裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜 作:わんた
「で、その恐ろしい組織の情報について詳細を教えてもらえないでしょうか?」
白金貨を出したのだから、もっと教えろとペイジが要求した。
「下部組織は自然信仰の司祭として各地で活動しているわ」
魔物は不浄の生き物で、この世から消えるべきという基本方針をとっている複数の宗教団体がある。
各地に生息する魔物を倒すだけでなく、赤子が魔物付きだと分かった場合、少額のお布施を支払えば親の代わりに処分してくれる存在だ。
汚れ役をやっているため民衆に慕われることはないが、広く利用されている。
「彼らは回収した魔物付きをどこかに集めて、使い捨ての道具として育て上げる。クレイアはそこを利用しただけよ」
取引相手だっただけとわかり、ハラディンは安堵した。
もし魔物付きを集め、暗殺集団として育てるようなことをしていたら許せない。そう思っていたからだ。メーデゥと関わるようになって、気づかないうちに彼も魔物付きに対する考えが変わってきたのだ。
「では、その取引相手の規模や本部の場所はどこにあるんですか?」
「大陸の南部にあるトラエブル山脈のどこか。小国ほどの人数がいると言われているけど……正確なことは分からないわ。調べた人間はすべて殺されているの」
世界各国の情報屋だけでない。国すらも全容を把握しようと調査をしているが、そのたびに魔物付きの暗殺者に襲われている。時には命令を出した国王ですら殺されたことがあった。
このような醜聞を広げてしまうわけにはいかないので、表向きは事故や病死として発表されている。
何度も暗殺が繰り返されるようになると、調べようとする人もいなくなり、組織の大きさすら分からない状態になってしまった。
「だから、手を出すつもりなら気をつけなさい」
無視されるだろうことはブレアもわかっているが、客として扱っているので最低限の警告をしたのだ。
「ええ。もちろんです。十分気をつけます」
うさんくさい笑顔を作りながらペイジは返事をした。
バックス港町で麻薬を売りさばく仕事すら困難な状況になってしまったので、彼には後がない。
表舞台に出る希望は打ち砕かれ、絶望して自暴自棄になっても良いぐらい追い詰められている。
危険な魔物付きを育ている組織に侵入して、奪い取ろうと企んでしまうほどだった。
「私は魔物付きを育てている組織を探ってみますが、ハラディン様はどうします?」
「金のない商人を守れ、か」
「……そうなります」
「いいだろう。ペイジには借りがあるし、俺も魔物付きの組織は気になる。同行しよう」
物付きの村を探す約束もあるので、ペイジに付いていくと決めた。
組織が気に入らなければ叩き潰す。ハラディンには、そのぐらいのことをする覚悟があった。
「ということですので、もう一つの情報、バックス港町から脱出する道を教えてもらえませんか?」
「その前に金貨を渡してくれないかしら。うちは前金制なのよ」
ハラディンは持っていた金貨を叩きつけるようにしてテーブルに置いた。
顔をブレアに近づける。
「町に出た瞬間、兵が包囲していたなんて事はないだろうな」
追い詰められている人間を売る、なんてことはよくあることだ。
裏切ればどうなるか。バカでも分かるように殺気を飛ばして脅したのである。
「もちろんよ」
怯えることなく涼しい顔で答えると、ブレアは立ち上がった。
背を向けて壁を叩く。
床のこすれる音が聞こえて通路が出てきた。
「襲われたとき、私も使う隠し通路よ。案内してあげから付いてきなさい」
勝手に歩いてしまっている。置いていかれるわけにはいかない。ハラディンを先頭にして三人は後を追っていく。
通路の横幅は二人並んで歩けない程度の狭さで、武器は振り回せない。使えたとしてもナイフぐらいだろう。
床には発光する苔があるため視界の確保は困らない。一直線の道を進む。
追跡対策として複雑な構造にして、トラップをたっぷり配置するなんてこともあるのだが、ブレアが作った隠し通路は分岐すらない。ひたすら真っ直ぐ歩くだけだ。
数キロもの距離を進むとようやく階段が見えてきたので上がっていく。
星空が見えた。
出口に付いたのだ。
警戒しながらハラディンが外にでる。
周囲には無数の墓石があった。見える範囲に敵はいない。
「バックス港町の住民は、死ぬとこに埋葬されるのよ」
振り返ると墓石に座っているブレアがいた。
「罠じゃないって信じてくれたかしら?」
「それは今調べる。メーデゥ、どうだ?」
遅れて地上に出てきたメーデゥが目を閉じて耳を澄ます。
音がしない。自分たちしかいないのだ。
「静か」
敵はいないとわかりハラディンは警戒を解いた。
「助かった」
ようやく町から脱出できたのだと分かりハラディンはブレアに礼を言ったのだが、どうでもいいとよいといった感じで墓石から降りた。
「相応の対価をもらっているから礼なんて不要よ。またいつか会えると良いわね」
手をヒラヒラと動かしてから隠し通路へ入ってしまった。
石が自動で動いて出入り口が見えなくなる。
「しばらくは一緒に行動できそうですね。これからもよろしくお願いします」
「護衛をする代わりに面倒な交渉ごとは頼んだぞ」
「もちろんです」
ペイジとハラディンが握手をした。
大人しく様子を見ていたメーデゥは話のほとんどを理解できてないが、一つだけ分かったことがある。
これからも三人で旅をする、ということだ。
また仲間が増えた……かもしれないと、じんわりと心に嬉しさが広がる。
もう孤独に怯えなくて良いのだ。
今まで不幸だった分、これからはたくさんの幸せが来るはずだと信じられるようになっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これにて完結となります。