こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 朝になりました。なんだか頭に暖かいものが触れている気がして、私は目を開けました。

 

「ん。おはよう、さつき」

 

 かんな様が、私を撫でていました。

 

「えっと……。何をやっているんですか?」

「撫でてた」

「あ、はい……」

 

 理由を聞きたかったのですが……。まあ、いいか。私もかんな様に撫でられるのは嫌じゃないですし。

 かんな様の手を名残惜しく思いながら、私は体を起こしました。時計を見ると、まだ朝の四時でした。普段この時間に起きているので、自然と目が覚めてしまったようです。当然ながら、明日香と叶恵はまだ寝ています。

 

「起床の予定は七時、なんですよね。どうしましょうか」

「ん……。雪だるま、作る?」

「そ、それはちょっと……」

 

 結局あの後、私たち三人も調子に乗ってしまったがために、雪だるまはさらに巨大化しました。最後には島崎先生にまで手伝ってもらってしまいました。島崎先生はかんな様を手伝えるということで嬉しそうでしたけど。むしろ他の先生まで手伝いに来ようとしていましたけど。

 ホテルを出れば、大きな雪だるまを見ることができます。ホテルの人はそれを見て、笑っていました。今まで雪だるまを作る人は何人もいたが、この大きさは初めてだ、と。

 私としても楽しかったですが、さすがに朝早くからやろうとは思えません。寒いです。

 

「ん……。残念」

 

 ああ、なんだかちょっとかんな様が悲しそうです。やっぱり手伝うべきでしょうか。いやでも、ちょっと寒いですし……。

 

「じゃあ、どうする?」

 

 幸いに、と言うべきか、かんな様は特にそれ以上言ってくることもありませんでした。

 

「えっと……。そう言えば、お風呂は四時から入れるみたいなこと書いていましたね……」

 

 案内のパンフレットには、深夜零時から三時が掃除の時間で、他は自由に入れると書いてあります。今の時間なら問題なく入ることができるでしょう。

 

「かんな様。お風呂に行きませんか?」

「ん? まあ、いいけど」

「決まりですね」

 

 かんな様とお風呂に入るのは初めてです。当然なのかもしれませんが。

 かんな様と一緒にホテルのロビーに向かいます。そこには自由に使えるタオルが何枚も用意されています。バスタオルとハンドタオルを二枚ずつ借りて、廊下を進みます。一階の突き当たりに、大浴場があります。なんと天然の温泉です。

 脱衣所で服を脱いで、ふとかんな様が気になりました。かんな様はいつも桜色の着物を着ていますが、脱ぐことはできるのでしょうか。かんな様へと振り返って、思わず目を丸くしました。

 いつの間にか裸でした。一糸まとわぬ姿です。

 

「えっと……。かんな様。タオルを体に巻いたり、とか……」

「どうせさつき以外に見えない」

「そうですけど……!」

「もしかしてさつき、私の裸で欲情するの? そんな趣味が? 身の危険を感じる」

「そんな趣味はありません!」

「ふうん」

「なんで離れるんですか!」

 

 すすす、とかんな様が私から離れていきます。もちろんかんな様が冗談を言っているだけというのは分かるのですけど、それにしてもちょっとひどいと思います。なんだかちょっと腹が立ってきました。

 

「じゃあいいです」

「え?」

 

 私はそう言い捨てて一人で浴場に向かいます。するとかんな様が慌てたように追ってきました。

 

「さ、さつき? もしかして、怒ってる?」

「知りません」

「あ……。ごめん。さつき。やり過ぎた。冗談だから」

 

 なんだかかんな様の声が震えてきているような気がします。慌てて振り返ると、こちらをじっと見ているかんな様と目が合いました。心なしか、瞳が潤んでいるような気がします。

 

「さつき。ごめん」

 

 かんな様がそう言って頭を下げてきました。そこまでさせるつもりはなかったので、私の方が慌ててしまいます。

 

「すみません、私の方こそごめんなさい。その、ちょっとだけ、嫌で……」

「ん……。気をつける」

「すみません……」

 

 私の方が申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。居心地の悪さを誤魔化すためにかんな様に手を差し出すと、かんな様がその手を取ってくれました。ちょっと安心してしまいます。

 

「ん。仲直り」

「はい。仲直りです」

「巫女と喧嘩をしたのは初めて」

「喧嘩……。喧嘩、になるんでしょうか……」

 

 なんとも短い喧嘩です。五分経っていません。スピード解決です。ただ、かんな様はどことなく嬉しそうなので、このまま喧嘩だったということにしておきましょう。

 

「そう言えばかんな様。服はどうしたんですか?」

「ん? 消した。ほら」

 

 一瞬だけかんな様の姿がぶれたかと思うと、かんな様はタオルを巻いていました。私が驚いて固まってしまっていると、かんな様が自慢気に胸を張って教えてくれます。

 

「私には元々実体なんてないから。服程度なら、イメージだけで変えられる」

「へえ……。便利ですね……」

「ん。すごいでしょ」

 

 それはちょっと羨ましいと思ってしまいます。身だしなみに時間がかかる問題もあっという間に解決です。まあ、神様のお姿に文句を言う人なんてこの町にはいないと思いますけど。

 私が体を洗っている間、かんな様は興味深そうにあちこちを見て回っています。時折蛇口をひねっては、おお、と驚いているようでした。

 

「お待たせしました」

「ん」

 

 かんな様と一緒に温泉に入ります。ちょっと熱いぐらいの水温ですが、とても気持ちが良いです。隣を見れば、かんな様もふにゃりと相好を崩していました。

 無表情ではないかんな様はとても珍しいです。思わずまじまじと見つめてしまっていると、かんな様が視線だけをこちらに向けてきました。

 

「なに?」

「あ、いえ……。何でも。神様もお風呂に入れるんですね」

「ん。汚れるわけじゃないから、必要ないけど。でも、気持ちいい」

 

 そう言っているかんな様は、今も表情が崩れています。気づいているのかは分かりませんが、とても幸せそうなので何も言わないことにしておきました。

 しばらく静かな時間が流れます。友達と入る騒がしいお風呂もいいですけど、こうして静かに過ごすのも悪くありません。

 

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