こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 全部の店を巡り終えて、時計を確認すると、ちょうど二時前になっていた。ちょうどいい頃合いだ。私は社に戻って、意識を集中させる。ほとんど使わない術だから、間違ってなければいいけど。少しして、神力がごっそり持って行かれる感覚がした。ひどいぼったくりだ。

 とにかく、今の私は姿が見えるはずだ。試しに校庭に行ってみると、先ほどまでは私のことを気にしていなかった人たちが、みんな私を避けて歩くようになっている。どうやら成功しているらしい。内心で安堵しつつ、さつきが待つ校舎に向かう。さっきこっそり場所は確認している。一階にそれらしいものがあった。

 

 校舎の中に入り、一階を歩く。窓に黒いカーテンがされている教室。あそこがさつきのクラスだろう。入口と書かれた立て看板の側には、受付らしい魔女姿の子がいた。結構盛況のようで、人が並んでいる。私は大人しく人の列に加わった。

 五分ほどして、私の番がきた。

 

「いらっしゃいませ! 入場料は百円です!」

 

 む……。しまった。お金がない。

 

「あ、待って。もしかして君、さつきの親戚の子?」

 

 ん? なんでそうなるの?

 

「さつきが親戚の子が来るかもって言ってたんだよ。着物姿だからすぐに分かるって言われてるからね。君のことだよね?」

 

 どうやら先にさつきが手を打ってくれていたらしい。親戚にしては似てないとなりそうだけど、ここで違うというのも不自然だろう。私が頷くと、目の前の子は顔を輝かせた。

 

「やっぱり! お金はさつきからもらってるから、どうぞどうぞ!」

 

 それじゃあ、ありがたく。私は少しだけ楽しみにしながら、足を踏み入れた。

 

 

 

 結果を言えば、まあよく頑張っている方、という出来映えだった。怖い、というよりも驚かせるという方になっている気もする。まあお化け屋敷はほとんどがそんなものだろう。

 ただ、こんにゃくが降ってくるのはもう古すぎると思う。誰かの考案だろう。

 ぐるりと教室を一周するように歩いて行く。そして出口が見えてきたところで!

 

「ばあ!」

 

 白いローブのようなものを着た女の子が飛び出してきた。

 

「…………。あ。かんな様」

「…………」

 

 さつきだ。目を丸くして、固まっている。その様子を見守っていると、やがて顔を真っ赤にしてそそくさと引っ込んでしまった。

 今のこの教室は、壁の逆側が黒いカーテンで仕切られている。お化け役はそこから飛び出すようになっていて、何回もいろんなお化け役が飛び出している。そちらを見ながら待っていると、さつきが戻ってきた。

 

「あの……」

「ん?」

「次の人に交代するので、外で待ってもらっていてもいいですか?」

「ん。いいよ」

 

 すぐに行きます、とさつきが戻っていく。どうやらさっきのことはなかったことにするらしい。私としては面白かったのだけど。怖いとは言わない。

 ちょっとだけ楽しく思いながら、私は教室を後にした。

 

 教室を出たところでしばらく待つ。何組かのグループが帰っていった後で、さつきが出てきた。何故かもう一人、一緒にいる。確か叶恵だったか。

 

「叶恵、私はかん……。えっと……。この子と一緒に行くから……」

 

 今かんな様って言いかけた。無防備すぎる。

 

「そうね。私も一緒に行くわ。迷惑かしら?」

「え? あ、いや、えっと……」

 

 さつきがとても困っている。そう言えば、さつきは気づいていなかったはずだ。さつきが巫女であることを叶恵が知っていることを。ただそれをここで説明するには、人が多すぎる。

 私が何も言わずに歩き始めると、さつきが慌てて追いかけてきた。叶恵も追いかけてくる足音が聞こえる。私たちはそのまま階段を上り、今は誰もいない四階へ。階段を上がったところで振り返ると、さつきの顔色が青くなっていた。

 

「ん? さつき、どうしたの?」

「あの、その……。怒らせてしまったかと……」

「ん……? いや別に怒ってないけど。それよりも、そっちの子」

 

 私が叶恵へと視線を向けると、叶恵は何故か緊張の面持ちになっていた。それでもこちらを真っ直ぐに見ている。

 

「気づいている、でいい?」

「……っ!」

 

 叶恵の目が大きく見開かれる。その反応が少し面白い。叶恵の返答を待っていると、叶恵は小さく喉を鳴らしながら頷いた。どうしてそんなに緊張するのか。

 

「え? どういう……?」

「ん。この叶恵って子はさつきが巫女であることに気づいてる。それだけ」

「へえ……。え? ええ!?」

 

 さつきが私と叶恵を交互に何度も見ている。私の巫女なんだから、もう少し落ち着いて欲しい。少し呆れながらそう言うと、さつきが恥ずかしそうに頬を赤らめてごめんなさい、と頭を下げた。

 

「うまく隠せてると思ってたのに……。かんな様はいつ気づいたんですか?」

「最初から。五月の連休のあたりだね」

「結構前ですね……。さすがはかんな様です」

「待って、ちょっと待って!」

 

 私がさつきからきらきらとした瞳で見つめられていると、叶恵が声を上げた。何かとても焦っているような声音だったけど、何かあったかな。

 

「えっと……。もしかして、この子が、かんな様……?」

 

 そう聞かれて、私は納得した。今更だけど、私は自己紹介をしていない。特に私は本来なら人の目には見えない存在だ。多分叶恵は私のことを、あの社に関係している誰かの子供とかそんな推測を立てていたのだろう。

 

「ん。自己紹介、してなかったね。私はかんな。あの社に住まわせてもらってる」

「は、はい。ありがとうございます。私は伊崎叶恵です。あの、一度かんな様に助けてもらったことがありまして……。もっと小さかった頃で……」

 

 叶恵の小さかった頃。それを聞いただけで、いつのことを言いたいのか理解できた。最近では両親の共働きも増えてきたので珍しいことではなくなりつつあるけど、あの頃はまだ共働きは少なかった。だから、家の前で入ることもできずに立ち往生していた子供はよく覚えている。

 

「あったね、そんなことも。私は雨よけをして母親が早く帰るようにしただけだけど」

「それでも、あの時の私にとってはとても嬉しかったんです。いつか、直接お礼を言いたいと思っていました。あの時は本当にありがとうございました」

 

 そう言って叶恵が頭を下げてくる。律儀な子だ。多くの子は私が助けたことなんて忘れてしまうのに。

 

「ところで、どうして今、私はかんな様のことが見えるのでしょうか?」

「ん。私が姿を見せているだけ。ただ色々と条件があるから、今日だけ特別に」

「はあ……。なるほど?」

 

 叶恵はそう言いながら首を傾げている。まあ意味が分からなくて当然だ。これに関しては理解してほしいとも思っていない。私がさつきへと視線を向けると、さつきは困ったような笑顔を見せた。

 

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