小説 ガンボット 『神の子ら』の野望   作:nocomimi

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『神の子』出現

 

 「いかにも俺がグランコミューだ」そいつは言いながら、講堂の奥の戸口を軽く背をかがめて通り抜けた。 

 

 「よく来たなガンボット。歓迎するぜ。いつか始末しなきゃならねえと思っていたからな」

 

 

 ハツミは奇妙なことに気づいた。グランコミューを見ていると、周囲にあるものとのつりあいがおかしい。講堂についている出入り口の扉はどれも高さ三メートルはありそうな大きさなのに、それでもグランコミューが出入りするにはギリギリの大きさなのだ。グランコミューの背の高さは、ふつうの人間の大男というレベルをはるかに超えている。

 

 「お前はミュータントなのか?人間なのか?」ガンボットは進み出ながら尋ねた。

 

 「そいつは愚問だな」グランコミューはせせら笑った。「俺は人間のデザインを元にミュータントの細胞で造られた、いわばスーパー人類でありスーパーミュータントだ 」

 

 グランコミューは立ち止まり、右腕で力瘤をつくるとそれをうっとりと眺めた。ボディービルダー顔負けの筋肉が盛り上がっている。

 

 「その意味がわかるか? 俺は人間より賢く、ミュータントより強い。だから来るべき世界の支配者となるよう運命づけられている、いわば『神の子』だ」

 

 

 もう一つ妙なことにハツミは気づいた。グランコミューは、さっき入ってきた講堂の入り口の前にあった像とそっくりなのだ。力瘤をつくるポーズまで同じだ。自分の像を造らせて町の中心に飾り、ワニどもに毎日見せていたというわけだ。

 

 「きもっ。うぬぼれ屋」ハツミは思わず呟いた。

 

 「ミュータントなら狩る」ガンボットは淡々と言った。「『神の子』もくそったれも俺には関係ない」

 

 「そんなちゃちな銃では俺は倒せねえ」グランコミューは臆する様子もなく嘯いた。

 

 「あのでかい紫の奴は死んだぜ」ガンボットが応じる。「しかも使ったのは拳銃だ」

 

 「あいつを殺したのは貴様だったんだな」グランコミューは途端にサングラスの奥の眼をクワっと見開いた。

 

 「あいつはバカな奴だったが俺の可愛い兄弟だった」そう言うとグランコミューも銃を構え、フォアグリップを引いた。「あいつを殺したからにはそれなりの覚悟をしてもらおう 」

 

 

 「すぐには止めを刺さねえ。手足を引きちぎったあと少しづつスクラップにしてやる」

 

 「俺に脅しは通じない。恐怖という感情がないからな」ガンボットは答えた。「教えてやろう。ロボットってものは前らミュータントよりも冷血なんだぜ」

 

 「お喋りは終わりだ」グランコミューは銃を構えたままジリジリと前進した。「一対一でやろうぜ」

 

 「西部劇の始まりだな」ガンボットも答え、相手にぴたりと銃を向けると距離を縮めていった。

 

 ガンボットとグランコミューは両者とも相手を銃で狙いながら、まるでにらみ合う二頭の猫科動物のように全く音を立てずに互いの距離を詰めていった。その距離が二十メートルほどに近づいた途端、グランコミューは銃を発射した。

 

 弾速はワニどもの銃よりはるかに速かった。ガンボットは自分も撃ちながらとっさに横にステップしたが、火の玉が左肩をかすめる。たちまち着ていたワイシャツが燃え上がる。ガンボットは狙われないよう斜めに走りながらワイシャツを引きちぎって捨てると、今度は二発相手に向けて撃った。グランコミューは同じ場所に立ったまま連射した。一発づつフォアグリップを操作しなくていい半自動式らしい。だが火の玉はどれもガンボットのすぐ後ろをかすめて講堂の壁に激突した。

 

 もう一度グランコミューが引き金を引いた瞬間ガンボットは前転して敵弾を避け、さらに二発発射した。着地しながら速度を上げてダッシュすると相手の後ろに回りこむ。だがグランコミューの動作も素早かった。振り向くと、かなり正確な狙いで火の玉を発射する。その瞬間ガンボットも射撃し、火の玉にスラッグ弾が激突して講堂の真ん中に派手な火炎を上げた。

 

 二人は動きを止め、立ち上る炎をはさんで再びにらみ合った。

 

 「いい鎧を着ているな」ガンボットは言った。自身は、その上半身に薄い金属製のプロテクターを着け、その上にオーバーサイズの長袖のシャツを着ていた。ハツミは、こんな緊迫した状況なのに(ガンボットってなんて服装のセンスがないんだろう、ワイシャツの下にこれはないでしょ)と思ってしまった。

 

 「俺のプロテクターは特別製だ」グランコミューは、わざと隙を見せるように両手を広げてみせた。「対戦車ライフルでもなければ破れねえ」

 

 グランコミューのプロテクターの胸のあたりには丸くつぶれた鉛弾がいくつか張り付いている。熊でも倒せる弾丸のはずなのに、ほとんど効いていない。相当分厚いようだ。

 

 ガンボットは突然左手で拳銃を抜くと、天井に向けて出鱈目に連射した。

 

 だがそれは計算されていた動きだった。建設途中であちこちがまだ吹き抜けになった天井に拳銃弾が着弾して壊れ、穴の上方に組まれた足場や木材がたちまち崩壊しはじめた。長い木材や金属の棒、レンガなどが頭上に雪崩落ちてきて、グランコミューは本能的に顔を背け左手で頭をかばった。

 

 その刹那ガンボットは相手に突進し一気に距離を詰めた。ほとんどぶつかりそうなほどまでに迫ると、グランコミューはあわてて銃を向けたがガンボットの動きが一瞬速かった。グランコミューの顔面の前でショットガンを片手撃ちする。銃口から出た炎がグランコミューの右目のあたりを覆う。

 

 「やった!」ハツミは叫んだ。だが次の瞬間、グランコミューは唸り声を上げながらガンボットにパンチを見舞った。ガンボットは十メートルほども吹き飛ばされ、背中を床にこすり付けながらさらに数メートル滑った。だが壁に激突する手前で素早く体をひねると片手で床を突いて態勢を立て直し、立ち上がった。

 

 「銃で受け止めて衝撃を半減したうえ受身までとるとはな」グランコミューは唇をゆがめて笑った。「よくできたオモチャじゃねえか。長く楽しめそうだ」

 

 「防弾サングラスか。防具だけは一丁前だが痩せ我慢は体に毒だぜ」ガンボットはそう言いながら、ぐにゃりと曲がってしまったショットガンを投げ捨て、黒い拳銃をホルスターにしまい今度はM五〇〇を抜いた。

 

 「こんな傷は一日で治る」 グランコミューは答えながら自分の顔に手をやった。手のひらについた緑色の血を眺めると、その手でこぶしを作った。「だが貴様は配線をつないだままバラバラに分解して俺の机の置き物にしてやる」

 

 グランコミューは再び不敵そうに微笑んだ。「しゃべる置物だ。一昔前流行っただろ」 だが、そのこめかみには静脈の筋が浮かんでいる。かすり傷でも怪我を負わされたことで怒りがこみ上げてきたようだ。

 

 「がんばって!」ハツミは思わず叫んだ。「こんなやつに負けちゃだめ!」

 

 「人間の子供を連れているとはな」グランコミューはハツミを見ると含み笑いをした。「ペットが増えて世話が大変だぜ」

 

 「ペット?」ハツミは顔をしかめた。

 

 「人間は皆俺のペットさ」グランコミューはハツミの方を見て笑いながら両手を広げた。 「高等な生き物が下等な生き物をペットにするなんて当たり前だろ?」

 

 「何なのこいつ。人間をペットだなんて」ハツミは信じがたい思いでつぶやいた。

 

 「俺は奴らを飼う。奴らは俺に奉仕する。 いい関係じゃないか」グランコミューは言った。「俺は奴らの守護者だ。俺に仕えてもらうのは当然だろ」

 

 「ガンボットはあんたなんかに負けない」ハツミはにらみつけた。

 

 「高等という割には射撃は下手だな。俺はダメージを負っていない」ガンボットは言った。すぐにM五〇〇を連射する。だがグランコミューは左腕を顔の前にかざした。下腕についた手甲に次々と銃弾が食い込んだが、どれも装甲を貫通することはできなかった。

 

 「貴様の銃はどれも通用しねえ」グランコミューは手を下げると肩をすくめた。「それとも弾がなくなるまで続けるか?素直に降参すれば手の一本くらいは残してやる」

 

 「そっちも弾切れが近いんじゃないのか?」ガンボットは拳銃を油断無く構えながら言った。「未熟者が自動銃を撃つとよくある話だ」

 

 「だからどうした?」グランコミューは答えた。「素手で貴様を片付けるのは造作もねえことだ」

 

 「映画の見すぎだな」ガンボットはからかった。「銃相手に素手で闘うつもりか」

 

 「何度言ったらわかる?貴様の銃は効かねえ」グランコミューは自分の銃を投げ捨てた。「嘘だと思うなら撃ってみろ。だが貴様ももし男なら」

 

 そう言うとグランコミューは芝居がかったしぐさで人差し指を突きつけた。「小ざかしい手を使わず正々堂々と闘ってみたらどうだ?」

 

 「ガンボット、構わず撃っちゃえばいいのに」ハツミは言った。

 

 だがガンボットは数瞬考えると答えた。「よかろう」拳銃を置くと、ショルダーバッグとガンベルトを外して地面に置いた。

 

 「それでこそ面白くなるぜ」グランコミューはファイティングポーズをとった。

 

 「ちょっとガンボット……」ハツミは心配そうに呼びかけたが、ガンボットも両手を構え、軽くステップした。

 

 両者は互いに向かい合いながらまるで円を描くようにして移動しつづけた。と、ガンボットがまるで弾かれたようにホップしながらグランコミューに突進した。グランコミューがパンチを放つとジャンプして飛び越え後ろに着地する。グランコミューは振り向きざま裏拳を放った。ガンボットが後ろ宙返りで避けると、そこにグランコミューがフック、ストレートとパンチを送る。

 

 ガンボットはバックステップしてかわしたが、グランコミューの連続攻撃に返す手がない。避けるのがやっとで、次第に後ろに追い詰められていった。

 

 「ガンボット!がんばれ!」ハツミが再び声援を送ったが、グランコミューはシュッシュッと息を吐きながらコンビネーションを放つ。ガンボットは壁際にまで追い詰められた。

 

 獣のような唸り声を上げながら グランコミューが連続してストレートを放つ。まるで爆発のような音がして次々に壁に大きな穴が開いたが、ガンボットは辛くも避けて壁の上を二・三歩走ると側転して床に降り立った。グランコミューがそこに手刀を振り下ろすと、ガンボットは大きなジャンプを打つ。床にまるで爆弾が落ちたかのように大きな裂け目ができた。ガンボットは後転しながら着地した。

 

 「口ほどにもねえ。手も足も出ねえじゃねえか」いったん攻撃の手を休めたグランコミューは軽く首を左右にひねると嘲笑した。

 

 「お前の動きは三歳の坊やみたいだ 。遅すぎて眠気がする」ガンボットは挑発した。

 

 「何?」グランコミューは怒りに顔を紅潮させた。

 

 「俺を止めたければ捕まえてみろ」ガンボットは手でさしまねくしぐさをした。「本当ならそのよく開く口の中にマグナム弾を五発撃ち込んで終わりにしてやれるところを、わざわざ付き合ってるんだ。俺を退屈させるな」

 

 グランコミューは、ガンボットに向かって突進した。ロボットが横っ飛びに避けたところを、グランコミューは唸りながらを捕らえようとするが、ガンボットは左右にステップして避けた。グランコミューは両方の拳を上げて振り下ろし、床にまたも大穴が開いた。ガンボットは高く飛び上がり天井近くまでジャンプすると、グランコミューの後ろに着地した。

 

 着地したと同時にガンボットはふたたびジャンプしようとした。だがグランコミューの動きが一瞬早かった。グランコミューは、ガンボットの両脚を掴むと叫んだ。

 

 「捕まえたぞ。手足をもぎとってやる」

 

 そのときガンボットのシャツの左右の袖から小さな拳銃が一挺づつ飛び出し、手の中に納まった。ガンボットはその拳銃をグランコミューの首筋に押し付けると、まるでマシンガンのような速さで速射した。

 

 八発の銃声が響き、消え去ると同時に、グランコミューは驚きの表情を浮かべた。あわててガンボットを放り出すと、両手で首を押さえる。その指の間から、みるみる緑色の血があふれ出てきていた。数歩後ろに下がると、それでもしばらくは倒れないように頑張っていたが、やがてがっくりと片膝をついた。

 

 「COP・三五七マグナムか……?」グランコミューは呻いた。

 

 「き……貴様卑怯だぞ。男なら正々堂々と戦え」

 

 「袖から銃が出てくる映画を見たことがないのか?」ガンボットは言った。

 

 「俺はロボットだ。人間ではない。俺がお前のルールに乗ると信じ込むとはおめでたいやつだな」

 

 「ガンボット」ハツミは走り寄った。「やったね。ちょっと危ないかと思ったけど」

 

 「ちょっとした仕掛けだ。オモチャみたいな銃でも接近戦では役に立つ」

 

 ガンボットはセンスのないシャツの袖をめくってみせった。下腕に細い金属の板が固定されており、その上に刻まれたレールの上を拳銃がバネ仕掛けで滑り出すような仕組みになっているらしい。

 

 「それにこいつが自分から弱点を明かしてくれたんだ。人間のデザインで造られたということは急所も人間と同じだからな」ガンボットは言った。

 

 「この俺がこんなガラクタに負けるのか」グランコミューは首を押さえたままうつ伏せに倒れた。「くそっ」

 

 「死ぬ前に答えろ」ガンボットは尋ねた。「お前を造ったの誰だ?」

 

 「我々をお造りになったお方か?」グランコミューは、喉に血が溜まってきたのか、ゴボゴボと音を立てながらしゃべった。「あの方は人間でもミュータントでもない。至高なるお方だ」

 

 「くだらん前置きはいらない」ガンボットは言った。「そいつの名前は?そいつはどこにいる?」

 

 「あの方は東のほうから我々をつかさどっておられる」グランコミューは、弱々しい声でかろうじて言った。

 

 

 「あのお方の名はデイヴィッド・ノヴァク博士。お前の父親だ」

 

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