小説 ガンボット 『神の子ら』の野望   作:nocomimi

6 / 25
ダンジョンの冒険

 

 「奴らがここにいるってこと?」ハツミはガンボットに尋ねた。周囲をきょろきょろ見回すと、ガンボットのライトに照らされている箇所以外は墨を流したように真っ暗だ。背後の入口から差し込んでくる光も極めて弱々しい。

 

 「俺は今赤外線センサーで周囲を見ている」ガンボットは頭部のLEDライトを弱めて言った。

 

 「目立つから灯りは弱めることにする。君には暗闇は不便かも知れないが、俺は奴らの姿を見逃すことはない。見つけたら直ちに始末する。そして先に進む」

 

 ロボットがそう請け合っても、ハツミにはこの暗闇がやはり不気味なことには変わりはなかった。

 

 「それとも引き返してプランBを考えるか?」黙っているハツミにガンボットは声をかけた。

 

 「いい。大丈夫。行こう」ハツミは答えた。

 

 「そう答えると思っていた」ロボットは言った。「俺が観察するところ、君は恐怖への耐性が他の人間たちに比べて著しく高いようだ。誘拐されそうになっているときにもパニックに陥らず冷静に助けを呼んでいたしな」

 

 「男子からはよくお前可愛くないって言われる」ハツミは言った。「おばけ屋敷では、きゃあ怖いって男子にしがみつくとモテるんだって。バカみたいだけど」

 

 「モテる、とはどういうことだ?」とロボットが聞き返してきたが、面倒くさくなったのでハツミは「いい、何でもない」とだけ答え、ロボットと並んで歩き始めた。

 

 数十メートルほど歩くと、やがて地下道はT字路につきあたった。ガンボットは左に進路をとった。道の右側には、一メートルほど低くなったところに水の流れがあった。ザーザーという音の源はこれだった。

 

 周囲がさっきより明るくなったのでハツミが頭上をあおぐと、地下道の天井には、二メートルくらいの間隔をあけて鉄格子のはまった四角い通気口が並んでいる。そこから淡い月の光が差し込んできていたので、ハツミはちょっとほっとした。月明かりが水の流れにキラキラと反射しているのを見たハツミは、この水の深さはどれくらいだろうと思い、通路の端に立ち水路を覗き込んでみた。

 

 「ハツミ、水に近づかないほうがいい。危険だぞ」ガンボットは注意した。

 

 「なんで?」ハツミは、そう聞きながらガンボットが水を嫌っていることを思い出した。どうせ自分が水に落ちると故障してしまうからに違いない。

 

 すると、水の中からパチャパチャと音がした。魚がいるのだろうか。そう思ってハツミがもう少し深くかがみ込むと、ガンボットはいきなりハツミの肩に手をかけて荒々しく引き戻した。

 

 その瞬間、水面から何かがバシャッと音を立てて飛び出してきた。ガンボットは右手の拳銃を振り回すと、銃身をその何かに叩きつけた。そいつはハツミの顔のそばをかすめると、通路の壁にぶち当たり、床に落ちてピチピチと跳ねまわった。魚のようだ。ガンボットがそいつを何回か踏みつけると、ようやく動かなくなる。

 

 「だから危険だと言ったろう」

 

 「何よ、魚くらいでおおげさに」

 

 ハツミがそう言ってそいつの姿をよく見ようと目をこらすと、何か様子がおかしいことに気づいた。全体の形は、むかしおばあちゃんが煮つけにしてくれたヒラメに似ているが、目が異様にぎょろっとしているうえに、ピラニアなみの大きな牙が口から飛び出ている。

 

 「うえっ。何これ?」ハツミは思わず顔をしかめた。

 

 「ミュータント魚だ。やつらが食用にするために飼っていたのが逃げ出したんだろう」ガンボットは答えた。

 

 「そんなのがいるんだ。確かに危険そうだね」

 

 「こいつはまだ稚魚だが、それでも君の指の十本や二十本は一口で噛みちぎるのは造作もないことだ」

 

 「人間の指は十本しかないんですけど?」

 

 「要するに近づくなということだ。成魚になると三メートルになる奴もいるからな」

 

 ガンボットにそう言われて、ハツミはこいつの三メートル版を想像してしまい、思わずブルっと震えた。もう何も口答えする気にはなれない。

 

 ガンボットが周囲を警戒しながら慎重に前進しているので、二人の歩く速度は遅かった。小一時間ほどもたってハツミの眼がすっかり暗さに慣れたころ、ようやくガンボットが立ち止まり「ここだ」と左の壁を指さした。見ると、コンクリートが大きく割れて崩れており、その亀裂は天井にまで達していた。人ひとりが辛うじて通れるくらいの幅だ。だが、そこには大人の胴体ほどもある大きな石がいくつも積まれていて通れなくなっている。

 

 「やはりな」ガンボットは独り言を言った。「連中も頭を使うようになってきた」

 

 「通れないの?」

 

 「いや通れるさ」ガンボットはこともなげに言った。「石をどける。だがその前にやるべきことが出てきた」

 

 ガンボットは、自分のリュックサックを地面に降ろすと、中から肩掛け式の軍用バッグを取り出して自分の肩にかけた。次いで、リュックの奥から、巨大な拳銃弾を五つ先端にくわえ込んだ金属製の器具を取り出して軍用バッグにしまっていった。

 

 「それ何?」

 

 「スピードローダーだ。奴らと戦うときに絶対に必要なものだ」

 

 「十年間も奴らと戦ってるの?」

 

 「正確に言うと」ガンボットが言いかけたとき、ハツミは「あ、もういい、何分何秒まで言うつもりなんでしょ」といったん遮り、また尋ねた。

 

 「それであんたはミュータント狩りの名人になったってわけね。でしょ?」

 

 「名人かどうかは知らないが、コツは三つある」ガンボットは、スピードローダーを際限なく次から次へとリュックから肩掛けバッグに移しながら答えた。「一。手に入る限りで最強の装弾を使う。二。倒れるまで撃ち続ける。三。ひとつの場所に立ち止まらない。このどれが欠けても良い結果にはならない」

 

 ハツミは感心した声を出した。「へええ、なんかよくわかんないけど説得力あるね」

 

 「この入口の様子から見ると奴らは今までより組織的に動いているみたいだ。頭数もひょっとすると昼間遭遇した群れより多いかも知れない。だからこっちもそれなりに準備しておく必要がある」ようやくスピードローダーが品切れになったのか、ガンボットは作業の手を止め、ショルダーバッグのフラップを閉じた。

 

 「あと何を準備するの?」

 

 「これで十分だ。行こう」

 

 ガンボットは、ハツミを下がらせると、割れ目に積んである大きな石を苦もなく持ち上げては通路の脇に転がしはじめた。二十個ほども石をどけると、壁の裂け目は目の前にぽっかり口をあけた。だが、そこから先には天井からの灯りが差し込んでおらず、ガンボットの顔面のライトではほとんど五メートル先も照らせない。

 

 暗くぽっかりと開いた入り口をハツミが恐る恐る覗き込んでいると、ロボットはライトを完全に切ってしまった。

 

 「ねえ灯り、ちょっとはつけちゃだめ?」ハツミは意識せずささやき声になって聞いた。

 

 「やめたほうがいい」ガンボットは言った。「目立ちすぎる。奴らは夜眼が効くから灯りをつけなくても見つかるときは見つかるが、だからといってわざわざ煌々と灯りをつけてこちらの位置を知らせながら奴らの棲家に入るなんて不合理だ」

 

 「わたしの携帯のライトでちょっとだけ足元照らすのは?」

 

 「だめだ」ガンボットは却下した。「むしろ携帯電話を持っているのなら電源を切ったほうがいい」

 

 「わかった」ハツミはしぶしぶ同意して言われたとおりにした。

 

 「ハツミ、もしつまづきそうなら俺が背負っていこうか」ロボットは提案した。

 

 「平気。いい」ハツミは言った。

 

 「俺のコートの裾をしっかりつかんでいろ」ガンボットはそう言うと、拳銃を右手に持ち、コンクリートの裂け目に足を乗せて左手を壁面にかけると、中に入っていった。ハツミもあとに続く。

 

 足元はきわめて悪く石だらけで、歩幅をよほど小刻みにして足先で周囲をさぐらないとまともに歩けない。ハツミは右手でガンボットのコートの裾を掴みつつ、左手の指先で軽く壁をなぞりながら進んだ。壁と言っても裂け目だから、あちこちに切断された鉄筋の端やとがった石片が突き出ているので、油断をしていると手を怪我をしそうになる。

 

 「ねえ、あんたには見えているの?」

 

 「見えている」ハツミに聞かれガンボットは手短に答えた。

 

 「本当に?」

 

 「本当だ」

 

 進む速度は遅々としていた。それに、左手で辛うじて触れている壁面と地面のほかは、どこになにがあるかさえも全くわからない。ハツミは十秒に一回くらいはガンボットにささやき声で話しかけてどうにか恐怖感をまぎらわした。真っ暗闇の中にもしミュータントが潜んでいたら、と思うと気が狂いそうになるが、もうこうなってはガンボットのセンサーを信頼するしかない。

 

 道は、ときおり浅い角度で左右に曲がっては、また延々と続いた。左手に触れる壁は、やがて粗くてざらざらしたコンクリートで補強された壁面になり、足元も石がごろごろしてはいたが、やや歩きやすくなった。きちんとした坑道に入ったのかもしれない。だが相変わらず周囲は漆黒の闇だった。

 

 ハツミにとっては無限と思えるほど長い時間が過ぎたあと、前方にぼんやりと光が見えた。坑道の出口なのだろうか。

 

 そのぼうっとした光りに照らされた床を見てみると、足元はでこぼこではあるが一応土面のならされた地下道になっていたことがわかった。差し込んでくる光のおかげで、やがて序々に自分達が通っている坑道の様子が見えてきた。粗く掘られた横穴で、壁面はでこぼことしており、天井からぶら下がっている電気コードには三メートル間隔くらいで電灯がつけられているが、電球はすべて取り去られている。

 

 坑道の出口は次第に近づいてきた。ハツミは安堵した。おばあちゃんがまだ子供で日本に住んでいたころ、日本の仏教寺院に行って真っ暗闇の地下道を通るという修行をした、という話をしてくれたことを思い出す。そんなことをわざわざ好んでやる日本人というのはちょっと変わっているのかもしれない、とハツミは思った。

 

 やがて二人は坑道の出口にたどり着いた。新鮮な空気が感じられ、上方にはたくさん散らばった星と半分に欠けた月に飾られた夜空が見える。

 

 「やっと外に出た」ハツミはごく小さい声でささやいた。「やっぱ外っていいね」

 

 「そうでもないぞ」ガンボットも聞こえるか聞こえないくらいのささやき声で答えた。銃口で、目の前に広がった光景を指し示す。

 

 鉱山に典型的に見られるすり鉢状の、直径は五百メートルくらいはあろうかと思われる巨大な竪穴が目の前にある。ハツミたちはその一番上の縁から十メートルほど下った中腹に開いた横穴の出口にいた。竪穴の壁面にはらせん状に通路が刻まれており、最下部の広場のようになった平地にまで続いているが、風雨を受けてあちこちが崩壊していた。

 

 そしてそのすり鉢状の斜面のほうぼうに人影があった。いや、人ならぬワニどもが座り込んでいる。夜目に視認できるだけで全部で二十匹近くはいる。

 

 「げっ。あんなにいるの?」ハツミは呟いた。「あいつらに見られないようにそっと行く方法ってない?」

 

 「試してもいいが、万一見つかったら位置関係によっては不利だぞ」ガンボットは言った。「どうせ戦闘するなら相手が最も油断している時に奇襲するに限る」

 

 「わかった。任せる」ハツミは言った。

 

 しばらくあたりを見回して状況を把握したあと、ガンボットはハツミを後ろにして、敵に対し有利なポジションを得るために右手に移動しはじめた。二人がいるらせん状の通路には、十メートルほど先にノコギリワニがノコギリを両手に持ったままこちらに背を向けてのろのろと歩いていた。見回りを命じられているのかも知れない。

 

 ガンボットはハツミのほうを向いて、顔の前で人差し指を立てると、そろそろとそいつの後ろに寄っていった。

 

 だが少し運が悪かった。ノコギリワニは今度はノコギリを構えたままくるりと振り返ったのだ。鉢合わせする形になり、そいつがクエエッと威嚇の叫びを発すると、ガンボットは左手でノコギリのシャフトを掴み、拳銃の銃身をそのワニの開いた口に突っ込んで一発発射した。撃たれた奴はバタンと後ろに倒れた。

 

 銃声を合図にしたかのように、あちこちからグエッグエッという声が聞こえ、休んでいたワニたちが動き始めた。

 

 ガンボットは、ハツミを左手でかばいながら右方向に進みつつ、拳銃を連射した。進路にいた二匹のノコギリワニたちがバタバタと倒れていく。ガンボットは「行こう」と叫んで走り出しながらスピードローダーで拳銃に弾を込めた。

 

 今度は、すり鉢状の穴の縁から二匹のノコギリワニたちが顔を出した。こちらの姿を認めると、ゲッゲッと言いながら斜面を滑り降りてくる。ガンボットが再び弾が切れるまで連射すると、二匹のミュータントたちは仰向けに倒れ、二度と起き上がらなかった。ガンボットとハツミは身をかがめながら暗闇を走りぬけてさらに百メートルほど前進した。

 

 銃声を立てた場所からだいぶ離れると、ガンボットとハツミは、わずかな月明かりが照らす露天掘り鉱山のすり鉢状の穴の壁にぴったりと身を寄せた。あちこちから、ミュータントどもが仲間に警告を発するギエッギエッという叫び声や、バタバタと歩き回る音が聞こえる。

 

 「うまいぞ、奴らこっちの正確な位置が分かっていない」ガンボットはささやきながら、音を立てずに拳銃に弾丸を装填した。

 

 鉱山の竪穴全体が、ワニ達の叫び声や動き回る音で大騒ぎになってきた。暗闇に慣れた眼のおかげで、どこにどんなワニがいるのかがハツミにもぼんやりとわかってきた。

 

 ガンボットは右手に銃を構え左手を添えて遠くを狙い五発連射した。ドスンという音がして、一匹が斜面を落下していく。百メートルほども離れた、すり鉢状の穴の向こう側にいるワニを狙ったようだ。

 

 ガンボットは十メートルほど前進しながら拳銃に弾を装填した。ハツミを壁際に寄らせると、再び遠距離射撃を開始する。今度は、一発一発親指で撃鉄を起こして射撃する。ガンボットが弾を撃ちつくす頃にはワニの苦しげな断末魔の叫び声と何かが倒れる音が二回、遠くから聞えてきた。

 

 拳銃をまた装填すると、ロボットはハツミに合図して再び前進した。

 

 そのときハツミは、自分たちの五メートルほど先の路面に、長さ二メートルほどの、まるで大柄な人間が入った寝袋のような形をした物体がうねうねとうねっているのに気付いた。そいつはよそ者が近くにいるのに気づいたのか、ぐいっと頭らしきものをもたげた。巨大な虫の幼虫に見える。

 

 ガンボットがそいつの先端に二発拳銃弾を撃ち込むと、そいつは苦しそうにバッタンバッタンと暴れたあと、おとなしくなった。二人はそいつの脇を通り抜けた。

 

 「いったい何なのよこれ?」ハツミは走りながら聞いた。

 

 「ミュータント虫の幼虫だ」ガンボットが答える。

 

 「これもあいつらの食用なの?」ハツミは叫んだ。

 

 「そうだ」

 

 「きもっ。まじ信じらんない」

 

 「成虫になったら奴らは空を飛ぶぞ」

 

 「わかった。もうやめて」

 

 二人は斜面にらせん状に刻まれた道を進んですり鉢状の穴の中腹あたりまで来ていた。ガンボットは、自分は敵たちよりも常に上方の位置を保ちながら、穴の底面に向けて進みつつ、一匹づつワニたちを掃討していく心積もりのようだった。

 

 そのとき、遠くから火の玉が一発、放物線を描いて飛んできた。月明り以外光りのない夜だけに、火の玉の軌跡ははっきりと見えた。十メートルほど右に的を外し、壁に食い込むと、一瞬炎が激しく燃え上がり、それからくすぶった煙を出しながら消えていった。すり鉢状の穴のちょうど向こう側から飛んできているようだが、敵はまだこちらの位置をおおまかにしか分かっていないようだった。ガンボットは走りながら三発発砲した。ゲエッっといううめき声が遠くから聞こえ、続いて何か重いものが斜面を転げ落ちる音がした。

 

 「鉄砲ワニが動き始めた」ガンボットは再び拳銃を装填しながら言った。「急ぐぞ。俺の左腕に乗れ」

 

 ハツミは、最初ガンボットの言っている意味がわからず戸惑ったが、ロボットは構わず下から彼女を抱え上げた。

 

 ガンボットは走る速度を上げた。すり鉢状の穴の斜面には、まだあちこちに何匹ものノコギリワニたちが残っている。さらには百メートルほど離れた向こう側には鉄砲ワニが散らばっていて、こちらを狙っていた。

 

 ガンボットはハツミを抱えたままピョンとジャンプすると、すり鉢状の穴の斜面にらせん状に刻まれた五メートルほどの段差を一段下に降りた。ハツミは内臓がでんぐり返りそうな感覚を覚えながら、必死でガンボットの腕にしがみついた。

 

 次の瞬間、頭上を火の玉が二発ほど通り過ぎていった。ついさっきまでいた場所と完全に一致している。もはや鉄砲ワニたちは正確にこっちの場所を把握しているようだ。

 

 「ハツミ、耳をふさげ!」ガンボットは叫んだ。ハツミがそうすると同時に、ガンボットは銃を左に向け一発発射した。銃のシリンダーと銃身の間、そして銃口の上についた穴からも凄まじい炎が噴き出し、ハツミは思わず顔をそむけた。斜面の下からよじ登ってきて背後から近づいてきていたノコギリワニが頭に弾を喰らって斜面を転げ落ちていく。

 

 斜面の下で待ち構えている鉄砲ワニたちが何度も何度も火の玉を発射し、それが近くに着弾するようになってきた。夜目には鮮やかなオレンジに見える火の玉が放物線を描いて飛んでくるのを、ガンボットはひょいひょいと避けて走る。敵弾が飛んでくる方向に銃口を向け、正確に二発づつ撃ちニ匹の鉄砲ワニたちを倒した。

 

 「ハツミ、弾を装填してくれ」ガンボットは左腕でハツミを抱えたまま彼女に拳銃を差し出した。「加熱しているから帽子を手袋がわりにしろ」

 

 ノコギリワニが一匹斜面を登ってくる。ハツミは慌てて帽子を脱いで手に持つと、銀色の拳銃を両手で受け取った。ほとんど拳銃と言えるのかどうかさえ怪しく思えるくらい、ガンボットの拳銃は重たかった。そうしているうちにガンボットは黒い拳銃を取り出し、斜面を登ってくる奴に三連射を浴びせかけて倒した。ハツミを抱えたまま斜面に刻まれたらせん状の通路を進んでいく。

 

 ハツミは辛うじてガンボットのやり方を思い出し、左手で帽子越しに銃を支え、右手でグリップ前方のスイッチを押すと、振り出し式の弾倉を露出させ、その中心部の棒を押した。空薬莢が飛び出てくる。次いでハツミは右手を伸ばすとガンボットが肩からかけたバッグのフラップをめくり、中からスピードローダーを取り出してそれを弾倉に押し当てた。

 

 「ラッチを捻るんだ」ガンボットは言いながらまた三発撃ち、斜面のすぐ下から狙ってきていた鉄砲ワニを倒した。ローダーの後ろから飛び出ている金具のことだと気づいたハツミが言われたとおりにすると、カチっと感触があった。ハツミはガンボットがしていたように銃を前に傾けて弾丸を滑り込ませると、ローダーを投げ捨てて弾倉を閉じた。

 

 火の玉がふたたび近くに着弾しはじめた。ガンボットは黒い拳銃をホルスターにしまった。ハツミから銀色の拳銃を受け取ると、すぐさまそれを構え、竪穴の底面にいる鉄砲ワニたちに向ける。双方の距離はもう三十メートルもなかった。

 

 火の玉がいくつか飛んでくる。ガンボットはその軌道を見切っているのか、進む速度をゆるめることも早めることもしなかった。火の玉がひとつ、頭上一メートルほどをかすめて背後の壁に食い込むと同時にガンボットは四発発砲した。向こう側でワニが二匹倒れた。

 

 もう一つ、火の玉が飛んできた。ガンボットは足を止めると、慎重に狙い、底面の向こう側に陣取って火の玉を発射したもう一匹のワニに向けて一発撃った。見事に頭に命中したらしく、そのワニはたちまち崩れ落ちて動かなくなった。それと同時に火の玉が頭上五十センチほどをかすめて、ハツミは思わず首をすくめた。

 

 

 またしても、戦闘の終わりは突然だった。

 

 

 ハツミはガンボットに促されその腕から降りた。

 

 周囲を見渡すとミュータントどもの死骸が累々と転がっている。だが月明かりは弱く、果たして本当に奴らを全部倒したのかはハツミにはわかりかねた。

 

 「少なくとも視界の中に動く者はいない」ガンボットは拳銃に弾を装填しながらハツミの心を読んだかのように言った。

 

 だがそのとき、露天掘り鉱山の巨大な穴の底にある、広場のようになった場所の向こう側から唸り声が聞こえてきた。聞いたこともないような恐ろしい声で、おそらく巨大な動物が出しているものと思われた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。