こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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 かんな様が目を瞠って、次にあの笑顔が消えました。いつもの無表情に戻って、

 

「今までの巫女と違いすぎて、困る」

 

 そう言ったかんな様は、薄く笑っていました。

 

「悪くは、ない」

 

 その笑顔は、とても印象的でした。

 

「さて、神無。嫌われてさくっと消える作戦は失敗したみたいだけど、どうするんだい?」

 

 はい? この神様、今なんて言いました?

 かんな様を見ます。目を逸らされます。ああ、そういうことなんですね……。

 わざと私に嫌われるようにして、突き放そうとしたと。本当に何ですかそれ。

 

「かんな様。失礼ながら一度叩いていいですか」

 

 ちょっと、いらっとしました。

 

「ん……。それはことわ……」

「僕が許可しよう」

「ちょ……」

「では遠慮なく」

「え」

 

 おろおろしているかんな様はかわいいですが、それはそれ、これはこれ、別問題です。私は立ち上がると、思い切りかんな様の頭を殴りました。ぐーで。おもいっきり。

 その場にうずくまるかんな様と、げらげらと豪快に笑う神様。私は満足です。

 

「さつき、ひどい……」

「どっちがですか。さすがに私だって怒ります」

「ん……。ごめん……」

「まあ、もういいです」

 

 今更ながら、ちょっとやり過ぎたかもしれません。そう思って少し後悔していると、さて、と神様が口を開きました。

 

「神無はもう少し残りたいってことでいいんだね?」

「ん……」

 

 頷くかんな様に、神様が言います。

 

「でも、どうするつもりかな? 君、そろそろ限界だろう?」

 

 限界とはどういうことでしょうか。かんな様を見ると、神妙な面持ちで頷きました。

 

「あの、限界って……?」

「ああ。人は死ぬと輪廻の輪にのる。輪廻転生、だね。これはほとんど例外がない。数少ない例外が、神無のような幽霊、悪霊だ。強い感情、つまり後悔や未練、そして恨み。そういったものがあると、輪廻の輪にのれずに現世に留まってしまう。ここまでは、いいかな?」

「えっと……。何となく?」

「まあ理解する必要はないさ。何が言いたいかっていうと、神無をここに留めている感情が薄くなっているってことだね」

 

 それが目的だったんだけど、と言いながら神様がかんな様を見ます。かんな様は何も言わずに、けれど誰とも目を合わせようとしません。神様が苦笑して続けます。

 

「神無がここに留める力は、強い恨みだ。自分が死ぬきっかけを作った村への恨み。それは村を滅ぼしても消えず、悪霊として他の村すら呑み込みそうなほど大きかった。その感情も、今ではとても小さくなっている。社という依り代がなくなれば、今すぐにでも成仏しちゃうだろうね」

「そ、それじゃあ……!」

「いや、社はあげないから。というより、あげられないから。僕の眷属だから社を依り代にできたってだけだからね。役目を終えた神無は僕の眷属でなくなる。まだ留まらせたいなら、それこそ新たな神にならないといけない」

「どうすればいいんですか?」

 

 新たな神になれば解決なら、かんな様には正式に神様になっちゃってもらいましょう。そう思ったのですが、かんな様は首を振りました。

 

「幽霊が神になるのは難しい」

「具体的に!」

「ん……。私の、社に入れておく依り代と、あとはたくさんの人の感情。私への感謝とかの良い感情、そんなのがたくさんいる。たくさん、たくさんいる。足りない」

 

 かんな様への感謝。それが、足りない? 過小評価にもほどがあります。この町の人は、大勢の人がかんな様に感謝しているんです。

 

「神様」

 

 かんな様は無理だと思っているようなので、私は私で進めます。神様は楽しそうに目を細めながら、教えてくれます。

 

「まずは新しい社を作るといい。どこでもいい。社を作ったなら、僕がいいものをあげよう。あとは祈りが必要だね。できるだけたくさんの祈りだ」

「分かりました。時間はどれぐらいありますか?」

「それは神無に聞きなさい」

 

 かんな様を見ると、少し困惑しているのが分かりました。かんな様が言います。

 

「さつき。私は別のこのまま成仏しても……」

「本当に?」

「え……?」

「神様が戻ってきた時、震えていたじゃないですか。あれって、まだ消えたくないからですよね?」

 

 かんな様が目を見開いて、次に顔を逸らしました。それが答えだと分かっているのでしょうか。

 

「それに、私はもっとかんな様と一緒にいたいです」

「ん……。仕方ない。さつきは放っておけないぐらいにそそっかしいから、見守ってあげる」

「何かすごい毒をはかれた!?」

 

 かんな様は小さく笑うと、少し考えて言いました。

 

「一週間、ぐらいなら、がんばれる。それ以上は、厳しい」

「一週間ですね! 任せてください!」

 

 一週間あればきっと大丈夫です。私はすぐに校長室へと走りました。

 

   ・・・・・

 

「元気な子だね」

 

 神様が楽しそうな声で言う。そんな声をしながらも、視線は私に向いている。神様の眷属になっているためか、神様の感情が分かる。不機嫌、だ。

 

「ずっと見ていたけど、さすがに干渉しすぎだよ、神無。僕たちは干渉するべきじゃなない」

「ん……。分かってる。でも、放っておけなかった」

 

 今思うと、私も変わったなと思う。胸の奥にあった激情も、今では残り火のようなものになってしまった。それでもやっぱり、大人を助けようとは思わないけど。

 

「まあ別に責任を問うつもりはないさ。危なかった時はあったけど、あの問題も無理矢理とはいえ治めたしね。……本当に無理矢理だったけど」

「ん……。反省は、してる」

 

 神様が言う問題。私の記憶の中でも古いものだ。私が、この町に大きな呪いをかけるきっかけとなった出来事。今ではもう、それを知っているのは私たちのような人外だけだと思う。

 

「神無はこの後はどうするつもりかな?」

 

 神様の問いに、私は少し考えて、答える。

 

「ん……。何も、しない。さつきの将来が気になりはするけど、今の私の未練はその程度だから。だからさつきが失敗したら、それはそれでいい」

「人任せだね。まあ僕たちが手伝えることなんてないか」

「ん……」

 

 私は社の前で座ると、本を開く。早めに本は読んでおかないといけない。続き物を最後まで読めないのも、少しは未練になってるかも。

 

「さて、どうなるかな」

 

 神様の楽しそうな声がしたけど、私は気にせずに本に集中した。

 

   ・・・・・

 

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