聖女の前にまた一人迷える子羊が現れる。
「聖女様、どうか娘をお救い下さい!」
信者の一人であり、母親だという女性が泣きながら生気のない幼い娘を差し出す。
私は静かに幼い少女を視た。
あれま、肩に呪いが憑いてる。
憑かれやすい体質なのかな?
それとも誰かに憑けられたのかな?
まぁいいや、先に呪いを落としてあげよう。
『もちろんですよ。
さぁ、子羊さん、こちらへ』
「愛美、ほら聖女様の元へ行って」
「………」
母親の言葉に対して何の反応もなく黙って私の下へ歩いてきた少女。
私は少女の肩に触れると、スイッと撫でるようにして手を横に払う。
その際に呪力という名のパワーを手に込めて低級呪霊を祓い除けた。
すると、少女の目に光が戻ってゆく。
「…お姉さん、だぁれ?」
ぼんやりしていた少女は漸く私を認識する。
よし、ひとまずこれで少女は正常に戻せた。
信者である母親が少女の
私は少女の素朴な質問に微笑みを浮かべて優しく返す。
『私は聖女、貴女の未来を救う者』
「聖女?」
『そうよ、“宿世攪約”』
更に笑みを深めると、私は彼女の未来を視た。
…なるほど、この子は憑かれやすい体質らしい。
いくつもの未来を次々に見分ける。
私は未来を視ることができるし、干渉もできる。
だけど、人一人の運命を定める責任は重たい。
…それでも、人々が不幸な運命に巻き込まれないように、安心して暮らせるように、
そして、少女の未来を確定させた。
「ありがとうございます、聖女様!」
「ありがとうございます」
少女の母親には、私が娘の“何か”を落としたようにしか見えないだろうけど、それでいい。
少女は何も知らなくても、幸せな未来を歩んでくれれば、それでいい。
何にせよ、私の役目は救うことなのだから。
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母子が退出した後、また次の来訪者が顔を出す。
今度は誰かな、とそちらへ目を向けると、そこにはセーラー服を着て頭に白いバンドをつけた三つ編みの少女と付き添いらしい黒髪のメイドがいた。
メイドと一緒とは珍しい、どこかの令嬢かな?
でも、メイドさん、呪力あるし術師っぽいし、ただの付き添いじゃないな。
この少女は一体何者なのだろう??
謎の組み合わせに内心困惑していた。
静かな空気を破るように三つ編み少女が前に出て、私に向けて高らかに言い放つ。
「そなたが聖女か。
一つ直々に頼みたい事があるのじゃ。
妾の未来を見てくれぬか?」
三つ編み少女の言葉に私はピシャーンと衝撃を受けた。
『………』
私以上の厨二病がいた…だと!?
どっちもどっちでしょ、と言う脳内のイマジナリー幽霧は無視した。
見た目的にリアル中学生っぽいから本気の気配を感じる。
…フッ、私の厨二病レベルなんて未だまだ浅かったようだね。
やはり若さには勝てないな、これが本物か!
心の中で勝手に盛り上がっている私を他所に、三つ編み少女は何を思ったのかニヤリと不敵に笑って小首をかしげる。
「何じゃ?出来ぬのか?」
煽り口調までも厨二病なのに可愛いとか好きすぎる!!
「聖女様に向かってなんて口の聞き方だ!
身を弁えろ!!」
「なっ、理子様への侮辱は許しませんよ!」
アッ、ヤバい、三つ編み少女に気を取られすぎた!
このまま放置したら私の信者とメイドさんがキャットファイトを始めてしまう!
やめて!教会の中で大乱闘はやめて!!
一人キレたら皆キレ始めるから!
情動感染しちゃうから!!
私は場の空気をリセットするために、一度大きく咳払いをした。
『お静かに、神の御前です』
神なんていないけど、黙って貰う口実に使った。
私の言葉に信者は直ぐに床に膝をつき頭を垂れながら謝罪を述べ、私の後ろへ下がった。
その変わり身の速さと信仰深さを見てメイドさんは息を呑む。
びっくりするよね、いつも見てる私ですら未だに驚くレベルよ。
私は理子と呼ばれた三つ編み少女と目を合わせる。
『迷える子羊よ、未来を知りたい理由をお聞かせ願うことはできますか?』
私の質問に三つ編み少女は瞳をゆらゆらさせると、やがて口を開く。
「理由…。
…妾はもう直行かねばならぬところがある。
しかし、不安なのだ。
何も分からぬまま、行くのが…怖いのだ」
「理子様…」
『…なるほど』
この子は、自分が辿る運命を知りたいという訳か。
含みのある言い方からして相当な事情があるみたいだし。
とりあえず視てみるか。
『子羊よ、こちらへ』
そう言うと、不満気に唇を尖らせながら私の方へ歩いてきた三つ編み少女。
メイドさんはついて来ないように目線で釘を刺す。
「妾は羊ではないぞ!せめて猫と呼べ!」
猫ならいいの?!
表面では三つ編み少女の言葉を笑顔でスルーして、彼女を目の前に寄せる。
そして、いつも通りソレを視た。
『“嚮後透視”』
「!?」
やはりメイドさんは術師らしく、私の術式行使に目を見開いた。
警戒しなくても大丈夫、この子には手を出さないよ。
『………』
私が見たものは、まだ中学生であろう少女にとって、とても残酷な運命だった。
天元、同化、星奬体、呪詛師、拉致、懸賞金、激闘、その末に…死。
うーん、なんて不遇な少女なのだろうか。
これは流石に胸が痛むな。
あと、この子もまた多くの人の未来に影響する“キーパーソン”ときた。
例の“呪術高専”とも関連しているし…。
本当に最近こういうの多いな…、何かの縁?呪い?
「視たのか?」
三つ編み少女は不思議そうな顔をして、私を見つめた。
私は何を伝えるのが彼女にとっての最良なのかに迷った。
『…えぇ、視えました。
とてもお辛い話になりますが、
それでも貴女は知りたいですか?』
一応クッションを挟んでおく。
聞くも聞かぬも三つ編み少女が決めることだ。
でも多分、聞いたら後悔するほど重たい内容な気がする。
「…っ、そんなにか?」
『決めるのは貴女ですが、恐らく耳を塞ぎたくなるような想いになることでしょう』
あくまでも憶測だけど。
メイドさんは泣きそうな顔をして口に手を当てた。
目の前の三つ編み少女は私の憂い気な表情を見て何かを察したようで顔を青くすると、声を震わせた。
「…まさか、妾は、死ぬのか?」
『そうですね、このままゆけば必ず』
私は誤魔化すことはせずに肯定した。
無情かもしれないけど、ここで真実を伝えておくべきだと思ったから。
三つ編み少女は、目を赤くして「そんな…」とポツリと呟く。
当たり前の心理である、何もかも中途半端で死ぬなんて悲し過ぎる。
彼女は恐らく自分の運命を受け入れようとしていた。
だけど、私の言葉で我慢していたものが決壊したようだった。
「…そんなの嫌だ!
“私”は…っ、まだ、死にたくない!
黒井とも、友達とも、離れたくない!!」
「理子様…っ!」
泣き叫ぶ三つ編み少女の後ろでメイドさんも泣いていた。
黒井は多分メイドさんのことだな。
そりゃ、泣くよね、大切な人が自分と離れたくないって想いを耳にしたら。
私は、三つ編み少女の悲痛な叫びをただただ俯瞰していた。
今まで幾度と死の運命を視てきた。
その中で、失われた命もあった。
だけれども、多々の命も掬い上げた。
生きたい、と強く望むのであれば。
死を望まない、と強く希うのであれば。
私は手を差し伸べて未来へと導こう。
『求めなさい、そうすれば与えましょう。
貴女は私に何を願いますか?』
私は聖女、悩める人々の未来を救いし者。
三つ編み少女は泣き腫らした目で私の前に両膝をついて祈りのポーズをとった。
「お願いだ…、妾を救ってくれ、“聖女様”」
『分かりました。
その願い、然と聞き入れましょう』
ー…こうしてまた一人、聖女は悩める小羊を救った。
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▶星の乙女と聖女
理「そういえばそなたは私と年齢が近い見た目だが、何歳なのじゃ??」
『何歳に見える??』
理「うーむ、15歳か?」
黒「18歳くらいでしょうか…」
『答えは永遠の16歳だよ!』
理「…お主もしや相当年を食っておるのか?」
黒「ちょっ、お嬢様!静かに!!」
『雑巾絞りの刑に処す!!!(笑顔)』
理「エッ!?イヤァアアア!不敬ぞぉおお!!」
お読みいただきありがとうございます(*^^*)
いよいよ過去編が始まっていきます。
漫画もそうだけど、アニメの天内理子が可愛すぎて何度かループしました。聖女による救いでどのような結末を迎えていこうか思考中です。
最後に、お気に入り・しおりの登録や感想、評価を下さり本当にありがとうございます(*^^*)UAが気付いたら1万を超えていてとても驚きました。
頑張れているのは読者の皆さんの支えあってこそですね。これからも精進致します✿