ速さでこちらに迫り、炎を纏った腕を振りかぶる。俺は上半身を逸らして殴打をかわしつつ奴の側面に回って刀を打ち下ろす。が、奴は上体を逸らして刀をかわし、炎を纏った拳で腹を殴りつけた。
「はああっ!」
「ぐああっ!」
「レツヤさん!」
殴打と炎の衝撃で真後ろに吹き飛ばされ、イクスの悲鳴が響く。
男は炎を纏った腕とは正反対の冷たい目で俺を見下ろした
「《冥王イクスヴェリア》だな? 俺の名はエリック・グラーゼ。数多の世界を不当に支配している時空管理局への裁きと俺達の故郷の解放のため、貴君とマリアージュの力を借りたい。それを叶えてくれた暁には、貴君が再び“王”になるための協力をすると約束しよう」
「……もう“王”になんてなる気はありません。私もマリアージュも今の世界にいてはいけない……ここから消えなくてはならない存在です。故郷のことはお気の毒だと思います……でも、どうか私たちのことは放っておいてください!」
恐怖を押し殺しながら、震える声でイクスは言い放つ。だが、エリックという男は冷えた声を返すのみだった。
「そうはいかん。《ゆりかご》が消え《聖王》も局の手に渡った以上、《冥王》とマリアージュの手を借りる以外に俺達の悲願を叶える方法はない。王になる気がないならそれでも結構。俺達としてはマリアージュさえ造ってくれれば構わん」
「ゆりかご!? 聖王って――聖王家はベルカとともに滅んでしまったはず……」
イクスはわずかに腰を浮かせながら訊き返す。が――
「管理局の悪行ともども後でたっぷり教えてやる。今は時間がない。俺と一緒に来てもらうぞ」
「やっ、こないで――」
イクスは声を漏らしながら後ろの壁まで後ずさる。そんな少女を護るバリアを砕こうとエリックは腕を伸ばし――
「待てよ」
体を起こしながら声をあげた途端、エリックもイクスもこちらに顔を向ける。
「俺を無視して話を進めてんじゃねえ。聖王だか冥王だか知らねえが、こんな小さな子を復讐や戦争なんかに利用しようとして大の大人が恥ずかしくねえのか。お前なんかに絶対その子は渡さねえっ!」
「レツヤさん……」
「小僧……レツヤといったな。その名の響きと構え、まさかと思うが……お前、ミカミケントという男を知っているか?」
「……? 詳しくは言えないが知っている。あんたこそあの人を知っているのか?」
元上官の名前を聞き、頷きそうになる顔を抑えながら訊き返す。それに対しエリックは「ああ」と返した。
「十何年か前、局の訓練校に潜っていた時に会ってな。察するに奴の血縁か部下といった所か……だとしても、これ以上邪魔立てするならここで死んでもらう」
エリックは最後通牒を告げながら脅すように両腕に炎を纏わせる。だが、だからといって引くわけがなく――
「はっ、やれるもんならやってみろ! 御神さんには悪いが、ここであんたを徹底的に叩きのめさせてもらうぜ!! ――はあああっ!」
「そんな鉛玉など効かん――はあああっ!!」
エリックは炎を纏った左腕を振り上げ、弾を弾き落とす。そこへ踏み込んだ。
「――天瞳流・天月!」
空気抵抗を利用して加速させた刃を振り下ろすが――
「
エリックの右手から炎の渦が噴きあがった瞬間、即座に右に跳んで回避する。エリックは俺を目で追いながら右手を振るい、渦を飛ばしてくる。さらに跳躍して躱すもののまわりの床や壁に炎が付き、燃え広がっていく。
くそっ! イクスがバリアに守られてるからって遠慮なさすぎだろう。 ぐずぐずしていると奴を捕まえる前に遺跡ごと焼かれちまう。
「天瞳流・
刀を振るい、エリックに向かって斬風を放つ。が、「ふんっ!」という掛け声とともに炎拳が振り上げられ、斬風が掻き消される。だが、その後ろから数発の銃弾が放たれた。
「ちっ!」
エリックは舌打ちしながら三発弾きながら体を逸らし、残りの弾丸を避ける。そこへ――
「天月・破――!」
弾を避けている一瞬の間にエリックの眼前まで迫り、先ほどより速く剛い一撃を撃ち込んだ。
「ぬっ!?」
エリックは動揺に顔を歪めながらも、シールドを張った左手をあげて刀を弾き上げる。
だが、そこで柄を握り直し――
「――天月破・二連!!」
「ぐあっ――!」
切っ先を変えることで反動を逆に推進力として利用し、エリックの腹に二撃目を打ち込む。だが、
「舐めるな!!」
「がはっ!」
振り下ろされた拳が顔面に激突し、視界が真っ白になる。その直後、何発もの打撃の連撃が叩きつけられた。
それを見て――
「レツヤさんっ! お願いやめて! あなたに協力しますから、その人は見逃してあげて!!」
たまらずという風にあがったイクスの悲鳴が燃え盛る遺跡内に響き渡る。それを聞いてエリックは動きを止め、
「協力的になってくれて助かる。冥王殿がそこまで言うならいいだろう――と言いたいが、この小僧の意識ぐらいは奪わねば!」
エリックは拳を持ち上げ、腹部めがけて重い一撃を叩き込もうとする。
それを前に――
「やめてえええっ!!」
イクスは涙を浮かべ、つんざくほどの声を張り上げる。それを耳にしながら――
「ストップ!!」
「――!?」
俺が叫んだ瞬間、エリックは目を見開いたまま
「ぐおおおおおっ!!」
どてっ腹を袈裟切りにされ、エリックは鈍いうめき声を仰け反る。そしてきっと俺を睨みつけてきた。
「色違いの眼に魔法とは別の
「レツヤさんも……《ベルカ王族》」
俺の“両眼”を見て、イクスも唖然とつぶやく。
……また目の色が変わっちまったらしいな。御神さんと違って戦ってる間……それも本気の本気を出した時しか変わらないらしいから、自分じゃ見られねえけど。
「ふ、ふふ、ふはははははっ!!」
突然、肩を揺らして哄笑するエリックに俺とイクスはびくりとする。それに構わずエリックは言った。
「貴様
「……レツヤ・テンドウ。時空管理局・ヴァイゼン地上部隊所属の捜査官だ。あんたは?」
すでに名を知っているにもかかわらず、逮捕するべき相手か確かめるために問いかける。それに対し、奴は口を吊り上げながら
「エリック・グラーゼ。トレディア・グラーゼの息子にして《次元解放戦線》のリーダー
あらためてフルネームと素性を告げ、エリック・グラーゼは両腕だけじゃなく体中に炎を纏わせる。それを見て俺もライチェアスを懐に戻しつつ両手で刀を構えた。
「「――はあああっ!」」
直後、エリックは脚元から炎を噴射させ、一瞬で俺の眼前に迫ってくる。気配と熱波からそれを読み、俺は刀を振り下ろす。だが、エリックの片手を開き“炎の壁”で。さらに奴はもう片腕の掌を向け――
「
拳から噴きあがった“炎の竜巻”をすんでで躱す。そこに炎を纏わせた拳が降りかかってきた。
「はあああっ!」
「――ぐっ」
刀を立て、炎の拳を受け止める。がほぼ同時に、足元から炎付きの蹴りが襲いかかってきた。
「ぐああっ!」
衝撃を受け止めきれず体が弾き飛ばされる。それを逃さずエリックは腰だめに引いた腕を突き出し、再び『炎巻』を放とうとする。
そこで俺は奴を睨み――
「ストップ!」
叫んだ瞬間、拳を突き出そうとしたままエリックが動きを止める。俺は床を蹴り上げ、一気に
だが――
「させん!」
次の瞬間、エリックは溜め込んだ
「ぐっ――」
驚愕しながら刀を掴み続ける俺に対し、エリックは右手を引き二撃目を繰り出そうとする。この状態じゃ技能は通じない。
ならば――
「――はあああっ!」
「ぐっ!?」
刀にぶら下がるような体勢をとりつつ片足を振り上げ、エリックの右手を蹴り上げ――って、あっつ! 燃える薪をそのまま踏んじまったみたいだ!
なんて心の叫びと痛みを押し殺しながら刀を握り直し、奴の胴体めがけて振り下ろす。
「はあああっ――」
だが――
「
エリックが眼前の空間を掴んだ瞬間、そこが爆発した。それに巻き込まれ、俺の身体は吹き飛ばされる。
が、エリックは全身を焦がしながらその場に踏みとどまり、両手を掲げた。
「万が一生きてたら地上まで上げてやろう――――だが、これで終わりだ! 《
「レツヤさんっ!!」
奴の両手から前を覆うほどの炎が噴きあがってくる。イクスの悲鳴が響く中、俺は刀を腰元まで戻し、
「天瞳流……《裂月》!」
刀を振り上げた瞬間、炎の中心に裂け目ができる。次の瞬間、俺は躊躇なく飛び込み、身体を焦がしながらも炎を通り抜けた。
「なにっ? ならば――」
「ストップ・ザ・アレス!」
驚きに目を開きながらもエリックが構えた瞬間、俺は半ば無意識に技能の名を叫ぶ。その瞬間、エリックは両手を開いた状態のまま、動きを止めた。
その瞬間、刀を垂直に立て――
「
「ぐああああっ!!」
四肢と胴体に剣撃を喰らい、エリックは大きなうめきを上げ、膝から崩れ落ちる。が――
「まだだ……捕まってしまった仲間とルネッサのためにも……こんな子供に俺が負けるわけには――」
エリックは床に手を付け、必死に起き上がろうとする。だが――
「やめてください!!」
少女の声が響き、エリックも俺も動きを止めてそちらを見る。
「二人とももうやめてください。エリックさん、私の力は人の死体を兵器に作り変えるもの。あなたの故郷を救う役には立てません! そんな私なんかを手に入れるためにこれ以上傷つけあわないで下さい!!」
イクスはぼろぼろ涙を流しながら俺たちに訴える。それを聞いてエリックは逡巡するように顔を歪める。
そこに新たな爆音と冷たい声が響いた。
『見つけました、イクス。我らを新たな
「マリアージュ!? まだ残ってたのか」
遺跡に入ってきた女型のマリアージュを見て、俺は痛みも忘れ身構える。
右腕についてる巨砲と左腕の長槍、今までのマリアージュとは違うぞ。
「あの子、『軍団長』です。他の子たちよりずっと強い! レツヤさん、エリックさん、私にかまわず早く逃げて!!」
イクスは声を張り上げて叫ぶ。あの様子からすると、イクスじゃマリアージュを止めたり命令することはできないらしい。
「エリック、イクスを頼む! こいつは俺が――」
俺は体に鞭打ってマリアージュの前に立ち、エリックはイクスを庇うように抱き寄せる。
だが――
「レツヤ、どいて! ――でああああぁぁぁ!!」
声が響いた瞬間、軍団長の胸に深々と“機械でできた”腕が突き刺さる。そして、俺たちとは逆方向に蹴り跳ばされ、爆砕した。
「遅れてごめん。ようやく着いた!」
マリアージュを倒したスバルは謝罪の言葉をかけながら、イクスとエリックを見、二人に近付いた。
「“冥王”イクスヴェリアさんにエリック・グラーゼさん、ですね? あなたたちを助けに来ました。もう大丈夫です――安全な場所まで一直線ですから!」
かたやミッドチルダと管理局を脅かそうとしたテロ組織のリーダー、かたや古代ベルカの王にしてマリアージュの母胎、そんな二人にスバルは安心させるような笑顔を浮かべ『命の恩人兼恩師』から貰った言葉を告げる。
そんな彼女にイクスもエリックもぽかんとした顔を浮かべていた。