魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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SSX編最終話 未来に向けて

 一年後。

 新暦79年6月10日。

 聖王教会・大聖堂。

 

「聖王教会の代表として、そして天にます聖王オリヴィエ・U・X・ゼーゲブレヒト陛下の代理たる『教王』として、貴君及びガレア王国と友好関係を結びたいと願います……如何(いかが)か? 《冥府の炎王》イクスヴェリア陛下」

 

 金で出来た冠を被り、豪奢に飾り付けられた赤い祭服を着た老人――聖王教会『教王』が両手に持った文書を差し出しながら厳かな声で告げる。

 彼の前に立つ、短い橙髪の上に銀色の小冠(ティアラ)を載せた少女は白い儀礼用のマントをたなびかせながら文書を両手で受け取り、緑色の両目でなぞり読んでから、満面の笑みを浮かべながら言葉を返した。

 

「有難いお言葉とお申し出ありがとうございます、教王猊下。猊下ならびに聖王教会からの友好関係の申し出――喜んでお受けいたします!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そう告げるイクスに教王は皺だらけの右手を差し出す。その手を握り返した瞬間、聖堂中から盛大な拍手が巻き起こった。

 教王とイクスは握手を交わしたまま一同に笑顔を向ける。

 そんな中、イクスは俺を見つけ一層深い笑みを見せた。

 思わぬ不意打ちに面食らっていると――

 

「またかわいい女の子に好かれてるようやな~。けど、さすがにあんな小さい子はアウトちゃう? 一応現役の王様やし」

 

 拍手の音に紛れて隣から冷たい声がかけられる。もしかしなくても、声の主は俺とともに教会騎士として式典に参加していたはやてだった。

 ちなみに俺は左目に擬態魔法をかけて両目同じ色に見えるようにしてある。ベルカの要人たちのど真ん中で“愚王”だとバレたら洒落にならんからな。

 

「顔が合ったから笑みを向けてくれただけだよ。昔からの知り合いだって言っただろう」

 

「どうやろうなぁ。少なくとも後ろのリインはご機嫌斜めみたいやで~」

 

 その言葉につられ、後ろを見ると不機嫌そうに拍手をしているリインと目が合った。周りでは同じく手を鳴らしながらオーリスや守護騎士たちも半目を向けている。後で言い訳なり埋め合わせなりする必要がありそうだな……。

 

「しかし、王様が見つかったからってえらい騒ぎやな。もうガレア王国っちゅう国もないみたいやし、ここまで大きな式開く必要はないんちゃう?」

 

 はやては拍手を鳴らしながら首を傾ける。俺も拍手したままその疑問に答えた。

 

「イクスはベルカ王の中じゃ唯(・)一(・)聖(・)王(・)に(・)負(・)け(・)て(・)い(・)な(・)い(・)王だからな。こういう形で味方にした……悪い言い方をすると『軍門に下らせた』とアピールする必要があるんだよ」

 

 声を潜めながら説明するも、はやては納得するどころかさらに首を傾ける。

 

「……? たしかに聖王様には負けてないみたいやけど、“愚王”には負けたんとちゃうん? その愚王は聖王に負けたんやし、どっちにしろ冥王より聖王の方が強いってことになるんやないん?」

 

 はやての答えを「いいや」という返事と首振りで否定する。

 

 確かに300年前、イクスヴェリア率いる(という形になっていた)ガレア王国と俺が治めていたグランダム王国は《闇の書》を巡って戦い、ガレアとイクスヴェリアは敗れた。

 しかし、ガレアの国土のほとんどが荒廃していたせいで戦費が回収できず併合する余裕もなかったため、イクスはグランダムに身を移し、ガレア王国もグランダムの保護国という形で存続する形になった。

 そして愚王(俺)が聖王に討たれた後、イクスはベルカから姿を消し、ガレアも旧グランダム領の一部として聖王連合に組み込まれた。おそらく連合も気づかず。

 

 つまり、ベルカ戦争の中で冥王イクスヴェリアとガレア王国だけが聖王に滅ぼされず降伏することもなく、“いつの間にかなくなっていた”ということになっているのだ。

 

《しかも、ガレアは東方諸国を侵略して回っていた国だからな。聖王と冥王のどちらが上か決めなきゃならん……その結果が“これ”ってわけだ》

 

《ああ、なるほど》

 

 さっきのような話を口に出すわけにいかず思念通話で説明する俺に、はやても思念越しに相槌を返す。

 表向きには“友好関係”ということになってるが、『聖王教会』という組織を残している聖王と、『ガレア王国』を失い形だけの王となった冥王では、実質的に聖王が冥王を降らせたも同然だろう。

 

「まっ、でも冥王様、やなくてイクスにとってはこれでよかったんちゃう。たった一月半の眠りで済んで教会にもいられるようになったんやし」

 

「まあな」

 

 300年ぶりの再会の後、イクスはひとまずの眠りにつき、その間俺とリインは教会の面々やベルカ三家、はやてとシャマルの力も借りてイクスの体を治す手段を探しだしていた。

 そして一月後、イクスから小さい分身が出てくる騒動もあったものの、それから半月後にイクス本体が目を覚まし教会が保護することになった。

 その条件として『友好調印』が出されたわけだが、イクスは素直に受け入れ、教会の世話になるのみならず治療士見習いとして働いている。

 イクスが教会から出ることを望まない限り、それは変わらないだろう。

 と思いながら祝福している俺たちの横で……。

 

 

「これでイクスもあたしらの仲間入りか〜。それはいいけど、この式いつまで続けんの〜? 退屈すぎて寝ちゃいそう。ふああ〜〜」

 

「あともうちょっとだから我慢して! ここであくびなんか上げたら――」

 

「眠そうですねシャンテ。目が覚めそうな一撃を打ち込んであげましょうか」

 

 シャッハさんが顔を引きつらせながら声をかけた瞬間、オレンジ髪のシスターとセインはびくりと縮み上がる。

 あの子が廃棄都市(スラム)から拾ってきたという、シャッハさんの新しい部下か。セインともども絞られてるらしいな。

 

「面白い子やろ。ヴィヴィオとも仲いいみたいや。最初は聖王陛下ってチヤホヤされてるヴィヴィオに反発してたんやけど、お互い格闘技やってるのがわかって仲良くなったんやて」

 

「ああ、それはなのはやヴィヴィオ本人から聞いてる」

 

 しかし格闘技か。まさかヴィヴィオがそんなものを始めるとは。

 そのヴィヴィオもここに来たがってたが、あいにく今日は平日で学校もあるし、“聖王の子孫”がこんなとこに顔を出すわけにもいかん。式の様子は撮ってるから後であいつの端末に送ってやるか。

 そう思いながら拍手を終えた直後、

 

「――!?」

 

 後ろからゾクリとした悪寒が走り、思わずそちらを見る。

 

「健斗君、どしたん?」

 

 気づいていないようで訝しそうに尋ねるはやてをよそに悪寒の元を探す。だが、無数の参列客に紛れている上にもう気配を消していて、それらしい奴を見つけることはできなかった。

 

 

 

◇

 

 

 

――冥王イクスヴェリア様か……。あの子じゃアタシの相手にならなそうだなぁ。マリアージュも一体一体は大して強くないっていうし。あのおじさんは強そうだし少し気になるけど、チャンバラは趣味じゃないし別にいいや。

 

 退屈な式をこっそり抜け出した短い茶髪の少女――ティーニエ・セヴィルは窮屈なドレスを着崩し、つまらなそうに両腕を頭の後ろにやりながら足を進める。

 

「やっぱり、《覇王》様ぐらいが出てきてくれないとなぁ……ヴィッキーのご先祖様と相討ちして断絶しちゃったっていうけど、実はどこかに子孫がいたりして」

 

 黄色の右眼と緑色の左眼を好戦的に燃やし、先祖以(・)上(・)に(・)獰猛な笑みを浮かべながら独りごちる。

 が、ちょうどそこで――

 

「お嬢様……どちらへ行かれるのでしょうか?」

 

 目を吊り上げながら仁王立ちしているメイド(お目付け役)を目にした瞬間、ティーニエの口から「いけねっ」という台詞が溢れた。

 

 

 

◇

 

 

 

 一方その頃。

 St(ザンクト).ヒルデ学院・中等科棟。1年F組。

 

「聞いた? 今日転校生が来るんだって」

「転校生? 珍しいな。年度変わったばかりなのに。それにここの編入試験ってめちゃくちゃ難しいだろう」

「うん。にもかかわらず全教科高得点で、歴史なんてほとんど満点だったって先生が騒いでたよ」

「うそっ? ここって半分以上ベルカ史から出すから歴史は特に難しいのに」

 

 十人近くの生徒が教室の片隅に集まって、“転校生”について話し合う。

 そこで予鈴のチャイムが響いた。

 

「みんな! もうすぐ授業だよー! 早く席についてー!」

 

 長い黒髪を一部サイドポニーにした委員長らしき女子生徒が声を上げた瞬間、生徒たちは愚痴をこぼしながらも大人しく自身の席に戻っていく。

 程なくして担任のシスターが入ってきて、教卓の向こうに立ち予想通りの台詞を口にした。

 

「今日から新しいお友達が入ってきます。転校してきたばかりで不安な思いをしていると思うから、皆さん仲良くしてあげてくださいね」

 

 その言葉に、委員長らしき少女を含め多くの生徒が「はい!」と返す。それに頷き、シスターは開いたままの出入り口に向かって言った。

 

「どうぞ。入ってください」

 

 

「失礼します」

 

 皆が予想していたものとは違う返事を返し、コツコツと靴音を響かせながら、転校生らしい女子生徒が教室に入ってくる。

 二つに分けた薄緑色の髪をたなびかせた、凛とした雰囲気を纏う整った容姿の少女だった。だがそれ以上に特徴的なのは、紫色の右眼と蒼色の左眼からなる虹彩異色(オッドアイ)の瞳。

 生徒たちは唖然としたまま彼女に目を奪われる。委員長も同様だった。

 

「今日からこの学院で勉強させていただくことになりました。アインハルト・ストラトスです。たまに誤解されますが、この眼はただのオッドアイでベルカ王家や三家とはまったく関係ありません。

 ご迷惑をおかけするかもしれませんが、皆様どうかよろしくお願いします」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 質問する間も与えず丁寧すぎる口調で自己紹介を締めくくり、アインハルト・ストラトスこと“ハイディ・E・S・イングヴァルト”はクラスメイトたちに向かって深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 新暦79年 ベルカ王家の末裔達(と一部本人)がクラナガンに集う!

 

 

 

愚王シリーズ第3部『七課の剣銃士』 終

第4部『覇王の記憶を受け継ぐ少女』に続く




『七課の剣銃士』もこれで終了です。ご愛読くださりありがとうございました。
『アインハルトさんはちっちゃくないよ』という作品で触れられていたんですが、アインハルトが初等科の頃からヴィヴィオと同じ学校に通っていたら、オッドアイ同士目立つからあの二人もっと早く会っていただろう。という理由でアインハルトを転校生にしました。

R18のIF話を挟んでから、第4部『魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女』を開始します。皆様引き続きよろしくお願いします。
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