こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 さて、とかんな様が私を見ます。スマホを見ると、そろそろ十分です。私が頷くと、かんな様がもう一度軽く手を叩きました。全員の視線がかんな様に釘付けになります。かんな様はほんの少しだけ照れくさそうに視線を逸らしました。無表情で一瞬だったので、それに気づいたのはおそらく私だけでしょう。

 

「そろそろ、時間。もう中学校を卒業した子は見守ることしかできないけど、それでも、ちゃんと見守ってるから。がんばってね」

 

 そう言って、かんな様がもう一度手を叩くと、何となくかんな様の存在が希薄になったような、そんな気がします。私にはそれだけの変化であとは普段と変わらないのですが、みんなの様子を見ていると少し残念がっているようでした。もう、かんな様の姿は見えなくなっているようです。

 

「では、せっかく区切りもいいのだし、もう行こうか」

 

 誰かがそう言ったのを皮切りに、みんなが片付けを始めました。最初からごみはまとめられていたので、五分もせずに片付けは終わります。ここからは一般の人のお参りを受け付けることになります。

 

「門を開けてくるが、いいかな?」

 

 そう言った校長先生に私が頷くと、みんなが門へと帰っていきます。残されるのは、私とかんな様だけです。もっとも、すぐにまた賑やかになるでしょうけど。

 

「さつき。言い忘れてた」

 

 かんな様の言葉に私が振り返ると、かんな様は私のことをじっと見つめ、

 

「明けましておめでとう。今年もよろしく」

 

 新年の挨拶。すっかり忘れていました。

 

「はい! 明けましておめでとうございます! かんな様!」

「ん……。さつきはいつも元気だから、私も嬉しい」

 

 小さくですが、かんな様が笑顔を浮かべてくれます。私はそれがとても嬉しくて、自然と笑顔になっていました。

 

 

 

 大勢の人がかんな様の社に訪れます。社の前で手を合わせて、報告をしたり、お願い事をしたり、お祈りをしたり……。私は社の側でずっとそれを見守っていました。

 今までは巫女であることはずっと隠していましたが、もう今更のような気もします。そのため私は堂々とかんな様のとなりに立っています。かんな様の巫女であることに私は誇りを持っています。何を隠すことがあるのか、と。

 

 ちなみにそれを言うと、かんな様に少し引かれました。何故でしょう。

 私が巫女であることが分かるのか、それとも予め誰かから聞いているのか、何人かの人は差し入れを持ってきてくれました。暖かい甘酒や、ホットココアなどです。私も上着を着ていますが、やっぱり寒いものは寒いので正直助かります。

 

 人の流れは途切れません。町中の人が来ているのではないでしょうか。

 途中で校長先生が折りたたみのいすを持ってきてくれました。その後は私はいすに座ってお参りの列を見守ります。いすはかんな様のためにともう一つあるのですが、かんな様は必要ないと首を振っていました。

 

「巫女のねーちゃん!」

 

 不意に声をかけられました。幼い男の子の声です。かんな様から視線を外して下げてみれば、まだ幼稚園に通っていそうな男の子がこちらを見ていました。男の子の隣には、同じ年頃の女の子。男の子と手を繋いで、やっぱりこっちを見つめています。

 

「なに?」

 

 私が笑顔で声をかけると、男の子が小さい紙袋を渡してきました。

 

「かんなさまと一緒に、食べてください!」

 

 そう言ったのは女の子です。受け取って中を見てみると、おはぎの詰め合わせでした。四個入りでパック詰めされたものが三つほど入っています。これは、かんな様がとても喜びそうです。

 

「ありがとう。えっと、お父さんとお母さんにもお礼を言えばいいかな?」

「んーん。ちょうないかいから、だって!」

 

 男の子の元気の良い返事に、頷くことしかできませんでした。まさか町内会からなんて。どうして子供にお使いを頼んだのかは分かりませんが、ありがたく受け取っておきましょう。

 ちなみに後から聞いた話では、町内会からかんな様へのお供え物は子供を通じて行うのが通例だそうです。

 

 

 

 ココアや甘酒、コーヒーや緑茶を飲みながら、私は眺め続けます。……もらっている立場なので言ってはいけないとは分かっているのですけど、飲み物、種類だけでも統一してほしかったです……。

 朝日が昇り始めたのか、少しずつ明るくなってきました。その頃になって、ようやく人の流れが落ち着き始めています。けれども、今日一日はずっと門を開けているそうなので、まだまだ終わりは先です。

 

 巫女が三人いる時は交代制にしていたそうですが、今年は私一人しかいません。耐えないと……!

 そう思っていたのですが、人の流れが途切れたのを見計らってか、かんな様がこちらに歩いてきました。こちらを見る目はとても心配そうです。

 

「さつき、そろそろ帰りなさい。無理はよくない」

「まだいけます! 元気です! ばっちこい!」

「ん。なんかおかしい。……まあ、帰らないだろうね。分かってる」

 

 かんな様が小さくため息をついて、私の頬に手を触れてきました。あったかくて、気持ちがいいです。私が首を傾げると、

 

「おやすみ、さつき」

 

 かんな様が、ふわりと微笑んで。

 そこで私の意識は途切れました。

 

 

 

「んあ……。は!」

 

 私が目を覚ました時は、辺りはもう真っ暗になっていました。スマホを取り出して確認してみれば、夜の九時です。どれだけ寝ていたんですか私は……!

 社を見ると、驚いたことにまだちらほらとお参りに来ています。

 

「ん? さつき、起きた?」

 

 人が途切れたところで、かんな様が私に気が付いてこちらへと歩いてきます。私が寝てしまったことを謝ると、かんな様は肩をすくめました。

 

「ん。気にしない。気持ちよさそうによく寝てた。疲れてたんだね」

 

 そう、なのでしょうか。確かに今日のために大急ぎで準備をしたのでとても忙しかったのは確かなのですけど、それほど疲れているとは感じていなかったのですが。かんな様にそう言うと、何故か少し呆れられてしまいました。

 

「子供が無理をするのは良くない。……まあ、もう少しで終わりだから。零時になったら閉門」

「はい。任せてください」

 

 ずっと寝ていたので、それぐらいはしないといけませんね。

 その後もちらほらとお参りの人は来ていたのですが、零時前には全員が帰ってくれました。それを見送ってから、私は門を閉じます。あとは校長室にいるらしい校長先生と一緒に学校を出るだけです。

 社に戻ると、かんな様が使っていなかったいすに座っていました。

 

「ん。おつかれ、さつき」

「はい……。お疲れ様でした」

 

 ようやく終わりました。まあずっと寝ていたので、今は全く眠たくありません。かんな様の隣にいすを動かして、そこに座ります。

 

「さつき。ありがとう」

 

 不意にお礼を言われました。私が首を傾げると、かんな様が続けます。

 

「今年は楽しい新年だった」

「そうですか? それなら良かったです」

 

 かんな様が喜んでくれたのなら、何よりです。私にとってはかんな様が喜んでくれることが一番ですから。

 

「また来年もやりましょうね」

「ん……。そうだね」

 

 かんな様が私の手を握ってきます。そうして、少しだけ笑ってくれたような気がしました。

 

 

 

 だから。

 

「やあ、ただいま、神無」

 

 その声に、かんな様が大きく震えたことに、私はすぐに気が付きました。かんな様と一緒に、その声の方へと、真後ろへと、社へと振り返ります。

 そこにいたのは、龍、でした。驚愕で動けなくなっている私の耳に、

 

「神様……」

 

 かんな様の、震えた声が耳に届きました。

 

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