魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
エリックとイクスを連れてマリンガーデンを脱出した頃、施設内外にいたマリアージュは全員機能停止し、《次元解放戦線》と名乗っていた連中も全員拘束され、マリンガーデンに広がっていた火災は無事鎮火していた。
そうして解決した『マリアージュ事件』は古代生物兵器マリアージュの暴走とオルセアの過激派のテロ未遂が重なった複合事件として扱われ、ミッドチルダ中を騒がせるニュースとなった。
実行犯の一人が臨時補佐官だったということで、彼女の直属の上司であり事件中行動を共にしていたティアナの管理責任が問われたが、早期に彼女の犯行を暴き、都市や本局への襲撃を未然に防いだことから大きな処分には至らず、短い間の減給だけで済んだ。今度、事件解決祝いという形で食事でも奢ってやろう。
彼女の部下だったルネッサと、ルネッサの兄にして“解放戦線”のリーダーだったエリックは厳しい取り調べを受けた後、他の仲間ともども海上隔離施設に移送された。ティアナの面会に合わせて俺もエリックに会いに行ってみたが、憑き物が落ちたみたいに落ち着いた様子で、御神さんとともに素行の悪い同級生を撃退した話など訓練校時代について語ってくれた。
そして事件の鍵だった《冥府の炎王イクスヴェリア》ことイクスは先端技術医療センターで精密検査を受けたのち、今も眠っているとのことだ。
マリンガーデン火災の際に現れ、局員をよそにマリアージュたちを倒していった
その代わりというように、テロリスト鎮圧の功績はMWATに取られ、ミッド住民の賞賛を集める形になってしまったが……。
◇
クラナガン・最高行政官官邸(別称・シルバーハウス)。
「最高行政官、時空管理局とMWAT本部から『マリアージュ事件』の報告書が届きました。お目通しを」
グレーのスーツを着こなし眼鏡をかけた黒髪の筆頭補佐官――アストン・マーティンは、机に座る上司に向けて二枚の記録媒体を差し出す。
「うむ。ありがとう」
口から顎にかけて茶色の髭を蓄えた壮年の男――ダイレル・クライスラーは礼を返しながら媒体を受け取る。そして上司がモニターを二枚同時に開き、結末の部分までざっと流し読んだところでアストンが再び口を開いた。
「
若き補佐官からの問いに、ダイレルはふっと不敵に唇を吊り上げる。
「死体を素材にした兵器など大っぴらに使うわけにいかんし、構造と対処法が周知された以上利用価値も薄くなった。イクスヴェリアも教会から動くことはなさそうだし、放っておいて構わんよ」
「そう言っておいて、ご子息に手柄を上げさせたいだけじゃないですか? “先生”にしては手緩すぎると思いますが」
咎めるように問うアストンに、ダイレルは苦笑を浮かべた。
「それは否定しない。息子の才を腐らせたくはないし、ある程度名を上げてもらった方が管理局との交渉や大衆へのアピールに使える。民主主義や平等主義の時代に変わろうと、人々は“ネームバリュー”というものに縋るものだ。それは
その指摘にアストンはわずかに目を張りながらも、それを隠すように人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げ――
「ご子息の名が広まった方が“我々”にとって都合がいいのは認めます。二期をかけた行政官選挙も近づいてきていますから。世論調査と平和党の候補者の顔ぶれ、そして今回のMWATの活躍で先生の勝利はほぼ確実になりましたが」
「MWATや息子が不祥事でも起こしたら覆りかねんから気は抜けんがね。そうならないよう彼らには今回の働きに対して十分な報酬を払うとしよう。とはいえ、現状こちらが優勢なのは確かだ――“その先”の準備を始めてもいい頃だろう」
“その先”と告げた瞬間、アストンは表情を引き締め両手を下ろしながら口を開いた。
「『防衛軍』の本格的な設立と整備、『アインヘリアルⅡ』の建造、それらの財源として『ミッドチルダ防衛債』を発行する準備もすでに進めてあります。来年末、選挙の終わりと同時に始められるかと」
若き補佐官の報告を聞き、ダイレルは自嘲するような笑みを浮かべながら机の上に両肘を置き……
「目的のために債権という形で次元中から金を集める……かつて『グランダム復興債』を発行した“愚王”と同じ轍を踏むことになったか。私が迎えるのは彼のような末路か、あるいは…………だが、それでもやらなければならない。“三年後”に動き出す《魔導殺し》に対抗するため、そしてその
今後も力を貸してくれよ。ミッドチルダ王族の裔子、ヘンリエット・A・M・ロールス殿」
150年も前に
「イエス、
と返事を返した。
◇
『マリアージュ事件』の解決から一月後。俺はスバルからイクスが目覚めたという連絡を受けて、聖王教会が所有する海沿いに建てられた教会のテラスにやって来た。
「おーす、イクスヴェリア陛下~。元気にしてたか~?」
「あっ、レツヤ」
「待ってたよ! こっちこっち!」
『お久しぶりです、レツヤさん』
菓子を横に置きながらベンチに腰掛けてたイクスとスバル、彼女らの正面に浮かぶモニター越しにヴィヴィオとコロナと初めて見る黒髪の女の子が挨拶してくる。彼女らにも「よっ」と片手を上げて挨拶し。
「
『いえ、イクスへの挨拶と友達の紹介は済ませましたから』
「はい。聖王陛下――じゃなくてヴィヴィオのお母上と妹さん、スバルのご姉妹や弟さんの紹介もしていただきました」
嬉しそうに話すヴィヴィオとイクスに俺は「そっか」と返す。
できれば直に会わせてやりたかったが、ヴィヴィオたちもチンクたちとトーマも学校や仕事がある。せめて休日に起きてくれればな……。
そう思っていると、ヴィヴィオの隣にいる黒髪の子が真上を見ながら「あっ」と声を上げた。
『ヴィヴィオ、そろそろお昼休み終わる時間!」
『本当、リオ? じゃあ私たち午後の授業の準備しないといけないから、名残惜しいけど今日はここまでにするね』
「はい。お勉強頑張ってください」
残念そうに告げるヴィヴィオに、イクスも微笑みながら返事を返す。
ヴィヴィオも笑みを浮かべて、
『イクス、友達になってくれてありがとう。今度は私たちが住んでる街とか学校のことも教えてあげるね――じゃあまたね、イクス!』
「はい。ごきげんよう、ヴィヴィオ」
手を振りながら別れを告げるヴィヴィオと友達二人に、イクスも手を振り返しながら挨拶を返す。
そしてモニターが消えると同時にため息をつきながら手を下ろした。
「どうだった、聖王様とのお話は?」
そう尋ねる俺にイクスはふふっと笑いながら言った。
「予想以上に元気な方でした。私が知ってる聖王陛下、オリヴィエ様はお淑やかな方でしたから正直驚きです」
「オリヴィエ……ああ、“聖王さま”ってそんな名前だったっけ?」
さすがに“聖王さま”ぐらい知ってるが、名前を聞く機会はほとんどない。確か『オリヴィエ・U・X・ゼーゲブレヒト』……だったかな?
「それに印象年齢が近い方とお話した経験がないもので、楽しかったけどちょっと疲れちゃいました」
「そっか。俺やスバルとは平気か?」
俺の問いにイクスは首を縦に振りながら微笑みを浮かべる。
「はい。レツヤとスバルはなんだか落ち着きます。助けていただいたから、でしょうか?」
「そっか~、なんだか嬉しいね~」
照れくさいのかスバルは顔を赤くしながら頭を掻く。
そんな中、イクスは俺に顔を向け、真顔で訊ねてきた。
「あの、聞いていいのか分かりませんが……レツヤのご先祖様もベルカの王族、だったんですか?」
遠慮がちな問いに俺は「ああ」と首を縦に振る。
「聖王様の盟友でセブリング王国って国を治めてた王様の子孫らしい。俺の本名も『フィヨルス・
「いや、最高行政官の息子で管理局の士官候補だから“ただの民間人”とは言えないような……」
スバルのツッコミを口笛を鳴らしながら聞き流す。
それに反してイクスは神妙な顔で……。
「“マセラティ”……聞いたことあります。中枢王家ができる前から聖王家をかんし――助けていた家系だと」
やっぱりそういう立ち位置にいたのか俺のご先祖様は。あの親父といい、父方からはきな臭い話ばかり出てきやがる。
「レツヤは聞いていますか? 私がこれからどうなるか……」
気まずい沈黙を挟んだのち、イクスはぽつりと言う。スバルはちらりとこちらを見、俺は彼女たちに頷いた。
「ああ。またしばらく眠っちまうんだろ。どのくらいだ?」
何気なくを装った問いにイクスは首を横に振る。
想定外の目覚めによる“機能不全”のせいで、イクスの身体は万全とはほど遠く、すぐに眠らないと保たないそうだ。おそらく今日の夕方までには……とマリエルさんが言ってたらしい。
「10年後か100年後か1000年後か……もしかしたら、もう二度と目覚めることはないかもしれません」
「そんな……」
最後の言葉を聞き、スバルはたまらず悲嘆の声を上げる。
それに反して、イクスは穏やかに微笑みながら再び口を開いた。
「今まで、ベルカにいた頃は、目覚めてはマリアージュを生み出して、戦地に送り出して、城の中以外は灰色の空と不毛な大地、血染めの
イクスの独白に俺もスバルも相槌一つ打てず、ただ沈黙を返す。
そんな中、イクスは「だけど」と続けた。
「だけど、レツヤとスバル、エリックさんを見てそれは違ったのだとわかりました。自ら死のうとしている命さえ、命を賭けて救おうとしている人がいる。間違った手段だったかもしれないけど、自分が住んでいた世界を必死に守ろうとしている人もいる」
「かもな……」
エリックもルネッサも、あいつらなりに
「私も、自分で自分と自分の周りの世界を変えなければいけなかった。そうしたらもっと早く、ガレアもガレアに住んでいた人たちも変われていたかもしれない。そうしたら“あの人”も……」
「過去は過去ですよっ! 大事なのは今とこれから!」
元気づけるように言うスバルに、イクスは「その通りです」と返し、俺も黙って
先祖が
「そんな簡単なことに気づくのに、1000年以上もかかりました」
自らに呆れるイクスに、スバルはからかうように「かかりましたね」と返し、イクスも「かかりすぎです」と笑い、目の前に広がる空と海に目をやった。
「……今の世界は綺麗ですね。青い空と紺碧の海、涼しい風、私が起きていた頃にはなかったものばかりです」
「起きた後でいくらでも見られる。ここなんかよりきれいなとこだって山ほどあるし、会わせてやりたい奴だってたくさんいるんだ。そのために体を休めて一日でも早く起きてこい――暇ができたらいくらでも案内してやるから!!」
俺たちが、俺たちの子孫の誰かがきっと……。
同意するようにスバルも泣きながら、イクスも懸命に笑う。
イクスは目をうっすらと細め……
「たくさん笑ったら眠くなってきました。ねえスバル、肩を借りても」
「肩でも胸でもいくらでも……はい」
スバルはイクスの肩を抱き、胸元に引き寄せる。イクスは微笑みながら目を閉じ、彼女に身を任せるように――
「ちょっと待ったーー!!」
「――っ!?」
突然上がった声にイクスはびくりと起き上がり、スバルから体を離す。俺もスバルも思わずそちらを見た。
そこには――
「感動の場面を邪魔して悪いんだが――誰か一人忘れてませんかね~? イクスと
壁に手をかけ、黒髪オッドアイの士官は荒い息を吐きながら告げる。その後ろには長い銀髪の女性士官も苦笑しながら立っていた。
「御神さん? リインさんまで」
「えっ、健斗さんとアインス補佐も非番だったんですか? あれ、でも制服のまま?」
俺とスバルは驚きを隠せず訊ねる。それに対し御神さんは首を横に振り、
「仕事を切り上げて来たんだよ。まだ半分ほど残したままだがな」
そう言って御神さんは盛大に息を吐く。結構無茶してきたらしい。
その一方でイクスは二人を見て大きく目を見張り……。
「リヒトさん……それにあなたはひょっとして…………」
「よっ、イクス。久しぶりだな。もう忘れちまってるかもしれないし、覚えてても信じられないかもしれないが――」
「ケント様!」
最後まで聞かず、イクスは妙な響きで彼の名を叫び、泡を飛ばしかねない勢いで口を開く。
「どうして、なんでケント様が生きて――それにその姿は一体……」
「まあ、これは話すと長くなってな。後にさせてくれ……それよりすまなかったなイクス。何百年もの間一人ぼっちにさせちまって」
「いえ……ケント様とリヒトさんが受けた痛みと苦しみに比べれば私なんてまだ…………」
嗚咽と涙が込み上げてきて、イクスはとうとう言葉を詰まらせて泣き崩れてしまう。スバルは彼女を抱きとめ二人に非難めいた目を向けるが、御神さんもリインさんもばつが悪そうな笑みを浮かべるのみだった。
ってか、“リヒトさん”って誰だよ?
「まあそんなことは後にしてくれ。それよりイクスのことだが、そんなに長く眠ることにはならんかもしれん」
「えっ――?」
御神さんの口から漏れた一言にスバルは間の抜けた声を漏らす。イクスも俺も自分の耳と彼を疑った。
「スバルとレツヤは知らないだろうが、イクスを改造した魔導師は過去の闇の書の主でもあってな、イクスの改造にも闇の書の力が使われていたらしい。そうだなリイン?」
御神さんに訊ねられ、“闇の書の分身だった”リインさんは「はい」と首を縦に振る。
ということはまさか――。
「そして、イクスの中に埋められた《冥王核》は俺たちが集めていたレリックの
御神さんはぼそりと付け加える。だが、スバルは気にも留めず。
「それ、本当ですか?」
彼女の問いに御神さんだけでなくリインさんも強い頷きを返す。
その瞬間、スバルはばっとイクスに抱き着き――。
「イクス、聞いた!? イクス長く眠らなくてもよくなるんだってさ!!」
「スバル、苦しいです。落ち着いてください」
そう言いながらイクスも嬉しさを隠せないように目に涙を浮かべる。
だが――
「だったらもっと早く来て教えてくださいよ! 永遠の別れみたいな雰囲気出した俺らがバカみたいじゃないですか!」
「仕方ないだろう。フッケバインやマリアージュ事件の後処理で忙しい上に、エリックやスカリエッティとの面会も重なって忙しかったんだから!」
喜びあう二人の横で、俺と御神さんも久しぶりに口喧嘩を交わす。それをリインさんは微笑ましげに眺めていた。
次回はSSX編の最終回です。イクスが眠らないため原作とは全く違う最後になります。