キヴォトスに狩人様がやってきた   作:小説を書く左廻りの変態

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高校三年生。いい加減この物語に終止符を打つために、書きます。
私の始めた物語、高校入学の不安で書き始めた妄言の数々。それでも我が子も同然なんです。
勝手もわからず変に設定を詰め込んで、それの回収に苦しんで、でも。
それでも何人かは私の書くこの虚妄の産物を好んでくれている。だから書きます。この血に塗れた暗き物語を。

高校卒業したら、もう自由が効かないので。


第三十九話 本当の獣、人であれなかったもの

 

「クソが!!緊急事態だ!!」

 

無線の方からそう声が聞こえた。ツキミちゃんを転ばせるために動員した風紀委員たちの声をかき消すように絶えず銃声が響く。緊急事態とはなんだ、助けた子に何かあったのか。にしても作戦はどうする。初期の初期の段階から失敗だ。

 

瓦礫から取り出した電線で足をとらせ、体勢を崩したタイミングでドローンを用いて遠距離から水をホシノにかけて、それで目を覚まさせる手筈だった。けれどもそれも今となっては不可能に近い…どうする、最悪は強行して無理やりホシノを起こさせるか、でもそれで失敗した上にドローンが破壊されたら、打つ手なしだ。

 

アヤネがいない現状、使用できるのはシロコのドローン一機だけ。

どうするどうするどうする考えろ。いやそもそもホシノを起こしてどうする。その後は?いやホシノを起こしてもあくまで救出時に抵抗されなくなるだけだ。

 

その思考を切り離すように追加の無線が入る。

 

「なぜかさっき助けられたやつがこっちを撃ってくるんだ!」

「負傷者はいないが原因がわからない!とりあえず撃っていいか!?」

「先生、これって…!」

 

私はノノミと顔を見合わせる。過剰なストレスによる反発とも考えられはするけれど、私がさっきまで操られていたということもあった。憶測に過ぎないけれど、私と同じく思考を乗っ取られていると考えた方がいい。ヘイローは精神に作用して効力を発揮している。精神操作、またはそれに準ずるものを受けている可能性がある以上、下手に撃つと…最悪死ぬかもしれない。

 

【操られてる。念の為撃つな】

「撃たないで下さい!!精神操作されている可能性があります!!何があるか分かりません銃を使わずに拘束して下さい!」

「はぁ!?精神操作ってそんなわけ、いやあんなバケモンがいるんだ常識なんか通用しないか。くそ!また撃っ」

 

ブツっと音を立てて無線が切れる。ツキミちゃんは相変わらず風紀委員の子たちに気をとられ、幼子のように路地に向かって腕を入れている。あの路地の先は瓦礫に覆われてて、おそらく風紀委員の子たちは動けない。いや、逆に気を取られてるなら今は対策する時間が多少なりともできたということ。打開策はないか、そうだ!!ツキミちゃんは叩きつけるか、もしくは掴み取るような行動をとる。そして掴み取った後はおもちゃを手に入れた子供みたいに顔を近づけて舐めるように見つめていた。

 

逆に言えば、この時は何もしなくてもツキミちゃんの方から近づいてきてくれる。しかもこの時は絶対的な隙が生まれる。電線も使い物にならなかった今、できる行動はこれしかない。でもそれは誰かを犠牲に、いや生贄にするも同じだ。

 

その上近距離での接触は精神操作を受ける。そもそも精神操作の条件はなんなんだ!予測では”近くにいるから”けれど、きっとそれだけじゃない。もしかしたら近距離だけが原因じゃないかもしれない。理由が、なにか原因があるはずなんだ。外傷を与えられたから?いやちがう。

 

接触じゃない。吹き飛ばされた子に症状はなかった

視線?違う。アイリーンはしっかり見られていた。

なら何だ。

 

考えろ、かんがえろ、かんがえ

 

なにこのかんかく、またあやつられ…ちがう、ねつ?まだごふんたってない、のになんで、いしきとんだらみんな、きけん。でもふわふわと“いいにおい”なつかしい“つきみたいな”つめたいかおr

 

ベチン

 

私は自身の頬を強く叩いた。叩いた箇所が赤く染まり、耳まで痛む程の勢いで。どうして気付かなかった、そうじゃないかツキミちゃんは独特の月のような匂いがしていた。さっきの感覚は熱じゃない。匂いのせい…風に乗って飛んできた薄い香りだったからギリギリ大丈夫だった。でも至近距離じゃもっと濃い筈、あの匂いに晒され続けることが原因なんだ。アイリーンはペストマスクを付けてて、操られたあの子はマスクもなにも付けてない。

 

そういえば、風紀委員会との戦闘前にホシノから【鼻を塞げるものを用意して】とメールがあった。もしかしてこれのことだったのかもしれない。じゃあこのことが起きることを予見していたということなのだろうか。いやあの月の香りは常にしていた。今精神操作の作用が顕著に現れてるだけで以前からだとしたら?ホシノは、一体何を知って、何に気付いたと言うんだ。

 

わからない。今この現状も、何が起こっているのか、その原因は、そうなってしまった理由は、それを防ぐにはどうしたらよかったのか。全てがあやふやで、未知に対する恐怖だけが頭の中を染め上げていく。今までの思考を全て塗り潰すかのように。

 

それでも前に進まなくてはならない。私は先生、教師であり大人だ。未来ある生徒たちを守り導く先達者だ。間違った行動をしようとするなら、それを止めなくてはならない。それが例え自らを滅ぼすようなことになろうとも。

 

なぜか理由はわからない。でも私は、ツキミちゃんの声のようなものが聞くことができた。ノイズがかかった、まるで黒板を引っ掻く音を録音した壊れたラジオを水中で聴くような、不快で聴くに堪えない声のような何か。けれど、確かにそのノイズの中にツキミちゃんの声が聞こえた。

 

本当にわずかな可能性、でももしかしたら。

まだ話し合えるかもしれない。

そんな考えを巡らせる脳内に、水面へ波紋を広げるように、頭の中に声が響いた。

 

“馬鹿か貴様は、だが面白い考えだ。』

(また来たの?偽物さん。面白いっていうくらいなら止めてくれない?)

“それは出来ないな…だが手出しはしない。死ぬ気ならさっさと死ぬといい。』

(へぇそうなんだ。言動も操らない?熱も?)

”熱は残す。時間制限があった方がもっと面白い』

“対話してみたまえ』

(案外素直なんだね)

”出来もしないであろう行動すら止めるほど私も暇じゃない』

『対話とは同じ価値観』

『同じ立場』

『同じ状況でなければ成立などしない』

『君もよく知っているだろう、対話が成立しなければ対立し、互いに一定の血を流し痛みを知らねば止められない。国家という大衆のともなれば尚更』

“私は君の全てを知っている。何をしてきて、何を殺して、何を為してきたかも、その全てを』

(出来ないと諦めるくらいなら、せめて足掻くよ)

 

”彼女“の声はよりツキミちゃんに似ているような気がした。その言動も、実際にツキミちゃんに言われたわけでもないというのに、なぜだかあの子なら言いそうだと思った。悲観的で否定的。何があの子をそうまで錆びさせてしまったのか、それはわからない。どれほどの苦難を乗り越えてきたのかもわからない。

 

同じ状況でもないし、価値観もきっとまるっきり違う。それでも、声が聞こえた。

ただ守りたい、もう失いたくない。その一心であの子はホシノを抱えてる。

 

思えばそうだった。いくら体を切り刻まれてもホシノを抱える手だけは離そうとはしなかった。転ばせた時も衝撃がホシノに届かないように人間では到底できない顔面での着地を選択した。私も、それに応えて選択しなければならない。そんな気がした。

 

”…よし“

 

私は自身の口に結んでいたよだれ塗れのネクタイを外した。もしかしたらこの隙に私の体を乗っ取って、そこで混乱を生じさせるのが狙いかもしれない。そう思いはすれど、なぜだかそこで諦めたくはなかった。

これから先私は無謀な賭けに出る。ツキミちゃんと話をする。武力を持ってして対処するのではなく、ただ話し合う。

やっても失敗してしまうかもしれない。もしかしたら私はあの子に殺されるかもしれない。

 

そしたらあの子は、迂闊に近づいた私のせいで人殺しになっちゃうのかな。でも、やっぱりあの子を、ツキミちゃんを傷付けたくない。それに、これ以上誰かを傷つけてさせたくもない。だから私は、足を運んだ。

 

一歩

 

一歩

 

また一歩

 

鼓動が速くなり、されど着実に距離は縮まっていった。

 

あの子はこちらに気付き顔をこちらに向けた。その体からは絶えず月光のような色の粉塵が宙へと噴き出している。きっとあれが精神干渉の要因。

それを吸い込まないように口元をハンカチで覆う。

一瞬の沈黙、しかしその沈黙はそのままに空気だけが、深い水底へと。あるいはそれよりもさらに深い、まるで深海の中のように圧力が高まった気がした。

 

隘イ縺」縺ヲ縺薙↑縺?シ(襲ってこない?)

縺ェ縺懶シ(なぜ?)

『《獣なのに、なんだ、お前は》』

“私は獣なんかじゃないよ、私は先生。名前は栗花落、これで自己紹介は2回目になるね”

 

殺意なんて向けず、ただゆっくりと自然に歩み寄るように近づく。それでも彼女は、どこか私に怯えているようだった。大切にしていたものを没収されそうになっている子供のようにホシノを胸に抱き寄せ私から遠ざける。

 

「なんでそこに!先生危険です!!離れてください!っシロコちゃん!?なんで止めるんですか!?」

「ん、よく見て」

「止まって…何かを話して…?」

「大丈夫。きっと先生は何か策があるはず」

「私たち…見てるだけでいいの!?何かしないと…っ」

「だったら、残弾確認をして」

「それって」

「ん…ツキミが先生を殺す前に、私たちが終わらせる、しか」

 

“その子を…返してほしい”

 

隠すわけでもなく、私は本題から切り出した。

 

縺サ縺?シ(ほう?)

“ただそれだけ、何か意図がある訳じゃない。ただ私を信じてほしい”

“絶対に危害は加えない”

“だから”

『本当に…?本当にそうなんだな?』

 

『だがこの子は、貴様ら獣に何度も、何度も…何度も何度も何度も何度も…!!!』

『…殺されてきた』

『やっとまた機会が回ってきたんだ!』

『何が信じるだ…人を信じて、可能性を信じて!私は…!私は今まで…!』

『ガスコインに託されたんだ。娘を頼むと、だから私は…私は…!!』

『でも守れなかった!!胴体をなき別れにされ!!腑を喰われながら死んだ!!』

『お前たちのやってきたことじゃないか!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな…』

“……”

『黙ってないで話せ』

 

今やっとわかった。この子は、過去に救えなかった誰かがいた。そして救えなかった自分を呪い続けている。何度もという点には疑問は残るけれど、後悔に囚われ続けている。そしてホシノをその子だと勘違いしてしまっている。

 

救えなかった、それでもやり直す機会が訪れたと錯覚してしまった。自分を縛り上げる後悔を振り払えるとしたら、失敗を無かったことにできるとしたら、私も必死になるだろう。いや…誰しもがそうなる、彼女もまたそうだっただけ。

こんな残酷なことがあっていいものか、どうして一人の子供がそこまで思い悩まなくちゃいけなかった。どうしてその悲しみをツキミちゃんだけが背負わなくちゃいけなかった。

 

”辛かったよね…“

 

でも、伝えなくちゃいけない。残酷だと知りつつも、辛く苦しい現実へ戻してあげなくちゃいけない。虚妄に囚われていては前を向けない。前を向かなきゃ進めないんだ。苦しむその責任は、私が、私だけが背負えばいい。子供じゃない大人の私が背負えばいい。

 

”それでも、私は貴女に伝えなくちゃいけない“

 

”貴女が今抱えている子は、貴女が助けたかった子じゃないんだよ…”

 

『は…?いや、そんなわけがない!!そんなわけ、いやだ、違うなんて、獣の言うことは信じるな。奴らは人を喰らう化け物だ、言葉を操り人に紛れるやつもいた、こいつもそうに違いない、そうじゃなきゃ、今まで私が殺してきたのは何だった?』

 

“見なさい”

“その子はホシノ、貴女の仲間、貴女が救いたかったガスコインの娘じゃない。”

 

『嘘だ…』

“嘘じゃないんだ”

“もういないんだよ、ツキミちゃん”

 

本当の事を、辛い事実を伝えるのは酷な事だとは分かっている。けれど、虚妄に囚われることは、もっと酷な事だ。死んだ人はもう戻ってこない。甘く楽な事実が救うこともある、けれどもそれは本質的な救いにはならない。彼女も、もう分かっているはずだ。

 

その現実が自分自身で認識してしまうのが、怖いんだ。

 

『え、でも…あ、あぁそうだったのか…ここにいた獣が私を殺そうとしているくせに、この子は狙わなかったのは』

『現実から目を背け、夢に魘され、惑わされ、一人で力のままに殺し回った』

『本当の獣は、』

『私だった』

 

ツキミちゃんは、ホシノを地面にゆっくりと腫れ物に触れるかのように降ろした。

けれど、ツキミちゃん自身はおぼつかない足取りでそこから離れていく。

 

“ツキミちゃん?”

『漸く、今になって現実が見えた。皆を傷つけてしまった。私は何をしようとした?ノノミを、握り潰そうともした。近づく生徒は叩き潰そうとした。』

『私は、そこには居れない。いる資格がないんだ。』

『もういいんだ。貴公、おかげで夢から目覚められた。これ以上間違いを犯さなくて済んだ。もういい、元々ここに来るつもりも無かった』

『隠してきた醜いこの私を見られた。私は貴公らに嘘をつき続けてきたんだ。その化けの皮がついに剥がれた』

 

『私は、死を選んだ。だがここにきた』

『やって来てしまった』

 

重苦しい言葉の数々が、暗い暗い虚無を思わせる口のような穴から発せられる。

 

『そして災厄を振り撒いた。仲間として受け入れてくれたホシノたちの心が暖かくて、それに縋ってしまった』

『やはり私は、死んでおくべきだった。』

 

“それ以上喋らないで”

『貴公…?』

“自分自身を否定しないで”

 

なぜいたいけな少女が自分の死を選ぼうとしたのか、なぜ暖かい人の心に触れてしまったのが悪のように言うのか。そんな悲しい選択を、ツキミちゃんにはしてほしくない。悩みを一人で抱えないでほしい。辛いのなら頼ってほしい。その辛さの一端だけでも私にも抱えさせてほしい。私はいてもたってもいられなかった。

 

『貴公、離せ』

“離さない。絶対に離さない!”

 

傷だらけの足に私は抱きついた、血が滲み顔や身体中へと染み付くがそんなものは関係ない。それは彼女へのせめてもの慰めでもあり、自分自身のやるせなさをどうにもできなかった自分の愚かさでもある、だが…私はこの選択を後悔した。

 

”やっとだ…これでまた』

 

バタッ…

 

“ぐぁっ”

『貴公!?どうし、あ“あ”あ“!!!!』

 

突如、脳内に響きわたる耳鳴り。鼻血が吹き出し、目の前が暗くなり始めるのを感じる。それと同時に耳から聞こえるのはツキミちゃんの呻き声。揺れ動く視界の中で同じく地に伏したツキミちゃんが立ち上がる。

 

不気味に感じるとともに

どこか美しさすら感じる白い肌が

体の末端から

綿へ墨汁が染み込むように

黒よりも暗い色ともつかぬ何かが

境界すら残さぬように塗り上げる

 

『ああぁ…やっとこの体に戻れた』

『君、いや…“貴公”と言った方があの子らしいのか』

『けれども、そんなことはどうでもいい。貴公のお陰で私は身体を再び得られた』

『彼女の器では、私がより増えるスペースがなかった。その上他のモノでは神秘が邪魔してきてすぐに消えてしまう』

『だが貴公は神秘を持ち得ぬ。故に器たり得た。貴公らが言うツキミと同じ…他ならぬ、神秘を持ち得ぬ貴公のお陰だ』

 

赤子の声が聞こえる

 

『これでより神秘を吸収できる。そしたら、そしたら…?まて、なんで…なんで私は』

『神秘を求めて…必要なのは血の遺志、神秘は…』

『まあどうでもいい、始めようじゃないか』

 

空が、暗くなる。

星空が青空を呑み込んでいく。

清浄なる世界を穢す不気味な輝きを放つ邪悪な星々。

あれはきっと、星じゃない。

 

目だ

無数の瞳が

私を

空を覆った無数の瞳が映り込み、こちらを捉え続ける

耳鳴りがした。いや違う

これは声だ

言葉になり損ねた囁きが、脳の裏側をゆっくりと染み込む

声なき声が、理解してはならない声が、警鐘を鳴り響かせる本能を超えていく

 

瞬間、目の前がふさふさとした軽い何かに遮られた。闇の中でも淡く光それは鴉の羽。

太陽の光も、街灯の光もない中で頼りになるのは、鼻を突く鉄の匂いと、どこか嗅ぎ慣れない香料の匂いと、そのわずかな感触だけだ。

 

「その外套はくれてやるよ…とっとと、逃げな」

 

掠れた声、老いだけでなく、生命の終わりを感じさせる声色。

 

「こいつは、あたしの獲物。若いあんたらは年寄りの言うことをしっかり聞くんだよ」

 

私は、無我夢中でホシノを抱えて逃げた。がむしゃらに、何度も…何度も…転びながら。

 

「ツキミよりも素直でいい子だね…」

「あんたは…もう眠りな、辛い悪夢を忘れて、幸せになって欲しかった」

「なんでたって、あんたみたいな怖がりで、でも優しい子がこんな…!」

「せめてこのババアが相手してやるよ…!だから、だからもう」

 

『ゲールマンの…真似事か?老いぼれ』

 

「…はっ?」

ブチャッ

 

嫌な音がした。




次はスレ回です。多分来月中に終わらせます。
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