「
思ったよりも早かったね」
窓辺に降り立った僕の足音に聖女は振り返った。
僕を見つめて微笑む聖女は、時が止まってしまったみたいに、11年前と変わらず綺麗で若いまま。
聖女の笑顔に毒気を抜かれてしまった。
てっきりめちゃくちゃ警戒されてて、敵扱いされるかと思ってたけど。
…にしても、やっぱり癪に障るなコイツ。
『
11年もかかっちゃってさ、僕なんてもうすぐアラサーだよ?』
索敵に非常に優れた冥冥さんをエグい数のゼロを払って雇った大教会の聖女。
索敵なんてあまりしたことなかったから、冥冥さんを取られたのは痛手だった。
何度あと少しで掴めそうなところをすり抜けられて苛立ったことか。
逃げ隠れが上手すぎるんだよ、大教会。
「…そっか、10年は長いのか」
なるほど、と眼から鱗を落とす聖女に、何歳生きてんだよと突っ込みたくなる。
不死身とは知ってたけど、そんなボケてんのか。
「同期や後輩は元気?」
少しくらい責めてやろうと思ったのに、朗らかな笑みを向けてくる聖女を見た瞬間、怒るに怒れず仕方なく頷いた。
『おかげさまでね。
てか君、高専の何人と知り合いなわけ?』
他からも聖女の話は聞いていたけど、そんな10年越しに健康を気にするほど仲が良かったのか?
「え、んー、君、夜我さん、硝子、七海、灰原、歌姫さん、夏油、かな??」
聞いた話よりも多くて驚いた。
夜我学長と歌姫もかよ!
『はぁ!?そんないたの!?
てか硝子はなんで名前呼び?』
糾弾する僕を構わず、聖女はケロッとして言った。
「親友だもん」
『親友!?』
…まさか、1年前から硝子が出張するのを楽しみにしてたのってコイツと会うからだったとか?
じゃあ硝子を問い詰めるか尾行していたら一発で解決してたってことじゃん。
灯台もと暗しとはまさにこのことである。
僕の10年の苦労とは一体なんだったんだ…。
思わず額を押さえて脱力する。
どうにも聖女のペースに乗せられてしまった僕はサッと話を切り変える。
『ー…ねぇ君はさ、全部知ってるわけ?』
「…全部って?」
分かってるくせに勿体ぶるとか性格悪っ。
やっぱり聖女なんて似合ってない。
皆何でか聖女マジックにかかってるけどさ。
多分コイツ中々に腹黒いよ。
わざとらしくデカい溜息をついて口を開いた。
『僕の全部だよ』
詰め寄る僕を、無言で見上げた聖女はすっと目を細める。
そして、静かに唇を開く。
「知ってる、と言ったら?」
『教えてくれると助かるけど。
君、話すつもりないでしょ?』
何となくそんな予感がした。
僕らの意のままに全てを教えるほど、この聖女は甘くないはず。
半ば諦め混じりの口調で言う僕に、聖女は悠然と微笑む。
「分かってるならいいんだよ。
全てを知って全てがうまくいくほど
私の未来予知も未来干渉も、
万能じゃないから」
そう言い放った聖女は静謐な眼差しを僕を向けた。
「一つの蝋燭の灯りを強風から守ったとして、
その他全ての蝋燭が消えてしまうかもしれない。
周りを散らす可能性を振り切っても生き残りたいのなら言ってもいい。
だけど、貴方は“教師”なんでしょ?
大切な生徒達を犠牲にできるの?」
的確に痛いところを突いてくる聖女の追及に頭を抱えたくなった。
そんな悲惨な未来が待ってるわけ??
僕の可愛い生徒達が犠牲になるとかどんな未来だよ!!
『無理無理。
そんなことしたら本末転倒だし』
強く聡い仲間を作ることが目的なのだ。
僕だけ救けられても意味がない。
皆で未来へ進んでいくことに意味があるのだから。
「だったら、潔く足掻くことだね」
足を組み頬杖をついてニコニコと微笑みながら言い放った聖女。
やっぱコイツ悪女だな。
今度から悪女って呼んでやろうか。
『…でもさ、何で君はメリットなしで僕達を救ってくれてるわけ?』
思えばそうだ。
術師と関わりたくないのなら、知らぬ存ぜぬを貫いて僕達を見捨てればよかったのだ。
しかし、聖女は僕達までも救うことを選択した。
僕の疑問に聖女は肩をすくめて何でも無いみたいに返す。
「さぁ、気まぐれだよ。
それと、多くの人達の
気まぐれ。
多々行ってきたであろう救済をそんなたった一言で要約するとかイカれてるな。
多分
一度は殺されかけたんだし、少しくらい仕返ししたっていいよね。
僕が何故聖女の言葉に引っ掛かりを覚えたのか。
それは、聖女の行動を見ていて思うところがあったからだ。
あくまで推測だけど、多分間違いない。
術式の縛りについてもそう。
自己犠牲を果たしても周りを優先し、身を捧げる姿はまるでー…。
「過去に誰か
ー…でも多分、救えなかった。
だから、僕達を救済するのは、
僕の指摘に聖女は決して揺るがなかった。
聖女は睫毛を降ろして、ただ、柔らかく微笑む。
しかし、その瞳はどこか酷く儚げで哀しげに見えた。
『…忘れちゃったよ、遠い昔のことなんて』
そんなバレバレの嘘があるだなんてびっくりだよ。
肯定してるようなもんだよ、それ。
全く…、もっと嘘吐くなら分かりにくいのにしてよね、気ぃ使うじゃん。
殺されかけはしたけど一応恩人ではあるわけだし、無理矢理聞くつもりもないけどさ。
一瞬だけ、“まさか深く聞かれないための対策なのか?”と憶測が生まれはしたが今は一旦脇に置いておくことにした。
『…まっ、真実は星の数ほどあるからさ。
事実は一つだけだけど。
僕が勝手に解釈しただけだから答える義務はないよ』
手を頭の後ろに組んで締めくくった。
今は未だ、確かな答えは貰えなさそうだからいつもの軽薄さでサラリと流すしかない。
暫くその場に沈黙が降りたが、その後聖女は口角を上げたまま、挑戦的に僕を見やった。
「で、五条家当主の最強様が私に何の御用で?」
わざとらしい謙譲は最早皮肉にしか聞こえない。
いつもなら苛ついてるけど、今日は気分が良いから煽りには乗らない。
いよいよ話が本題に移った。
聖女に倣うように笑った僕は、とある1枚の紙を取り出すと聖女が座るテーブルの前に置いた。
『用件は一つだけ、
「同盟…」
僕から出た実質的な“協力願い”に、聖女は目を丸くした。
僕だっていつまでも過去を引きずって反撃を目論む馬鹿じゃないさ。
聖女は、僕から差し出された紙を手にとって、その内容を眺めると「なるほど」と呟く。
『悪くはないでしょ?
君には時期を見てウチの生徒達を救けてやってほしい。
代わりに、僕達からは君達のバックアップをさせてもらう』
呪術高専や五条家との連携。
それは一長一短である代物だ。
御三家の力、それは基本的に援助・庇護かあるいは支配・排除のどちらかに作用する。
いくら全国規模の大教会とはいえ呪術界の総監部や御三家からの追跡や捕縛は免れたいところだろうし。
五条家当主僕の力ならある程度は上からの圧や大教会への被害も押さえられる。
聖女は僕を尽く避け続けたことからして、呪術界とはあまり関わりたくないようで。
理由は良く知らないが、呪術界の濁の部分をよくよく知ってるんだろう。
でも、これまで僕を含めた多くの術師も助けてきた以上、もう目を背け続けることはできないはずだ。
仲間や大事な存在を守れるなら、使えるものは何でも使ってやるよ。
聖女は目を固く閉じた後、開いた。
「分かった、協力する。
ただし、私の言動への口出しや手出しは一切無用だからね」
げっ、やっぱりそう来るか。
『え〜、口出しもダメなの?』
「できないならこのことは白紙ね」
慈悲深い笑顔で鬼畜な発言をする聖女にすっかりお手上げ状態だった。
全く…、聖女がこんな横暴でいいわけ??
よく化けの皮を剥がされずに演じきってるよね。
渋々聖女の要求を了承して縛りを結んだ。
ここで漸く僕達と聖女の関係は、
ー…そうして、聖女の救済は次世代へともたらされてゆく。
〜 To be continued 〜
お読みいただきありがとうございます(*^^*)
最終話の更新は夜中の予定でしたが、諸事情により遅れてしまい大変お待たせ致しましたm(_ _)m
ようやく過去編最終話です。未熟者故に沢山意見や評価、誤字脱字報告などをしていただき、大変学びになりました。
最後に、お気に入り・しおりの登録、感想や評価をしてくださりありがとうございます❀
本編のシナリオ構成の為に暫くはAnother Sideの投稿になりますのでご了承下さい❀
❀過去編完結後の流れにつきまして❀仮に完結後に本編に突入する場合、新しく分けるか、そのまま追加するか、どちらの形がより読みやすいか思考中です。もし時間があれば投票よろしくお願いします。
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そのままGO!派
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どっちかな〜(迷い)。
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キッパリ別れる派。