こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 なんだか、怒らせてしまっているかもしれない、とか不安に思っていた自分が馬鹿みたいです。かんな様は、やっぱりかんな様でした。とても優しい子供の神様。私は内心で苦笑しながら、それを表には出さずにかんな様にしっかりと言いました。

 

「私はやりたくないことはやりませんよ。巫女に選んでもらえたからこそ、特に……」

「それ」

「へ?」

「足を治したことを恩に着せて巫女になることを無理強いした形になったから」

 

 ああ、それですか。今更それですか。てっきり、かんな様は私の気持ちが分かっているからこそ何も言っていないだけかと思っていたのですが。思わずため息をついてしまうと、かんな様の瞳がわずかに揺れました。不安そうに。

 ほら、そんな顔、するじゃないですか。

 

「かんな様」

「ん……」

「私がここにいるのは、私の意志です。確かに巫女に選んでもらったのがきっかけでした。それがなければ、時折お参りには来ても毎日は来ていなかったと思います」

 

 これが隠すことのできない事実です。足のことに感謝はしていても、毎日掃除にだけ来るとかちょっと続けられる気がしません。ああ、かんな様が顔を伏せてしまいました。

 

「ですけど」

「ん……?」

「今は、ちゃんと私の意志です。かんな様と一緒にいたいから、ここに通っているんです。巫女の役目なんてそのついでですよ」

 

 顔を上げたかんな様が大きく目を開いていました。それに微笑みながら、言います。

 

「もちろん、友達も大切です。でも、私にとってはかんな様もやっぱり大切なんです。ちゃんとした、私の本心ですよ」

 

 かんな様はじっとこちらを見つめていましたが、やがてとても珍しいことに、小さく笑いました。

 

「神様と友達のつもり?」

「友達になれたらいいな、とは思っています」

「ん……。ふふ。そっか」

 

 かんな様はすぐにまた無表情に戻ってしまいましたが、機嫌が良くなっていることは何となく分かりました。それだけで、私にとっては十分です。

 

「あ、そうだ。今日はおにぎりをたくさん作ってきました。いろんな具を入れてみました」

「ん! もらう!」

「はい。準備しますね」

 

 ぱっとかんな様の顔が輝いた、ような気がします。私はいつものようにシートを広げて準備をして、持参した弁当箱を並べます。いつもよりたくさんのおにぎり。その数三十個ほど。正直、作りすぎたというのが本音です。

 ちなみに具は鮭や梅干しといった定番のものから、海苔の佃煮やウィンナーなど、コンビニで見たことがあるものをできるだけ試してみました。

 

「えっとですね、これが……」

「必要ない。食べてからのお楽しみ」

「え? かんな様がそれでいいなら、いいですけど……」

 

 かんな様は早速一つを手に取ると、ぱくりとかじりました。しばらく咀嚼した後、一つ頷いて、

 

「すっぱい」

「梅干しですね」

 

 その後もかんな様が次々とおにぎりを食べていきます。その体のどこに入るのか、と思ってしまいますが、神様という存在に常識を当てはめる方がおかしいのかもしれません。

 かんな様が食べている姿を私は静かに見守ります。自然と頬が緩んでしまいますが、きっと気のせいです。

 かんな様はしばらく食べ続けていましたが、やがて唐突に動きを止めました。そして真正面へと視線を投げます。

 

「かんな様? どうかしました?」

「ん……。大丈夫」

「……? そうですか」

 

 何が大丈夫なのか、私には分かりません。ですが私はそれ以上は何も言わず、おにぎりを一つ手に取りました。

 

   ・・・・・

 

「ふうん……」

 

 遠くから、社を見つめる少女が一人。物静かな印象を受ける少女、叶恵だ。叶恵は呆れたようにため息をつきながら、踵を返した。

 

「もう少し警戒心を持ちなさいよ、さつき」

 

 おそらく、さつきが今年の巫女なのだろう。何故黙っているのかまでは分からない。あの社にいると言われている子供の神様、かんな様の指示なのかもしれない。どういった理由であっても、叶恵には関係のないことではあるが。

 

「いつか、紹介してもらいたいわね」

 

 叶恵は子供の頃、神様に助けてもらったことがある。家の鍵をなくしてしまい、途方に暮れていた時だ。雨の中、家の前でうずくまって待っていると、不意に雨に打たれなくなった。不思議に思って顔を上げてみれば、何故か雨が自分を避けていた。

 それだけでなく、母親がいつもより早く帰ってきた。母が言うには、早く帰らないといけない気がした、というものだ。それも、神様が何かをしたのかもしれない。

 小さな頃の些細なこと。それでも、叶恵は本当に感謝している。できれば、直接会ってお礼を言いたいぐらいには。だからこそ、いつか姿を見せてくれることを期待して、度々ここを訪れていた。

 

「もう少しさつきと仲良くなれたら、お願いしてみようかしら」

 

 そんなことを考えながら、叶恵は静かにその場を後にした。

 

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