【伏黒恵Side】
両親と旅行に行った際、人混みにながされてしまい、気づけば自分が今どこにいるのか分からなくなった。
辺りを見渡せば、知らない人で埋め尽くされていて。
不味いという危機感がありながらも、どこか冷静な自分がいた。
ふと目の前に、腰辺りでゆらゆらと揺れる蝶々みたいな布が見えて気になって掴んだら、その人は振り返った。
真っ白な服を着た綺麗な女の人だった。
まるで、絵本に出てくる天使みたいに。
「あれ、どうしたの?迷子?」
『………』
変な人だ、見知らぬガキに服を引っ張られても嫌な顔一つしない。
でも、見た目も輝いて見えるし、実は優しい人なのだろうか。
黙って見上げていたら、その人は俺を見つめては首をひねる。
『んー、なんか既視感があるような…??』
ポツリとそう呟いた後、その人は俺の手を振り払うことはせず、やんわりと外した。
そして、ニッコリと微笑んで俺と目線を合わせるように屈む。
「私は聖永だよ、君のお名前は?」
『…伏黒恵』
「伏黒…、なるほどね」
聖永という綺麗な人は、一瞬神妙でいて何かをような悟った顔をしたが、直ぐに明るい笑顔に戻った。
「迷子かな、一緒に家族を探そうか?」
そっと俺の方に白くて細い手を差し出す。
俺は数秒その手を取るのを躊躇った。
どうしよう、知らない人には着いていくなって言われてるし…。
けど、ここで迷子のままなのも嫌だし…。
聖永さんは気にせず差し出したまま降ろさない。
暫く迷ってから、小さく頷いた。
『…はい』
いつもだったらこういう親切は怪しいから断っていた。
よく分からないけど、俺は“何か”から狙われているらしい。
前よりは軽くなったが、両親は俺のことを重度に心配していた。
ギャンブル漬けでろくでなしの父でさえ、仕事の前後に安否を確認してきた。
そこまで危険なのかと自分を狙う存在について尋ねても父は顔をしかめるだけで答えないし。
俺のことなんだから何が起こってるのかくらい言えよ、クソ親父。
結局、状況は何一つ分からないままいつからか父は安定した仕事に着いて、俺を狙う人達もあまり来なくなった。
毎日普通に過ごせることに心底安心した。
でも、安心してばかりはいられない。
俺は常に危険感を持って置かなければ“もしも”の時に困るんだ。
そんな中で迷子になってしまった。
狙われるかもしれない。
両親に2度と会えなくなるかもしれない。
想像するだけで怖かった。
両親以外の誰も信じられなくなりそうだった。
しかし、何故だか聖永さんの存在は危険ではない気がする。
底抜けた明るさとさっぱりした感じが親しみやすい。
この人は、安心できるオーラでも放ってるんだろうか。
まぁ、あくまで俺の勘だから聖永さんが善人である保証はないけど。
「じゃあ、探しに行ってみよう!」
聖永さんは俺の手を掴むと、前へ歩き出した。
人混みの中をスルスルと難なく進んでいく聖永さん。
そこまで背が高いわけでもないのに、誰にも当たらずにすり抜けるなんて早々できない。
迷いなく歩む様は、まるで両親の居場所を知っているかのようだ。
「恵君は何年生かな?」
『…小学1年生です』
「小学1年生かぁ…」
聖永さんはとても穏やかな、愛しげな眼差しを俺を向ける。
他人の俺に対して何でそんな優しい顔をするんだろう。
思わずぎゅっと手を握ると、聖永さんは不思議そうな顔をして俺の方を見た。
『大丈夫?怖い??』
「いえ、別に何も…」
気まずくなって、ふいと目を逸らせば聖永さんはクスクス笑っただけで何も言わなかった。
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「そろそろお別れかな。
家族とは直に会えるよ」
聖永さんは繋いでいた手を離すと、そういった。
何でそんなことが分かるんだろう。
まるで未来でも知ってるみたいだ。
『…また、会えますか?』
思わず、去ろうとする聖永さんを引き止めてしまった。
初対面なのに、また会いたいなんて思うとか気持ちが悪いだろうか。
聖永さんはパチクリと目を瞬かせて、俺を見下ろした。
聖永さんは目を離せば消えてしまいな雰囲気だけど。
それとは別に、ふらっと気まぐれに現れる猫みたいにも見える。
「…そうだねぇ、次に会うとしたら君が私の“救け”を必要とした時かな」
聖永さんはどこか悩ましげにそう零した。
『救け?』
「そう。
だから、出来ればこの先で出会わないほうが良いんだよ」
俺の頭を撫でて、そう言葉を溢す聖永さんは何だか哀しげに見えた。
この人は、過去にどんな世界を見てきたのだろうか。
そしてこの人は今、どんな世界を見ているのだろうか。
どうやったら聖永さんの心を理解できるのか。
まだ未熟な俺には何一つ分からなかった。
俺は何を伝えるべきか迷い、気付けばパッと口をついて出ていた。
『…なら、強くなります。
アンタの救けなんて要らないくらいに。
そうしたら、俺と会ってくれますか?』
聖永さんは俺の言葉に目を丸くした後、口元を押さえて小さく肩を震わせる。
「…ふっ、ふふふ!
そう来たか!思い切りがいいね、君は。
…楽しみにしてるよ」
聖永さんは心から嬉しそうに頬を緩めると最後に俺の頭を一撫でして、霧みたいに消えていった。
突然の展開に終始狐につままれた気分だった。
やはりあの人は天使か何かだったのだろうか。
「「恵!!」」
『あ、親父、母さん』
聖永さんの予想が当たるのが早すぎて驚いた。
本気であの人エスパーか何かなのかな?
正体が気になるところだけど、多分あの人は俺とはまた違う世界にいるのだろう。
それでも、頑張るきっかけを作ってくれた人であることには変わりがなく。
俺はあの人との出会いから決意をした。
今よりもっとずっと強くなって、
救けられる側ではなく救ける側になろうとー…。
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【伏黒甚爾Side】
家族旅行中、恵がいつの間にか側から消えていた。
「甚爾、恵がいない!!」
妻である光希が青い顔で俺の袖を引っぱる。
小学生へ学年が上がった恵はもう幼稚園生じゃないからと光希と手をつないで歩くのを嫌がった。
未だ七歳のガキのくせに一丁前に生意気でマセてやがる。
そんな言い出しっぺが早くも迷子。
…あの馬鹿、だから手ぇ繋いどけって煩く言ったというのに。
俺ははぁあと深い溜息をついて頭を掻いた。
『迷子センターとか近くにあったか?』
「地図どこ…!!
あっ、交番ならあるみたい!!」
『アイツなら直ぐ行くだろ、早く行くぞ』
地図を確認すると光希の手を取って交番へと歩きだす。
淡々としている俺とは真逆に、光希は焦りをもろに出しながら俺に大声で叫ぶ。
「待ってよ!息子が迷子なのにそんなあっさりした反応しかできないわけ!?
もし居なかったらどうするの!?」
『居なかったら探す、早く行くぞ』
光希の心配や不安に思う気持ちはよく分かる。
全てが落ち着いた今になって、禪院実家に狙われて誘拐された可能性も0%なわけでもない。
あの腐りきった家ならそんなことをしないとは言い切れない。
だけど、術師殺しの端くれ俺なんかに大金を態々支払って契約をした
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あれは、恵を禪院から守るための資金集めとして三千万円を報酬を見返りに
ー「このお金では満足できませんか?」
そのガキはドドンとアタッシュケースに詰め込まれた無数の札束を迷いもなく差し出した。
清々しいほどの笑顔と大金を眼の前にして、僅かに頬がひきつる。
何なんだ、コイツ。
ー「これだけあれば息子さんを守れますよね?」
ガキの確信めいた言葉に、俺は頷かざるをえなかった。
実際、有り余るほどの大金だった。
これだけあったら、当分の間は術師殺しなんてしなくて済むくらいに。
てか今どこからこんな大量の金を出したんだコイツ。
見た目は高校生ぐらいにしか見えないし、一体何者なのか。
目的や意図が分からずに困惑していると、ガキは笑顔で口を開く。
ー「貴方はもう殺しなどやめるべきです。
妻子を守るためにしてるのでしょう?
なら、このお金で
ガキは札束詰めのアタッシュケースを此方に押し出して、何もかも見透かしたみたいに言った。
…確かにこの金で禪院家を黙らせて、アイツらに狙われなくなればまともに暮らせる。
これまで仕事漬けで光希にも恵にも寂しい思いをさせてきた。
漸く、ここが潮時なのだと思った。
ずっと願っていた、光希と恵との幸せな暮らし。
それをやっと手に入れることができるチャンスを与えられたのだ。
みすみす逃がす、なんてことは到底考えれなかった。
ー「私が貴方の支援をしましょう。
だから、貴方はちゃんと生きて下さい。
それで、もし、私が困ったら、その時は救けて下さい」
『…そんだけでいいのか』
ー「いいですよ、但し約束は守ってくださいね」
『…ありがとな』
俺の謝礼にガキは「どういたしまして」とニコニコと笑っていた。
会話の最後に、お前は何者なんだ?と聞けば、そのガキは“聖女”だと胸を張って述べていた。
それが真実かどうかは知らないが、度を越したお人好しには最適の名前だと思った。
そして、光希や恵との普通の暮らしを手に入れることができた。
本当に、あのガキは何者だったんだか。
大して理由も告げられずに救けて貰った分、知りたい気持ちは多少あったのだが。
まぁ、ふらっと現れて消えていったガキの連絡先なんて知りようもないしどうでもいいかと思う。
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「あっ、恵いた!!」
『!?どこだ?!』
光希が指差す方を向けば、どこか遠くをぼけっとして眺める
俺と光希は一斉に息子の元へと駆け出した。
お読みいただきありがとうございます(*^^*)
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
救済後の伏黒家について書かせていただきました。聖女もちゃっかり登場しています。
もう数話で完結に近いので、頑張ります!❀
最後に、お気に入り・しおりの登録、感想や評価をして下さりありがとうございます❀
これからも精進致します✿