「君はここで待っていていいんだぞ。俺が盛大にドンパチを始めたら奴らもわざわざ君を喰いに来る暇もないだろう。終わったら呼びに来る」身支度を終えるとガンボットは言った。
「わたしも行く」ハツミは答えた。「手伝えることがあるかも知れないし」
「わかった」ガンボットは言った。「だがその場合は戦果より君の安全を優先する。もし戦況が不利だと判断したらすぐ撤退する。いいか?」
「うん。任せる」ハツミは答えた。
「ついでに頼みがある」ガンボットはショルダーバッグのうちの片方を肩から下ろしてハツミに渡した。
「この中にショットガンの弾の箱が入ってる。俺が指示したタイミングと個数で弾を渡してくれ」
「重っ」ハツミはバッグを受け取ると思わず呟いた。
「でも、指示って嫌だな」ハツミはバッグを肩に掛けながら言った。「人間がロボットに指示されるって何かヘンだよ」
「指示、が適切でないなら、俺が頼んだときに、と言えばいいか?」ガンボットは訂正した。
「それそれ。頼む、とかお願い、とかね」ハツミは褒めた。「あんたのしゃべり方だいぶ人間らしくなったよ」
「バッグには五〇〇マグナム拳銃弾のスピードローダーも入っている。拳銃のリロードも、お願い、するかも知れないから手袋を持っていってくれ」ガンボットは「お願い」というところをゆっくり発音した。
「了解。いいよ」
二人は川床から上がって木立を抜け、山のほうへ向かって斜面を登っていった。再び、ワニたちが切り開いたと思われる空き地と木立の境目まで来た。
防壁の前に建っている建物の群れの中には動きはない。木立の陰に隠れて観察していると、ハツミはその建物の横に群生している潅木の中に混じって、見慣れない植物が生えているのに気づいた。太い茎が地面から直立し、その先にはケバケバしい青色の実がついている。大きさはビーチバレーに使うボールくらいで、その実の表面にはところどころ巨大なイボのようなものができているのが余計奇怪な印象を与えた。
「あれなに?」
「奴らの作物だ」
「植物までミュータントにしてるの?」
「ああ。近づかないほうがいい。酸にやられる」
「とりあえずああいうのは何でも外見で判断したほうがいいね」
ガンボットは突然手を上げ、ハツミを制した。真ん中の建物の出入口から一匹のノコギリワニが出てきた。
「見回りだ」ガンボットはごく小さな声で言った。
ワニの動きは他で見たときより遅い。やはり低い気温が影響しているようだ。決められた手順があるのか、まず左手の川のほうに向かって歩き始めた。異常の有無を点検しに行くようだ。
「朝一番の歩哨を命じられるとは奴も運が悪い」ガンボットは呟くとハツミに合図し、二人は木の陰から身を低くして出た。五十メートルほどの空き地を横切って正面の建物にたどり着くと、その入り口脇にある壁に張り付きながら、さっき出てきたワニの動向をうかがう。そいつは川沿いを空き地が切れる所まで歩くと、今度はくるりと方向を転換してまた川沿いを川上の方向に歩き始めた。こちらの存在に全く気づいていない。
「後ろから襲われると面倒だ。あいつから片付けよう」
ガンボットはショットガンを構えると、銃口でそいつを追尾し、ワニが川沿いからまた方向を変えてこちらに向き直った瞬間に発砲した。そいつはバタリと後ろに倒れ、川の中に落下した。途端に川の水面のあちこちがうねり始めた。大きな魚が何匹もいるらしい。思いがけない朝食の配達に目を覚まして集まってきたようだ。
「行こう」ガンボットは建物を指した。銃声から二・三秒後には、グエッグエッという喚き声が前方の建物群の中や防壁の向こう側からも聞こえてくる。
二人が入り口から建物に突入するとその中は衛兵詰所のような場所だった。乱雑に積まれた箱や草や枝の束の間で、五匹のノコギリワニたちがいましも床から起き上がり、襲撃に対応しようとしている。だが、何匹かはまだ武器に手を伸ばしてさえいなかった。ガンボットは五発連射し、たちまち全員を撃ち倒してしまった。
「すごっ」ハツミは思わず言った。「なんか今までに比べてあっけなくない?」
「十二ゲージスラッグ弾だ。熊でも倒せる」ガンボットは言った。「六発くれ」
ハツミはショルダーバッグを開けた。一箱にちょうど五発入っているのを見ると箱ごと掴んで差し出す。ガンボットはハツミの手首を持って銃の機関部の下部に引き寄せると、あっという間に箱から散弾を装填した。
ハツミがもう一つの箱から一発出したのをガンボットが装填し終わったそのとき、詰め所の向こう側にあるもう一つの出入口から空中を飛んでいる何かが飛び込んできた。
ガンボットはそちらに銃口を向けると三発連射した。大型犬ほどもありそうな影が三つほど向かい側の壁に叩きつけられ、地面にドサリと落下した。
「三発」ガンボットに言われ、ハツミはまた弾を渡しながら、たった今ガンボットが撃ち落した物体を見た。巨大化したカナブンのような虫だが、色はもっと毒々しい青で、また複眼が異様に大きい。まだ羽をバタバタさせていたが、もはや飛び立つ力はないようだった。
「うえっ」ハツミは眉をしかめた。「もしかしてこれが前に言ってた……」
「ミュータント虫の成虫だ」ガンボットは素早く装弾しながらハツミの言葉を引き継いだ。「銃声を聞いて奴らが放ったんだろう。噛まれると面倒だ」
「噛まれたことあるの?」
「ああ。前にな」ガンボットは詰所の出口に向かうと、内側の壁際に身を隠しながら少しだけ顔を出して向こうの様子を伺った。ハツミにも壁際に寄るよう促す。
「どうなった?」
「腕が複雑に断線して修理にえらく時間がかかった」
「人間が噛まれたらどうなるのかな」
「腕二・三本を失うくらいで済んだら幸運だ」ガンボットは答えた。 「だが人間はパーツ交換が利かない。噛まれないで済むに越したことはない」
二人は詰所から身を低くして出た。あちこちからミュータントたちの喚き声が聞こえる。
ガンボットは二十メートルほど山側にあるもう一列の建物群の真ん中の棟に銃を向けた。ちょうどノコギリワニが二匹出てきた。ガンボットは一発づつ間隔を開け狙って撃った。一匹は見事なヘッドショットを喰らってバタンと倒れる。もう一匹は目をやられたのかフラフラとあらぬ方向に歩き始めた。やがて敷地の右端にある柵を乗り越えると、貯水池に至る斜面を転げ落ちる。
そいつが派手な水しぶきを上げて貯水池に落ちると、たちまちミュータント魚の群れがピラニアのようにたかってきた。今朝は特別に大盤振る舞いがあるということを完全に理解したようだ。
「見て」ハツミは二列目の建物の先にある防壁の上を指差した。盛ってある土の上に、鉄砲ワニの頭がのぞいている。程なくして、鉄砲ワニたちが六匹ほど並んで銃を構え始めた。
二人は二列目の真ん中の建物の陰に隠れた。「二発」同時にガンボットが言った。ハツミが差し出すとすぐに装填する。火の玉がいくつか飛んできたが、大きく逸れて空き地のほうに飛んでいったり、良くても建物の列の間に落ちて木立を燃え上がらせるだけだった。
ガンボットとハツミは、建物の入口から中に入った。単なる物置きなのか、樽や箱が散らばっているだけだ。だがこちらの行動を見て取ったのか、城壁の上の鉄砲ワニたちは建物の出口に向けて射撃をし始めた。ドンドンと建物の壁に火の玉が当たる音が響く。ガンボットはハツミの手を引いて、また入ってきた戸口から素早く外へ出た。次の瞬間火の玉が建物の中に転がり込んで、中にあった資材にぶち当たると派手な炎を上げた。
「こっちだ」ガンボットはハツミを伴って建物の左側に出た。壁伝いに進み、今度は灌木の間を伝って左側の建物の傍らに出る。ちょうど木立が防壁からの視野を阻む、有利なポジションに出た。ガンボットは木立の陰から慎重に狙いをつけ、鉄砲ワニたちを一匹づつ撃ち倒していった。ヘッドショットを喰らうと、ワニたちは呻き声さえも上げずに後ろに倒れていく。
そのとき防壁の中央にある、壁を粗く穿った出入口から、五匹のノコギリワニが一列になって突撃してきた。「六発!」ガンボットが叫ぶとハツミはバッグに両手を突っ込み、一箱を右手に、一発を左手に持って取り出した。
グワッグワッという喚き声が防壁の中から聞こえる。ノコギリワニは後ろから指示を受けているのか、こちらの方向にまっすぐ向かってきた。ガンボットは物凄い速さでショットガンに装弾すると再び構え、一発一発狙いをつけて撃っていった。ワニたちは一匹また一匹と頭部を射抜かれて倒れていったが、再び続きの一隊が防壁の出口から現れた。
「五発!」
ハツミが取り出した弾箱からガンボットが再び装填する。そのときハツミは気配を感じて振り返った。建物の後方の壁に、あの巨大な虫が張り付いて、触手を動かしながらこちらを伺っている。そいつがこちらに向かって飛び立つのと、ハツミが警告の叫びを発するのは殆ど同時だった。
だがガンボットは右手で拳銃を抜くと、後ろを見もせずに腕だけ後ろに曲げて発砲した。巨大虫は地面にドサリと落ちて動かなくなった。ガンボットは拳銃を収めると、ショットガンを弾が切れるまで連射した。防壁の穴から出てきた後続のワニたちがバタバタと倒れる。
「六発」
「びっくりした。あんた後ろに目ついてるの?」ハツミは一箱丸ごとと一発の弾を両手で持ちガンボットが構える銃の機関部の下あたりに差し出しながら聞いた。ガンボットは次々に装填していく。
「ついてる」
「ウソでしょ」
「本当だ。サーモセンサーは今後方に振り当てている。もう一発くれ」
遊底を引いて薬室に弾を送ると、ガンボットはハツミが出した一弾を追加で装填し、振り向いて合図した。「クリアーした。行こう」
二人は隠れていた木立の陰から出た。先ほど火の玉が転がり込んでいった建物はメラメラと燃え上がり始めている。その建物の山側の出入り口から道が斜面を登って防壁の出入り口に通じていた。二人が斜面を登っていくと、出入り口の奥でミュータントたちがバタバタと走り回っているのが見えた。と、鎖がこすれるような音がして、たちまち落とし戸が落ちてきて防壁の出入口をふさいでしまった。
「ハツミ、俺におぶされ」ガンボットは腰をかがめた。
「え?」
「防壁を越える。しっかりつかまっていろ。ジャンプするから落ちるなよ」
ハツミは言われたとおりガンボットの背にしがみついた。「ねえ、正面から行くつもり?」
ガンボットは少し首を回してハツミの顔を見た。「そんなはずはないだろう。俺は常に最も卑怯な手を使う」
ガンボットはそう言って左に針路をとると走り始めた。城塞のような六角形に形作られた、高さ十メートルはありそうな防壁の、正面から見て左にある最初の角を過ぎると、向きを変えて強引に登り始めた。土を盛った防壁の裾は最初は四十五度くらいの角度だったのが、どんどん急峻になる。最後にガンボットがバネで弾かれたように飛び上がったので、ハツミは必死でその背にしがみついた。
高くジャンプするとガンボットは防壁の上に降り立った。上から見ると、落とし戸の後ろに十匹ほどのノコギリワニが密集している。正面から来るとばかり思っていたようだ。
その後ろに控えて指示を出している鉄砲ワニを狙ってガンボットは発砲した。標的が倒れるのも待たずに防壁から内側へ飛び降りる。ハツミを背負ったまま次々と射撃し、六匹のノコギリワニを撃ち倒した。だが生き残りがノコギリを構えて突進して来る。ガンボットは左手で散弾銃を持ったまま右手で拳銃を抜くと、迫ってくる敵に次々とヘッドショットを決めた。
「ひゅう」全ての敵が倒れるとハツミは言った。「今日は調子いいじゃん」
「喜んでいる暇はないな」ガンボットは拳銃をハツミのほうに差し出した。「リロードを頼む」
ハツミは革ジャンのポケットから皮手袋を取り出してはめると、ずっしりとした拳銃を受け取った。弾倉を出して空薬莢を排出すると、ショルダーバッグからローダーを取り出して装填する。その間にもガンボットは忙しい手つきで自分の弾薬ベルトからショットシェルをとり、ショットガンに装填していった。
だがハツミが拳銃を渡そうとしたその瞬間、羽音がしたかと思うと、防壁から見て山側にある建物の列の間から巨大羽虫が数匹飛び出してきた。ガンボットは弾が尽きるまで連射した。五匹の羽虫がドサドサと地面に落ちる。
「ショットシェルを七発」ガンボットが言うと、ハツミは「忙しい忙しい」と言いながらショルダーバッグに片手を突っ込み五発入りの箱一つを突き出した。ガンボットはまず銃の遊底を引き、グリップの上にあるスイッチを押して固定し薬室に一発装填した後、排莢口の下のボタンを押して遊底を閉じ、次いで機関部下の装填口から手早く四発を込めた。ハツミは箱を投げ捨てると、片方の手でもう二発弾をつかみ出す。ガンボットは残り二発の装填を終えると、ハツミから拳銃を受け取ってホルスターにしまった。
ガンボットはハツミを伴って前進を再開した。落とし戸の背後に立った建物の間を貫いて奥に続く通りに近づく。だが通りそのものには出ずに、その横に立ち並んだ最初の建物の陰に慎重に身を隠しながら前方をうかがうと、隙のない構えで通りにショットガンを向けた。
通りの二十メートルほど先にノコギリワニがフラフラと出てきたのをガンボットは一発で仕留めた。さらに五十メートルほど先に銃を構えた鉄砲ワニがいるのを認めると、慎重に狙って二発撃つ。鉄砲ワニはもんどり打って倒れた。
ハツミは黙って三発の弾を差し出した。
「君は著しく学習能力が高いな」ガンボットは装填しながら言った。
「でしょ」ハツミは答えた。「こういうの見てるとパっとわかっちゃうんだよね。勉強はできないけど」
ガンボットは銃を慎重に構えながら、身を低くして通りに入っていった。だが敵の姿は見あたらない。通りの左右にはがさつなレンガ造りの建物が二百メートルほど立ち並び、その一番突き当りには学校の講堂を思わせるようなひときわ大きな建造物が建っていた。その前にはギリシャ彫刻のような男の像が建っている。講堂の中からは、ギエッギエッというミュータントどもの群れの喚き声が聞こえるが、他の建物はしんとしていた。
「ハツミ、俺の左腕に乗れ」ガンボットは振り向くと言った。
「走るの?」
「奴ら負け始めてる。講堂に立てこもるつもりだ。向こうが態勢を整える前に一気に片をつけよう」
ガンボットは左腕にハツミを抱えると、片手でショットガンを構えて走り始めた。と、建物と建物の間から再び鉄砲ワニが現れる。ガンボットはショットガンを撃ち、倒れていくそいつの体を右足で蹴倒して乗り越える。今度は右手の上方から飛来してきた二匹の巨大羽虫に向かって連射し、撃ち落とした。さらに、建物のひとつから突然目の前に出てきたノコギリワニの胸に向けてほとんど零距離で射撃し吹き飛ばした。
「五発!」ガンボットの声に答え、ハツミは抱えられたままショルダーバッグから弾薬箱を出した。ガンボットが走りながら装填し、みるみるうちに講堂に近づいていく。
その講堂の屋根から二匹の鉄砲ワニが顔を出した。こちらに銃を向けて狙っている。ガンボットは再び連射し両方とも仕留めた。ワニたちは倒れると、建物の中に落ちていく。どうやら屋根は工事中であちこちに隙間があるらしい。
ガンボットは講堂の手前まで来ると、彫像の台座の陰に身を隠した。ハツミはガンボットの腕から降りると、また弾薬箱を一つ差し出す。ガンボットは弾を装填しながら講堂の正面出入口を見やった。戸口には、それまでの建物の粗末な扉と違って、分厚い板を削り出して作った両開きの扉で閉ざされていた。
ガンボットは装填を終えると、いきなり扉に向かって連射した。両開きの扉のちょうど真ん中にあった取っ手が吹っ飛び、着弾した箇所に大穴が空く。ハツミはほとんどそれと同時に弾薬箱を出した。ガンボットはもういちど装填すると、再び撃ちまくる。扉はほとんど用をなさないくらいにボロボロになった。
「突入しよう」ハツミが再び差し出した弾薬箱から装填しながらガンボットは言った。「ここが本丸だ」
ガンボットはハツミを後ろにすると、像の台座の陰から飛び出し講堂の扉を蹴破って進入した。その途端、いくつもの火の玉がこちらに向かって飛んできた。ガンボットはハツミを抱えて横っ飛びすると辛うじてそれを避けた。
三十メートル四方ほどある講堂の中には、建築用の資材がそこここに置いてある中にワニたちが散らばっていた。前列にはノコギリワニが並び、後列には鉄砲ワニが五匹ほど控えている。ガンボットは散弾銃を上げると、フォアグリップを操作して次弾を込めていた鉄砲ワニたちに向かって七発連射し、全員撃ち倒した。
だがノコギリワニの一隊がこちらに迫ってくる。ガンボットは膝をかがめ、散弾銃を床に置いて後方に滑らせると、両手に拳銃を抜いた。つるべ撃ちに連射すると十匹弱のワニたちが端から次々と倒れた。
そのとき、講堂の突き当りにある三つの出入口のうち、左右にある扉が開き、新手のワニたちが雪崩れ込んできた。先頭にいる数匹の鉄砲ワニがこちらに銃の狙いをつけようとしている。
「こっちだ」 ガンボットは拳銃をホルスターに収めるとハツミの手をひいて建物の隅に向かって走った。火の玉が次々と今さっきまでいた場所を通り過ぎ、壁に着弾して跳ね返る。ガンボットは走りながら、片方の手でコートの裾をはぐって腰の後ろにつけたポーチから金属製の筒をつかみ出し、その底にあった安全ピンを抜いた。新手のワニ達に向かって放り投げるとともに、二人して隅の角に滑り込む。
放物線を描いて敵の群れに向かって飛んでいった筒の先端から、突然プロペラが飛び出して回転し始めた。底からはシューッという音とともに炎が噴き出し、筒はみるみる上昇して天井近くに上る。するとボンと爆発音がして、筒の底からシャワーのように火炎が下に向かって降り注ぎ始めた。
「伏せろ」ガンボットは叫ぶと、自分のコートの裾をはぐってハツミを包み込むようにした。進入してきた二十匹ほどの新手のワニたちは突然頭上から火炎を浴びせられ狼狽し、皆たじろぎながら武器を放り出した。
「何なのあれ?」ハツミは伏せたまま叫んだ。
「ファイア・フューリーさ」ガンボットはハツミをコートで包み込んだまま言った。「滞空型対人地雷だ」
火炎はごうごうと音を立ててミュータントの群れに降り注ぐ。少し離れて建物の隅にいるハツミのほうにまで恐ろしい熱気が感じられ、彼女はガンボットのコートを掴むと思わずそれで自分の顔を覆った。
三十秒ほど経つと燃焼音はおさまった。あたりには耐えがたいほどの熱気が立ち込め、肉が焦げたなんとも言えない臭いが漂ってくる。
「もういいぞ」ガンボットは声をかけた。ハツミは恐る恐るガンボットのコートの中から顔を出した。ガンボットは膝をついたままメインの拳銃を取り出すと薬莢を排出し、ショルダーバッグからローダーを取り出して弾を込めると銃をホルスターに収め、次いでサブの拳銃を取り出してガンベルトから弾を込めていた。
ハツミは立ち上がると回りを見回した。講堂の中に生きて動いている者はハツミとガンボット以外にいないようだ。フロアのあちこちからまだ炎が小さく立ちのぼっていた。
拳銃の装填を終えたガンボットはショルダーバッグを外し、自分のコートを脱いだ。「まだリン化焼夷剤があちこちで燃えている。触れると重度の火傷になる。これを着ておいたほうがいい」そう言うとガンボットはコートをハツミに着せかけた。
「うわ」ハツミは累々と散らばったミュータントたちの死骸を見て絶句した。「あんなにたくさんいたのに。すごいね」
「バーベキューパーティの準備は整った」ガンボットは床からショットガンを拾い上げながら言った。ショルダーバッグを肩にかけ、中からシェルを取り出すと再びフル装填していく。
「タンドリーチキン百人前の出来上がりだな」
「気持ち悪い冗談やめてよ」ハツミは注意した。「チキンが食べられなくなっちゃうでしょ」
「燃焼がおさまってきた」ガンボットはショットガンの装填を終えると周囲を見回した。
「呼吸は大丈夫か?」
「まあどうにか大丈夫。息はできそう」ハツミは漂ってくる異臭に口をおさえながらも答えた。天井のあちこちが未完成で吹き抜けになっているので、煙が急速に外に排出されていったのが幸いだったようだ。
「あらかた敵は片付いた。外に一旦出てもいいぞ 」ガンボットは言った。
「いい。それよりあのおばあさんの息子さんたちがどこかにいるかもしれない。一緒に探そ」
「まだグランコミューが出てきていない」
「怖くなって逃げちゃったんじゃん?」ハツミは言った。「だってあんたの戦い方えげつないんだもん」
その時、講堂の奥突き当りにある三つの出入口のうちの真ん中から靴音が聞こえてきた。ガンボットとハツミがそちらのほうを向くと、出入り口の奥にある廊下に人影が見えた。
「お前が噂のガンボットか」男の声が聞こえた。「そっちから来てくれるとは手間が省けたな」
「グランコミューか?」ガンボットは声をかけた。
出入口に、背の高い、逞しい男が立っていた。金髪で、サングラスをかけ、体にはオフロードバイクの競技者がつけるようなプロテクターを全身につけている。肩には巨大な銃を下げていた。
「いかにも。俺がグランコミューだ」男は言った。「よく来たなガンボット。歓迎するぜ」