こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 この町には本屋さんはいくつかあります。せっかくのお出かけなので、一番大きい本屋さんを目的地としています。ただその本屋さんの開店時間は十時なので、まだまだ時間に余裕があります。

 かんな様と一緒にのんびりと歩きます。多くの車が車道を行き交っていきます。かんな様はそれらの車を興味深そうに見ていました。

 

「車が好きなんですか?」

 

 意外と子供っぽい好みです。どちらかというと男の子みたいな好みですが。ですが、かんな様は首を軽く振って否定しました。

 

「文明の進歩の象徴。見ていて飽きない。昔はみんな歩いていたから」

 

 こういったかんな様の言葉から、やはり見た目と違ってずっと長く生き続けているんだなと思います。生きている、という表現が正しいかは分かりませんが、人よりも昔のことを直接見聞きして知っているというのはすごいと思います。

 

「でも車は温暖化とか、そういったものの原因にもなってるみたいですけど、やっぱり神様としては嫌なものなんですか?」

「いや別に。私は子供たち以外はどうでもいい。他の神様が考えること」

「はあ……。そういうものですか」

「ん。そういうものです」

 

 神様の世界にも役割分担とか担当とか、そういったものがあるのでしょうか。なんだか会社みたいです。規模がとてつもなく大きいものになっていますけど。

 

「あ、このコンビニに入りましょうか」

 

 通りかかったコンビニを指差して私が言うと、かんな様は私を一瞥して頷きました。その視線はコンビニに釘付けになっています。ビルの一階が店舗になっている造りのものです。かんな様は少しだけ楽しそうに見えました。

 青い看板のこのコンビニは私がよく利用するお店です。品揃えはまあコンビニなのでどこも似たり寄ったりとしか言えませんが、店員さんが明るい人ばかりで、コンビニに行く時は必ずこの店を利用しています。

 

 私たちが入ると、いらっしゃいませ、という元気な声が店内に響きます。奥に長いタイプのお店で、パンやおにぎりは奥の方にあります。本や雑誌は入口のすぐ横です。

 かんな様は目を大きく開き、驚いているようです。ここまではっきりと感情を表に出すのはとても珍しいことだと思います。

 

「さつき。見て回りたい。ゆっくり一周して」

 

 かんな様の要望に私は無言で頷きました。かんな様の声は私にしか聞こえないので、外にいる時は小声で話すか、無言で首の動きで返事をするかになります。

 

「へえ……。へえ……」

 

 所々で立ち止まっては、かんな様は商品の並ぶ棚を凝視しています。おにぎりのコーナーにさしかかった時は、瞳を輝かせていました。

 

「種類がたくさんある……!」

 

 私にとっては当たり前のことですが、かんな様にとってはやっぱり違うようです。たっぷり十分以上もおにぎりの前に立っていました。その間私もずっと横に立っていたので、きっと店員さんは不審がっていると思います。商品を選ぶわけでもなく、ずっとおにぎりの前にいる中学生。万引きを疑われてもおかしくないかもしれません。

 

「あの、かんな様……」

 

 私が小声で声を掛けると、かんな様ははっと我に返って、ごめん、と小さな声で謝ってきました。それがなんだかおかしくて、私は少し笑ってしまいます。かんな様は次の場所に、と行こうとしていましたが、まだちらちらとおにぎりを見ていました。

 私にとってはコンビニのおにぎりなんてありふれているものですが、かんな様にとってはとても珍しいものなのでしょう。しかもおにぎりはかんな様の好物。食べてみたいと思われていても不思議ではありません。

 私は入口の方に置いてある買い物かごを持ってくると、かんな様に言いました。

 

「どれにします?」

「いいの?」

「はい。かんな様のためのお金ですから」

 

 募金をした人はまさかおにぎりを買うとは思ってもいないでしょうけど、かんな様のためという目的に違いはないので大丈夫でしょう。

 かんな様はそれじゃあ、と少し考えて、三つのおにぎりを指差しました。それを見ながら、おにぎりをかごに入れます。紅鮭とツナマヨ、そしてベーコンです。紅鮭とツナマヨは海苔で巻いた三角おにぎりで、ベーコンは丸いおにぎりにベーコンを巻いているものでした。

 

「楽しみ」

 

 かんな様の声が少しだけ弾んでいます。かわいい、と思ってしまうのは不敬でしょうか。

 おにぎりの入れたかごを持って、最後に雑誌コーナーに向かいます。それほど広くないお店のためか、小説などは置いていないようでした。

 それでも、かんな様は本を見て瞳を輝かせています。うん。私の神様はとってもかわいいです。

 

「さつきさつき。あれを見たい。取って欲しい」

「はい。えっと……。これですか?」

 

 かんな様が選んだのは旅行の本です。開くと、全国の名所の風景写真がいくつも載っていました。

 

「おー……」

 

 かんな様はその写真を食い入るように見つめています。図書館で借りてくる本にも、雑誌ではないですが風景の写真の入った本はあったはずなのですが。何かが違うのでしょうか。

 

「次」

 

 かんな様の言葉に従ってページをめくります。何が違うのか少し気になるところではありますが、かんな様がとても楽しそうなので気にしないことにしました。かんな様が満足しているのなら、それで十分です。

 かんな様の気の済むまで立ち読みを続けた後、おにぎりを購入して外に出ます。レジを打ってくれたのは初老の男の人だったのですけど、なんと帰り際に、かんな様によろしく、と言われてしまいました。何故か私のことを知っているようでした。

 

 私はかんな様と一緒に建物と建物の間、あまり目立たない場所に入りました。かんな様がおにぎりを食べるためです。公園などで食べるわけにはいきません。

 かんな様の姿は私以外には見えていません。公園でおにぎりを食べたとすると、何もない空間に突然おにぎりが浮かび、包装が勝手にはがされ、少しずつ減っていく。何をどう考えてもホラーです。そのため、あまり目立たない場所で食べてもらう必要があります。

 

 かんな様もその辺りは理解してくれているので、特に文句などを言われることはありません。できるだけ道の奥に入ってから、かんな様におにぎりを差し出しました。

 私もおにぎりを一個だけ買っているので、かんな様に開け方を説明しつつ開封します。包装だけでかんな様は驚いていました。

 

「ん……。海苔がぱりぱりしてる。すごい」

 

 かんな様は海苔の感触を楽しんでいるみたいです。私はそれを微笑ましく思いながら眺めていました。かんな様は本から知識を得ているようですが、こういった経験を得ることはあまりないのでしょう。

 

「今までの巫女の方に買って行ってもらったりはしなかったんですか?」

 

 ふと疑問に思って聞いてみれば、かんな様は緩く首を振りました。

 

「私がお願いすると、それは巫女にとっては命令と同じになる。違う?」

「そんなことは……」

 

 ない、と言いかけて口ごもってしまいました。想像してみます。かんな様に、何かを買ってきてほしいと言われるところを。私は即座にそれに頷くでしょう。

 

「違いませんね……」

 

 命令とは違いますが、優先順位としてはとても高くなります。きっと今までの巫女の人も、同じでしょう。つまりかんな様は私たち巫女に気を遣ってくれている、ということです。

 

「かんな様」

「ん?」

「気にしなくていいので、何かあったら言ってください」

 

 かんな様は険しい表情をしていましたが、考えておく、と言ってくれました。考えるだけになりそうですが、少しでも遠慮がなくなってくれれば、と思ってそれ以上は何も言わないことにしました。

 

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