アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第90話 狼っ子リル(2人目)

 

 

「ユ――き――――ん……」

 

 

「ん~あと5分……」

 

 

「ユキナ! 起きろ! ごはん!!」

 

 

 

――バフンッ!

 

 

「――ぐえっ!?」

 

 夢心地の中、腹部に衝撃が!?

 重い目を開ければ目の前には……

 

「あ~……リルか」

 

「朝ごはん!」

 

 元気なリルの笑顔があった。

 つーか、顔近づけすぎだろ。鼻同士がくっついてんぞ? 起こし方も雑すぎだ。小さい子はダイビングボディプレスで起こす決まりでもあんのかよ。

 

「……てか、朝一で言うセリフがそれって。他にないの?」

 

「ない! ビレルティー(・・・・・・)サンド食べたい!」

 

BLT(・・・)サンド、な。いや、いいんだけどさー」

 

 初めて会ったときは野生児だったのに、今じゃただの食いしん坊……

 と、いいますかねリルさんや? アナタ食べ過ぎなんすよ。毎回毎回どこに食事が消えていくのか不思議でならない。そろそろ加減しないと泣くぞ本気で。

 【アイテムボックス】の中に保管していた食材が笑えないレベルで減ってきて、前回の戦いでも道具類の大盤振る舞いをして、そろそろ金策しておかないとヤバくなってきたんすよ。

 

 私のこれまでの成果が1ヶ月もしない内に崩壊の危機に!

 

「リルさーん? ユキナ様はまだ起きませんかー? そろそろ――って、何をなさっているのですか……」

 

 ステラがやって来て、ちょい呆れた表情になっている。

 

「……脅迫(BLTサンド要求)されてた?」

 

「どうして疑問形なんです……」

 

 ステラのジト目が辛い!

 

「はいはい。今起きますよー(ガバッ)」

 

「わあぁーーー♪」

 

 勢いよく体を起こせば、押し出されたリルがベッドから転がり落ちる。見事な受け身を取ってるし、本人は楽しそうだけど。

 

「アハハ! ユキナ! ステラ!」

 

「あん?」

 

「どうしました?」

 

 

 

「みんな生きてる! 笑うって、いい!」

 

 

 

「……そう、ですね。本当に、よかっだでず……グスッ」

 

「ほらステラ、涙拭きんしゃい。もう何度目だよ」

 

 ま、かく言う私も、油断すると泣きそうになるけどさ。

 命がけの戦いで誰1人失わずに済んで本当に安心した。

 

 

 

 あの激闘から3日ほど経った。

 

 魔王教団幹部“狩人の仮面”の首を取った直後に意識を失い、目を覚ませば涙でグチャグチャのステラに抱きつかれた。

 側には一足早く起きたらしいリルが龍の爺さんと抱き合い、みんな生きていること、森を護れたことに涙していた。――子供だもんね。いろいろ溜め込んで、がんばって、報われて……嬉し泣きして当然だ。

 

 ステラも爺さんも生きた心地がしなかったみたい。

 爺さんは聖獣の目を借りて見ていたから、リルが攻撃を受けたりピンチになるたびに名前を叫んでたそう。「全く、寿命が千年は縮んだわい」って愚痴ってたけど「永遠に近い刻を生きた龍のアンタからしたら千年とか誤差だろ」と思ったり。

 ステラはステラで爺さんから戦況を聞いて、私の元に駆けつけたいけど足手まといにしかなりそうにないと、ただただ無事を祈ることしかできなかったらしい。爺さんに釣られてか「私も寿命が千年は縮んでしまいましたぁ!」って言ってたけど「ステラの寿命が千年縮んだら即あの世に行って、死体もミイラ化通り越して風化するやろ」という冷静なツッコミは心の中にしまっておいた。

 

 そのあとも大変だったよ……お片付けが!

 

 森の中、罠だらけの血だらけ死体だらけだもん! ええ、責任を持って片付けましたよ! 私が!

 罠を全部解除して、【アイテムボックス】の中に死体を入れてから安全な場所で焼却処分して、身ぐるみは証拠品として押収して、と大忙し。

 余談だが、首チョンパされた“狩人の仮面”――その仮面を取ったら40代ぐらいのタバコとか似合いそうな俳優顔が出てきた。マオさんみたく劇の世界で俳優になれば人気なりそうな顔立ちだったのに勿体ねえなぁー。

 

 

 

「しっかし……私もまだ弱いな(ボソッ)」

 

「? ユキナ様、何かおっしゃられました?」

 

「気にしないで。独り言だから」

 

 思わず口から零れた言葉は、悔しさから出たものだ。

 幹部が強かったのもある。持っていたユニークスキルも初見殺しだった。戦闘の、殺し合いの経験差は考えるまでもない。

 それでも負けそうになった言い訳にはならない。

 負けたら、死んでしまったら、そこで終わりなんだから。

 

(帝国の迷宮で強くなるしかない)

 

 幸いにも今回の戦いでSPが十分溜まった。

 迷宮のある帝国には戦いやスキルに関する資料も多いって話だし、もう1度じっくり調べてスキルを取得しようと思う。

 それに、帝国の次の目的地にしていたマタルギアにも用事ができたしね。

 

 で、そうなってくると必然的に……

 

「じゃ、お昼前には聖獣の森を出るから」

 

「――え?」

 

 BLTサンドを頬張っていたリルが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「どういう、こと?」

 

「そのままの意味だよ。私たちも、この森も、安全が確保されたんなら留まる意味ないし。元々この森に来たのだって薬の材料を届けるためだったし」

 

 幹部を倒したことで【ヘルプ】の機能も回復した。裏切り者の警備隊の情報からその証拠までバッチリ確認でき、森に侵入しなかった魔王教団の人員も周辺から逃げるようにいなくなった。何らかの手段で幹部が倒されたのを知ったんだろう。

 これで心置きなく森から抜け出せる。

 

 ベルちゃんは私らのこと覚えてるかな~? また冷たい目で「どちら様?」とか言われたらどないしよ?

 

「え、でも、だけど……」

 

 分かりやすいぐらいリルが狼狽える。

 一緒にBLTサンドを食べてた爺さんは目を瞑り、ステラは寂しそうな表情となり、最近空気が薄くなった愛馬の松風はジッとこちらを見つめる。

 

「ユキナとステラ、いなくなるのか?」

 

「やることやったしね」

 

「……いつ、森、もどってくる?」

 

「各国を回るしね、しばらくは無理だな」

 

「しばらくって、どのくらいだ? 明日か?」

 

「……リルさんや、『しばらく』の意味知ってる?」

 

 ボケてるわけじゃないだろうが、混乱してるみたい。

 

「……2人と、会えない、のか? 一体、いつまで……」

 

 そう言うリルの目には涙が徐々に溜まっていく。

 

 

 この子にとって今までの10年近い時間は聖獣の森と、そこに住む聖獣たちと、龍の爺さんだけが全てで、本来なら私やステラとこんなに長く過ごすことなんざ考えもしなかったはず。それが今じゃ、一緒に朝食を取る仲にまでなった。

 自惚れじゃなければ私らはリルにとって第2、第3の仲間で、友人で、家族のような存在になっていたんだろう。日常になっていた朝食の席で別れを切り出されたようなもんだ。

 

 ま、リルの勘違いなんだけど。

 

「いやいや、何で会えないって話になんの?」

 

「ユキナ様?」

 

「え? だって、森、出るて……」

 

 

 

「だから、リルも一緒に(・・・・・・)森を出て私らと旅に行くんだよ」

 

 

 

「「へ?」」

 

 あーうん。今の反応で理解した。

 爺さん、マジであの話(・・・)リルにしてなかったな?

 

「おい爺さん……」

 

「済まぬ。結局、言い出せなんだ」

 

 気持ちは分かるけど、この空気どうすんねん。えー? これ私が言う流れだったりするの? 超イヤなんすけど。

 

「はぁ~~~。……一昨日、爺さんから頼まれたんだよ。リル、オマエに森の外の世界を見せてやってくれって。旅に同行させてやってくれって。悩んだ末に私は……それを承諾した」

 

「爺さま!?」

 

 驚いたリルが爺さんに詰め寄る。

 

「すまんのぅリル。元々、お主を外の世界で暮らさせることを考えておったんじゃ。それが剣二の願いでもあったゆえに。だが、時間を動かした赤子のリルがワシに笑いかけ、すくすくと育ち、『爺さま』と慕ってくれ……ワシは、決断することができなかった」

 

 爺さんがリルを胸元に寄せて語りかける。

 

「もう少し、あと少しとしていく内に気付けばもうリルは11になってしもうた。今から外の世界を知らなければ様々な意味で間に合わなくなる。それは……リルのためにならん。リル、お主は人間じゃ。人間の世界で暮らしていくべきじゃ。この森は、リルには小さすぎる」

 

「だったら! 爺さまも!」

 

「ワシにはこの森を見守る責任がある。それを放棄するわけにはいかん。ならばワシにできるのは再びリルが戻ってきた時に笑って出迎え、笑って送り出すことだけ。リルよ、もう2度と会えないのではない。何度だって戻って来ていい。よく食べ、よく寝て、よく見て、よく学び、成長せよ。雪菜と帰って来て、外の世界であったことをワシに聞かせておくれ」

 

「爺、さまぁ……」

 

 気付けばリルも爺さんも、2人とも泣いていた。

 

「愛しているぞリル。ワシの、唯一の家族よ」

 

「爺さま。爺さま、爺さま! えぐっ、爺、さまぁああああああ!」

 

 2人は抱き合いながら泣き続けた。

 その光景を私もステラも、黙って見続けた。ステラは貰い泣きしながら、私は笑いながら。

 

 

 

 でもね? 気付いてるか、みんな?

 私たち、朝食の最中にこの話題になったからまだ4人とも食事中だったわけでして。何が言いたいかっつーと……4人全員が食べかけのBLTサンド持ったままなんよ。歯形くっきりやねん。絵面的に台無しになっております。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「本当にいいの? そこまでしてくれなくても……」

 

「むしろこれくらいさせてくれ。でなければ、ワシの気が済まん」

 

 感動の家族愛を終えて――BLTサンドのことは忘れつつ――ついに出発の時ってなって爺さんから提案があった。

 

 私たちは早期に帝国に行きたいけど、実はどのルートを通っても帝国に着くまで日数が掛かるそうだ。国境やら険しい道やらの関係で。

 それにベルちゃんに薬の材料を届けたいし、まともな警備隊の人に裏切り者の情報も渡したい。

 

 そうこうしている内に、魔王教団の連中が私たちを見つけ出すために戻ってくるのではないか?という懸念があった。幹部の強さを再認識し、道具類から何から不足気味の状態で魔王教団とやり合うのは私としても避けたい。

 

 そこで爺さんの【時空系魔法】による長距離転移だ。

 

 私、ステラ、リルの3人までなら帝国まで転移させることが可能なので、あとのこと含めてお願いすることにした。

 

「では松風を連れて警備隊の者へこの手紙を、街へ行きベルちゃんなる者へ薬の材料を、冒険者ギルドを通して松風を帝国首都にある冒険者ギルドに送るよう依頼を出せばいいんじゃな?」

 

「うん。手順はこの紙に書いたからその通りで」

 

 転移できるのが3人までな以上、松風とはいったんお別れになる。

 聞けば、爺さんは短時間までなら聖獣の森の外での活動ができるので、面倒なことをアレコレ引き受けてくれた。ギルドへの依頼に関しては余裕をもった金銭を預けておく。依頼料から引いてもかなり余るだろうと、お釣りも松風と一緒に送るよう言っておいた。

 

 

 そして、別れの時間となった。

 

 

「爺さま! リル、外のセカイ見てくる! たくさん見て! こんど森にもどったら、いっぱい話、する!」

 

「ああ、楽しみに待ってるぞ」

 

 リルも爺さんも、もう泣いていない。お互いに笑顔だ。

 

「松風さん、しばしの別れとなりますが、またお会いしましょうね」

 

「ブルルッ」

 

 松風には悪いけど定員オーバーじゃしゃあない。

 あるだけのニンジンをあげたのでそれで我慢してくれ。

 

「世話になったな爺さん。次はそう遠くない内にってことで」

 

「礼には及ばん……リルを頼んだ」

 

「まかせろ」

 

 命はもとより剣二の願いも含めて世話する。私自身リルのことは気に入ってんだ。頼まれなくったって可愛がるさ。

 時々はモフモフも堪能できるしな。

 

「荷物は持ったかー? 忘れ物ないかー?」

 

「そもそも何も持ってないぞ!」

 

「基本、私の荷物はユキナ様が管理してますので……」

 

 ……そうだったな。では気を取り直して。

 

「じゃあ爺さん、お願いしやっす!」

 

「うむ、任された」

 

 

――パアアアアアアアアアアアアア!

 

 

 私たち3人を囲むように転移陣が展開する。外行き用だからか以前のものより大きく、繊細に見えた。

 

「改めて、さよならな爺さん」

 

「この度はお世話になりました」

 

「爺さま! バイバーイ!」

 

 それぞれが別れの挨拶をする。

 さて、この光が収まったら帝国だ。今度は一体何が待ち受けてるんだか。いや、まずは昼食からか。

 あれ? そういえば……

 

「爺さん、聞き忘れてたけど、帝国のどの辺に転移するんだ?」

 

 国境門近くか、村や街の外れかでお昼の予定が変わってくるしな。

 

 

 

 この時の私は何となく気になったことを聞いただけだった。

 

 

 ただ、爺さんから告げられたその内容がテンパる原因となった。

 

 

 今日の教訓、“ホウレンソウ(報告・連絡・相談)”ってすごく大事。

 

 

 

 

 

「ん? 帝国の首都にあるどっかの道じゃ」

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 何だ、今、すっごいアバウトなこと言わなかったか、このジジイ……

 

「リピートアフターミー」

 

「じゃから、転移先は帝国の首都にしておる。あぁ、もしや人や物にぶつからないか心配しておるのか? 安心せい。屋外の人通りが少なそうな場所を選んだ。それくらいの配慮はする」

 

「………………」

 

「あの、ユキナ様、今の話が本当ならかなりマズいのでは……」

 

「何かモンダイあるのか?」

 

 ……問題あるどころじゃ、ねえよ。

 

「えっと、詳細は省きますが、大きな街やその国の首都への出入りというのは得てして厳しいもので、私たちが首都にポンッと現れると……」

 

「アラわれると……?」

 

「最悪、不法侵入扱いになってしまう可能性があります。良くてお縄です」

 

 

 お縄の恐怖が再び襲いかかってきた!?

 

 

「ジジイィイイイイイイイイイイイッ! 今すぐ転移の魔法解けぇえええええええええええええええええっっっ!!」

 

「いや無理じゃって。元々高度の魔法じゃし、もう発動している」

 

 光がどんどん強くなってってるぅううううううううう! しかも見えない壁ができて出れねえええええええええ!!

 

「出してえええええええっ! ここから出してええええええっ!」

 

「じゃから、無理じゃって。よく分からんが過ぎたことはどうにもならん。人生、諦めが肝心とも言うしのぅ」

 

「やかましいわあああああああああああああああああああっ!!」

 

「ユキナ様落ち着いてください!」

 

「なあ? オナワって、何だ? なあ? 教えろよ」

 

 どうにかしなきゃお縄だ! えっと物理破壊、無理! 魔法攻撃、はい無理! スキル、何かスキル! 何でもいいから発動してえええええええええっ!!

 

「ユキナ様!? 何かいろいろと光ってますよ!?」

 

「これこれ、下手に暴れると座標がズレてしまうぞ? まあ、ワシがやったから大きな差はないが……おっと時間じゃ。ではまた会おう」

 

「こんの……覚えてろよおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 そして、全てが光に包まれ――

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ――次に感じたのは浮遊感。感じからして逆さまになっている。

 そして、真下にはローブを深く被った人が――!!

 

「え? ちょ、まっ!?」

 

「?」

 

 向こうは気付いていない。んで当然、

 

 

――ゴッチ~~~ンッ!

 

 

「あたっ!」

 

「~~~っ!!!??」

 

 ゴッツンコしちゃいました♪

 いや、そんな可愛らしいもんではないんだけど。

 

「あいたた……いや、痛くはないけどさ。スキルのおかげで。ここは……本当に帝国の首都に?」

 

「すっごい! 何だここ!?」

 

 周りを見ればどこかの裏路地っぽい。ちょっと小汚い印象だ。

 ステラは尻餅をつき、リルはこんな場所なのに目を輝かせている。

 そして、私が頭ゴッツンコしてしまった人物はうずくっていた。

 

「ああぁっ! どこのどちらか知らんけど本っ当にすんません!」

 

 穏便にお金で解決を~と思った時に……見てしまった。

 

 

 

 その人物の近くに落ちている、すっごく見覚えのある仮面(・・・・・・・・)を。

 

 

 デフォルメした喜怒哀楽4種類の顔が描かれた仮面を。

 

 

「……え? この人って」

 

 

『〈目の前の人物〉……魔王教団幹部“顔の仮面”』

 

 

 【ヘルプ】が先に答えを言っちゃった。

 

「……ウッソでしょ」

 

 

 

 

 

                         ~to be continued~

 

 




 これにて3章は終わりとなります。
 感想・評価・お気に入り待っております。是非。

 それと重要事項ですが……『アルビノ少女』の「ハーメルン」投稿は今話で最後とします。
 詳しいことは後ほど活動報告でも見てください。
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