お気に入り1325件、ありがとうございます。長らくお待たせして申し訳ございません。
忙しい中、間を縫ってあれでもないこれでもないと吟味しながら執筆していたら、文字数も投稿期間も膨れ上がってしまいました。
未だ更新を待っていてくださっている人がいると、信じております。
今回も問題作。どぞ。
「…よう、我が協力者。また会えて嬉しいぜ」
鏡の中の僕が笑みを浮かべ、ひらひらとこちらに手を振ってきた。鏡像が自分と違う動きをするというのは中々に不気味なシチュエーションだが、僕の心に恐怖心はなかった。何故ならば、鏡の中の僕の喉から発せられるこの低音に聴き覚えがあったから。
「あなたは…夢に出てきた触腕の…」
「覚えておいてくれてなによりだ。そちらのご機嫌はいかがか…いや、昨日修羅場を潜った後だったかな?さぞお疲れだろうよ」
「いえ、貴方が力を貸してくれたお陰ですよ。…でも、炎元素だけでなく、他の元素も使えたんですね。びっくりしましたよ」
あの水元素の力とつま先から脳天まで満ちる元素力は、おそらく彼のものなのだろう。彼のお陰で修羅場を潜り抜けたといっても過言ではないはずだ。
「んー?…ああ、そうか。言っておくが、俺は触腕と炎しか力は貸してやっていないぞ」
「え…?」
だが、彼は手をゆらゆらと振って否定の言葉を発した。では、あの力は一体何なのだ。あの水流は、あの光輪は一体何に由来した…?
「まあいいだろう?どちらもお前の力には変わりない。力、というのは目的でなく手段だ。それをどんな目的の為に使うかが大事なのだよ」
「どんな目的の、為…あ、そうだ、どんな目的のために?」
「何だいきなり藪から棒に」
そうだ。前会った時にこいつは僕に約束してくれたんだ。
「“次会った時はもっと詳しく話してやる”…でしたよね。では、まずは貴方の正体…そして、僕に協力する目的から教えてください」
「なるほど、そういえばそうだな。お前には色々と説明が必要だ。俺の計画とお前の目的のすり合わせも、な?」
そう言うと、鏡像の僕は鏡面に左の掌を当てた。意図が分からず疑問符を浮かべていると、彼は顎で“同じようにしろ”と催促してきた。恐る恐る、右の掌を鏡に…鏡像の僕の掌に重ねた。
その瞬間、ふわり、と浮遊感を感じる。足下を見れば、踵が床から数センチ浮いている。ぎょっとして鏡を見れば、鏡像の僕はにやりと笑みを浮かべ…左手に力を込め、鏡面を思い切り押した。
ぶわ、という音と共に、自室の壁や床、家財がまるで模型を分解するかのようにはがれ、どこかに飛んでいってしまった。しかし、それによって見えるはずの外の景色は、一面の
「なっ、なななんですかこれ!?」
「安心しろ、本当に部屋が吹き飛んだわけじゃあない…お前の目に働きかけて、俺のイメージを見せている」
「んな、っ、なるほど…」
「驚いている暇はないぞ。…さて、まずは遅ればせながら、自己紹介といこう」
いつのまにか隣に浮かんでいた鏡像の僕が腕を横に振ると、目の前にいきなり
「これが“惑星”。お前らが住んでいるテイワットも、こういう形をしているんだぞ?」
「…えっ」
「まあ、そんなことはどうでもいい「教令院学会騒然の事実は聞き流せないんですけど!?」…聞き流せ。説明が面倒だ」
突然のテイワット球体説に驚いていると、彼は目の前の球体…“惑星”を指差して僕に問いかけてきた。
「お前はこの惑星を見て、どんな印象を受けた?」
「…美しいですが、なんだか冷たい印象を受けます」
「だろう!?お前話が分かるな!…ゴホン、その通り、この惑星は冷たいんだよ。…芯まで冷え切ってしまって、プレート運動さえ止まってしまっている」
「それに…この星では、人間の活動のせいである物が途切れてしまっている。…なんだかわかるか?」
「…わかりません。光は灯っていますし…でも、地表面がまるで鉄みたいに固まってしまっていますね」
僕の返答に「そう、それだよ!」と返した彼はそのまま続けた。
「この星の人間はな…
「進歩しすぎた?」
「ああ。なまじ他の命を頂いて暮らしてた人間が独立して生命活動を営めるようになって、地表は都市の鋼で覆われた。…とっくに星も死んでいるのに、人間だけが生きている!」
ああなんと嘆かわしい、というように彼は頭を抱えた。
「それほどまでに進歩しすぎた…変化も何もなくなってしまったんですね」
「ご名答!!!!!!!!かあっ、つまらんつまらんつまらん!サイッテーだ、反吐が出る!!!!!もうこの星では、変化が起こっていないのだ!!!!!!!!」
怒り心頭、といった様子で腕を振る彼は、ひとしきり騒いだ後にゆっくりと息を吸い…また笑みを浮かべた。
「そして…こういう星を
「…やく、め?」
彼がまた星の海に向かって指を指した。その方向を見れば、青く光る物体がだんだんと星に近づいてくるではないか。それがだんだんと大きくなり、全容が見えるようになると…僕は自分の目を疑った。
「
“惑星”よりも一回り巨大な、大きな大きな
「俺の存在意義は…あのように、もう変化がなくなり冷え切った、“輪廻”の止まった星に再び
どろどろと溶解した惑星をひとしきり触腕で掻き回した後、満足したように蛸は去ってゆく。呆然とその様子を見ていると、隣の彼が掌をどろどろに溶けた惑星にかざし、右に捻る。すると…惑星の表面が冷え固まり、雨が降り始めた。やがて海ができ、大陸ができ、雲が晴れ…
いつのまにか、地表は緑に覆われていた。
「美しいだろう…発展途上は素晴らしい。どんな変化をしていくのか、想像するだけでワクワクしてくる。どこかの誰かが言いました。“
「…もう、何が何だかわかりません」
僕の中にいた触腕が?星いっこ滅ぼせる星海の生き物?…スケールが、スケールがデカすぎる…!
「他の奴だと、星全部水晶で塗りつぶしちまう奴だとか…あとは、砕いて自分の苗床にする奴らもいるぞ。…まあ、前者は集合時間を勘違いするドジだし、後者はもうおっ死んじまってるが」
「え、ええ…それで…結局、あなたの名前は?」
「ん〜…名前か…ウン、そうだな…では、かつてに滅ぼした星の神話から取るとしよう!」
彼は僕の目の前に躍り出て、両手を広げて笑みを浮かべる。
「俺の名はTYPE-MOA、“臨星の蛸”…カナロア、とでも呼ぶが良い!」
彼の蒼い八の字の瞳は、爛々とまるく輝いていた。
ーーーーー
「ヌヴィレット〜っ!来たぜ!オイラたちになんの用だ〜?」
私の隣をいつも通りにふよふよ浮かぶパイモンが、私たちに背を向けて立っていたヌヴィレットに声をかけた。彼は私たちが来るまで、何らかの本を読んでいたようだ。彼はパイモンの声でこちらに気がついた様子で、首を少しこちらに向けた。
「ん?ずっとそれを読んでたのか?…立ったままずーっと読んでるなんて、なにか考え事でもしながらだったのか?」
「…ああ、すまない。君たちをここへ呼ぶよう手配したはいいが…これから話すことについては、まだ少々…いや、少し格好をつけてしまった。正直、
彼は顎に手を当てながらそう言った。見れば、いつも涼やかで冷静な表情を保っている彼の額に一筋の汗が垂れている。…彼の今まで見たことのない様子に、私もパイモンもおおいに戸惑った。
「め、珍しいなあ、お前がそんなふうになるなんて…。まあ、もうこうして来ちゃったんだし、遠慮なく言ってくれよ!どうせ、オイラたちになにかお使いをさせたい、とかだろ?」
ふふん、とパイモンは腕を組んで張り切っている。その様子を見ても、ヌヴィレットの表情は変わらない。
「確かに、君たちに任せたい用事がある。…それも、
「おおっ、結構頼ってくれるんだな!任せろ、オイラと旅人が解決してやるぜ!」
“私にできることならなんでも”
私も腕を組んでそう言うと、彼は神妙な面持ちのまま、手に持っていた本を机に置く。そして、執務机を挟んだ反対側にいる私たちに、それをすい、と差し出した。
「いいや…まずは事の仔細を説明してから、改めて返事を聞きたいのだ。まずはこれを」
彼が差し出した本を手にとってみる。革張りの小さめな本のページをぱらぱらとめくって中身を確認する。…そして私は、自分の目を疑った。
「ん?なんだよ旅人、急に固まっちまって…そんな変な本なのかよ、それ」
パイモンが不思議そうにそう言って、わたしの肩越しに本の中身を覗いてきた。彼女はそのまま中身を読み上げる。
「どれどれ…?“ご祝儀は新郎新婦との関係によって額の目安が違います。同僚なら三万、上司なら三万五千、友人なら…”って、おいこれまさか嘘だろ!?」
パイモンがひったくるように私の手から本を取り上げ、表紙に書いてある文字を確認する。
「“結婚式のマナー、ルール”…なんてったって、こんな本をおまえが読んでるんだ!?」
そう。彼が読んでいたものは、何も難しい書物ではない。ごくありふれた、冠婚葬祭のマナーを啓発してくれる本であったのだ。ヌヴィレットは私たちの様子を見かねて、こちらに向き直り説明を始める。
「戸惑わせてしまってすまない。…事の経緯はこうだ」
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時は少し遡り、パレ・メルモニアにて…。
「状況はわかった。とにかく、そのスネージナヤのコード“召使”という執行官が、君と外交的な面会をしたがっている…そういうことだな?」
神妙な面持ちで、ヌヴィレットは自らの目の前で額に手を当てる水神と…その隣でただならぬ雰囲気を漂わせる執政補佐官に言った。
「彼女は元々フォンテーヌ人だと聞いている。だが、このタイミングで突然フォンテーヌにやって来た挙句、唐突に面会を希望するなど…あくまで私の意見だが、断ることを強く薦める」
「………そうだよね」
こくり、と頷くフリーナに、ヌヴィレットはさらに言葉を続ける。
「彼女の目的は君たちも分かっているはずだ。おそらく、先日のタルタリヤ殿の件だろう。…我々は自国でスネージナヤの執行官を裁き、未だ詳細な報告は出すことができていない。確かにこれは、スネージナヤがフォンテーヌに外交的圧力をかける絶好のチャンスだと言える…」
「私が思うに……合理的な説明の仕方と相応の対応策が決まるまでは、しばらく回避的な姿勢でいた方が良いだろう」
そう締め括ったヌヴィレットに、フリーナは向き直り…決意したように声を上げる。
「いや…僕は、今回の面会は受け入れるべきだと思う」
「今回は僕も同意します。今回は受け入れてみましょうよ」
「………なぜ?」
ヌヴィレットはすこし戸惑った。いつもならばフリーナがこの様な発言をした際には、オクタヴィアが思慮をもって諭している。が、今回はその彼ですら彼女のあまり良いとは言えない意見に同意したのだ。それがとても引っかかった。
「今回の法廷での事件は、
「いいや…アレは彼の動揺からくる我を忘れた抵抗だと取られてしまえば、こちらの方が不利になる。やはり面会はやめておいた方がいい」
ヌヴィレットが意見を述べると、オクタヴィアは顎に手を当て…少し考えてから言った。
「いいえ。まだ一つアドバンテージがあります。…彼は私の忠告を無視して暴れまわった、というアドバンテージが」
「忠告…?」
オクタヴィアは手首を回しながら続ける。
「私は彼が法廷に立つ前に、控室で少し話したんです。そしてその時に言いました。“もし本当に無実でも、有罪になったらすぐに罪を受け入れてくれ”と」
「…なんだと?」
ヌヴィレットの声が少し低くなる。
「君が司法に対して口を出すのが、どのような意味を示すのかはわかっている筈だが」
「“二権の分立が崩れる”…でしょう?今回は問題ないと判断しています。問題あったら隠蔽してますよ」
「…どういう意味だ」
「あの場では、私はイチ友人として
「…それに?」
オクタヴィアが言い淀んだ。何かを伝えることを躊躇するような様子にヌヴィレットが怪訝な表情を浮かべ、続きを催促するように訊く。
オクタヴィアは一度頷くと、自分の左手を前に出した。書類か何かを見せてくれるのかと思いそちらに目を向けたが、そこには何も握られていない。彼は手の甲を上に向け、手を広げた状態で差し出している。
…そして、ヌヴィレットは見てしまった。400年来の同僚かつ友人の左手薬指に…燦然と輝く、銀色の指輪を。
「………………………………………………*1」
この400年、女の影すら見せることのなかった彼が放ったウルトラカミングアウトに、ヌヴィレットの脳内で嵐が巻き起こる。彼は動揺していた。そして同じくらいに疑問も浮かんできた。
「…それが、どうタルタリヤ殿の、ないし召使の件に繋がるのだ?」
いきなり結婚報告をぶちかまされたとは言え、それで誤魔化される程度ならば審判官など務まらない。彼は毅然とした態度を持ち直し、しっかりとした声色で問いただす。その問いには、オクタヴィア…ではなく、その隣でバツの悪そうな表情を浮かべるフリーナが答える。
「彼のお相手が…その…召使、その人なんだ…」
「ン゛ッ……………」
ヌヴィレットは膝から崩れ落ちそうな気分になった。生まれてこの方体調を崩したことはなかったが、気のせいか胃がシクシクと痛む気がした。それほどまでにいきなりのことで、厄介事であったから。
「とのことで…私なら、もし召使がこちらに強く出たとしても牽制できる可能性があります。なのであちらの詳しい腹積もりを探る為にも、一度受け入れた方が良いと思う所存です」
「………………」
ヌヴィレットは腕を組み、しばらく考え…
「……………わかった。手続きはこちらでしておこう」
「ありがとうございます。では、○日後にフリーナ様の予定の開きがありますので、そこに鼎談の予定をいr「但し」…なんです?」
「鼎談ではなく、座談としよう。………私も参加する」
ーーーーー
フリーナとオクタヴィアの固い意志のもと、ついに“召使”との面会の時がやってきた…。
「…確かに外交的な面会とも言えるけれども、私は今日の面会をただの“お茶会”…そして、“挨拶”の場であるとも捉えている。…貴方もそうだろう?フリーナ殿」
ゆるりと脚を組み、フリーナと…その傍に立って控えているオクタヴィアに向けて発言したのは、ファデュイ執行官第四位、“召使”。
彼女のその姿にはうっすらとした威圧感が含まれており…それに気圧されたフリーナは少しだけ顔を背けたが、すぐに立て直し気丈に振る舞う。
「うん、そうそう…キミの言う通り、ただのお茶会だよ…。そうだ、今日のためにお菓子まで持ってきてくれるなんて、感謝しないとね…とても美味しそうだ」
彼女が卓上に目を向けた。そこには人数分の紅茶に、皿に乗った
「ああ、それは
「あっ、あはは…よかったじゃないかオクタヴィア」
笑みを浮かべてオクタヴィアを見る召使。その姿にすこし悪寒を覚えたフリーナはオクタヴィアの方に振り向くが、彼は微笑を浮かべながら場を見守っているのみだった。
「(ああ…ダメだ、仮にも好いていた部下のお相手を前にするとやっぱり心にくるよ…!早いとこ空気を切り替えないと…!)」
「あー…実は、お茶会をより賑やかにするために、この人を誘ったんだ」
冷や汗を滲ませながら、フリーナは円卓を囲むように配置された三脚の椅子、その残りを手で示した。
「ヌヴィレット殿…お会いできて光栄だ。私はフォンテーヌ出身なのでね、紹介は結構。尊き最高審判官であるあなたのことは勿論存じ上げているよ」
「……ごきげんよう。私もお会いできてなによりだ」
挨拶に短く返したヌヴィレットの表情は少し硬い。その様子を見た召使は、折を見て言葉を紡ぎ出す。
「まずは御三方にお礼を申し上げる。私は公務で忙しい時、フォンテーヌを離れることが多いのだが…壁炉の家の子供達がたいへん世話になったと聴いた」
「うぅ…」
「おっと、何も、我が子リネとリネットが無実の罪を課せられた件を言っている訳ではないので、くれぐれも誤解なきよう。それに…」
召使は視線を滑らせ、未だ口をつぐんでいるオクタヴィアを見る。
「オクタヴィア殿は、リネやリネット達を庇い、諭してくれたそうではないか…。無罪判決へと導いたのはかの“異邦の旅人”達だろうが…私はそれまであの子達が耐え忍ぶことができたのは、貴方のお陰だと思っている」
「そんなにたいそうな事はしてませんよ、召使様…むしろ、少しキツい言い方になっていたやも」
「そうか……………貴方と私の仲だ。このような場ではあるが、敬称をつける必要はない。むしろ、“召使”でなく、
「…今は少し、できかねます」
オクタヴィアがやんわりと拒否をすると、少し残念そうに召使は視線を彼から外した。そしてそのまま話を戻す。
「近年のフォンテーヌは情勢が安定し、民も豊かになり…子供達も幸せに暮らすことができている。あなた方や
彼女の長々とした、所謂社交辞令に痺れを切らしたのか…ヌヴィレットが動いた。
「タルタリヤ殿の件で来られたのだろう?」
「ふむ…どうやら、日々多忙な最高審判官のヌヴィレット殿はこのような社交辞令よりも、いち早く本題に切り込むことのほうがお好きなようだ」
召使は彼の言葉に真剣な表情になる。涼しげな笑みが、冷徹な表情へと変わる。
「同じスネージナヤの外交使節として、そしてファデュイの執行官として……私は“公子”の同僚ということになる。事がフォンテーヌで起こった以上、我々は互いの“代理人”として問題を解決しなければならない」
腕を組み、彼女が提示した提案は…。
「私は代理人として、“公子”の
「「(…………!?)」」
まさかの内容に、フリーナとオクタヴィアは心の中で驚愕する。身柄の引き渡しぐらい要求してくるか、と身構えていたところに飛んできたのは減刑の要求…。手を組み、口を隠すように顔の前に持ってきて肘をついた彼女の様子から、誰かへの“呆れ”が見てとれた。もしや…。
「(…タルタリヤさん…見捨てられてる…!?!?!?)」
公子のあまりの狼藉に、流石にファデュイの上層部も看過できなくなったのか。一度牢獄に入って灸を据えておこう、ということなのだろうか。真意は分からないが、予想から大きく外れた要求に二人はペースを乱される。が、もう一人は未だ健在である。
「代理人のルールが適用されるのは、判決が執行される前のみだ。現在、判決は執行済みであり、我々は解決済みと判断している。申し訳ないが、君の要求には答えることはできない」
「ここまでストレートに答えられるとは…。いいだろう。フォンテーヌの法廷におけるすべてのルールを尊重しようではないか…。今は、オクタヴィアに免じてね」
「………………(先程から、やけにオクタヴィア殿を気にかけているようだ。政略的なものか…はたまた、別の理由であるのか)」
ヌヴィレットは訝しんだ。かの悪名高いファデュイのことだ、オクタヴィアとの婚約も政略によるものだろうと踏んでおり、片鱗を見せればすぐさま毒虫を払い除ける心づもりであったが…なにかがおかしい。先程から彼女がオクタヴィアに向ける、あの何かの熱を孕んだ視線は一体何なのだ。
ヌヴィレットは知らなかった。人ならぬ孤高の上位種族、元素龍であるが故に、人の心の機微を未だ完全には理解しきれていない。それ故に、この視線の意味を理解することができなかった。
「…では、一歩退いてみるとしたらどうだろう?“公子”の減刑をしてもらう必要はない。ただ、メロピデ要塞に入り、彼に会って状況を確認させてもらいたい…」
召使は立ち上がり、ゆらりとフリーナの側に寄る。
「まさか…それすら叶えられないとは仰るまい、フリーナ殿…?」
「そっ、それは…えっと…」
凍るように冷たい視線がフリーナに向けられた。彼女はそれに押され狼狽えるが…その間に、オクタヴィアが素早く滑り込んだ。
「…これ以上は看過できませんよ、
「おっと…やっと名前で呼んでくださったな、オクタヴィア殿」
「今はそんなことはいいです。貴女の要望を通すのに、この度の外交問題は口実にはなり得ない。…席に戻ってください」
目を細めて言うオクタヴィアの様子を見て、召使はやけに満足そうに席へ戻った。彼女が席についたのを見計らい、ヌヴィレットが続ける。
「メロピデ要塞はかねてより自治状態にあり、我々でさえそう易々と干渉することはできないのだ。それでも、どうしてもあの執行官の状況を確認する必要があると仰るのなら、私からひとつ提案をしよう……
ーーーーー
「もう“召使”が出てきて…そいつが、オクタヴィアと婚約を交わしてる…????そのー、失礼だったら謝るんだけどさ、オクタヴィア、騙されてるんじゃないのか???」
“気をつけて、ヌヴィレット”
“絶対にただの婚約じゃないよ…”◁
「ああ、忠告に感謝しよう。それについては私も身に染みて承知している。………だが…………」
ハニートラップを疑うパイモンと旅人。当たり前のことであろう。なにせ前触れもなくいきなり婚約をしでかしたのだ。その手の奸計を疑わない方が正気でないだろう。だが、依然としてヌヴィレットの表情は暗い気がする。
「それから気がついたことがある。こと“召使”に関する問題において、フリーナとオクタヴィアの様子が些か不自然でね…」
「はっ、もしかして二人は、召使に脅されてるのか?」
「もしそうだとしたら、私に説明しない理由はないはず…。まして、“召使”は一体どのようにして彼女らの、神とその側近の弱みを握ったと言うのだ?」
「うーん、じゃあ違うか…」
考えを棄却したパイモンを見て、ヌヴィレットはさらに続ける。
「そして…ことさら気になったのは、オクタヴィアに対する召使の態度だ。彼女はしきりに彼を話に出し、本名で呼ぶよう促し、何もない時はずっと彼の方を見ていた…。ただの演技と言われればそれまでだが、私が辿り着いた結論は…彼と彼女は、政略的意図を抜きに婚約をしている、というものだ」
“…考えられない”
“まず接点からしてさっぱりわからないし…”◁
ヌヴィレットの言葉を、旅人は腕を組んで呆れた表情で否定した。
「いいや、接点はその後、彼女の口から説明してもらった。かつての壁炉の家の孤児時代、11の頃から知り合い、彼が孤児院の改善に共に尽力してくれたことから、彼を想うようになった、と…」
「え゛っ…もしかして、オクタヴィアって、ロリk“パイモン、それ以上いけない”ひゃっ、ご、ごめん…」
「…彼が小児性愛者である事は万が一にもないだろう。それに、彼は彼女の好意を
『僕のせいで彼女がああなってしまったというのなら、僕は彼女を受け止めてあげる責任があります。あの様な要求でも…断れば、あの子を裏切ることになってしまう。それは、あってはならないことなんだ…』
私は…彼と彼女の間には、ただならぬ感情が渦巻いていると思えてならないのだ」
「…な、なんだか、いつかにみた小説を思い出すぜ…!幼い頃から変わらない恋心と、それを枯れた心で受け止める複雑な心情…!」
“パイモン、ちょっと不謹慎だよ”
“でも…ちょっと一筆書けそうかもね”◁
「…話が逸れたな。軌道を修正しよう」
咳払いをし、脱線した話題を戻すことにしたヌヴィレットは、いよいよ話の本題へと入る。
「この件について、もう一つ厄介な点がある。メロピデ要塞から届いた情報によれば…タルタリヤ殿は少し前に、突然失踪したそうだ」
“…失踪?”◁
“もしかして逃げたの!?”
「失踪に関する詳細は未だ分かっていない。すでに逃げた可能性も排除できないだろう。だが、メロピデ要塞以外の場所において、彼に関する目撃情報は一切ない」
「恐らく…タルタリヤ殿の失踪には、何か裏があるはずだ」
「じゃあ、さっき言ってた、オイラ達に任せたいことって…」
「ああ。メロピデ要塞へ赴き、タルタリヤ殿が失踪した原因を調査してもらいたい。それと、後一つ」
「あと…一つは???」
ごくり、とパイモンが固唾を飲んだ。ゆっくりと、ヌヴィレットが口を開き…………
「私とオクタヴィアは同僚でもあるし、友人でもあると言える。祝儀とやらの額はいくらが良いだろうか?」
“…………”
「それ、オイラたちに訊くことかよ!!!」
ーーーーー
時は少し遡り、オクタヴィアとカナロアの対話の最中。
「…それで、お名前は伺いましたが…結局、あなたの目的ってなんなんです?」
「おお、そうだな。それも話しておく必要がある」
腕を組んでいたカナロアは、徐ろに柏手をした。すると、目の前の星が再び金属光沢を帯び、大蛸の姿をしたカナロアがやってきた。…が、何か様子がおかしい。さあ星を焼き溶かそうと触腕を振り上げたカナロアの身体のあちこちから、激しい火花が飛び散った。目を凝らして何事かと見ていると、オクタヴィアの隣にいるカナロアがつまんだ指を開く仕草をする。すると、ぐい、と映像がクローズアップされ、火花の正体が確認できた。
「…………人間?」
光を纏い、凄まじい速度で大蛸と渡り合う
「俺はこのとき、身体の各器官と同時に
「…もしや、あなたの目的は復讐ですか?」
そう問うた僕の方をきょとんとした表情で見た彼は、くすくすと笑いながら続ける。
「ばか言え、おれはそんなつまらん事はしない。…俺はな、
「憧れた…?」
「そうさ。あの二人の好敵手は、たった一人の友人の願いを遂げる手助けをするためだけに俺を退けた!実に素晴らしい、あれこそ、お前ら人間の言う英雄というものだ!!!!!」
「…じゃあ、貴方の目的っていうのは…」
カナロアは両手を広げてオクタヴィアに向き直る。
「お前はこの国の滅びを回避したい。滅びの運命に抗い、今度こそ主神の悩みを取り除いてやりたい…この志、大義である!!!!!」
「オクタヴィア…俺と共に、英雄になろうではないか!!!!」
【To Be Continued…】
オクタヴィア:身の内に激ヤバ生物の断片を飼うことになっていた不憫な子。
カナロア:究極な感じのONE。英雄に憧れた英雄志望の蛸。名前はハワイ神話から。
ヌヴィレット:久方ぶりに初めての経験をした。
召使/ペルヴェーレ:もう色々と抑えきれていない。ステイ、ステイ!
フリーナ:っ ら ぃ
ーーーーー
読了ありがとうございます。よければ感想・評価よろしくお願いします。
次回の投稿も期間が空いてしまいそうです。申し訳ございませんが、エタる気は微塵もありませんので、気長にお待ちください…。
水の都のクラーケンif〜夜の深境螺旋〜 見たい?
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稚拙でもいいから見たいでござる。
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稚拙なら書かなくてもいいぞ。
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エッチなのはダメ!岩喰いの刑!!!