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「娘を……頼、む。」
『ああ……』
この言葉を聞くのは二度目だ。慣れた手つきで墓を掘り、
『今度こそ……救ってみせる。』
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「獣狩りのおねえちゃん、お母さんまだ見つからないの……?」
問い掛けてくる少女の声、
不安で、
寂しくて、今にも泣き出してしまいそうなか細い声。
『……すまない』
懐から取り出した“ブローチ“をそっとしまう。本当は見つかっているんだ。でもそれは、幼い子供に伝えるには残酷だった。何せ帰ってくると思っていた母が死んでいたなんて伝えるのは……無慈悲すぎる。
『お母さんとお父さん、オドン教会に避難してるかもしれないから一緒に来ないか?』
「ほんとう?」
全くの嘘だ。父親は私が殺し、母親はそこで息絶えていた。いまでもガスコインの最後の声が耳にこびり付いている。だが、私はその遺言を果たすことは出来なかった。彼女は無惨にも豚に貪り食われ、死んでいった。だが
『準備出来は出来たか?』
「うん、今行くね……」
ギィーと金属特有の軋む音がし、少女が出てきた。金色の髪に白い大きなリボンがよく映えており、とても可愛らしい。しかしどこか不安そうな顔をしていた。当たり前だ、今宵は獣狩りの夜、ましてや小さい子供だ。そんな子供を私は一人で……今はそれよりも早くこの子を避難させなければ。さっと手を伸ばし、少女の手を取ろうとする。
『じゃあ、行こうか』
「お姉ちゃん……お父さんよりも血塗れだね。」
『……』
血に濡れた手を装束で拭き取り口当てを下げて少し笑みを浮かべせてみせた。これで少しは不安を和らげればいいが……よし、笑ってくれた。そのまま手を引き、梯子を降り、下水橋を通り、また梯子を登って【オドンの地下墓】に辿り着いた。その瞬間ピンと張った空気が私達を襲う。その圧の正体は、黄色の装束を身に包んだ……
『ヘンリック……』
私の作った墓に立ち尽くしている一人の狩人。何故だ、このタイミングではまだ此処にはいない筈。何かの行動で結果が変化したのか。
「ヘンリックおじさん?」
「ッッッ!?」
少女の声に反応して振り返ったその顔には、血走った目。蕩けた瞳孔。凄まじい殺気。強かった故に死に場所を得ることの出来なかった狩人、今そこにその姿はなく、血の遺志に呑まれた獣がそこにいた。こちらに気づいたのか一直線に突っ込んでくる。
ガチィンッッッ!!
その攻撃は速く、重く、そして正確だった。咄嗟にパリィは不可能だと判断し、仕込み杖で防ぐ。だが長くは持たない、急いでどうにかしないと確実に持久力の低い私の方が押し負ける。そしたらどうなる?簡単だ、次の獲物、少女が殺される。
「ヘンリックおじさんやめて!!」
『こいつはもう!ヘンリックっじゃ無い!逃、げろ!!』
どうにかその言葉を発して少女を逃す。そしてガラ空きの腹に蹴りをくれて距離を取らせ、怯んでいるその隙に仕込み杖を展開して叩きつける。
「ウ、ウアガアアァァァ!!」
血の滴る傷口を抑えながら叫び声をあげ、逃げ出した。いや違う、咄嗟に判断して狩る対象を少女に変えたのか。そう気づいた時にはもう遅く、鈍く光るヘンリックのナイフが少女の体へと迫る…
『避けろ!!』
咄嗟に銃を構えてスローイングナイフに向かって散弾を撃ち込む。しかしそれは空を掠め取ったか、あるいは当たることは無かった。まるで花が咲くように、鮮血が飛び散ると同時にナイフが少女の足に深々と突き刺さった。
「きゃあっ!」
声をあげながら勢いよく転び、そこへ占めたと言わんばかりにそこへ駆け出すヘンリック。それを止めることは叶わず、容赦の無い攻撃により世闇に血潮が舞った。
首をノコギリ鉈で斬り、腹を裂いて腑に顔を埋め始めた。グチャグチャブチブチと肉を断つ音が響きわたり、その音が響く度、自分の中で何かが切れるような感覚を得た。
『血にでも酔ってるつもりかぁぁぁ!!』
ありったけの憎悪と怒りを込め、少女の腑に顔を埋めているその背中に向かって杖を突き刺す。刃が分かれることで返しの役割を果たし、肉に引っかかる。豚に対してやった技だ、貴様は豚よりも下衆だ、人でありながら獣に堕ち、ましてや人を本能のままに殺した。豚と同じ様に殺してやる。そして血反吐を吐く獣を壁に向かって打ち付け、一瞬でも出来たその隙を利用して何度も斬りつけた。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「あんた……そろそろやめておきな。」
目の前に広がるのは肉片だけ。顔にも、手にも、体にも、びっしりと血と肉片がこびり付いていた。*1
「これじゃどっちが獣だかわからないね。クククッ」
『黙れ』
やり場の無い怒りをついアイリーンにぶつけてしまう。本当は分かっている、自分の判断力、力量が及ばなかったせいだ。
「ここでガスコインをやったのもあんただろう?身を守る為だったんだろうが、狩人狩りなど私に任せとけばいいさね。あんたは狩人、獣を狩るんだ。」
そう言われた瞬間視界が白一色に染まる。ああ……そうか、これは……
⚪️
辿り着いた時にはもう遅かった。アビドスの方向から逃げてくる人混みの中を進んでいく。やっとの思いで辿り着いたその瞬間、ツキミちゃんのヘイローが消え去った。
「ツキミちゃん!!」
無意識に走りだし駆け寄る。
じんわりと靴に血の染み込む感覚が襲い、背筋が凍り着く。
「どいて!」
「え……あ。」
赤髪の子からツキミちゃんを引き剥がし、窒息を避けるために体勢を横向きに変えさせて膝から下が無い足と腹部に空いた穴を必死に抑えつける。それでも血は止まらず、手の隙間から静かに流れ続ける。それは私の袖を赤黒く染め上げていった。でも突然血が止まった。正確には体に血が戻っていってる?服や靴に染み込んだ血も綺麗さっぱり消えた後、ツキミちゃんが文字通り血に溶けた。
「ホシノ先輩離れて!」
セリカちゃんの言葉が聞こえた瞬間に吹き飛ばされた。咄嗟にシールドで防いだけど、それでも1m程後ろに飛ばされて頭を地面にぶつける直前にちょうどシロコちゃんがキャッチしてくれた。腕がビリビリと電流が流れるみたいに痺れてきた。相当強い衝撃を受けたのだろう。
ツキミちゃんの方向を見ると血がツキミちゃんの形になって弾けた。側から見てもわかる程異常な光景。でも私はそれよりも気になる点を見つけた。ヘイローの形が違うのだ。それを見た瞬間頭が割れるような痛みが走った。どうやらノノミちゃんも同じみたいだった。それと共にツキミちゃんが黒服に何かされている時の光景が脳内に溢れ出した。そうだ……あの後からヘイローの形が変わって、借金が減って。どうして忘れてたんだろう。揺らぐ視界の中歩き出し、ツキミちゃんにしがみ付いた。そして自分の思ったことをぽつりぽつりと口にする。
「どうせあの時黒服に実験に協力すれば借金を減らすとか言われたんでしょ。治るからって、痛くないからって無茶しないで。おじさん達もついてるから。ツキミちゃんだけが苦しい思いをしなくていいんだよ?」
涙が止まらず、視界が滲む。
「だから、お願い……無茶しないで……遠慮なんかしないで頼ってよ……!」
ブシャアアァァァ!!
その瞬間、頭上から何かが垂れてきた。見上げるとそこにあるはずの……頭がなくなっていた。それは黒服の細工か、誰かに撃たれてそうなったのか、わからない。
「どう……して」
シュポガキかわよ、足舐めtゲフンゲフン!全く、生徒の足を舐めるだなんてどうかしてる。な!イオリ!それではまた次回に