おかげで苦手な数英が68、72と過去最高の点数が取れました!やったぜほめて
(本当は時間はあったけど裏で強化フルゴールが楽しすぎて書けなかったなんて口が裂けても言えない)
カチッ
秒針の進む音が小さく響く。
それほどまでに、テントの中には沈黙が広がった。
「ノノミ先輩は…!」
アヤネちゃんは、それ以上話してはくれなかった。
静かなテントの中には痛いほど、良く響いた。
「ツキミちゃんに、全身を握り潰されたの…こう、手でギュッと」
セリカちゃんが冷たくボソッと呟く。
よく見ると、その目元には赤い腫れがあった。
「いやいやいや…ツキミちゃんは確かにおっきいよ?でも、でもね…そんなノノミちゃんを握れちゃうほどおっきくはないよ?きっと、何かの見間違いだよ、ね?そう、なんだよね?」
否定して欲しかった。きっと今見ているのは悪夢で、今の私は頭をぶつけて気絶しているだけなんだって。
起きたらノノミちゃんの膝枕から目を覚ましてみんなとバカ言い合って、借金を少しずつ返して…それで
「いえ…残念ながら…」
「え、え?」
「ホシノ先輩…!良い加減にして、事実なんだよ…」
「ノノミ先輩は…私を庇って」
私は自然と逃げるようにテントの外へと出る。
その足取りは重く、また何を恐れているかのようにも感じた。
いったい、この布一枚を超えた先には何が広がっているのか、想像に難くはなかった。
もはや腕が折れていることなんか関係ない。ツキミちゃんが何をしたのかを調べる。
ただその目的だけが私の体を動かした。
そして、私は一枚の布を持ち上げる。
太陽は燦々と輝き、視界を白一色に染め上げる。
しかしそれは一時的で、光に慣れた視界からは、これでもかというほどの惨状が広がる。
血の跡が砂の上に広がり、その周辺には赤黒い肉塊が散らばっている。
街道はまさに血の川のようだった。
けれど、明らかに血の量が多すぎる。たとえあの大勢の人が怪我をしたとしても、明らかに多すぎる。
しかも普通は砂漠の気候上、水分を含む血液はすぐに乾いてしまうはずだ。
そのはずなのに、今ここにある血は乾かずに水分を保ち、その上に細かく砂が乗りまるで宇宙を思わせるような姿だ。
明らかに人の持つそれではない。
その血を見ていて私は気づいた。
まるで引き摺られていたかのように血の川が奥へ奥へと続いていることを。
まるでその跡に導かれるように私は、視線を向ける。
あったのは
下半身が吹き飛び、そこから赤黒い内臓らしきものが飛び出している、人型の“黒い”ナニカがそこにはあった。
細く老人のような手足。
あり得ないほどに痩せさらばえ、肋骨と背骨は剥き出しになっている身体。
頭は触手か触覚らしき器官があるが。
爆風か何かで吹き飛ばされたようにところどころが千切れかけていて、その断面は焼き切れている
明らかに、それは異質で、また生命を冒涜するかのような悍ましい様相だった。
その体躯は非常に巨大で、消し飛んでしまっている下半身も含めたら4〜5メートルはあっただろう。
だが、私はその悍ましい化け物に、なぜか妙な親しみを覚えた。
どうしてか私自身もわからない。ただ、私は半ば導かれるように駆け出した。
「まっ、て下さい!」
その遺骸の近くに来た時、アヤネちゃんの声が私を引き留め、シロコちゃんが私の前に立ち塞がる。けれど、シロコちゃんのちょうど膝下あたりに、とある物が見えた。
そんな訳がないと、そう信じたかった。けれど手のひらを見ると、見るも無惨に潰れてひしゃげたノノミちゃんのガトリングがその内にあった。
「あ、あ…え?うそ、だよね?」
「「「…………」」」
答えが返ってくることはなく、ただ沈黙だけが私の発言を否定する。
この死骸がツキミちゃんであることを、私の感覚が。
握り潰された銃は、ツキミちゃんが行った所業を、そして業を証明する。
私が夢だと思い込もうとする浅はかな行動は、悉く否定されたのだ。
この場所まで折れた腕を庇いながらあるって来たが、いざ目にするとそれはあまりにも残酷で、惨たらしくて、自分の心を守ろうと体が勝手に顔を両手で覆う。
頬には涙が滴った。
折れた腕を無意識に使って痛むからか、それとも抑えきれない感情が溢れているのか、それすら私には分からなかった。いや、分かりたくもなかった。
「ッ!?ホシノ先輩避けて!!!!!」
グプチ゛ャッ゛
瞬間、生暖かい液体が全身を覆った。
そっと私は顔から手を離し、手の甲に付着している液体を見つめる。
赤い、赤い、生命の色。
血液。人が生きるために必要な液体であり、
人畜に通ずる、危機の色だ。
その奥に、巨大な赤黒い手に下半身を地面にプレスされたシロコちゃんが目に入った。
そこからはじわりじわりと血液が滲み出し始め、快晴の空のような色のマフラーをドス黒く染め上げていく。
私は叫んだ。
「いや!やめ」
プチ
「ホシノ先輩逃げ」
プチ
「……もう、私から何も奪わないでよ…もう、もう…」
私が、大人しくテントに籠っていれば、ああ…私は…私は…
⚪️
“はっ!?”
靄のかかった思考が一気に晴れる。
私は…今まで何をしていた?
そうだ、ツキミちゃんに注意して、それからなんだか頭がぼんやりとしていた。
「いっいやあああ!!!!!」
“ッッ!!!!!”
叫び声が響き、その方向を見て私は恐怖した。
巨大な手が今まさに虫のように生徒を叩き潰そうとしている、咄嗟に体は動き出してその子を抱えて勢いのままに転がりガードレールにぶつかる。
背中に鈍痛が響くが、そんなことはどうでもいい。
“大丈夫!?”
「え?あ!はい!!」
どうやら無事のようだ。にしてもあの手はいったいなんなんだ。思考を巡らせても埒が明かない、
とにかくだ。今すぐにこの場所を離れないといけないのは確かだ。
その時だった。視界の端に見慣れた影が映る。
巨大なナニカの胸元にピンク色の髪の毛が棚びくのが見える。
“アロナ!私が呆けてる間に何があったの!?”
《良かった!!やっと先生が反応してくれました…!ずっと話しかけているのに無視してきて酷いじゃないですか!!というかすっごい血塗れ*1ですけど大丈夫ですか!?》
《それと先生!今すぐにそこから離れてください!》
“その前にホシノを助けないと!!”
《無茶です!相手は生徒の神秘を無効化して攻撃してきます!今逃げないと他の生徒さんも危険に晒すようなものです!!》
“そこで大人の私が真っ先に逃げちゃだめだ。アロナ、今動くことができる生徒は何人いるか教えてほしい”
《戦うつもりですか!?》
“いや…とにかく教えて”
《えっと、ホシノさんを除く対策委員と便利屋68全員、そして少数ですが風紀委員の方々で合計13人です。》
《けれど負傷者が36人もいます…そのうち半分以上が意識不明、腹部貫通に内臓破裂などいずれも重症者です。》
《それに残りの負傷者は【発狂】状態でまともに自立行動ができる状況ではありません》
《そして今この惨状を引き起こしているのは狩谷ツキミさんです…被弾したと同時に肉体が急激に━━》
目の前にいる怪物は……そう、状況は大方把握できた。ひとまず負傷者と住民の避難を急がせよう。
だけど全員を逃すには時間がかかる。
やるしかないか━━
”便利屋のみんな!“
「なっなにかしら?」
”こっちでツキミちゃんの気を惹きつける。その間に風紀委員と協力して負傷者と住人の避難をお願い”
「わかったわ!(なっなんですってえええ!?)」
本来敵同士でも今この状況でそれを気にしていたら命取りだ。
それにそんな悠長なことを言ってる場合じゃないと理解できないほど子供じゃないと私は信じている。あとは、ツキミちゃんをどう止めるか。
“……ふぅ”
息をひとつ吐き、懐から一枚のカードを取り出す。
【大人のカード】そう呼ばれるそれは普通のクレジットカードのようにも使えるが、ツキミちゃんには使用を咎められた代物だ。
なんとなくだけど、その理由はきっと何か大事なものを対価として使用しているとあの子は気づいていたんだと思う。
その時、ツキミちゃんの言葉が頭によぎる
【だから、私は自分自身を犠牲にし続けよう。幾ら傷つき死のうとも周りの身近な人だけでもそうならないように】
きっと、こういうことなのだろう。
“私は、大人だからね”
そう呟き、大人のカードを掲げたその時だった。
全身にいつのまにか浴びてしまっていた血液がカードに向かって吸収されていく。
“どういう…こと”
まるで紙に水が染み込みように侵食して少しずつカードが翡翠色…いや、まるで月光のような光を放ち始める。
瞬間、より一層強い光が辺りを包み込み目の前に文字通りの“影”が現れた。
しかしその影は通常では考えられない色をしていた。
中心にかけて暗くなり輪郭が赤くなっている。
次第にその色は変化していき、渦を巻くように輪郭の赤色が中心へと吸い込まれ、次第に影は形を変化させ立体感を帯び始め完全な人の形となった。
普通に考えれば異常なのに、怖く感じるはずなのに。何処か懐かしくて胸の中が暖かくなるような、まるで二度と出会うことはないだろうと思っていた旧来の友人に出会った時のような、そんな不思議な感覚がした。
もっとも、今目の前にいる影に見覚えなんかあるはずも無いのに、記憶の奥底に、確かにそれがいる。そんなことを考えていた時だった。
「…なんだい此処は…太陽が…獣狩りの夜が明けたというのかい?」
ペストマスクのような物を被った女性が、年季を感じさせる声で呟いた。
”あなたは…一体?“
「見たところ狩人じゃなさそうだね、私は…鴉羽のアイリーン。狩人狩りさね」