裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜 作:わんた
ペイジの肩に腕を回して密着した。
「お前みたいな汚ぇ商人はお呼びじゃねえんだよ。さっさと帰れ」
ボンドは大商会の支店長まで上り詰めた男だ。裏稼業にも詳しく、ペイジが真っ当な商売をしていないことは知っている。
売れでコソコソとしているのであれば見逃していたが、同じステージに立とうとするのであれば別だ。ライバルになるかもしれないあいてをけん制したのである。
腕に力を入れてペイジの首をジワジワと締め付けていく。
苦しくなって逃れようとするが上手くはいかない。
このままでは意識を失ってしまう。
「その辺で止めろ」
声をかけたのはハラディンだ。
いつも通りに霊力を垂れ流している。
「あぁ? てめぇ誰だ?」
商人であるため霊力を感じる力が弱いボンドは、喧嘩を売るような態度を取ってしまった。
戦う力が無いのに強気に出られる理由は連れてきた護衛にある。
バックス港町でも有数の実力者を連れてきているのだ。
「もしかしてペイジの護衛か? だったら大人しくするんだな。俺に喧嘩を売るつもりなら、あれと相手することになるぞ」
先ほどからハラディンに殺気を飛ばしている男を見た。
タキシードの上からも分かるほど筋肉が盛り上がっている。肌は浅黒くドレッドヘアーをしていて、野性的な印象を感じる見た目だ。腰には剣がぶら下がっていて、棒立ちのように見えるがすぐに抜刀できる体勢を取っていた。
「抜けば、殺す」
対するハラディンは放つ霊力をさらに強めた。ボンドの護衛――プルペルから汗が流れ落ちる。
戦えば確実に負けると、嫌でもわかってしまったのだ。護衛としてのプライドがあるため職務は放棄しないが、生き残るために必死に頭を動かす。
「ぼちゃま。ここで騒動を起こしても貴族の方々の覚えが悪くなるだけです……一度引きませんか?」
反射的に却下しようとしたボンドであったが、護衛の様子がおかしいことに気づく。
連れてきたプルペルは手練れで信用できる男であるのは間違いない。どんな敵が相手でも果敢に戦う勇気も持っている。そんな男が怯えているのだ。
麻薬を売りさばくことしかできないペイジごときが、自分よりも上の護衛を雇っている。プライドは大きく傷つけられたが、表に出して反発するほど幼くはない。
商人として培ってきた経験が危機を教えてくれ、それが結果としてボンドを助ける。
「いいだろう。今回はプルペルの忠告に従ってやる」
裏商人ごときに負けたように感じてストレスは高まったが、頼れる護衛の忠告は無視できない。
プライドよりも目の前の危険回避を優先して正しい判断をしたのだった。
「パーティーが終わったらじっくり話そうや」
別れの挨拶としてペイジの腹を軽く殴ってから、ボンドは去って行った。護衛はその後ろを付いていく。
「あの男が敵なら護衛ごと殺す。どうしたい?」
穏便に終わったと思われた瞬間、ハラディンが余計な発言をしてしまった。
周囲はぎょっとした目でペイジを見ており、護衛のプルペルも振り返りながら武器に手を付けている。勝てる見込みはないのだが、襲われたら抵抗しなければいけない。
「師匠、ヤるなら私」
悪魔の仮面を付けたメーデゥが元気よく手を上げた。買ったばかりの青い剣を振り回したくて仕方がないのだ。
二人とも頭がおかしい。
まさかパーティーを襲撃する犯人ではないかと、疑いの目が向けられる。
「あんな小物、殺しても無駄な労力になるだけです。我々の本命は襲撃犯なのですから、そのときがくるまで待機してください」
明らかな挑発だ。
一方的にやられていたペイジは、軽く意趣返しをするために言ったのだ。
「てめぇ!」
飛び出そうとしたのをプルペルが抱きしめて止めた。
流石に護衛対象を見殺しにしてしまえば、雇い主である大商会からの制裁が下り、首が物理的に飛んでしまう。生き残るのに必死だ。
「ぼっちゃん! 今いったらマズイです!」
「だがあの小汚いペイジは俺を馬鹿にしたんだぞ! 許せない!」
商人として経験を積んで自信を付けてきたからこそ、格下に侮られるのが許せなかった。もう少し歳を取っていれば上手くかわせただろうが、若さがあだになったのである。
護衛の手を振りほどいて音を立てながらペイジに近づく。
突如として足下の床に深い溝が生まれた。斬り傷だ。
命の危機を感じたボンドは、怒りは吹き飛び足が止まる。
「あと一歩前に出たら、護衛ごと細切れにしてやる。どうする?」
脅しではない。本当に殺すつもりだとわかった。
「ぼっちゃん。俺はまだ死にたくない」
後ろからプルペルの悲痛な声がする。
周囲からはヒソヒソと話す声が聞こえた。この後どうなるか楽しんでいるのだ。
オモチャにされている。ボンドのプライドはズタズタだが、足下に刻まれた溝が冷静さを維持させてくれた。
損得勘定は商人の基本だ。
自分の命に釣り合うものなど、ボンドには存在しない。
「わかった。今回は引き下がろう」
鋭い目でペイジを睨みつけてから、反転して二人は待合室から出て行った。
「いやぁ! ハラディンさん、ありがとうございます!」
「どうてことない。だが、床の傷はどうする?」
「あとで私と親しい方に事情を説明しておきます。弁償することになると思いますが、ハラディンさんは気にしないでください」
ずっと馬鹿にされていた相手を見返せたのだ。金貨百枚だしてもいいと思えるほど、スカッとしているペイジは気分がよかった。
「ならよかった。また何かあったら呼んでくれ」
周囲を威嚇しながらハラディンは壁によりかかる。何かあればまたすぐに動き出すことだろうが、そんな事態にはならない。
しばらくして時間が過ぎると屋敷内で働いているメイドが呼びに来て、パーティー会場へ移動することになった。